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第30話 照れ隠し

 翌朝、目が覚めて、私は携帯を開いた。

「昨日の、夢じゃないよね?」

 ドキドキしながら見てみると、ちゃんと藤堂君からのお休みメールが残っていた。

「ゆ、夢じゃない~~~~!!!」


 ベッドから飛び起きて、顔を洗った。それから念入りに髪をとかし、しっかりと顔を洗ったり歯を磨き、早めに家を出た。

 は…。そうか。藤堂君は今日も病院に行ってから来るのか。じゃあ、早目に行ったからといっても、早くに会えるわけじゃないのか。


 は~~~~。ドキドキ。今日顔を合わすのが、嬉しいような、恥ずかしいような、緊張するような…。

 電車に乗って、私は物思いにふけっていた。

 私はいつか、下の名前で呼ぶようになるかな。司君とか、司っちとか。で、藤堂君はなんて呼んでくれるんだろう。穂乃香…。ああ!呼び捨てがいいな~~~。穂乃ぴょんだけは、やめてほしい。


 穂乃香?呼び捨て?藤堂君が?きゃ~~~~~。

 ブルル。携帯が鳴った。ハッ!まさか、藤堂君?

 開いてみたら、麻衣だった。

>おはよう。今日、いきなりの進展の詳しい話を聞かせろよ!

 うわ。男前のメールだなあ。


 はあ。話したいような、話したくないような。そっと心の中に、藤堂君からの告白をしまっておきたいような、そんな感じ?

 って、思いながら昨日のことを、再現フィルムのように思い出していた。

 藤堂君、照れた顔可愛かった。真っ赤だった。


 それに、腕や胸にしがみついちゃった。あ~~~!得したかも!

 はれ?私ったら、得したなんて思ってんの?昨日は、ちょっと藤堂君のこと、意識して近寄れなくもなってたのに…。

 ああ。もう、自分のことすら、わけわかんない。


 あ~~~。早く会いたい。でも、ちょっと会いたくないような、そんな感じ?

 

「何それ」

 麻衣と美枝ぽんにそれを言ったら、鼻で笑われた。…なんで?

「わかる。わかるよ、それ」

と、共感したのは沼田君だった。


「いいから。なんで告白されることになったかを、教えなさいって」

 麻衣がそう言った。

「そうだよ。藤堂君、なんて言ってきたの?」

 美枝ぽんもそう聞いてきた。


「…やっぱり、内緒」

「か~~~~~。なんなんだろうね、この子は!」

 麻衣がぱちんと背中をたたいてきた。

「いたたた」

「わかる。わかるよ、その気持ち」

と、共感してるのは、やっぱり沼田君だ。


「沼っち。それ、美枝ぽんとのことででしょ?なんだか、ムカつく」

 麻衣がそう言った。

「え?沼っち。沼っちも、付き合うことになった翌日、私に会いたいような、会いたくないような、そんな感じだったの?」

「え?」


 美枝ぽんの質問に、沼田君は赤くなり、

「いや。会いたかったよ。俺は」

と照れくさそうにそう言った。

「美枝ぽんも!」

 美枝ぽんがそう言って、沼田君の腕にしがみついた。


「おおっと」

 それを見て、麻衣がのけぞった。

「いつの間に、こんなに仲良くなってるの?っていうか、美枝ぽん、積極的」

 麻衣がそう言うと、美枝ぽんは、

「だって沼っちってシャイだし、こっちからどんどんいかないと、な~~んにも進展しそうにないんだもん」

と口をとがらせて言ってから、沼田君に向かって、ね?と同意を求めた。


「え?」

 沼田君は、びっくりして真赤になった。

 私もびっくりだ。こんなこと私には、ぜ~~ったいにできない。

 待てよ?腕にはもうしがみついたか。それも、自分からしがみついていったっけ。

 でもあれは、怖かったから。だ、だけど、しがみついたことは事実…。

 わ。顔あつ…。

 あ。大変。今、私、きっと真っ赤…。


 だけど、麻衣も美枝ぽんも沼田君も、私が真っ赤なのなんて、な~~んにも反応を示さず、3人であれこれ言い合って、笑っている。

 ま、いっか。それよりも、早く、藤堂君来ないかな~~~~!


