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第62話 信頼

 父はまだ黙っている。

「気をつけろ、司」

 藤堂君とお父さんが、机をゆっくりと持って一階に下りてきた。背中を向けて机を持ち下りてきたのは藤堂君だ。


「司君、あと2段で一階に着くぞ」

 父が藤堂君に声をかけた。

「あ、はい」

 藤堂君はそう答え、ゆっくりと足を下ろした。


 机をそのまま、今度は玄関から出した。父も守君も手伝い、どうにか軽トラックの荷台に机を乗せた。

「さあ、次はチェストだな」

 チェストは引き出しをぬきとってしまえば、そんなに重いものでもなく、机よりも簡単に2人は、2階から運びだし、これまた2人だけで簡単に荷台に乗せてしまった。


 引き出しは中身を全部出してあるので、そんなに重くもない。守君が一つずつ、2階から持ってきていたので、私も手伝いに2階に行った。父は運ばれた引き出しを、どんどん軽トラックのほうに運び、軽トラックの荷台に乗っている藤堂君と、藤堂君のお父さんがそれを受け取っていた。


 流れ作業でしていたので、これは簡単に済んだ。それから藤堂君はひらりと荷台を下りると、家の中に入り、台車に段ボールを乗せて持ってきた。そして荷台に乗っているお父さんに渡して、これまた簡単にすべてを荷台に乗せてしまった。


