第61話 父
翌朝、藤堂君は駅で待っていてくれた。
「お、おはよう」
なんだか顔を合わせるのも照れくさい。藤堂君はというと、鼻の横を掻きながら、
「おはよう。結城さん、もう風邪治った?」
とやっぱり、照れくさそうに聞いてきた。
「うん」
「よかったね。でも、本当にごめんね。俺、熱があるのも気が付かず」
「ううん!藤堂君のせいじゃないから!」
私は慌ててそう言ってから、
「あ、私こそいっぱい迷惑かけた」
と、藤堂君に言うと、藤堂君は優しく微笑み、
「大丈夫だよ。うちの家族、みんな迷惑だなんて思っていないから」
と優しく言ってくれた。
じ~~~~~~ん。優しい。やっぱり藤堂君は優しくてあったかい。
一緒に学校に行く間、やっぱり弓道部の人がおはようと声をかけてきた。そして、同じクラスの人はやっぱり、ひそひそと遠巻きに話し、声もかけずに行ってしまった。
いつもながら、感じ悪い。
教室に入ると、麻衣と美枝ぽんがすぐに飛んできて、
「風邪治った?」
と心配そうに聞いてきた。
「うん。熱も下がったし、もう大丈夫」
「良かったね~~」
そうだ。2人にはまだ、藤堂君の家に住むこと、報告していないんだ。昼にまた中庭に来てもらって報告しようかな。
「司っちも、良かったね。穂乃香がいなくて寂しかったでしょ?」
麻衣がそう聞くと、藤堂君は無表情の顔のまま、
「…それ、いったい俺はどう返事をしたらいいの?」
と麻衣に聞き返した。
「え?」
麻衣が目を点にした。藤堂君は麻衣の返答も待たず、自分の席にさっさと座ってしまった。
「なんだ~、あれ。もうちょっと照れるなり、怒るなりするかと思ったのに」
いや、きっとあれ、心からの真面目な質問だと思うな。いったい、そういう質問にはどんなふうに答えたら、麻衣は満足するのかっていう…。
「そういえば」
麻衣がひそひそ声で私に耳打ちしてきた。
「藤堂君、本当に昨日変だったんだよ。なんだかずっとぼ~ってしていて、穂乃香が休んでいるから寂しいのかと思ったら、顔を赤くしてみたり、上の空で何か考え事をしているみたいだったり、ほんのちょっとにやついていたし」
妄想していたんだ、きっと。
「ちょっと変だから、今日も藤堂君のこと穂乃香もチェックしておきなね」
「…」
う~ん、そう言われても、私も変だからなあ。
そしてやっぱり、私たちは2人とも変だった。隣りの席でなんとなく目が合っただけで、2人して照れ合った。会話もなく、はたから見たらきっとわからないかもしれない。でも、なんとなく二人の間では、お互いが照れ合っているのに気が付いていた。
昼休み、麻衣と美枝ぽんを連れて、私は中庭へと急いだ。そして、母と父が信州に行くことをまず話した。
「え?ペンション?」
「長野?じゃ、穂乃香も行っちゃうの?」
2人が同時に驚いて大きな声で聞いてきた。
「ううん。私は残るよ」
「今の家に?一人で?」
「ううん。今の家も売っちゃうから」
「じゃ、アパートとか?」
「あ、親戚の家に行くとか?」
「ううん。お母さんの20年前くらいの友達の家」
「…20年?」
「うん。OLの頃、知り合った友達だって」
「そんな人のところになんで?」
「穂乃香、いいの?そこに住むことになって」
2人が心配そうに聞いてきた。
「…それが、すんごい偶然っていうか、奇跡としか言いようがないというか」
「え?」
「そのお母さんの友達って言うのが、藤堂君のお母さんだったの」
「…え?!」
麻衣は目を丸くした。
「じゃ、じゃあ、穂乃ぴょんが住むのってまさか、藤堂君の家?」
美枝ぽんが身を乗り出し聞いてきた。
