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第58話 熱

 ザー…。雨の音だ。

 ガタンガタン…。あれ?なんで電車の音がしているの?

 目が覚めた。

「結城さん?」

「藤堂君?」


 ああ、そっか。私藤堂君の家にいたんだっけ。

「顔、赤いね…。熱、測ってみる?」

「今、何時かな」

「5時過ぎ…」

「じゃあ、そろそろ私…」


「はい、体温計。俺、母さんに結城さんが起きたことを言って来るから、熱測っておいて」

 藤堂君は私の言葉をさえぎり、体温計を私に渡した。

「う、うん」

 藤堂君は部屋を出て行った。まさかずうっとここで、私のことを見ていたんじゃないよね。

 私は体温計を、脇に挟んだ。


 さっきよりも、頭がもっと重い感じだ。それに熱い…。喉も乾く。

 階段を上ってくる音がして、藤堂君のお母さんが部屋に入ってきた。

「穂乃香ちゃん、喉乾いていない?」

「はい。乾いています」

 お母さんはコップに、スポーツドリンクを注いだ。


 ピピ…。体温計が鳴り、脇から取り出した。見てみると、38度5分。

「…上がってる」

 それを見てがっかりしながらそう言うと、

「何度?」

とお母さんが聞いてきた。


「38度5分」

「そう…。起き上がれる?寝ながらじゃ飲めないわよね?」

「はい」

 私は上半身をどうにか両手の力で持ち上げた。お母さんも背中に手を当て、手伝ってくれた。


 それからコップに注がれたスポーツドリンクを飲んだ。あ~~。喉が潤う。

「もうちょっと寝ましょうか」

「でも、もう5時ですよね。私母に電話します」

「そう?」

 お母さんが部屋の隅に置いた私のカバンを取ってくれた。


 ブルル…。ブルル…。家に電話をしてもいない。次は携帯にかけてみた。

「もしもし?」

 母だ。よかった。つながった。

「私…。今、藤堂君の家にいるの」


「ああ、お友達の」

 いや、彼氏なんだけど。お友達の家ってそう母に言ったら、そのまんま信じちゃったんだな。

「それで、私、38度5分の熱が出ちゃって」

「え?!」


 母が驚いた声を出した。その声が藤堂君のお母さんまで聞こえたらしい。藤堂君のお母さんは、水枕を持って下に降りようとしていたが、また布団の横に座った。

「それで、藤堂君のおうちでずっと、寝てるんだけど、迎えに来てもらえないかな」

「わかったわ。今から家に帰ってすぐに出て…。江の島だったわよね?」

「うん」


「道が空いていたら、すぐに着くわよ」

「お母さんに着替え持ってきてもらったら?汗でびっしょりになってるわよ」

 藤堂君のお母さんが、私の横でそう言った。

「それに道順を教えたいから、電話替わってもらってもいい?」

「はい」


 藤堂君のお母さんに電話を渡した。そして私はまた、布団に横になった。上半身をあげているだけでも、かなりしんどい。

「もしもし、司の母ですが…」

 それから母と藤堂君の会話はしばらく続いた。そして藤堂君のお母さんは電話を切り、

「ねえ、穂乃香ちゃんのお母さんって、下のお名前何?」

と突然聞いてきた。


「え?真佐江ですけど」

 藤堂君のお母さんは、一回ゴクンと唾をのみ、

「旧姓は森下さん?」

と目を輝かせ聞いてきた。

「はい」

「あ~~!やっぱり」

 藤堂君のお母さんは歓喜の声をあげた。


「母を知ってるんですか?」

「ええ。OLの時にね、何度もセミナーや講演会で会って、一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりしていたのよ。もう20年も前のことだわ。懐かしい~~」

