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第39話 噂

 翌朝、昨日なかなか寝れなかったにもかかわらず、早くに目が覚めた。

 私は昨日の藤堂君とのデートを思い出し、携帯を取って開けてみた。昨日の夜、初めて藤堂君のほうからメールをくれた。それを読み返した。


>今日は楽しかった。ありがとう。

 メールが来たとき、思わず飛び上がって喜んじゃったっけ。

>私も楽しかった。ありがとう。

 そう返信すると、しばらくして、

>本当に楽しかった?

というメールが来た。


 え?なんで、こんなメール?と疑問に思ったが、すぐに、

>本当に楽しかったし、嬉しかった。

と返信を送った。藤堂君からは、

>良かった。じゃあ、また明日ね。おやすみ。

という返事。


 もしかして、私が本当に楽しんでいたか、気になっていたのかなあ。なんて思いながら、ずっと藤堂君のことを思い浮かべて寝れなくなってたんだよね。

 

 早くに目が覚めたので、早くに家を出てみた。早い時間だと電車もすいていて、助かってしまう。

 教室に行っても、まだほんの2~3人しか来ていない。ちょっと暇になったので、私は美術室に行ってみた。


 柏木君、来てるのかな。あ、中から絵の具の匂いがした。来てるのかもしれない。

 ドアからちょこっと、美術室の中を見てみた。柏木君がキャンパスに向かって、すごく真剣な顔をしているのが見えた。

 本当に真剣だ。絵に向っている時の柏木君は、本当にいつもの柏木君とがらりと変わってしまう。


 ガタン。あ、ドアが音を立ててしまった。

「あれ?結城さん?絵を描きにきたの?」

「ううん。なんとなく早くに来たから寄ってみた」

「ああ、俺に会いに来たのか」

「ち、違うよ」


 そう言いつつも、あれ?もしかして柏木君に会いに来たのかなあと、自分の心の中を私は見てみた。確かに、あの絵を見てからというもの、柏木君のことは気になっている。

「こっちに来たら?」

 柏木君に言われ中に入り、柏木君の絵を見に行った。


「すごいね」

「俺の絵?」

「うん」

「そう?」

 柏木君はまた、しれっとした顔をして椅子から立ち上がると、窓際に行き窓のさんに置いてあった缶コーヒーを飲んだ。


「結城さんはもう、朝、絵を描きに来ないの?」

「うん」

「俺がいるから?」

「そういうわけじゃないけど…」

「くす」


 柏木君が私を見て、何やら含み笑いをしている。

「何?」

「いや、結城さんってさ、結局俺のこと気にしてるんだなって思ってさ」

「え?」

「構わないって言っておきながら、こうやって会いに来てるし」


 ぐ…。それ、何も言い返せない。

「そういえば、俺、面白い話を聞いたんだ」

「え?」

「藤堂の話。聞きたい?」

 何?どうせまた、私をからかうようなことなんだろうな。


 私が黙って柏木君を見ていると、柏木君はまた含み笑いをして、

「あいつ、すげえ好きな奴がいるよ」

と突然言い出した。

「え?」

「俺と柏木が、結城さんを取り合ったっていう噂があるの知ってる?」


「…うん。誰が言い出したかは知らないけど」

「で、その噂を聞いたクラスのやつが、ご丁寧に教えてくれたんだ。藤堂は1年の時、好きな子からふられて、ものすごく落ち込んで大変だったって」

「え?」


「そいつ、藤堂と1年の時、同じクラスだったんだって。相手が誰だかは知らないけど、どうやら髪が長くてちょっと結城さんに似てる人だってことだけは、遠目で見て知っているらしい」

 私に藤堂君が告白してるところを見てたの?


「1年の時、藤堂と同じクラスだった奴はほとんど知ってるってさ。まじで、藤堂、めちゃくちゃ落ち込んでたらしいからさ」

「え?」

「でね、そいつが言うには、結城さんはその子と似てるから、だから藤堂も付き合おうって気になったんじゃないかってさ。そんなだから、長続きはしないだろうし、俺が結城さんをあきらめる必要もないってそう教えてくれたわけ」


 な、何それ~~。なんなの、それ~~~。

「だから、あきらめるのはやめにする」

「え?!」

「なんてね。そいつに言われたからじゃないけど。だってさ、結城さん、俺のこと気にかけてるじゃん。それって、俺に気があるからでしょ?」


「違うよ!」

「あ、ムキになった」

 くす。柏木君はまた、こっちを見ながら嫌な感じで笑っている。本当にこの人、絵を描いている時とまったく変わっちゃうんだよね。どっちが本当の柏木君なの?