「うん」
「え~~~!!!」
2人が同時にまた声をあげた。
「し~~。声でかいって」
中庭にいた生徒がみんな、いっせいにこっちを向いた。
「ちょ、ちょっと、何よ。そのものすごい偶然」
まだ麻衣は目を丸くしている。
「でしょ?ものすごい偶然ってあるもんだよね」
「…一緒の家に住むんでしょ?あ、だから昨日藤堂君、変だったの?」
「そうみたい」
美枝ぽんの質問に、私は思わず顔を赤らめた。
「そうか。司っち、穂乃香と一緒に住めるから、嬉しくて変になっちゃってたんだ」
麻衣が変に納得している。
「すごいね。藤堂君のお母さんが、穂乃ぴょんのお母さんの友達じゃなかったら、穂乃ぴょんも長野に行くところだったんだね」
「それはどうかわかんないな。きっと藤堂君のお母さんと久しぶりに再会して、藤堂君の家に置いてくれるって言ってくれたから、お母さんも長野に行く決心がついたんだと思うし」
「そんな偶然があるんだね」
麻衣が脱力した感じでそう言った。さっきまで体に力を入れて話を聞いていたようだ。
「意味のある偶然。シンクロっていうんだよね?」
美枝ぽんがそう言った。
「お母さんは必然だって言ってた」
私がそう言うと麻衣はきょとんとした顔をした。
「とにかくさ、よかったじゃん。ね?」
美枝ぽんはそう言うとにっこりと笑った。
6月中には引っ越すの、と言うとさらに二人は驚いたが、ペンションに行ってみたいとすぐに気持ちを切り替え、2人して目を輝かせていた。
その週の終わりから一気に忙しくなった。母も仕事を辞め、家の片づけをし始め、私もそれを手伝った。
なるべくペンションにたくさんのものは持っていきたくないと言い、母はぽいぽいといろんなものを捨てていった。
「こんなにいろんなものがあふれていたのね。ほとんどがガラクタ、いらないもの。今必要なものってこうやって見てみると、意外と少ないものよね」
いくつものごみ袋を見つめて、母がため息をついた。
「私も自分の部屋を綺麗に片づけたら、すっきりとしたんだ。捨てるっていいよね」
「そうね」
母はにっこりとしてから、
「手放すって大事なことなのよね」
と宙を見つめ、つぶやいた。
「手放すって何を?」
「いろんなもの。自分でいつの間にか執着しているものってあるでしょ?」
「?」
「いざ、手放してみちゃうと、楽になったり自由になったり、すっきりしたり。だけど、なかなか手放せない」
「何のこと?」
よくわかんないな。
「たとえば、今回のこととか」
「え?叶えようと頑張ったから叶ったんでしょ?」
「違うのよ。ペンションの話が来て、あんたがまだ高校も卒業していないし、今回も違うんじゃないかとかあれこれ悩んでいたのよ」
「うん」
「お父さんとも今回の話もパスしようかって言っていたの。でも、いい話だし、あんたに転校してもらおうかとか、いろいろと悩んで」
「…」
知らなかったな。
「だけど、行けるようになっているなら、きっとそうなるし、駄目になるなら、そうなるし。って、なんていうのかな。運を天に任せたって言うの?悩んでも答えは出ないから、ほっておきましょうって、落ち着いちゃったわけ」
「うん」
「そうしたら、あんたが藤堂君の家で熱が出たって、そんな電話をかけてきたってわけ」
「え?そうだったの?」
「そうよ。久しぶりに千春ちゃんに会えて、千春ちゃんだったら、こんな時どうするかなと思って相談したの。そうしたら、あんたを引き取ってもいいわよって言ってくれたのよね」
「…へ~~~」
「まあ、先に言いだしたのは司君だったけど」
「え?!」
藤堂君が?