 ドキドキ。1時限目が終わった。ドキドキしっぱなしだった。

 そして、休み時間、藤堂君がやってきた。

 きゃ~~~~。いつにもまして、凛々しく見えるのは、なぜ?

 でも、沼田君におはようと微笑みかけたあの笑顔が、やたらと可愛くて胸がきゅんってするのは、なぜ?!


「司っち。ダブルデート今度しようぜ」

 沼田君がそう言ってるのが聞こえた。

「なんで?」

 藤堂君のきょとんとした声も聞こえた。

 なんでって、今、言った?


「え?だから、俺と美枝ぽんと、司っちと穂乃ぴょんで花火大会」

「人ごみ、苦手なんだって、前言わなかったっけ?」

「…」

 沼田君が黙り込んだ。そして、私のほうを見て、何かを訴えている。どうやら、本当に付き合ってるの?と聞きたいらしい。


 藤堂君はこっちを見ないで、席に着いた。すると今度は、麻衣が藤堂君の背中をつっつき、

「聞いたよ~~」

とひやかしてるのがわかった。でも、藤堂君が、

「え?何が?」

と表情も変えずそう言ってるのも、こっちから見ててわかってしまった。


「どういうこと?」

 麻衣もこっちを見て、クチパクでそう聞いてきた。

「え?」

 こっちが聞きたい。どういうこと?やっぱり、夢だった?それとも、もう嫌われたとか?


「交際、申し込まれたって言ってたよね?穂乃ぴょん」

 後ろを向いて、美枝ぽんが聞いてきた。今のをどうやら美枝ぽんも、見ていたらしい。

「うん」

「何て言ってきたの?藤堂君」

 えっと、確か、付き合って下さいとそうはっきり。

 他にも、ちゃんと好きだって言ってたような、そんな気もする。


 あれ?聞き間違いだった?

 え?まさか、私の勘違い?

 あっれ~?私の幻覚?まぼろし?


 休み時間が終わり、先生が入ってきた。そして授業が始まったが、私の魂はどっかに抜けていた。

 あれは、なんだったの…?

 ぼけ~~~~~。


 チャイムがなり、机にうつっぷせた。すると、つんつんと誰かに頭をつつかれた。

 誰?

 私が顔をあげて振り向くと、うわ!藤堂君だ!

「と、藤堂君?」

 一気に顔がほてっていく。


「ばらした?」

「え?」

「3人にもうばらしたの?」

 ギク。え?

「い、いけなかったかな」


「そっか。もう知ってたんだ。沼田も中西さんも」

「…」

 ばれてないと思って、あんな態度を取ったとか?

「あれ?沼田君と麻衣は?」

「なんだか、よそよそしい感じで笑いながら、八代さんと3人で教室を出て行ったよ」

「え?」

 

 あれ?そういえば、美枝ぽんもいない。

「…と、藤堂君。ごめん。ばらしたら駄目だったかな?」

「そういうわけじゃないけど、まだ知らないのかなって思ってさっき、思い切りしらをきっちゃって…」

 そうか。やっぱりそうだったんだ。よ、よかった。夢だったわけでも、まぼろしだったわけでも、もう嫌われたわけでもないんだね。


「やべ」

「え?」

「どんな態度とっていいか、わかんないや」

「え?」


「あの3人の前で」

 ああ、そういうことか。私の前でかと思った。っていうか、私は、藤堂君の前でどんな態度でいたらいいか、わかんないよ。

「ふ、普通でいいんじゃないかな」

 私はそう言ってみた。でも、私が藤堂君の前で、普通でいられるかどうか。今だって、顔がひきつってるし、ドキドキしっぱなしだし、顔もまともに見れないし。


「そうだよね。変に態度を変えるのも変だよね」

 そうだよね。藤堂君の前で、変に意識してるのも変だよね。

「ちょっと、ああやって言われるの、苦手で…」

「え?」

「ひやかされたりすると、俺、ますます顔が、無表情になるんだよね」

「え?そうなの?」


「だから、怒ってるように見えちゃうかもしれないけど、そうじゃないから。一応、結城さんにはそれ、前もって言ったほうがいいかなって思って」

「え?」

「傷ついたりしないでもいいからね?俺がそっけなく見えたり、ムッとしてるように見えても、多分、照れ隠しだから、気にしないでね」


 や、優しい。それを言いに来てくれたの?!

