表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/121

第19話 一喜一憂

 バカだ。とことん私はバカだ。

 体育が終わり、更衣室で着替えをしていても、涙が出そうで必死にこらえた。

 藤堂君に八つ当たりしたってしょうがないのに…。


「司っちとダブルス、よかったね」

 そんな私の心の内を知らないで、麻衣が声をかけてきた。

「う…」

 ボロ。思わず涙が出てしまった。


「あ、あれれ?なんかあったの?」

 麻衣が驚いている。

「自分がバカだなって、ほんと、どうしようもないバカで…。消えてなくなりたいよ」

「は?」 

 休み時間がなくなりそうで、その時はさっさと着替え、教室に帰った。麻衣がお昼は中庭で話を聞くよって言ってくれた。


 教室に入ると、沼田君が元気に、

「穂乃ぴょん、すげえテニス上手なんだな」

と声をかけてきた。

「すげえ上手ってことはないけど…」

と答えると、横にいた藤堂君が、

「いや、すごく上手かったよ。ボレーもバシバシ決まってたし」

と言ってきた。


「…」

 私は藤堂君の顔も見れず、黙り込んで、そのまま自分の席に行った。

「あれ?穂乃ぴょん?」

 後ろから沼田君のそう言う声と、

「司っち、何したんだよ?穂乃ぴょんと喧嘩?」

と沼田君が藤堂君に聞いてる声も聞こえてきた。


「…別に、何も」

 藤堂君のぼそっていう声も聞こえた。藤堂君がどんな表情をしたのか、すごく気になったが、顔を見ることはできかなった。

「はあ…」

 ため息を漏らすと、

「なんか、また暗いね」

と美枝ぽんが振り返って言った。


「…ちょっとね」

 それだけを言って、私はすぐに教科書だのノートだのを机の上にだし、美枝ぽんには話しかけなかった。

 もとはと言えば、美枝ぽんが私と沼田君が付き合っちゃえばいいのに、なんて言ったからだよ。と心の中で文句を言ってみた。


 そういえば、私が藤堂君を好きなのを知ってるのに、なんで美枝ぽん、あんなこと言ったのかな。

 は~~~。暗い。また、暗い。なんでこうも、最近、一喜一憂してるんだろう、私。


「それは恋をしてるからでしょ」

 麻衣と美枝ぽんと3人で中庭でお弁当を食べてる時、一喜一憂してる話をしたら、麻衣にそう言われた。

「麻衣もそうだったの?なんだかずっと、うまくいってるように見えたのに?」

「そんなことないよ。いろいろとあったよ」


「なんだ。でも、話してくれなかったじゃない」

「ごめん。穂乃香、彼氏いないし、そういう話、しずらかたっていうか」

「そっか。じゃ、芳美に相談してたとか?」

「うん」

「そうなんだ」


「芳美もいろいろとあったしね」

「そうなの?」

「うん」

「みんな、ただ楽しく恋をしてるわけじゃないんだね」

「そうだね。一喜一憂はしてるんじゃないの?みんなさ」


「いいな~」

 麻衣の言葉に、美枝ぽんがそうつぶやいた。

「え?」

「私、身近な人を好きになると、面倒くさそうだし、付き合ったりしたら相手のアラが見えたりして、がっかりするだろうしって思って、遠くから見てるだけでいいやって思ってたんだよね」


「へえ、そうだったの?」

 麻衣が聞いた。

「うん。でもさ、そういうのもつまんないっていうか、いろいろと悩んだりしてても、恋してる穂乃ぴょん、羨ましくなっちゃって」

「え?」

「麻衣も、ふられてあんなに泣くのって、そういう経験もしたことないし、羨ましかったな」


「羨ましい?私が?」

 麻衣も驚いている。

「いいじゃない。青春してるみたいで」

「青春ねえ」


「は~~~あ」

 美枝ぽんがため息をついた。

「それで、聖先輩に近づきたくなったの?」

 私がそう聞くと、

「ううん。聖先輩はやっぱり、近くに行ったとしても、遠いんだよ」

と美枝ぽんが遠い目をして言った。


「え?」

「彼女いるし、それもすご~~く大事にしてるみたいだし」

「そうなの?」

 麻衣が聞いた。

「うん」


「……じゃ、聖先輩のことはもう?」

「あきらめるよ」

 そうなんだ。美枝ぽん、じゃあもっと周りの人に目を向けてみるとか?じゃあ、沼田君にもチャンスが来るとか?