「なんて?」
「長野に引っ越してペンションをするか迷っているって言ったら、結城さんはどうするんですか?転校しちゃうんですかって青い顔をして聞いてきて」
「う、うん」
「転校なんて大変だし、うちから学校に通えばいいよね?母さんって言い出したの」
「藤堂君が?」
「そうよ。それで千春ちゃんも、そうしたらいいわってあっさりと言ってくれたわけ」
藤堂君が言いだしてくれたんだ。うわ~、感動~~。
「そんなの悪いしって最初は断ったの。でも千春ちゃんが、司も穂乃香ちゃんがうちに来たら、嬉しいだろうし、いいのよ、遠慮しないでって」
「……」
「司君、赤くなりながらうなづいてた。いい子ね。優しそうだし、真面目そうだし。さすが千春ちゃんと藤堂さんの息子さんだわ。そうそう。弓道をしているんですってね」
「うん」
「穂乃香が告白でもしたの?あんたもしかして、司君に片思いでもしてて、思い切って告白したとか」
「ううん。そうじゃなくって、その」
「まさか司君のほうから、交際を申し込んできた…とか?」
「うん」
私は真っ赤になりうなづいた。
「ま~~、へ~~~~。こりゃ驚いた」
母は目を丸くしている。
「なんでよ?」
「いや、そういうのにあんた、縁なさそうだから」
酷い。まあ、それは私も思うけどさ。
「そうなんだ。司君からねえ。へ~~」
まだ母は驚いているようだ。
「お父さんには絶対に内緒だわ。今も藤堂家にあんたと同じ年の男の子がいることも、黙っているし」
え?それってお父さんをだましていることにならない?
「もしそんなこと言ってたら、絶対に反対されちゃうもんね」
母がそう言って目配せをした。
そうか。それは嫌だ。うん。黙っていて正解だ。だけど、いつかはばれるんだよね…。その時が怖い。
父は日曜まであれこれ仕事に追われてしまい、翌週になりようやく家に落ち着いた。そして私や母と一緒に荷物をまとめだした。
一気に我が家は段ボールだらけになった。
藤堂君の家には私の部屋の机、それにチェストを持っていくことにした。やはり私の部屋は2階の和室になるようだ。藤堂君の隣の部屋だ。和室なので、ベッドは持っていくのをやめにした。
ドキドキ。隣だよ?教室では席が隣。でもそれとはまったくわけが違う。生活すべてが藤堂君の隣になるんだから。
っていうか。一緒に住んじゃうんだよ。住んじゃうの。一つ屋根の下で住んじゃうの。
駄目だ。思考回路がまた、変になってくる。妄想が始まるけど、どこか実感が伴わない。ぼんやりとしていて、いったいどんな生活が始まるのかが、まったく予想もつかない。
「いよいよ、藤堂家に穂乃香のものを運ぶのも明日だな。ところで、藤堂さんが手伝ってくれると言っていたらしいけど、男出は足りるのかな」
「だって、机とチェストと段ボールが3つだけよ。ほんと、穂乃香のものって少ないのねえ」
金曜の夜、段ボールだらけのダイニングで、父と母はビールを飲みながら話をし出した。
明日、父も藤堂家に行くってことだよね。ドキドキ。藤堂君は部活?それとも家にいるの?
「父さんの部下が仕事じゃなかったら、呼んだんだけどな。父さんが一声かけたら絶対に来ただろうなあ」
父はそんなことを言って笑っている。
「ただまだ、あいつは25だからな。独身だし、穂乃香に手を出したりしたら困るから、まあ呼ばないほうが正解だな」
「お父さん、やめてよ。そんな年の離れた人、私だって興味ないよ」
私は父の言うことに、バカじゃないのって呆れながらそう言った。
「そうなのか?穂乃香は年上がいいのかと思ってたけどな」
「何それ。勝手なこと言ってないでくれる?」
なんだか、もっと頭に来た。
「穂乃香は、高宏以外の男は駄目だろう?あまり話もできないって前に言っていたじゃないか。男子が苦手で、特に同じくらいの年齢の男子は、どう話したらいいかもわからないって」
う。言ってたかもしれない。それも、半年くらい前の話だ。ああ、バレンタインの時に父にチョコをあげ、本チョコはあげたのかと聞かれ、そう答えたんだったっけ。
「だから、まあお父さんは安心だけどな。でも、変な男にはひっかかかるなよ?穂乃香。そのへんも千春ちゃんや藤堂さんに言っておかないとな」
ドキ。いや、藤堂君は変な男じゃないし、大丈夫だよね?