「他は?」

 藤堂君が聞いてきた。

「え…。もうこれでおしまいなの」

「これだけ?」

「うん。あとは数日分の服とか、勉強道具があるだけで」


「そっか」

 藤堂君は荷台からまたひらりと下りた。

「みんな、お疲れ様。家に入って一休みしませんか?」

 母が玄関から声をかけた。

「あ、すみません」

 藤堂君のお父さんも荷台から下り、みんなで家の中へと移動した。


 リビングのテーブルに母が、冷たいお茶を用意していた。藤堂君のお父さんにまず、どうぞと言って座ってもらい、その真ん前に父が座った。

「司君は、こっちに座る?」

 母がダイニングに藤堂君を呼んだ。だが、藤堂君のお父さんが、

「司もこっちでいいよな?」

と言って自分の隣に座らせた。そして反対側には守君を座らせていた。


 私の座る場所がなく、母とダイニングの椅子に腰かけた。

「それにしても、長野でペンションとはいいですねえ。ぜひ、家族で泊りに行かせてもらいますよ」

 藤堂君のお父さんはそう言って、いただきますと冷たいお茶をゴクゴクと飲んだ。

 藤堂君や守君も「いただきます」と一言言ってから、お茶をググッと飲んでいる。多分、3人とも相当喉が渇いていたのだろう。


「ええ、ぜひとも来てください」

「しかし、良く決心がつきましたね」

 藤堂君のお父さんがそう言うと、父は母のことを一度見てから、

「今が一番いいタイミングのような気がしたんですよ。だけど、千春さんが後押ししてくれなかったら、僕らは決意できなかったかもしれないです」

とそう言った。


「千春はまた真佐江さんに会えたのは、このためだったんだって言っていました。それに司と穂乃香さんが同級生なのも、きっと意味があったに違いないってね」

「千春さんなら言いそうですね。ははは」

「結城さんは真佐江さんから、千春の話を聞いていたんですか?」

「はい。よく聞いていましたよ。家に置いてある本はほとんど、千春さんからもらったものだったり、勧めてくれた本だって、なあ?真佐江」


「そうよ。千春ちゃんとは、いろんなセミナーにも行ったわ。その頃に一緒に買った本もたくさんあるわ」

「…藤堂さん。今回、本当に穂乃香がお世話になっちゃって、いいんですか?」

 父は神妙な顔で話しだした。

「もちろんです。千春も喜んでいますよ。我が家は男しかいませんからね。千春は女の子も欲しかったみたいですし、本当に楽しみにしているんです」


「そうですか…」

 父はあまりにも藤堂君のお父さんが、嬉しそうに話しているからなのか、私が藤堂家に行くことを反対できないようだ。

「それも、穂乃香ちゃんは真佐江さんの娘さんだ。それもすごく千春にとっては嬉しいようですよ」

「そうなの?そんなことを千春ちゃん言ってた?」

 母が身を乗り出して聞いた。


「うん、言ってたよ。それに穂乃香ちゃんは本当にいい子ねって。さすが真佐江ちゃんの娘だわって」

「あら、まあ。私も藤堂家の息子たちは、さすがに千春ちゃんと藤堂さんのお子さんだけあって、いい子たちって思っていたのよ」

 母がそう言うと、藤堂君のお父さんは笑っていたが、藤堂君は顔をちょっと赤らめ、照れているようだった。


 守君はと言うと、大人の話には興味を示さず、暇そうな顔をしている。

「司君や守君は、何か部活動をしているのかい?」

 父が2人に聞いた。暇そうにしていた守君の顔は、一気に引き締まった。

「あ、僕はテニス部に」

 守君は小声でそう言い、藤堂君は、

「僕は弓道をしています」

としっかりした口調で父に答えた。


「へえ、弓道…。そういえば、藤堂さんは武道の達人でしたっけ。お父さんの影響なのかな?」

「いえ。高校に入って見学に行って、すっかり魅せられてしまったんです」

「へえ…」

「司君は似合うんでしょうね。弓道着。顔が千春ちゃんに似て、さっぱり顔でかっこいいし」


 母がそう言うと、藤堂君は思い切り戸惑った顔をした。きっとどう答えていいか、困っているんだろう。

「学校でもモテるんじゃない?」

 母はもっと藤堂君が困りそうな質問をした。


「いえ。全然です。どちらかと言うと、僕は怖がられています」

 藤堂君は正直にそう言った。

「怖がられてる?なんでまた…」

 母がそう聞くと、

「いつもむっとした顔をしているからかもしれません。それに、僕は女の人が苦手で、あまり話もしないし」

と藤堂君は真面目に答えた。


「あら、じゃあ…」

 私の顔を母は一瞬見て、それから父の顔を見て、黙り込んだ。きっと、なんで私と付き合ってるのかと聞きたかったんだろう。


「司君は真面目そうだもんなあ」

 父がそう言った。藤堂君は父の顔を見て、また困惑している。どう返事をしていいか、困っているんだろう。

「まっすぐに育っているんだろうなあ。やはり、千春さんと藤堂さんの教育が良かったんですねえ」

 