「せ、セミナー?」


「そう。いろんなセミナーに行ったのよ。聞いたことない?自己啓発、精神世界、コーチング…」

「そういえば、そういう類の本は家にけっこうあります。父も母もそういうの、好きみたいで」

「お父さんも?じゃ、そういうのが好きな人と結婚したのかしらね」

「でも両親はただの、職場恋愛ですけど」


「そう…。私とよく会っていたころは確か、大学からの付き合いの人がいたけど、そのあと出合った人なのかしらね。くす…。そういえば、穂乃香ちゃん、声も話し方も真佐江ちゃんに似てるわ」

「はい、そうなんです。顔も母に似ていたら、もう少し丸顔になったんですけど」

「くす。そうね。真佐江ちゃん、丸顔だものね。それが嫌だって気にしていたっけ。お父さんは面長?穂乃香ちゃんも面長だけど」

「はい」


「じゃ、自分とは違う顔かたちの人を選んだのね」

「…藤堂君はお母さん似ですね?」

「そう。しょうゆ顔でしょ?」

「守君はお父さん似ですか?」

「そうよ。目が二重でちょっと暑苦しいのよね。私も自分がさっぱり顔だから、そうじゃない顔の人を選んじゃったみたいね」


 くすくす。また藤堂君のお母さんは笑うと、

「真佐江ちゃんに会うの何年振りかしら。楽しみだわ」

とにこにこした。

 そこに藤堂君がやってきた。

「熱、何度あった?」


「38度5分に上がってたのよ」

 お母さんがそう言うと、藤堂君の顔が青ざめた。

「もう少ししたら、穂乃香ちゃんのお母さんが迎えに来てくれるから」

「そっか」

 藤堂君はそう言うと、

「水枕、どうすんの?替えるの?」

と水枕を手にしたままのお母さんに聞いた。


「そうそう。忘れてた。話しに夢中になっちゃって。もうあったまってるから、氷をまた入れてくるわ」

「話に夢中ってさ、結城さんは熱があるんだよ?母さん、少しはそういうのも考えてあげて」

「そ、そうね」

 お母さんは、ごめんねって私に謝り、水枕を持って一階に下りて行った。


「ごめん、大丈夫だった?」

「うん。お母さんと藤堂君のお母さんが知り合いだっていうのがわかって、それで…」

「え?俺の母さんと、結城さんのお母さんが?」

「OLの頃のお友達なんだって」


「同じ会社?」

「ううん。そうじゃないみたい」

「ふうん」

 藤堂君はまた布団の横にあぐらをかいて座った。

「世の中、狭いね」


 藤堂君はそう言うと、目を細めて笑った。

「うん、本当に…」

 私はそう言って、ふうってため息をついた。

「つらい?お母さんが来るまで寝てていいよ」

「うん」


 藤堂君、本当に優しい。私は藤堂君のお母さんのテンションにつられ、つい話していたけれど、実はけっこう頭が朦朧としていたんだよね。

 藤堂君が優しく見守る中、私はすうって眠りについた。


 夢の中では、なぜか教室に藤堂君と私と、母と藤堂君のお母さんがいた。今日は自己啓発の、セミナーがあるらしい。

 藤堂君のお母さんは私の母に出会ったことを喜んでいて、母も喜んでいた。

「こんな偶然あるのね」

「これもきっと必然よ。会えるようになっていたのよ」

と2人で言い合っている。


 なんだ?必然?


 よくわからないまま、なんとなくぼんやりと目が覚めた。すると本当に目の前に、母と藤堂君のお母さんが再会を喜んでいる姿があった。

「あ、穂乃香、目が覚めた?」

「お母さん」


 ホ…。やっぱり母の顔を見るとほっとする。

「起き上がれそう?」

「もうちょっと熱が下がってからのほうがよくない?穂乃香ちゃん」

 藤堂君のお母さんがそう言うと、

「とりあえず、着替えを持ってきたから替えなさい。あなた、ずいぶんと薄着で出てきちゃったのねえ」

とカバンから私の長そでTシャツと、家でいつも履いているスエットパンツを出した。


 げ。それ?それを藤堂君の前で着ろって言うの?と一瞬思ったが、今履いている白のジーンズはきつくて、藤堂君のお母さんが部屋を出て行くと、私はさっさと着替えた。

「お友達って、彼氏のことだったの?」

 母が聞いた。


「え?」

 ドキン。

「付き合ってるってお母さんは聞いてなかったから、千春ちゃんから聞いてびっくりしちゃった。でも、そうよね、おうちにまで行くってことは、お付き合いもしているってことよね」