 だ、駄目だ。今、すごく優しい目で見てるし…。私、きっと目が今、ハートになってる。藤堂君が優しすぎて、へろへろだ~~~。腰砕けた~~~。


「じゃあ」

 藤堂君は、ニコって笑って、自分の席に戻った。私は多分、ニコって笑ったつもりだけど、にへらってなっていただろうな。

 あ、やばい。よだれ垂れてないよね。

 そこに、美枝ぽんが戻ってきた。


「ヘラ~~~…」

 て、そんな顔を見られないように、私はまた、机にうつっぷせた。

「ね、穂乃ぴょん」

「え?」

 うつぶせたまま、私は聞いた。

「お昼にちゃんと、私たちから、司っちに聞いてあげるからね」

「な、何を?」


 慌てて私は顔をあげた。

「穂乃ぴょんのことを、ちゃんと思ってるかどうか」

「い、いい、いい。そんなこと聞かなくていい」

「え?どうして?穂乃ぴょんも知りたくない?」

「う、うん。大丈夫。そんなことしたら、藤堂君、絶対に困っちゃうから、しないでいい。っていうか、してほしくない」


「なんで?」

「お願い」

 私は美枝ぽんの手を握りしめ、そうお願いした。

「わかったよ。そこまで言うならやめるけど。でも、いいの?知りたくないの?」

「いい。私から直接、あとで聞くからいい」


「へえ。穂乃ぴょんってば、たくましくなったんだね」

 違う。ちゃんともう、聞いてるの。ただ、そういうのを周りの人から聞かれたり、みんなに言うのは藤堂君、きっと苦手だと思うから。

 あ、危なかった。ひやかすのも、あれこれ言って来るのも、絶対にやめさせなくっちゃ。


 お昼にみんなで、食堂に行った。藤堂君は沼田君と話をしていて、まったく私のほうに来ないし、顔も見てくれない。もう3人にはばらしたって、そう言ったのにな。

 ちょっと寂しいかも。


「せ~~んぱい!」

 食堂に入ろうとすると、野坂さんが近寄ってきた。

「これ、昨日作ったんです。みんなで食べてください」

「何?」

「チョコクッキーです。藤堂先輩、甘いの好きですよね?」


「あ、ああ。ありがとう。じゃあ、みんなでいただくよ」

「はい。それじゃ!」

 野坂さんはにこりと微笑むと、また爽やかに駆けて行った。


「え?司っち、甘いの好きなの?見かけによらず」

「やっぱり?俺、そういうの苦手だって、勝手にみんな思うみたいだよね」

「バレンタインにチョコはもらった?」

「陸上部の女子からくらい。他にはもらったことないよ」


 藤堂君はそう言って、食堂の空いてる席に座った。

 藤堂君の前に沼田君。その横に美枝ぽん。そして、麻衣が藤堂君の真横に座った。

 え?となると、私が座れる席は、麻衣の横だけ?なんで?!麻衣っ!!

「藤堂君って、本チョコもらったことないんだ。あ、でも、意外と陸上部の女の子からのチョコが、本チョコだったりしてね」


 美枝ぽんがそう言いながら、お弁当を広げた。

「どうしたの?穂乃香も早く座りなよ」

 麻衣?意地悪してるの?これ。う…。泣きそうになってきた。

 でも仕方なく私は、麻衣の隣におとなしく座った。


「…」

 藤堂君をちらっと見てみた。藤堂君は麻衣のほうを見たけど、何も言わない。

「…」

 何か言ってくれても!