「それより、なんでさっき、穂乃香、泣いてたの?」

「あ、うん」

 麻衣に聞かれて、私は藤堂君との会話を2人に話した。

「え?!じゃ、私があの時、沼っちと付き合っちゃえばなんて言ったから?」

 美枝ぽんが顔を引きつらせた。


「美枝ぽん、なんでそんなこと言ったの」

 麻衣が怖い顔をして聞いた。

「ご、ごめん。あれはつい、羨ましくなっちゃって」

「羨ましい?恋してる穂乃香が?」


「ううん。沼っちと仲がいい穂乃ぴょんが…」

「え?!」

 私と麻衣が同時に、大きな声をあげた。

「な、なに?」

 その声に美枝ぽんが驚いた。


「い、いや、あの。それは、穂乃香が誰かと仲良くしてるから、羨ましくなったとか?」

 麻衣が目を丸くしたまま聞いた。

「ううん。沼っちと仲いいから妬けちゃったの。だって、藤堂君のことが好きなのに、なんで沼っちとこんなに仲いいのって、つい…。ごめんね」


「……」

 私は頭の中を整理していた。えっと、それって?沼っちと仲がいいから妬けたってことだよね?ってことは何?

「沼っちのことが好きなの?」

 麻衣は私が頭の中を整理してる間に、そう聞いていた。


「それを実は、みんなに相談したかったの」

 美枝ぽんが顔を真っ赤にさせて言った。

「え?」

 今度は私も麻衣も、静かに驚いた。


「今朝、穂乃ぴょんと沼っちが、ひっついてこそこそしてるのを見て、ムッとしちゃって、あんなことを口走っていたっていうのはさ、やっぱり、私が沼っちを好きだからだと思う?」

 美枝ぽんの質問に、私も麻衣も思い切りうんうんとうなづいた。

「ええ?やっぱりそう思う?二人ともそう思うの?」


「そりゃ、そうでしょ。どうでもいい男になら、そんなジェラシー感じないって」

 麻衣がそう言った。

「もし、ひっついてたのが司っちだったらどうした?」

 麻衣がそのまま続けて、美枝ぽんに聞いた。私はそんなのありえないって、心の中で思っていたけど、何も言わず、美枝ぽんの答えを待った。


「う~~ん、多分、穂乃ぴょん、よかったねって喜んでるかな」

「ほらね~~」

 麻衣が美枝ぽんの腕をつついた。

「そっか、そうなんだ」


「へ~~~。美枝ぽんが沼っちを。へ~~。でも、どこがよかったの?」

 麻衣がまだ腕をつっつきながら聞いている。

「ど、どこって…」

 美枝ぽんの顔が、みるみる赤くなっていく。こりゃ、決定的?沼田君が好きになったの?!


「麻衣がいない時、みんなでみんなの良さを言い合った時があって」

「そうなの?」

 麻衣が私に聞いた。私はうんとうなづいた。

「で、その時、私の良さをちゃんと、沼っち、見ててくれてたんだって嬉しかったんだよね」

「ふうん」


 そういえば、嬉しそうだったな。美枝ぽん。

「沼っちって、その…」

 美枝ぽんがもっと赤くなりながら、話を続けた。

「人のためにも、一生懸命になるところあるでしょ?ああいうところも、場を明るくさせちゃうところも、いいなって前から思ってたんだよね」


「いいなって思ってたけど、今朝のことが決定打になったわけだ」

 麻衣がそう言った。

「え?」

「穂乃香と仲よさそうにしてるのを見て、嫉妬しちゃって、好きだってことを認識したんでしょ?」

「…うん」


 美枝ぽんがうなづいた。

「あ、でも」

 美枝ぽんが一気に顔を青くした。

「どうしたの?」

 私が聞くと、

「沼っち、私が聖先輩を好きなの知ってるし、それだけじゃない。聖先輩とのことを応援してくれるって、言ってるんだよね」


 あれ?メールで確か相談されたとか言ってたけど、応援するって言っちゃったわけ?

