家臣召喚の儀
あらすじに少し変更を加えています。
「なあ、聞いたか?召喚人6人が行方不明だって。」
「ああ、俺もさっき聞いた。」
「しかもそいつらが住んでた家中血まみれだっらたらしいぜ。」
「おいおい、嘘だろ?それって死んでるんじゃ。」
「わ、私たちも殺されるのかな?」
「大丈夫よ。その6人ってあのネズミ族のやつらでしょ?どうせ調子に乗ってたんじゃない?」
俺たち召喚人は宮廷魔導士リーゼによって、魔王城の召喚されたときの部屋に集められている。
リーゼはまだ来ていないので、今はデキレッタ一行が行方不明になったということで騒ぎになっている。
情報の伝達が早いな。いったいどこから聞いたんだか。
俺たちはただ集まれと言われただけだ。
「ったく。どいつもこいつも異世界に来て浮かれてるからこうなるんじゃないか。もっと警戒心を持つべきだ。」
召喚順3番のケンタウロスの男がそう言う。
「ええ、確かにそうですね。ですが、その中には召喚順25番の方もいたはず。これはかなりの緊急事態と考えるべきでは?」
召喚順1番の赤い翼の男が話しかけている。
「ふん!それならその25番が腑抜けていたということだけの話だ。」
「いえ、それ以外にも、ここ首都ノースハザードの大結界が侵入を許した可能性があるそうですよ。」
「なに?だが、・・・・」
さすがに召喚順一桁なだけあって、ちゃんと考えているようだな。
「よし!うまくいったな。じゃあこれを・・・」
召喚順2番の青い尻尾をもった男は、ギミックの調整をしているようだ。まるでこの騒動に関心がない。
「ふぁーあ。眠たい。ねぇきみ。膝枕をしてくれない?」
召喚順4番の虫人の女がそう言って俺に話しかけてくる。
俺にさっきから寄りかかってきている。
こんな人前で何を考えているのだか。というかなぜ俺に話しかけてくる?
「いえ、遠慮しておきますよ。」
「あら、どうして?」
「あなたのような美女に膝枕をする勇気はありませんよ。」
「ふふふ。うれしいこと言ってくれるじゃない。じゃあ、」
そういって俺の腕に抱きついてくる。
「私の部屋に来て、もっとすごいこと、する?」
そう言って上目遣いで俺を見る。
あー、完全にお姉さんキャラの人だな。本当にこんな人って存在するんだ。って言うか・・・
「酔ってますか?」
さっきからお酒の匂いがする。
そう言うと俺の腕から離れた。
「あーあ。つまんないの。もっといい反応の初心な子にすればよかった。」
「からかわないでください。」
「えー、だってぱっと見クールな子のてんぱってるところが見たかったの!あなた反応悪すぎない?もしかしてそっち系?」
「俺はいたって正常ですよ。」
そっち系って、どっち系だよ。
「で、なんの用ですか?」
「え?いや、単に話してみたかっただけよ。」
「・・・」
「ちょっと、何よその目は?」
「いえ、なんでも。」
「まあ、あなたの彼女のネーアちゃんが少し心配だったって言うのもあるけど。」
ネーアは昨日デキレッタに襲われそうになった。そのことを心配してくれていたようだ。
「別にネーアは俺の彼女ではないですよ。」
「あら、本当に?」
「本当です。」
「でもあれだけ仲良くしてるんだから、その気はあるんでしょう?」
そんなに仲良くしてただろうか?
「ありませんよ。俺たちはただの友達です。」
「へぇー、そっかー。・・・ネーアちゃんかわいそ。」
「何か言いましたか?」
「ううん。なんでもなーい。・・・・あ、噂をすれば。」
ネーアが部屋に入ってきた。
うつむいていて、その表情はわからない。
「話しかけに行ってあげたら?」
「ええ、そうですね。」
ネーアが傷ついていることは確かだろうし、俺がネーアの部屋を見つけるのが遅くなったせいでもあるからな。
「じゃあ。失礼します。」
「ええ。あ、そうだ。私はミルフェルン。ミルって呼んでね。ネーアとは部屋が隣だから、何か困ったことがあったら手伝うわよ。」
「分かりました。ありがとうございます。ミルさん。」
最初は変な人だと思ったけど、優しいいい人だったな。
ネーアは部屋の隅っこにいる。
俺は〚陰なる移動〛でネーアのすぐそばに移動する。
ネーアに気づいた様子はない。
俺は元気のないネーアの尻尾をモフッっとする。
「うへゃあ!」
ネーアの体がビクッと反応する。
ネーアが俺の存在に気が付いた。
「・・・琉斗?」
あー、これは怒られるかな?
ネーアの目がみるみるうちに潤んでいった。
えっ?
