街へ(3)
【家臣】
この世界と主従契約を結んでいる世界の者たちから選ばれた者。莫大な経験値を得ることによって、得ることができる。自分が強ければ強いほど家臣は強い。主人は家臣に制約をかけることができる。
うーん。あんまり家臣については説明が書かれていないな。
俺は頭の中で、家臣についていくつかの本で調べている。
「では、私からは以上だ。」
そう言ってリーゼが部屋から出ていった。
「よし、琉斗。今日はとことんあたしに付き合ってもらうからね。」
「・・・」
「ちょっと、聞いてるの?」
「あ、悪い。今考え事してて・・・」
「あー!琉斗ストレンジスキルで本読んでたんでしょ。」
「うん。」
「今日はそれ禁止!」
「はいはい、わかりましたよ。」
「もし、次読んでるなってときがあったら今日はずっとおんぶしてもらうからね!」
げっ。それは本当に勘弁してほしい。
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「どこに行くんだ?」
「うーん、まずは・・・」
ここでネーアのお腹が鳴った。
「・・・まずはご飯にするか?」
「うん。」
ネーアは少し顔を赤くしてそう答えた。
「そういえばネーアの好きな食べ物って何なんだ?」
「ええっとね。ちょっとついてきて。」
ネーアはそう言ってどこかに行こうとする。
「道はわかるのか?」
「今度こそはわかるし!」
本当だろうか?
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「ネーアさん?」
「・・・」
「あ、あのー。」
「何でしょう。琉斗さん?」
「迷ってません?」
ネーアがついてきてと言ってから、かれこれ1時間が経過しようとしている。
「・・・っ!!」
「ネーアは本当に方向音痴だな。」
「うう、だってぇー。一回来たことがあるからわかると思ったんだもん。」
「初日の夜か?」
「うん。」
初日は、少しトラブルがあったため魔王城で夕食を食べることができなかった。
「その時はどうやってたどり着いたんだ?」
「・・・どうやったんだっけ?」
「それじゃたどり着けるわけなくないか。」
「たしか、適当に歩いていたらたどり着いたんだと思う。」
ここは首都だから街は広い。適当に探していたらいつになっても見つからないだろう。
「じゃあ、とりあえず今日は俺が店を探そうか?」
「うん。よろしく。いいお店期待してるからね!」
そんな期待されても困る。
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「ここはどうだ?俺がいた世界でのうどんって食べ物に似ていそうなんだが。」
「・・・うそ。」
ネーアはなぜか呆然としている。
「・・・運命?」
「どうしたんだ、ネーア?」
「ここ、あたしが行こうとしてたお店だよ!」
「えっ。」
それはすごい偶然だな。
「じゃあ、ここでいいか?」
「うん!」
俺たちは店の中に入った。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「2人です。」
「テーブルとカウンターどちらがいいですか?」
「どっちがいい?」
「じゃ、カウンターで。ミルさんにこういう時は横並びがいいって聞いたから。」
別にどっちでもおいしさは変わらないと思うぞ。
「えー、何にしよっかなー?」
ネーアはメニュー表を見ている。
ここで俺は一つ気になったことがあった。
「なあ、ネーア。」
「ん?どうしたの?」
「俺がネーアの分も選んでいいか?」
「?、いいよ。」
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「はい、きつねうどん2つでーす。」
俺が気になったこと。それは
狐の獣人は油揚げが好きなのか
ということだ。
まあ、単なる好奇心だが・・・
俺たちに、俺がいた世界と完全に同じきつねうどんが出された。
さて、ネーアの反応は・・・・
「ん!!この四角いやつ、何かわからないけど甘くておいしい!!!」
ネーアは尻尾をブンブン振りながら目を輝かせている。
おおー!
「ん?琉斗は食べないの?」
じっとネーアを観察していたら怪しまれた。
「いや、その奥にある赤いやつを取ってくれ。」
「これ?」
「ああ。」
俺は辛いものが好きだ。よって、七味を大量に入れる。
ん!おいしいな。
「・・・」
ネーアがじっとこちらを見てくる。
「食べてみるか?」
「うん!食べさせて!」
ネーアが口を開けて待っている。
いや、うどんであーんはむずいだろ。
俺は何とか頑張って食べさせた。
ネーアは幸せそうに口を閉じた。
だが、すぐに表情が変わった。
「げほっ、ごほっ!うう、なにこれ!辛い!」
「俺が入れたのは七味だ。辛いに決まっている。」
「琉斗ひどい!先に言ってよね!」
いや、見た目で辛いってわかるだろ。
「罰として今日はおんぶしてもらうから!」
「えー!」
「えー、じゃない!」
なんて横暴な・・・
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「うーん!今日はたのしかったー!」
ネーアがやっと背中から降りた。
俺たちはうどん屋でご飯を食べた後、いろんなお店をまわった。
服屋、魔道具店 (リルメではない)、宝石店に家具店、スーパーなどなど・・・
宝石店では高い宝石をネーアに買わされそうになったが、以前リルメで購入していたイヤリングで勘弁してもらった。
俺の残金は銅貨数枚になってしまった。
やばい、これからどうしよう。
「ふふーん♪」
ネーアが鼻歌を歌っている。
ま、ネーアが楽しんでくれたなら別にいいか。
「それじゃ、部屋に戻るか。」
「うん。・・・・あ!」
「どうした?」
「あたしさ、部屋がない。」
「ん?どういうことだ?」
「昨日のことで、部屋に血がついてる。」
ああー、なるほどな。
「リーゼたちから何か言われているか?」
「今のところ空いてる部屋はデキレッタ達がいた部屋しかないらしいんだけど、・・・それは嫌だ。」
それはそうだろう。
「だから、魔王様の権限で誰かと同じ部屋に入れてもらうことになってるんだけど・・・」
ネーアがちらちらと俺のほうを見てくる。
「その・・・いい?」
へ?