「それってさ、私のこと別に、どうも思ってないってことか」

 美枝ぽんがそう言って、暗くなった。

「そ、それは、ほら。これからも美枝ぽんの頑張り次第でどうにでも」

 麻衣が慌ててそう言った。


 ええ?頑張り次第も何もないでしょ。もう、思い切り両思いだよ?!

「そっか。そうだよね。よし、私、頑張っちゃうよ。2人とも応援してくれる?」

「もちろん」

 麻衣がにっこりと笑った。私は、ものすごく複雑な心境のまま、うんってうなづいた。


「穂乃ぴょん、なんだか、あまり協力したい感じじゃないの?」

 それに気が付いた美枝ぽんが聞いてきた。

「まさか、そうじゃなくって」

「もしかして、穂乃ぴょん、沼っちのことが好きとか?」


「え?なんで?私は藤堂君のことが好きなんだよ?」

「そうだよね」

 あれ、やばい。美枝ぽんが変に疑ってる。

「ごめん、ごめん。美枝ぽんがなんだか前向きだから、私は逆に後ろ向きで、今日も藤堂君に八つ当たりして、さっきもつらくて無視しちゃったし、私って駄目だなって、思っちゃって」


 うわ。この言い訳、苦しいかな。

「そっか。なんだ、よかった。じゃ、これからは一緒に、前向きに頑張ろうよ。ね?」

 美枝ぽんがそう言って、私の手をにぎった。

「う、うん」

 思い切り、私は引きつり笑いをした。


 それから教室に戻った。教室に入ろうとした時、中からいきなり人が現れ、私はぶつかってしまった。

「あ。ごめん。結城さん」 

 うわ。藤堂君だ。私は顔も見ずに、そのまま教室に入った。

 あ、今のも無視したよね、私。ごめんって藤堂君謝ったのに。


 視線を感じて振り返った。すると藤堂君が私をじっと見ていた。パッ!私は藤堂君と目が合い、また顔を思い切り背けた。

「やっぱり、なんかあったんだ」

 私のすぐ横に沼田君が来て、小声で聞いてきた。

「え?」

「なんだか、穂乃ぴょん、司っちのこと避けてない?」


「わかる?」

「司っちも、気にしてたよ」

「え?」

「昼、3人でさっさとどっか行っちゃったじゃん?あれも、きっと俺のこと避けてるからだよなって。俺、嫌われるようなことしたのかなって、司っち、かなり気にしてたけど」


「そうだったの?」

「何?何があったの?」

 沼田君が、しつこく聞いてきた。また視線を感じ、後ろを見た。すると今度は、美枝ぽんがじいっと私たちを見ていた。

 うわ。そうだった。こうやってあまり沼田君と仲良くしてると、美枝ぽんが焼もちやくんだった。


「あ、あとで話す」

 私はそれだけ言って、そそくさと自分の席に着いた。

「穂乃ぴょん」

 美枝ぽんが前の席に座り、小さな声で私に話しかけてきた。

「な、なあに?」


「やっぱり、2人で仲よさそうにしてるの見ると、ちくちく胸が痛むよ」

「ごめん」

「穂乃ぴょんが謝ることないけど…」

 美枝ぽんが暗くそう言ってから、

「私も、どんどん話しかけて仲良くしたらいいんだよね」

と突然明るくなった。


「う、うん。そうだよ」

「美枝ぽん、頑張る!」

 さすがだ。すぐに前向きになれるところが美枝ぽんのすごいところだよね。

 私は…。藤堂君も席に戻ってきた。その横顔がなんだか、暗い感じがするのは気のせいかな。それとも、私が無視しちゃったりしたからかな。


 ああ。私は、やっぱり根暗です。


 部活に出る気はまだないので、帰り支度をのんびりとしながら、私は教室にいた。美枝ぽんは、

「部活行ってくるね」

と教室を出て行った。


 美枝ぽんはアニメ好き。だからそっち方面の同好会にでも入っているのかと思いきや、意外や意外、華道部にいる。ただ単にお花が好きなだけだと言ってたけど、小さなころはお花の妖精が見えたんだと言っていた。あれ、美枝ぽんのことだから、本当に見えていたのかもしれないよな。