「千春?」

「司君のお母さんよ」

「お母さんの友達だったの?」

「そうよ。もう20年も前の話だけどね」


「……藤堂君のお母さんのほうが若い」

「3歳若いわね。それより、司君、かっこいいわね」

「……そ、そう?」

「いきなりまた、千春ちゃんに会っちゃったし、千春ちゃんの子供とあんたが付き合ってるっていうのも、これも運命かも」


「運命?!」

「…ちょっと、千春ちゃんに話があるから、あんた、もう少しここで寝ていなさいね」

「うん」

 母はそう言うと、トントンと軽やかに階段を下りて行った。


 着替えが済んでだいぶ楽になった。スエットパンツというのはなんて楽なんだと、改めて思った。

 少し起き上がり、スポーツドリンクをコップに入れ飲んだ。そしてまた、布団に寝っころがった。

 熱い。布団から両足を出した。

 

「あ、そういえば」

 水枕が私の頭の下にある。っていうことは知らないうちにまた、私の頭の下に誰かが置いてくれたんだ。また藤堂君だろうか。 

 藤堂君は下にいるんだよね。顔が見たいな。来てくれないかな。

 そんなことを考えているうちに、私はまた眠ってしまったようだ。


 それから何時間寝ていたのだろう。目が覚めると、外は真っ暗。部屋も真っ暗。

「あれ?」

 ここがどこかも一瞬わからず、しばらく呆然とした。

「あ、そうか。藤堂君の家だ」

 何時かな。私はどれだけ寝ていたんだろう。


 おでこに手を当てた。なんとなくさっきよりも熱が下がった気がする。ちょっと上半身だけ起き上がってみた。あ、なんだか起き上がれそう。

 私はどうにか起き上がり、カバンを持って部屋を出ようとした。ドアを開けると一階から、母と藤堂君のお母さん、それにどうやら藤堂君のお父さんらしき人の声も聞こえてきた。


 ガチャ…。和室の隣のドアが開いた。

「結城さん、起きた?」

「藤堂君」

 藤堂君の部屋が隣だったのか。


「大丈夫?」

「うん。さっきよりも楽になったみたい」

「下に行く?」

「うん」


 藤堂君が背中をささえながら、私とゆっくり階段を下りてくれた。そしてそのままリビングに行くと、

「あ、穂乃香。熱下がったの?」

と母がすぐに聞いてきた。

「わかんない」

 ソファに藤堂君が私を座らせた。


「体温計持って来るね」

 藤堂君はすぐに2階に行った。

 リビングには藤堂君のご両親がそろっていて、

「真佐江ちゃんの娘さんかあ。司と付き合うようになっているなんて、なんだか縁があるんだねえ」

と、藤堂君のお父さんが私を見ながら感慨深そうな顔をした。


 藤堂君のお父さんは守君に似ていて、目がくりっとしている。ただ守君と違うのは、貫録のいい体つきをしているところだ。太っているんじゃない。きっと筋肉だ。そういえば、合気道だの剣道だのをしているんだっけ。


 藤堂君からの話を聞いて、藤堂君のお父さんもまた、藤堂君のように無表情で、ちょっと怖い感じの人かと思っていたら、すごく優しそうな雰囲気だ。あ、そうそう。藤堂君が笑った時と雰囲気が似ているかもしれない。


「そうよね。不思議な縁よね~」

 藤堂君のお母さんもそう言って、目を細めた。

「でもこれも、必然よね。きっとこうなるようになっていたのねえ」

 母がうなづきながら言った。

 あれ?デジャブ?どこかで聞いたような。あ、さっきの夢でだ。


 藤堂君が体温計を持ってきて、早速体温を測ってみた。

「あ、37度5分…」

「だいぶ下がったわね。どうする?このまま明日の朝までうちにいても大丈夫だけど」

 藤堂君のお母さんがそう言った。

 え?泊まるってこと?