「琉斗!!」
ネーアが俺に思いっきり抱き着いてきた。
俺はその勢いを受け止めきれず、押し倒される。
「ええっと、ネーア?」
「うわあああん。琉斗、りゅうとおおおー。」
ネーアが泣き始めた。
俺を抱きしめる力が強くなった。
「ネーア、ちょっと苦しっ。」
「琉斗っ、怖かった。怖かったよおおお。」
ネーアの泣き声に周りの人が何事かと集まり始めた。
ミルさんはニヤニヤと笑っている。
笑っていないでどうにかしてください。
俺は涙や鼻水でぐちゃぐちゃになりながら抱き着いてくるネーアを見る。
まあ、あんなことがあったんだし、仕方ないか。
俺は軽くネーアを抱きしめ、優しく頭を撫でてやった。
「うわああん。わあああああん。」
ネーアが泣き止むまでそれを続けた。
============================
「うぐっ、うぐっ。」
「どうだ?少しは落ち着いたか?」
「うっ、うん。」
ネーアは俺からゆっくりと離れた。
抱き着いていたため、少し恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「琉斗、ありがと。」
「気にするな。」
「でも、その、服が。・・・・ん?」
ネーアが自分の涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった俺のローブを見つめる。
「ど、どうかしたか?」
「あれ、いや、でも・・・」
やばっ、
「琉斗、これ、昨日あたしが選んだローブじゃないでしょ。」
「ばれた?」
「琉斗。どういうこと?もしかして、私が選んだの嫌だっ、た?」
ネーアの目が再び潤み始めた。
「いや、そんなことはない。俺は気に入っていたんだが・・・」
「?」
返り血が・・・・
「実は、昨日忘れ物を取りに行ったときにどこかに引っ掛けて破れてしまったんだ。」
「へぇー、そうなんだ。」
「だ、だから、もしよかったらまた今度一緒に買いに行ってくれると嬉しいんだが・・・」
そう言って俺はネーアの様子を見る。
かなり下手な言い訳だったが、機嫌を直してくれただろうか?
「し、仕方ないわね!琉斗がどーーしてもあたしと一緒に行きたいって言うんだった言ってあげなくもないんだけど。」
ネーアはそっぽを向いてそう言う。
尻尾がブンブンと揺れていた。
よしっ。言い訳成功だ。
「ほっ。」
「何よ。」
「いいや、なんでもない。ありがとう。」
「今日買いに行く。」
「え?」
「そのあといろんなお店まわる。」
「いや、俺、あんまりお金が・・・」
「行くって言ったら行くの!」
「はい。分かりました。ネーア様。」
こうなったら、俺には逆らうことができない。
「あたし一つ不思議なことがあるんだよね。」
「何が?」
「昨日会ったワンちゃんのこと。」
「ん?襲ってきた魔物のことか?」
・・・ん?ワンちゃん?
「そうそう。そのワンちゃんの目が琉斗の目に似ている気がしてたんだよねー。」
ワンちゃんじゃない。狼だ。れっきとした狼だ。
「本当に犬だったか。」
「ん?うん。ワンちゃんだったよ。どうかした?」
「い、いや。何でもない。」
ちなみに、陰狼のとき狐の手をしたのは、狼と狐って似てるだろうと思ったからだ。
ギミックにポーズをつけると強化されやすくなる、気がする。
「そういえばさ、昨日あたしに『戸締りはしっかり』的なこと言ってたけど・・」
「静まれ!!リーゼ様がご到着だ。」
ネーアの言葉をさえぎって、兵士の大きな声が聞こえた。
リーゼが入ってきた。
手には大きな魔法の杖のようなものがある。
以前持っていたものとはかなり異なる。
「遅れてすまない。少し魔王様と話し込んでいた。」
そう言って、俺たちの前に立った。
「まずは、もうすでに耳にしているものも多いと思うが、昨日召喚人6名が行方不明となった。召喚番号25番、33番、47番、88番、89番、107番だ。」
召喚番号25番と聞いて、知らなかった人たちの間からざわめきが起こる。
「そして、この者たちが購入していた家にはいたるところが血だらけになっていた。確認はできないが、出血量から考えておそらく絶命していると思われる。」
「何に殺されたかということであるが、実は不愉快なことに、この者たちの中から同じ召喚人の寝込みを襲おうとして失敗したものがいた。」
さっきのネーアの泣き声から、推測した人たちの視線がいくつかネーアに向けられる。
「襲われた者に話を聞いたところ赤眼の犬が外から部屋に侵入してきたため危機を逃れたとのことだった。」
「あ、あのー。勉強不足で申し訳ないのですが、赤眼というのは・・・?」
ここで、召喚人から質問が出た。
「そうだ。そのことについて、詳しく話をしなければならないと魔王様からお達しがあった。しばらく長話となるから楽な姿勢にしてもらって構わない。」
この人の長話っていったい何時間かかるんだか・・・
「うげぇー、長くなりそう。」
「そうだな。」
「琉斗肩借りるね。」
「ん?」