 藤堂君は沼田君とまだ、話をしている。そしてちら、ちらっと沼田君と私を見ている。なんだ。私のことでも話しているのかなあ。かなり気になるんだけど。

「今日はまっすぐ帰るの?穂乃香」

 麻衣が聞いてきた。


「うん、帰るよ。麻衣は?」

「私は久々に、遊んで帰るわ」

「遊ぶ?芳美と?」

「芳美はデート。昨日同中の子からメール来て、カラオケでも行こうって。私がふられたのを知ってるから、多分慰めてくれるんじゃないかな」


「そっか。仲良かった子、時々遊んでるんだよね?」

「そう、4人でいまだに、つるんでる」

「じゃ、楽しんできて」

「うん。それじゃね」

 麻衣がカバンを持って、沼田君と藤堂君にもバイバイと言って教室を出て行った。


「穂乃ぴょん!」

 沼田君が自分の席から声をかけてきた。

「え?」

「部活出ないの?」

「うん」


「なんかまた、うまいもんでも食って帰る?」

「…どうしようかな」

 2人でってことになると、美枝ぽんに悪いな。

「それとも、30分くらい待って3人で行く?」

「3人?」


 私は誰が加わるのかなって、考えた。すると、沼田君は目の前にいる藤堂君の肩をポンとたたき、

「司っち、今日ミーティングだけなんだって」

と言ってきた。

「え?」

 思い切り顔が引きつった。沼田君と、藤堂君と3人?じょ、冗談でしょ。何を話したらいいの。あんなこと言われた後で。


「いいよ、俺は」

 私の引きつった顔に気が付き、藤堂君がそう言った。

「二人で行って来いよ。そっちのほうがきっと、結城さんも話しやすいんじゃない?」

 え?

「俺がいると、雰囲気壊すかもしれないし」

 なんの?!


 もしかして遠慮してる?私と沼田君をくっつけたがってる?

「え~~。そんなことないだろ?もし2人喧嘩でもしたんなら、ここいらで仲直りすりゃいいじゃん」

 沼田君がそう言った。

「喧嘩なんてしてないよ」

 藤堂君が言った。


「じゃ、何?司っち、穂乃ぴょんを怒らせたとか?」

「…」

 沼田君の質問に、藤堂君は黙り込み私を見た。私は視線を外し、下を向いた。

「…そうなのかな。俺もなんで怒らせたか、よくわかんないんだけど…」

 そうだよね。私が沼田君と付き合ったほうがいいって言われたから怒ってるなんて、思いもしないよね。


 だいたい、そんなことで怒る私が変なんだよね。

「怒ってないよ」

 私がぼそってそう言うと、え?って2人で聞き返した。

「怒ってないよ。怒る理由もないし」

 私はもう1度、そう言った。


「…だったら、何か傷つけたのかな。俺…」

 藤堂君が、ちょっと気弱な声でそう聞いてきた。

「………」

 どう答えよう。そうなんだ。傷ついたんだと正直に言う?だいたい、何もなかったら、私のこの態度は思い切り変だよね。


「…何?なんかそんなに変なことを穂乃ぴょんに言ったの?司っち」

「…えっと?う~~~ん」

 藤堂君が腕を組んで悩みだした。

「もしかすると、言ったのかな。考えなしに言ったかもしれないな」

「なんて言ったんだよ」


「…」

 藤堂君が沼田君を見て、

「八代さんがお前と結城さん、付き合ったらいいのにって言ってたから」

といきなり言い出した。

「え?!俺と穂乃ぴょんが?」

「朝、言ってただろ?」


「い、言ってたね。そういえば」

 沼田君が一気に暗い顔になった。

「それで…」

 藤堂君が言葉を濁した。


「それで、何?」

 沼田君が藤堂君に聞いた。でも、藤堂君はなかなか言えずにいた。

「藤堂君が、沼田君、楽しいやつだし、付き合ったらいいんじゃないかって、勧めてくれたの」

 私がそこで、言葉をはさんだ。すると沼田君は目をまん丸くさせ、

「え~~~~~~~?!!!」

と、ものすごく驚いた声を出した。


「お、お、お前、そ、そんなこと言っちゃったの?」

 沼田君がそう藤堂君に聞くと、藤堂君は自分がとんでもないことを言ってしまったのかっていうような表情をした。

 