父はまだ、何も知らないから、のんきにこんなふうに笑って言ってるんだよね。ああ、ちょっと罪悪感。
母は黙って父の話を聞いていたが、
「そういえば、あの話はどうなったの?」
と話をそらしてくれた。
「ああ、うちのペンションをツアーの指定宿に入れてくれるって話?」
「そうそう。店長に話してくれたんでしょ?」
「うん。検討してくれるらしいよ。今年はもう全部の予定を組んでいるから、来年の春からかなって店長が言っていたよ」
「そう。そうなの」
母はちょっとほっと溜息をついた。そうだよね。客が来なかったら、意味ないしね。
「真佐江、大丈夫だよ。運を天に任せていたら、きっと大丈夫って言っていたのは君だろう?」
「そ、そうよね」
「心配はよそう。もう、動き出しているんだ。すべてがうまくいくさ」
「そうね」
母は父の言葉で、ほっとした顔をした。
運を天に任せる。母がさっきも言っていたっけ。手放す。執着しない。そんなことも。私にはあまりよくわからなかったが、その言葉を私はしっかりと心に刻みつけていた。
そして翌日、土曜日になった。私の部屋にはベッド、そして数枚の服と制服と、勉強道具だけを残し、他のものは藤堂家に運び出してしまう。
実際に藤堂家に行くのは多分、来週になる…と思う。父と母は来週末には、長野に行くと言っているので、その時に私も藤堂家に行く予定だ。
昨日の夜、藤堂君と、もうすぐだねってメールをしていた。藤堂家も私が行くので、いろいろと準備をしてくれているそうだ。
たとえば、私が使う食器。タオル類。布団やシーツなどなど。女の子用のものがないので、女の子用の日用品を藤堂君のお母さんが、わくわくしながら揃えているよと、藤堂君のメールに書いてあった。それにあの和室も、すっかり女の子の部屋に様変わりしちゃったよって、そんなことも藤堂君がメールで教えてくれた。
藤堂君と私は、学校でそういう話を一切しない。だからいつも、夜のメールでだけ、そんな会話をしているのだ。
もしかすると、クラスのみんなには当分は一緒に住んでいることも、内緒にしておくことになるかもしれない。
学校には母が連絡した。藤堂君のお母さんまで担任の先生に電話をしてくれたらしく、くれぐれも心配しないようにとか、他の生徒が騒がないように対処をよろしくお願いしますとか、そんなことを言ってくれたようだ。
私は学校で、平静を装うようにしている。今はそれができる。だけど、実際に一緒に住んじゃったらどうなるかはわからない。きっと藤堂君はいつものポーカーフェイスで、乗りきってしまうんだろうな。
朝、9時。家族ですでに朝食を済ませ、私の荷物を玄関に運び、あとは机とチェストだけを2階から運べばいいだけの状態になっていた。
ピンポン。チャイムが鳴った。母がインターホンで出ると、
「おはようございます」
という元気な藤堂君のお父さんの声がした。早速母が玄関を開け、藤堂君のお父さんを招き入れた。
父も私も玄関に行った。
藤堂君のお父さんに父が初めましてと挨拶をしていると、藤堂君のお父さんの後ろからひょこっと守君が顔を出した。
「おや?息子さんですか?」
父が聞いた。
「ええ、次男坊の守ですよ」
あ。次男って言っちゃった。じゃあ、長男もいるんだっていうことが、ばれちゃう。
「お父さん似なんですね。今いくつですか?」
「守は中学1年だっけ?あまり役に立つかわからないですけど、まあ、猫の手よりは役に立つでしょう。ほら、挨拶しなさい」
「おはようございます」
守君は照れた感じで、小声で挨拶をした。
「ああ、おはよう」
父はにこやかな顔をしたが、やっぱり気になっていたようで、
「次男ということは、上にもう一人息子さんがいるんですか?」
と聞いてしまった。うわ。ばれる!