「私はただ…」

 柏木君の絵をもう一度見た。

「この絵を見て、苦しくなって」

 そう言うと、柏木君は私の真横に並び、

「俺の苦しみがわかるって、そう言いたいわけ?」

と、クールな声で聞いてきた。


「そういうわけじゃなくって、ただ」

「じゃ、何?」

 柏木君が私を見た。その目はいつもの、冗談めいた目じゃなかった。もっと真剣で、もっと怖い…。

「あ…。私、もう教室に戻る」

「待てよ」


 柏木君が腕を掴んできた。この前と同じパターンだな。今日は藤堂君は、いくらなんでも現れないと思うけど…。

「なに?」

 私は腕を掴まれたまま、柏木君に聞き返した。

「あんたさ、本気で藤堂のことが好きなわけ?」


「え?」

「違うだろ」

「なんで?なんでそんなこと言うの?」

「だって、さっきの話…。全然気にしてないみたいじゃないか」

「?」


「藤堂の好きな子のこと、気にならない?」

 ああ、それ。だって、それって、私だし。そりゃ、そんなに落ち込んでいたっていうのは知らなかったけど…。

「藤堂は結城さんに、その子の面影だけを見ているとしたら、結城さん、きついんじゃないの?そのうち、藤堂はそのことに気が付いて、結城さんから離れていくかもよ?」


「何が言いたいの?」

「そうなる前に、別れたら?ってこと」

「…」

 何よ、それ。

「ま、いいけどさ。傷心の時に俺にすがってきても」


「はあ?」

「その頃、俺がまだ結城さんに興味があるなら、俺の胸も貸してあげるけどさ」

「な、何それ。そんなことにはならないから、おあいにく様」

「…そうかな。あ、なんなら今すぐに、俺の胸に抱かれちゃってもいいけど?」

 そう言うと、柏木君は私を自分の腕に引き寄せた。


「ちょ、冗談やめてよ」

 私は柏木君の腕を払いのけた。

「ははは…」

 なんで笑ってるの?ああ、なんだか本当にこの人って、むかつく。


「やっぱ、結城さん、面白い」

「なんで面白がってるのよ」

「俺さ、藤堂と付き合ったんだから、とっとと結城さんのことあきらめようと思ったんだ。でも、他の奴のものになったらもっと、欲しくなっちゃった」

「え?」


「奪ってみるってのも、面白そうだよね?」

 むっか~~~~!!!!

「柏木君って、なんでいつもそうやって、本心を隠すの?なんでいつも冗談にしちゃうの?」

「え?」

「絵を描いている時には、あんなに真剣なのに!」


「ああ、絵を描いてる俺に、惚れたのか」

「違うわよ!」

 私は、頭に来てそのままズカズカと美術室を出た。

 なんなんだ。あの人。どうしていつも、私をからかうことばかり言って来るんだろう。

 だったら私も相手にしないで、本当にほっておけばいいのに、なんで会いに行っちゃったんだろう。


 教室に戻ると、まだ藤堂君は来ていなかった。

「おはよう、早かったんだね、穂乃香」

 麻衣が声をかけてきた。

「おはよう」


「昨日のデートはどうだった?ミニのスカート履いて行ったの?」

「履かないよ。あのスパッツ履いて行ったもん」

「ああ、生足で?」

「…う」

 私は麻衣に、ジュースをこぼして結局生足を見せる羽目になったことを話して聞かせた。


「あははは。司っち、穂乃香のこと見れなくなったんだ。可愛い~~」

 麻衣が思い切り笑った。そこに沼田君と美枝ぽんもやってきて、

「何?どうした?」

と話に加わった。麻衣が早速、私の生足事件を2人にばらしてくれた。


「へ~~。やるじゃん、穂乃ぴょん。生足を披露するなんて」

 美枝ぽんが、なぜか私を褒めた。いや、披露したかったわけじゃないんだってば。沼田君はというと、黙って聞いているだけだった。あ、これって、ガールズトーク満開で、沼田君が聞くような話じゃなかったかな。


「そういえば、沼っちと美枝ぽん、もしかして一緒に登校してきた?」

 麻衣が突然そう聞いた。

「うん。駅で待ち合わせして。ね?沼っち」

 え?そうなの?わ~~。そうか。そんなことも恋人ならしてもいいよね?!