「言っとくけど!ちゃんとここではっきり言わせてもらうけど、俺、好きな子いるんだよ?それも、穂乃ぴょんにいろいろと相談にのってもらってたくらいだし!穂乃ぴょんの恋の相談だって、俺のってたし、だから俺らが付き合うなんてこと、絶対にありえないんだって!」

 沼田君が、そう藤堂君に向かってかなり大きな声で言った。


「……え?」

 藤堂君がびっくりしている。

「ほんと、考えなしに言ってるよな。司っち」

「わ、わりい。お前に好きな子がいるってのも、知らなかったから…。それに、結城さんに好きな人がいるのも、知らないで…。って、あ、そうか。聖先輩か」

「ちげえよ。そうじゃなくて」


 沼田君がそう言った後に、あ、やべえって顔をした。

「と、とにかく!俺らが付き合ったらいいなんてさ、美枝ぽんがそう単にからかっただけで、俺らはほんと、そんな気もなくて、そう。美枝ぽんがさ…」

 ああ~~。沼田君が思い切り、沈んでいく。それ、ジェラシーで言ってただけなのに、美枝ぽん。


「は~~~~~~~~~~」

 沼田君が椅子に座り込み、落ち込んでしまった。

「そうだった。今、俺、司っちや、穂乃ぴょんのことで、あれこれ言ってる場合じゃなかったんだ。自分のことで精一杯だってのに、あ~~あ」


「何を落ち込んでるの?お前」

 藤堂君が聞いた。

「…だから、好きな子のことで」

「え?」

「それをちょっくら、穂乃ぴょんに話を聞いてもらおうと思って誘ったんだった」


「いいよ、聞くよ?落ち込んでるんだったら、一緒に落ち込みに付き合うけど」

 私がそう言うと、沼田君は私をちらっと見て、

「じゃ、うまいもんでもなんか食いながら、話すとするか」

と立ち上がった。


「…落ち込んでるって、もしかして、八代さんが原因で?」

 藤堂君がぴんと来たらしい。

「そうだよ。俺が好きなのは美枝ぽんだよ。司っち、俺が穂乃ぴょんを好きだとでも思ってた?」

「…あ、うん。仲いいから」


「ちげえよ。だから、読みが浅いって言うんだよ、司っち」

「…そうだったんだ」

 藤堂君が、小さくぼそって言った。

「ミーティング、行かなくていいの?」

「え?あ!行かなきゃ!」


「もし、終わって合流できるんなら、メールしろよ。いいよね?穂乃ぴょん」

「……うん」

「わかった。じゃ」

 藤堂君は、カバンを持って、慌てて教室を出て行った。


「司っちの発言で、落ち込んでたのか」

 藤堂君がいなくなり、沼田君がそう言った。

「うん」

「そりゃ、落ち込むよな。俺と付き合ったらなんて、好きな相手に言われりゃ」

「うん」


「俺も、美枝ぽんに言われて、果てしなく落ち込んだし…。じゃ、一緒に暗くなりに行きましょうか」

「うん」

 2人でとぼとぼと校舎を出て、駅に向かった。

 あれ?でも、沼田君は落ち込む必要ないじゃない?だって、両思いなんだし。

 う、でも。私からばらすわけにはいかないよねえ。


 さて、どうしたらいいんだ。困ったもんだ。なんて思いながら、私はあとから藤堂君が合流するのも、美枝ぽんのことも、考えだしたらわけわかんなくなり、複雑な気持ちのまま、歩いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