 父の言葉に、

「ははは。それはどうだかわからないが、でもまあ、子供の頃からやっていた合気道や、そういった武道の精神は、司の中でちゃんと培われていたのかもしれないですね」

と藤堂君のお父さんは、笑いながらも真面目に答えていた。


「ほ~~。武道の精神ねえ。最近の若者にはきっと、そんな精神を持っているものは少ないんだろうねえ」

 父がそう感心して、藤堂君を見た。藤堂君はまた、困ったっていう顔をしている。


「司君は勉強では、何が得意なのかな」

 父はまた、藤堂君に質問をした。

「数学です」

「司君は理数系か…」

 父はそう言うと、しばらく黙って藤堂君を眺めている。


「そういえば、何年かアメリカに住んでいたのよねえ?」

 今度は母が質問をした。

「はい。僕が小学生の頃、3年間いました」

「帰国子女なのか。じゃあ、英語も得意なんだね?」

 父がまた藤堂君に聞いた。


「得意って言うほどじゃないです。ただ、日常の会話だけできるっていうくらいで」

「それが日本の学生にはできないんだよ。いや、日常会話ができるっていうのは、素晴らしいことだ」

 父はまた感心している。

 なんだか、変な雰囲気だ。あの父が、やけに藤堂君に興味を示し、あれこれ質問をしたり、感心したりしているなんて。


「うちの息子は文系だ。だが、英語は駄目だ。それに体も弱いし、力もない」

 父がそう言うと、藤堂君のお父さんは、

「ああ、息子さんもいたんでしたっけ?」

とちょっと聞きにくそうに聞いてきた。


「高宏といいます。心臓が弱くて、手術を受けたんですよ。もう何年も前になりますけどね」

「今は、その…?」

 また藤堂君のお父さんは聞きにくそうにしている。

「もう元気になりました。だけど、運動は苦手なんですよ。あ、今は大学生で一人暮らしをのんきにしていますよ」

 父がそう言うと、藤堂君のお父さんはやっと、ほっとした表情になった。


「司君は体も丈夫そうだ」

 父がまた藤堂君にそうふった。

「ははは。こいつは元気だけが取り柄で。なあ?司。風邪だってあまりひかないもんな?」

「はい」


「元気だけじゃないでしょう?勉強だって、スポーツだっていろいろとできる。守君もテニスが上手で、1年生なのに試合に出たっていう話を、千春ちゃんからこの前聞いたわよ」

「でも、すぐに負けました」

 守君は恥ずかしそうにそう言った。守君は、くりっとした目をさっきから伏せていて、どうやら人見知りをする性格らしかった。


「…司君は、しっかりしているし、藤堂さんも安心ですね」

 父は母が守君の話をしだしたにもかかわらず、まだ藤堂君のことを褒めている。

 さっきから、私は怖かった。父のこの藤堂君へのしつこいくらいの興味の示し方も、褒めぶりも。

 いったい心の底では何を考えているのか。何かを探っているのか。それとも、あれこれ聞きだして、藤堂君を評価しているのか。


「安心と言いますと?」

「将来ですよ。しっかりとしていて、きっと将来も安心だ。うちの高宏は、大学に入ったものの、将来やりたいことが見つかったわけでもないし、これといった特技もなければ、しっかりもしていませんからね」


「…司だって、将来何をしたいかまでは、見つかっていないですよ。な?司」

「…はい。まだです」

「だが、これだけしっかりしているんだ。安定した暮らしもできるだろう」

「それは司が何をこれから求めるかですよ。たとえば、世界に羽ばたきたいと思ったら、安定もないかもしれない」


「世界に羽ばたきたいのかい?司君」

 父が驚いて聞いた。それ、私もびっくりなんだけど。

「いえ、僕は別に…」

 なんだ。良かった。世界に羽ばたいちゃったら、藤堂君は遠くに行っちゃうじゃないか。


「司の悪いところは、いろいろと自分の世界を小さくするところだ。もっと自分を信じて、あれこれ挑戦したり、でかい目標を立てたらいいのにっていつも思うぞ?」

 藤堂君のお父さんが、藤堂君に向かってそう言うと、

「…父さんは、アメリカに留学に行ったり、世界を見ていたかもしれない。でも、僕はあまり海外には興味がないんです」

と藤堂君ははっきりとそう言った。


「へえ。じゃあ、司君は何に興味があるんだい?」

 父はまた興味を示して、そう聞いた。

「僕は日本がきっと好きなんだと思います」

「ほ~~。日本が?」

「はい。世界よりも日本各地を回りたいんです」


「旅行かい?」

「はい。日本のいろんなところに行って、いろんな人とも会いたいし…。夏休みも日本のどこかに旅行に行けたらって思っています」

「じゃあ、うちのペンションに来なさい。長野を見て回ったらいい」


 父がそういきなり提案した。え?それは唐突だし、藤堂君だって困っちゃうんじゃないかな。

 と思ったが、藤堂君の反応は意外なものだった。

「いいんですか?泊りに行っても」

「ああ、いいよ。一人ででもぜひ来なさい」

「はい。絶対に行きます。俺、いや僕は信州も行ってみたいところだったんです」


「そうか。空気も綺麗だし、景色も最高だし、きっと気に入るさ」

「楽しみです」 

 藤堂君は本気でそう言っているようで、目を輝かさせている。

「じゃあ、穂乃香と一緒に来たらいいわ」

 母がこれまた突然、そんなことを提案した。


「は?」

 私がびっくりした。そんなこと父が許すわけないじゃない?