ネーアが俺にもたれかかってきた。
なんか、前より遠慮がなくなっているような・・・
「今日は琉斗に甘えるって決めたから。」
「寝るなよ?」
「分かってるし。」
「ラブラブねー。」
ミルさんが冷やかしてくる。
「な、な、違うから!!!」
ネーアが慌てふためいている。
「おいそこ!楽にしていいが騒がしくはするなよ。」
「「はい、すみません。」」
「ふふふ。」
「ミルのせいだからね。」
「それじゃあ話していこうと思う。まず、お前たちのような異世界からの召喚が今回を合わせて3回あったことは知っているか?」
「なにそれ?知らないんだけど。」
「ネーアはもう少し勉強をするべきだな。」
「えー。」
「1回目はハーロウ帝国の前身の国に皇帝が召喚された。2回目は魔王様と勇者、3回目はお前たち魔人と勇者だ。」
「1回目の召喚前は今のような大国はなかった。そのため、協力しない人間たちは弱く、魔物側が強かった。人間たちは必死に逃げたが、だんだんと追い詰められ、禁術を使用した。これが1回目の召喚だ。」
「皇帝が召喚され、人間側は強くなった。絶対的な権力を皇帝は持っているからな。魔物側は協力など一切しないといっても過言ではない状況だったため、やや劣勢になった。」
「それが、ある出来事によって、人間、魔物の両方ともが滅亡寸前に追い込まれた。」
「異世界からの召喚は禁術とされている。これはなぜか。召喚の際に別の世界の異形の生物がこの世界に入ってくるからだ。召喚から1年が経ったころ、人間側と魔物側の境界のあたりの地面が裂け、異形の生物がこの世界を侵略した。」
「異形の生物と言っているが、その見た目は何物にも形容し難い。しいて言うなら、甲殻類に似ていると魔王様はおっしゃっていた。」
「このままでは人間も魔物も滅びてしまう、そう考えたため、一時的に協力し、もう一度禁術を発動させた。これが2回目の召喚だ。」
「これによって魔王様と勇者が召喚された。これによって異形の生物は撃退された。」
「だが、2回目の召喚も禁術だ。1年後、異世界から8つの種類の生物がやってきた。これは俗に眷属と呼ばれている。この眷属はすべて光る眼を持っていた。また、目の色によって強さがわかった。」
「その中に赤眼はいる。そこそこの強さの眷属だ。」
「しかし、これらは1回目の異形の生物とは異なり、あまり積極的には攻撃してこなかったため、完全には撃退することができていない。」
「今回の行方不明者はこの眷属による襲撃が原因だと考えている。」
リーゼのとてもとてもとーっても長い話の重要そうな部分を切り抜くとこんな感じだ。
リーゼには編集者が必要だ。
まあ、実際は俺の召喚した陰狼なんだけどな。
ネーアは完全に俺の肩で寝てしまっている。
「あの、大結界が侵入を許したとも聞いているんですが?」
召喚順1番が聞いた。
「ああ、それは謎のままだ。私や魔王様は、眷属が何らかの力を使って結界の対象から外れたと考えている。」
「では、これからどうするのですか?」
「私たちはハーロウ帝国とは戦争状態にあり、なぜ禁術を発動したのかわかっていない。よって、お前たちにはしばらくはこの世界に慣れてもらい、1年後に出て来るであろう異世界の生物と戦ってもらう予定だった。だが、このままではお前たちは眷属によって殺されるかもしれない。そこで魔王様は家臣召喚の儀を行うことに決めた。」
「ネーア、そろそろ起きたらどうだ?」
「うにゅ、琉斗、幸せ、ふふ。」
「おい、ネーア。」
なかなか起きないので尻尾をもふる。
「んっ!・・・・琉斗、どうしたの?」
「そろそろ話が終わりそうだぞ。」
「家臣召喚の儀?」
「ああ、今からそれを行う。この魔道具を使ってな。」
リーゼが魔道具にかなりの魔力を込め始めた。
魔力に驚いてネーアの目が覚めたようだ。
「琉斗。これどうなってるの?」
「家臣召喚の儀だってさ。」
魔道具に魔力を込め終わったようだ。およそ2000ってところだ。
「お前たち、この魔道具に向かって魔力を込めよ。ほんの少しでいい。」
俺は10程度魔力を送る。
周りの召喚人も同じようにする。
「家臣」
リーゼがそう言った。
俺たち一人一人に向かって、何かの魔法陣が施された。
「お前たちのレートカードに家臣という項目があっただろう。家臣とは、以前魔王様たちから恩を受け、それを返すために家臣となった世界の者たちのことだ。詳しいことは私もよく知らぬが、家臣を得るために必要な経験値が少なくなるそうだ。」
【経験値】
訓練をしたり、敵(戦争状態の者)を倒したり、ダンジョンや迷宮の魔物を倒すことで得られる。訓練の強度や敵の強さによって得られる量は異なる。
「お前たちにはこれから約一か月訓練を受けてもらう。それによって家臣を得るのだ。家臣は自分の強さによって強さが変動する。人数もな。また、訓練よりもダンジョンや迷宮のほうが得られる経験値が高いため、自信があるものはそちらに行ってもいい。」
家臣、か・・・。