「琉斗の部屋に行かせてもらっていい、かな?」
いやいや、ダメだろ。
「魔王様からは好きに選んでいいって言われてるから・・・」
「いや、ダメだろ。」
「だって、あたし琉斗以外に友達いないよ!」
「それはそうかもしれないが・・・ミルさんは?」
「ミルは酒癖が悪くて、初日めっちゃ絡まれたからいやだ。頼りにはなるんだけど・・・」
「知り合いがいないにしてもだ。魔王も同性の中でという前提で話してたんじゃないのか?」
「ううん。別に異性でもいいって言ってたよ。・・・なんか笑ってたけど。」
それは冗談で言ったんじゃないか?
「だってさ、知らない人と同じ部屋は嫌だよ!」
「いや、それにしたって」
「あたしは琉斗がいいの!もう決めたから!!」
「俺の意思は・・・」
「あたしとじゃ、嫌?」
ネーアが不安そうな目で俺を見つめて来る。
そんな目で見られると断りにくいじゃないか。
「そういうわけじゃないが・・・」
「よし!じゃあ決定ね!」
「いいのか?」
「何が?」
「俺だって一応男だぞ。怖くないのか?」
「うん。大丈夫。琉斗はそんなことしない人だってわかってるし。それに・・・」
「それに?」
「う、ううん!なんでもない!」
何だったんだろうか?
「とにかく!あたしは気にしないから!」
「はぁー、わかった。いいよ。」
「やった!」
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「どうぞ。」
「じゃあ、お邪魔しまーす。」
ネーアが俺の部屋に入ってきた。
「へぇー、あたしの部屋とほぼ変わらない感じかな。」
「それはそうだろう。」
差があったら文句が出るだろうしな。
「そういえばさ、琉斗はどうするつもりなの?」
「何を?」
「今朝のリーゼ様の話。」
ああ、訓練を受けるか、ダンジョンや迷宮に行くのかって話か。
「そうだなー。ネーアはどうするつもりなんだ?」
「んー。あたしはダンジョンのほうに行こっかなって思ってる。」
「どうして?」
「だって、あたし訓練とか好きじゃないし、それにせっかく異世界に来たんだからダンジョンとか行ってみたいし。」
まあ、ネーアらしいな。
「じゃあ俺もダンジョンのほうにしようかな。」
「どうして?」
ネーアの尻尾がブンブンと揺れている。
「訓練よりダンジョンとかのほうが経験値がもらえやすいんだろ。それならそっちのほうがいいだろうと思ったんだ。それに、聞いてる感じだと、上位の召喚人はダンジョンとかに行く人が多そうだからな。」
「ふーん。」
ネーアは期待していた解答じゃなかったのか少し残念そうにしている。
「まあ、ネーアがそっちにするからっていうのもあるけどな。」
ネーアの表情が目に見えて明るくなる。
「ふふん。最初からそう言えばいいのよ。」
わかりやすいやつだな。
「一人じゃ寂しかったか?」
「ギクッ!違うから!!一人でも大丈夫だし!」
本当は、あんまり魔王たちと関わりたくないっていうのが一番だ。関われば関わるほど俺が魔人じゃないってことや実力がばれやすいからな。迷宮は身を隠すにはうってつけだ。できれば、一か月後からの魔法以外の武器も手に入れたい。それなら実力をこれからも隠していける。
それに家臣を早く手に入れたいっていうのもある。絶対の信頼を置くことができるからな。俺がなぜ魔王側にいるのか他人の意見を聞いてみたい。ネーアは信頼してもよさそうだが、あまり巻き込みたくない。
あとは、単純に魔物を倒してみたい。これはネーアとほぼ同じ理由だな。異世界といえばやっぱり魔物だよな。
「どうする?明日出発するか?」
「えー。早くない?」
「早いにこしたことはないだろ。」
「あたしはもう少しここでゆっくりしていきたかったなー。」
「俺は誰かさんのせいでお金があまりないんだ。」
「・・・」
「というわけで明日出発するぞ。」
「分かった。」
うどん屋のシーンは単純に狐の獣人のネーアが油揚げを食べるシーンを書きたかったから書きました。