 私はうつむき、どよよんとした。やばい、地の底行っちゃうよ。


「あ、司っち。お弁当、袋から出してあげるよ」

 麻衣がそう言って、藤堂君のお弁当を袋から出し、箸箱から箸を出し、そのうえ、お弁当のふたまで開けてあげた。

 な、なんで?それ、私がしたかった。

「片手で食べられる?食べさせてあげようか」

 麻衣が言った。これはもう、私に対する嫌がらせとしか思えない!


「中西さん」

 藤堂君が無表情で麻衣の名前を言った。

「なあに?」

 麻衣が機嫌よく返事をした。

「あのさ。わざとしてるよね?」

「え?私が何?」

 麻衣、なんでとぼけてるの?


「今、結城さん、泣きそうになってるんだけど」

 藤堂君がそう言った。うわ。私が泣きそうなの、わかってたんだ。

「え?」

 麻衣が私を見た。私はうるうるしてきていて、麻衣がぼやけて見えた。


「ごめん!穂乃香。穂乃香を泣かせようとしたんじゃないの。ちょっと司っちの反応を見たかっただけで」

 ガタン。麻衣が椅子から立ち上がり、

「はい。交代、交代」

と言って、私を藤堂君の隣に座らせた。


「…」

 う…。なんだか、一回地の底まで行ったからか、なかなか這い上がって来れない。お弁当を広げたけど、食べる気にもなれない。


「そうだ。沼っち、昨日のドラマ見た?」

「ああ、見た見た」

「え?何のドラマ?」

 美枝ぽんと沼田君と麻衣が、明るく話し出した。藤堂君は黙々とご飯を食べ、私はその横で、なかなか箸がすすまないでいた。


「やっぱり、あの女優、演技うまいよな」

「え~~?そうかなあ」

「私は、主人公のお父さんがいいなあ」

「え?あんな親父がいいの?麻衣ちゃん」

「渋いじゃない!」


 3人はすご~~く、楽しそうに盛り上がっている。それに比べて、私はとっても暗い。ああ、駄目だ。明るくしよう。会話に入らないと…。

「あの…」

 私が話そうとしたら、いきなりみんなが黙り込み、私に注目してきた。

「えっと」

 

 うわ。なんで、いきなり黙っちゃうわけ?

「何?穂乃香」

 なんだか、みんながじいっと私を見ている。

「な、なんでもない」

 私はそう言って、またお弁当を食べだした。


「……」

 藤堂君がお箸を置いた。

「なんか、言いたいことあるなら、はっきり言えば?」

 藤堂君が、沼田君たちの方を向いてそう言った。すると、

「そっちこそ、よそよそしくしないでもいいよ。司っち」

と沼田君は答えた。


「俺がなに?」

「付き合いだしたんなら、仲良くしてもいいんだよ?」

 美枝ぽんもそう言ってきた。

「え?」

 藤堂君の顔が、固まった。


「本当は横に、穂乃香に座ってほしかったくせに」

 麻衣がそう言って、ご飯をばくっと食べた。

「…」

 藤堂君は少し、麻衣を睨んでいる。

「それに、あれこれ、世話してもらいたいのは、穂乃香にしてもらいたいんでしょ?そう言えばいいのに」

 麻衣はまたそう言って、今度は卵焼きをばくって食べた。


「勝手に横に座って、勝手にお弁当出したりしたくせに。俺、頼んでないよ」

 藤堂君が下を向きながら、不機嫌そうに言った。

「じゃあ、穂乃香にしてもらうから、いいって断ったらよかったのに。それに、私が横に座った時に、そこは穂乃香が座るんだって言ったらいいじゃない?」


「……」

 藤堂君が黙り込んだ。

「っていうかさ、付き合ってるってことも、どうどうと言ってくれちゃってもいいのに、司っち」

 今度は沼田君が、にやってしながらそう言った。

「なんか、お前ら、企んでた?」

 藤堂君がそう聞くと、

「べ~~つに~~」

と沼田君は、憎らしい感じでそう答えた。


「……」

 藤堂君はまた、むすっとして、お弁当を食べだした。

「隣に彼女がいるって顔じゃないよな。司っち」

 沼田君がまだ、藤堂君にからむつもりらしい。

 ちら。藤堂君を見た。あ、もっとむすってしちゃった。


 は!そうか。これ、照れ隠し?さっき言ってたのって、このこと?