私は母の顔を見た。母はのんきににこにこしている。ああ、どうしよう。藤堂君のお父さんはすぐには答えず、なぜか玄関の外を覗きに行き、
「おい、司!台車はあとでいいから、先に挨拶に来なさい」
と叫んだ。
え…。
藤堂君も来てるの~~~~?!!!!
「長男も呼んだんですよ。部活を休ませて。長男はもうでかいし、守よりは役に立ちますよ」
藤堂君のお父さんは、また父のほうを向き、にこにこしながらそう言った。父は、笑顔を作っていたが、明らかに顔が引きつっている。
藤堂君のお父さんの後ろから、藤堂君がひょっこりと顔を出した。
「司です。今高校2年」
藤堂君のお父さんがそう言うと、藤堂君はしっかりとお父さんの隣に立ち、
「初めまして。司です。よろしくお願いします」
と礼儀正しく言い、ぺこりと丁寧にお辞儀をした。
「あ、初めまして。司君?え?高校…2年?」
父の目が点になった。
「穂乃香ちゃんとは同じクラスだったよな?司」
藤堂君のお父さんがそう言った。父は今度は私の顔を見て、それから母の顔を見た。
「き、聞いてないぞ、何も」
父はそう言って、顔を引きつらせたが、母が、
「さあ、どうぞ。中に入って。先に机を運び出しますか?それとも、段ボール?」
と藤堂君親子を家の中に招き入れた。
「そうですね。大きなものから運び出しましょうか。あ、司、台車を持ってきてくれ」
「はい」
藤堂君はさっさとまた、玄関の外に行ってしまった。
「今日は軽トラックを、レンタルしてきましたよ。机とチェストがあると言っていましたけど、2階ですか?」
藤堂君のお父さんは靴を脱ぎ、とっとと廊下を歩きだし、階段を上りだした。
「ああ、そうです。2階です」
父が階段を上りかけながらそう言うと、
「結城さんはいいですよ。僕と司で運びますから」
と笑いながら、先に2階に上りついた藤堂君のお父さんはそう言った。
確かに、藤堂君のお父さんのほうが若干若そうだし、それに体格はまったくもって、父よりもいい。父も痩せてはいないが、でもついている肉は贅肉だ。それに比べて藤堂君のお父さんは、全身筋肉でできていますっていうくらいの、いい体をしているのだ。さすが、武道家なだけはある。
藤堂君は台車を玄関に持ってきた。
「司!2階にいるぞ」
藤堂君のお父さんの声がして、藤堂君も靴を脱ぎ、
「お邪魔します」
とこれまた丁寧に言うと、さっさと2階に上がって行った。
守君は廊下でぼけっとしている。するとお父さんがまた2階から、野太い声で、
「守も手伝いに来なさい」
と叫んだ。守君は「は~~い」と、ちょっと気のない返事をして階段を上って行った。
母は父に睨まれて、苦笑いをした後、
「その台車、邪魔になるからこっちに置いておきましょうか」
とさっさと台車をリビングの中に入れ、そのままキッチンに行ってしまった。
あわわ。私は、父とものすごく気まずい空気の中に取り残されてしまった。
「穂乃香」
「え?」
「司君は、同級生なのか?」
「う、うん」
「それをお前も、母さんも知っていたんだな」
「も、も、も…」
もちろんと言いたかったけど、父の睨みつける目が怖くて、私はそれ以上言葉が出てこなくなってしまっていた。
ああ、まさか。まさかとは思うけど、藤堂家に行くのは絶対に許さん!なんて、そんなことは言いださないよね?
父はその後、しばらく無言でいる。それが返って私には怖くて、その場に凍り付きながら佇んでいるしかなかった。