 驚いていると母も、

「悪いわよ。このまま車で連れて帰るわ」

と申し出を断った。

「うちだったらいいんだよ?真佐江ちゃん。車で移動は大変じゃないかい?また熱が上がっちゃうかもしれないし」


「車でもそんなにかからないし、大丈夫よ。明日は月曜日だし、司君や守君学校でしょ?このまま穂乃香がいたら迷惑かけちゃうし、ね?穂乃香、大丈夫よね?」

「うん」

 そうだよ。心地いいとはいえ、さすがに泊まるとなると緊張しちゃう。


「ほんと?結城さん、本当に大丈夫?」

 藤堂君が心配そうに聞いてきた。

「そうよ。なんなら明日の朝まで司につきっきりで看病させるわよ?」

 え…。藤堂君のお母さん、それはどうかと…。なんて思いながら藤堂君を見ると、藤堂君は「うん、いいよ」ってうなづいている。


「い、いいです。そんな藤堂君に迷惑かけられないし、帰ります。大丈夫です」

 私は慌ててそう言って、母の腕をつっついた。

「じゃ、これで失礼するわ」

「真佐江ちゃん、遠慮はいらないからね。こうやってまた会えたのも何かの縁。さっき言ったことも考えてみて」

「…そうね。ありがとう、千春ちゃん。会えてよかった、本当に」


 母はそう言うと、私の背中に手を当てて、リビングを出た。

 さっきの話?なんだろう。

「夕飯までいただいちゃって、悪かったわね」

「いいのよ。穂乃香ちゃんはお腹すいてないの?お粥作るわよ」

 まだ藤堂君のお母さんは、私を引き留めようとしている。っていうか、夕飯も食べたの?今いったい何時なの?


 玄関に壁掛け時計がありそれを見ると、もう9時過ぎていた。うわ。何時間私は寝ていたんだ。

「司君も本当にありがとうね」

 母は靴を履くと、藤堂君にお礼を言った。

「いいえ…」

 藤堂君は照れくさそうにそう言って、軽く頭を下げた。


「ね、夕飯のおかず持っていかない?旦那さんの分、これから作るんでしょ?」

 藤堂君のお母さんがそう言うと、廊下をさっさと歩いて行ってしまった。そして突き当りのドアを開けると、

「ク~ン」

とそこから犬が顔を出した。

「メープル?」

 私はつい嬉しくなって、声を弾ませそう言うと、メープルは、

「ワン」

と一声喜びの声をあげ、私のすぐそばまでやってきた。


「メープル、穂乃香さんは熱があるんだ。ジャレついちゃ駄目だよ」

 メープルの後ろから顔を出した守君が、慌ててメープルをおさえにやってきて、メープルが私に飛びつこうとしたのを止めた。するとメープルはまた、静かにク~~ンと鳴いて、その場におとなしくとどまった。