「ああ、それはいい。穂乃香一人で東京から来るのは、心配だったんだ。だが、司君とだったら、安心だ。そうしなさい。ね?穂乃香。高宏は来るか来ないかもわからないしな」


「…え?」

 まじで?藤堂君と一緒に行っちゃっていいの?

「司。もしかして夏休みの間中、お邪魔するつもりじゃないだろうね?」

 藤堂君のお父さんが、心配そうに聞いた。


「え?駄目ですか?」

 藤堂君は、眉をひそめて父に聞いた。

「うちはかまわんさ。もしよかったら、ちょっとばかし、手伝ってくれたら助かるなあ」

「そうね。バイト代は出すわよ」


「いえ!いただくわけにはいきませんよ。タダでどんどん司をこき使ってください」

「じゃ、宿泊代はいらないわ。交通費も穂乃香を連れて来てくれるんだもの。こっちでちゃんと払うわ。ね?そういうことにしましょう」

 母が提案すると、藤堂君のお父さんが、ありがたいですと頭を下げた。


「藤堂さんももし、お仕事が休めたら夏に来てください。千春ちゃんと一緒に。あ、守君もね?」

「はい。そうさせていただきます。あ、その宿泊代はちゃんと受け取ってくださいね」

「ええ、ただ、この夏はキャンペーンをする予定だから、宿泊代も割引しますよ」

 父がそう言って、藤堂君のお父さんに微笑みかけた。


「キャンペーンですか。いいですねえ」

「もし気に入って下さったら、ぜひとも、周りのお友達や親戚の方に紹介してくださいという、キャンペーンです」

「ああ、それは素晴らしい。うん。素晴らしい」

 藤堂君のお父さんはそう言って、はははと笑った。


 なんだか、父は嬉しそうだ。そのあとも、何度も藤堂君に話しかけていた。

 それから藤堂家の3人は軽トラックに乗り込み、父の車には私と母が後部座席に乗り込んだ。

「じゃあ、出発しますか」

と軽トラックの運転席の窓を開け、藤堂君のお父さんが言った。


 軽トラックのあとを父の車で追いかけた。そして、そんなに時間もかかることなく、無事藤堂家に到着した。

 車の中でも父は、機嫌が良かった。

「司君はしっかりしたいい子だな。真佐江。さすがは千春さんのお子さんだ」

と何度も褒め、そのうえ、私にまで、

「彼だったら、一緒に住んでも安心だな。ははは」

と笑って言っていた。


 あ、思い出した。父はまだ、私と藤堂君が付き合っていることを知らなかったんだ。

 それを知っちゃったら、今みたいに笑っているかどうかわからない。だが、若い、それも同じ年の男の人が同じ屋根の下にいる。それだけでも、反対しそうな父が、こんなにも気をよくしてしまい、藤堂君を信頼してしまったのだ。それはものすごくありがたいことだ。


 これ、やっぱり、藤堂君の人柄のおかげなのかなあ。


 藤堂家に着いて、私の机やチェスト、段ボールを運ぶと、藤堂家のダイニングでみんなで昼食を取った。藤堂君のお母さんが作った手料理は、どれも美味しかった。

 食べ終わり、キッチンで洗い物を母と藤堂君のお母さんがしながら、楽しげに話していた。

 ダイニングからリビングへと父たちは移動して、守君だけはさっさと自分の部屋に行ってしまったが、私と藤堂君も父たちの仲間に入り、ちょこんとリビングのソファにおとなしく座っていた。


「いい家ですね。庭の緑も素晴らしい。真佐江も褒めていたんですよ」

「庭は僕の両親がいたころから、あんな感じですよ。ただ、もうちょっと枝がきちんと切りそろえてあった。千春は自然が好きなので、今は好き放題に伸びてしまっていますけどね」