 もしかしてもしかすると、すんごく今、照れてるの?


「こういう顔なんだよ、もともと。だから前にも言ったじゃん。俺、よく怒ってるとか、むすっとしてるって言われるって」

「…ふうん。でもさ、そんな怖い顔してたら、穂乃ぴょんが泣いちゃうよ?」

 沼田君がそう言ったが、私を見て、

「あれれ?泣きそうな顔じゃないな。穂乃ぴょん。なんで、そんなに赤くなって、嬉しそうなの?」

と沼田君が聞いた。


「え?私、嬉しそう?」

「うん」

 わ~~。顔に出てたか!

「もしかして、藤堂君の隣に座れただけで、喜んでる~~?」

 美枝ぽんがそうからかってきた。


「…」

 何か言い返そうとしたけど、何も言えず、私の顔はもっとほてってしまった。それを真横で藤堂君が見ていた。そして、いきなり、耳まで赤くなった。


「あ、司っち、顔赤い」

「あれ?本当だ」

 沼田君と美枝ぽんが、藤堂君を見てそう言った。

「う、うるさい」

 藤堂君はそう言うと、下を向いてしまった。


「あ、司っちが照れた」

「ほんとだ」

 また、2人がそう言って、からかった。

「あはは。司っちは、穂乃香の前だと、ポーカーフェイスが崩れるんだ」

 麻衣がそう笑いながら言った。


「う…」

 藤堂君は一回顔を上げた。でも、みんなが藤堂君の顔をじっと見ていたからか、また下を向いてしまった。

「しょ、しょうがないじゃん。結城さん、見たこともないような表情するし…」

 藤堂君がぽつりと小さくつぶやいた。


「え?」

 みんながいっせいに耳を傾けた。

「独り言だよ、なんでもないよ」

 藤堂君はそう言うと、

「俺、水もらってくる」

と言って、席を立ち行ってしまった。


「な~~んだ。司っち、照れ隠しだったんだ」

 麻衣がそう言った。

「なんにもなかったように、ふるまっちゃってたけど、照れを隠していたんだな」

 沼田君もそう言った。そして、

「よかったね!穂乃ぴょん。気持が通じてさ」

と私を見てそう言ってくれた。


「う、うん」

 じわ~~。私はまた涙が出てきて、慌てて涙をふいた。

「あ」

 藤堂君がコップを持って席に来て、

「結城さんのこと、またからかって泣かせた?」

とみんなに聞いた。


「泣かせてないよ。それに、穂乃ぴょん、嬉し泣きだもんね?」

 美枝ぽんが私に向かって、ウインクをした。

「え?嬉し泣き?」

 藤堂君は私の顔をのぞきこんだ。


「司っちと両思いになったから、感動してるんじゃん。なあ?穂乃ぴょん」

 今度は沼田君が私に、ウインクした。

「…か、感動?」

 藤堂君がびっくりしている。


「そりゃもう、ずっと司っちのこと健気に思ってたし、俺、相談にのってて、どんだけ胸を痛ませていたことか」

「え?」

「健気で、一途だよな~~、穂乃ぴょんってって、ずっと思って聞いてたんだよ」

「……」

 藤堂君は耳まで赤くなった。


「あ、藤堂君がまた赤くなった」

 それを見て、美枝ぽんがすかさずそう言った。

「だ…。だから、そうやってひやかすから、ばらしたくなかったんだよ」

 藤堂君はそう言うと、一気に顔をむすっとさせて、水をぐびぐび飲んだ。


「あはは。おもしろ~~い。これから2人を見てるの楽しみかも」

 麻衣が笑いながらそう言うと、

「俺らで遊ぶな」

と藤堂君はもっとむすっとして、麻衣を怒った。




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