 頭のいい犬なんだ。それに、守君も私のこと気遣ってくれてるんだな。さっきは、ちょっと生意気な感じがしたけど。


 私はメープルのそばにいき、頭をなでた。メープルは嬉しそうにしっぽを振った。

「犬好き?」

 藤堂君のお父さんが聞いてきた。

「はい」

 私がうなづくと、

「じゃ、またメープルにも会いに来て」

とお父さんは優しく言った。


「さ、真佐江ちゃん、これ持って行って」

 藤堂君のお母さんがおかずの入ったタッパーを持って、廊下をすたすたと歩いてきた。そしてもう一方の手にしていた袋にそれを入れ、母に手渡した。

「ありがとうね、悪いわね」

「いいえ、旦那さんにもよろしくね。でもいつも大変ね。帰りが10時を過ぎるなんて」

「サービス業だからしょうがないわよ」

 父は旅行会社で働いている。土日も祝日もなく、いつも帰ってくるのは10時を過ぎる。


「いろいろとすみませんでした」

 玄関で私が頭を下げると、藤堂君のご両親は、

「いいんだよ。気にしないで」

「そうよ、遠慮はいらないから」

と優しく言ってくれた。


 母も挨拶をして、私をささえながら玄関を出た。

「車まで送ります」

 藤堂君も靴を履き傘を持って、後ろからついてきた。

 門までは生い茂った木の葉のおかげで、濡れずに済んだ。門を過ぎるとすぐに藤堂君は傘を開き、私と母が濡れないようにと傘を差しだしてくれた。


「大丈夫よ。司君」

 母も自分の傘をぱっと開くと、

「車、動かしちゃうから、その間、穂乃香をお願い」

と言って、私を藤堂君がささえると、門からどんどん道路を歩いて角を曲がっていった。


 母のあとをゆっくりと藤堂君は、私をささえながら歩いた。

「藤堂君」

 すぐ横で私の背中に手を当てている藤堂君に、私は声をかけた。

「ん?」

「ごめんね」


「いいよ、全然気にしないで。うちの両親も言ってたじゃん」

「うん。でも…」

 彼氏の家族に会った最初の日に熱をだし、家族みんなに迷惑をかけちゃうなんて。

「それより、うちの家族どうだった?」

 藤堂君が小声で聞いてきた。


「みんな優しくてあったかい。メープルも可愛かったし、家も素敵だった」

「気に入ってくれたの?」

「うん」

「じゃ、ここに住んでも大丈夫?」


 藤堂君はまたそんな、お茶目なことを言いだした。

「くす。そうだな。住んでも大丈夫どころか、住めたら嬉しいくらいかな」

 その冗談に私は乗って、そんなことを言ってみた。

「そう。そりゃよかった。きっとみんな、それ聞いたらほっとするよ」


「え?」

 藤堂君、何を言っているの?

 母が車に乗り込み、エンジンをかけて車を動かした。藤堂君は私が濡れないよう、私が車に乗るまで傘を私の頭の上にさしていてくれた。だから、藤堂君は雨で濡れてしまっていた。


「じゃ、司君、本当にありがとうね」

「いいえ。こちらこそ、すみませんでした」

「あ、ありがと、藤堂君」

「うん。明日は無理しないで。熱があったら学校は休んだ方がいいよ」

「うん」

 ああ、今日は「また明日ね」という言葉は聞けないんだね。ちょっと寂しいかも。


 藤堂君は車を発進しても、見送ってくれていた。そして角を曲がり、藤堂君の姿が見えなくなって、私は前を向いた。

「司君、優しいのねえ」

「うん」


「千春ちゃんの旦那さんも、昔と変わらず優しいし」

「藤堂君のお父さんのことも知ってるの?」

「知ってるわよ。あの頃からあの二人は、付き合っていたもの」

「そうなんだ」

「ほんと、仲のいいカップルだったの。それも今も変わってないわね」


「ふうん」

「……どう?体調は」

「うん。ちょっと頭が痛い」

「帰ったらまたすぐに寝なさいね」

「うん」


 それから母が黙って運転をして、車内は窓ガラスに当たる雨の音と、ワイパーの揺れる音だけが聞こえた。

 その音を聞いているとまた、眠たくなった。そんな中、私は藤堂君の言葉を思い出していた。

「それ聞いたらみんな、ほっとするよ」

って、なんで?どういう意味?


 思考が熱のせいか、半分くらい停止している。あの言葉が何を意味していたのか、なかなか理解できない。窓の外を見ると、車のヘッドライトが雨でにじんで見えた。

 母に、藤堂君の言っていたことを聞いてみようと思っていたが、私は寝てしまったらしく、すっかりそのことは忘れてしまっていた。




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