「ははは。千春さんはやっぱり面白い」

 父が笑ってそう言うと、藤堂君のお父さんも笑った。

 そこに、コーヒーを藤堂君のお母さんが持ってきてくれた。

「穂乃香ちゃんもコーヒーでよかった?真佐江ちゃんに聞いたら、穂乃香ちゃんもコーヒー飲むからコーヒーでいいって言われたんだけど」


「はい。コーヒーでいいです」

 私はそう言って、カップを受け取った。

「穂乃香ちゃん、何なら今日からでもいいのよ。うちに来るのは。ね?どう?今日泊まっていかない?」

 藤堂君のお母さんが、コーヒーカップをテーブルに乗せ終わると、お盆をわきに挟みそう私に言ってきた。


「え…」

 私は固まってしまった。どう答えていいものやら。

「母さん、結城さんが困ってるよ」

 藤堂君がそう助け船を出してくれた。

「あら、司だって早くに穂乃香ちゃんが来てくれた方がいいくせに」


「母さん!」

 藤堂君は慌てたように、話をさえぎった。が、もう遅い。今の話を父が聞いて、

「え?」

と藤堂君のお母さんに聞き返していた。


 あ~~。やばい。って顔をさすがに母も藤堂君のお母さんの横でしていた。藤堂君も、戸惑って何を言ったらいいのか、困ってしまっている。

 それは私もだ。だが、藤堂君のお母さんは気が付いていない。


「司、穂乃香ちゃんが来るのを心待ちにしているの。ね?」

とまで言いだした。あちゃ。駄目押し。

「心…待ち?」

 父が目を点にした。


 藤堂君のお母さんは、逆に不思議そうな顔をした。

「あれ?結城さんはご存じなかったんですか?」

 藤堂君のお母さんが、父に聞いた。

「何をですか?」

「だから、穂乃香ちゃんと司が付き合っていることをです」


 う、うわ~~~~~~~。

 藤堂君のお母さんが、簡単にばらしてくれたよ~~~~!!!

 お母さん!藤堂君のご両親には、口止めしてなかったの?!!!


 父が静止画像のように止まった。だが、しばらくすると、目だけで私を見て、そのあと藤堂君を見た。

 怖い!

「司君、うちの穂乃香と付き合っているのかい?」

「はい」

 藤堂君は真面目な顔をしてうなづいた。


「千春。結城さんはうちに息子がいることも知らなかったようだよ」

 藤堂君のお父さんは、お母さんにそう言った。

「あら、真佐江ちゃん、話していなかったの?」

 藤堂君のお母さんが不思議そうに母を見た。


 母は顔を引きつらせながら、

「い、言い忘れていたわね。そういえば」

と無理やり笑顔を作ってそう言った。


「いつからの付き合いなのかい?」

 父は、ようやく冷静になったのか、藤堂君にそう聞いた。

「5月頃です」

「じゃ、まだ最近だね」

「はい」

「…そうか」


 父はそう言ってから、下を向いてゆっくりと息を吐いた。

 怖い。

 父の次の言葉が、すごく怖い。


「じゃあ、偶然にも穂乃香が付き合った彼が、千春さんの息子さんだったわけだ」

「そうなのよ、もうびっくりでしょ?こんな偶然ってないわよね!」

 藤堂君のお母さんが、その場でちょっと飛び上がって喜んだ。


「…そうですね。千春さん。うん、こりゃ驚きだ」

 父はそんな藤堂君のお母さんを見てぽつりと言うと、なぜかはははと笑いだした。

 わ、笑ってるよ?それもまた、怖い。


「そうか。司君ならまったく心配はないな」

「え?」

 私も母も、その父の言葉に驚きを隠せなかった。

「司君、うちの娘をよろしく頼むよ」

「は、はい」

 藤堂君もかなり驚いているようだ。


「信頼しているからね」

 父はそう言って、藤堂君の肩を2回、軽くたたいた。

「は、はい」

 藤堂君の顔は一気に緊張して、固まった。


 



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