「なんで穂乃ぴょんは、藤堂君と一緒に来ないの?」

 私が藤堂君との朝の登校の妄想をしていると、美枝ぽんが聞いてきた。

「え?それは、今の今まで、朝一緒に来るというアイデアが思いつかなかっただけで…」

 私はとっさにそう言ったが、でも、待てよ。それって、藤堂君は嫌がったりしないのかな、といきなり不安にもなった。


「おはよう」

 藤堂君が来た。席にカバンを置いた途端、すごい大あくびをした。

「あれ?寝不足?」

 沼田君が聞いた。

「うん。なんか寝れなかった」

 え?そうなの?なんで?


「ああ、もしや穂乃香の生足を思い出してて、寝れなくなったとか」

 麻衣が突然、そんなとんでもないことを藤堂君に言った。

「え?!なんでそれ!?」

 藤堂君が真っ赤になって慌てたが、麻衣と美枝ぽんがにやにやしたのを見て、すぐに顔をいつもの無表情に戻した。そして私のほうを向くと、

「ばらした?」

と口だけ動かし聞いてきた。


「ごめん」

 私も口だけ動かして、藤堂君に謝った。

「ま、いいじゃん、いいじゃん。そんなこともあるよな」

 沼田君がそう言って、藤堂君の肩をぽんとたたいた。なんなんだ。そんなこともあるっていうのは…。


「そうだ。藤堂君。なんで朝、穂乃ぴょんと別々に登校しているの?」

 美枝ぽんがこれまた、いきなりそんな質問を藤堂君に投げかけた。

「え?別々にって、え?」

 藤堂君がいきなりの質問に、驚いている。


「付き合っているんだから、一緒に来てもいいじゃん」

「でも、電車逆方面だし」

「私と沼っちもそうだよ。でも、ちゃんと駅で待ち合わせをして来てるんだよ?」

「そうなんだ」

 藤堂君はそうぽつりと言うと、ちらっと私を見た。


「あ、ああ。でもな」

 藤堂君はどうやら、私の反応を見ているようだ。

「穂乃ぴょんだって、一緒に来たいよね?」

 うん。と思い切り首を縦に振りたい。でも、藤堂君は?気になって、藤堂君の反応を見た。


「でもなあ。時間帯も違うしなあ」

 え?もしかして、一緒に藤堂君は来たくないの?あまり乗り気じゃない藤堂君を見て、私は落ち込んでしまった。


 ああ、結局私は、片思いをしていた時と変わらない。藤堂君の顔を見て、一喜一憂している。

 席に着き、それからも藤堂君のほうを見ていた。藤堂君は麻衣に後ろからつつかれ、何かを話している。なんだろう、気になる。


「ねえ、結城さん」

 突然隣りから、沢村君が声をかけてきた。

「え?」

 何?突然でびっくりしていると、

「藤堂の噂、聞いたことある?」

とすごく声を潜め、沢村君がそう言った。


「う、噂って?」

 何?柏木君とのこと?

「1年の時、ふられたって話は聞いたことあるよね」

「え?うん」

 だって、私がその張本人だし。


「じゃあさ、その子のことをまだ、思い続けてるって話は?」

 え?

「聞いたことある?」

「…………」

 聞いたことあるも何も、えっと、本人から直で聞いてますけど?なんてとても、言えないしなあ。困って固まっていると、

「知らなかったんだ。やっぱりね。そりゃ、ショックだよね」

と沢村君が言ってきた。


 待てよ。そんな噂が流れているってことだよね?それって出どころは?相手は誰かっていうのは、みんなに知られてないの?それに、どうして藤堂君がいまだにその子を好きだって、知ってるわけ?

「1年の子から聞いたんだよね。藤堂先輩は好きな子がいて、一回ふられたにもかかわらず、思い続けていたって。それも本気で思い続けていたから、私もあきらめたとかなんとか、そんなことを言ってた女子がいたんだってさ」


 まさか、野坂さんが言ってたとか?

「藤堂と中学同じだった子が言っていたらしいから、かなり信頼ある情報だと思うよ?」

「…」

 やっぱり、野坂さんだ~~~~。


 バクバク。なんでそんな噂が、たちどころにして沢村君の耳に入るようなことになってるわけ?そういえば、柏木君もそんなようなこと言ってたっけ。

 でも、その相手っていうのが誰なんだかは、なんでだかシークレットのままだよね?!



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