害獣
〖リグレウス視点〗
♢
俺はチュウ王国の国王の護衛として仕えていた。
国王はとても聡明な方で、国政は安定しており、俺たち兵士の扱いもとてもいいものだった。
俺が初めて敵国の刺客を捕らえたとき、
『よくやってくれた。これからも頼む。』
と、直接声をかけてもらったのをよく覚えている。
俺はその時
一生この方に仕えよう
と決意した。
だが、それは叶わなかった。
俺が仕え始めて5年ほどの時、異世界に召喚された。
俺は上から25番めの強さらしい。
同じ世界(同じ国の人しかわからないが)から来た者は、6人。
その中には俺がお仕えしていた国王の第一王子もいた。
とりあえず俺は第一王子、デキレッタ様についていくことにした。
この世界に来てから2日目、同じ召喚人と思われる女狐が話しかけてきた。
元の世界では、女狐には悪いイメージしかなかったため追い払った。『女狐』という言葉にひどくおびえていた。
今思うと、世界が違うのだから俺たちの身分は平等だ。少し女狐に申し訳なさも感じた。
女狐には召喚後勇気ある発言をした男がかけ寄っていた。
女狐から離れたあと、突然デキレッタ様が魔法を使った。
俺には何の魔法かは夜まで教えてもらえなかった。だが、俺と同じく護衛についたものの何人かはあの女狐たちを尾行することになったらしい。
夜になった。
『あの女狐に夜の相手をさせる。』
デキレッタ様はそう言った。
俺は信じられなかった。
異世界に来てやるべきことは山ほどあるのに、なぜそんなことをするのか。そもそも、それをする権利はないはずだ。
俺は猛反対した。
次期国王ともあろう方が何を考えているのかと。
現国王の何を見てきたのかと。
今すべきことは何なのか、と。
俺の尊敬する国王の息子だ。
聞き入れてくれると願っていた。
だが、それは無駄なことだった。
『俺は第一王子だぞ!お前ごときが俺に指図するな!』
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しばらくしてデキレッタ様が腕に大きな傷を被って帰ってきた。
何やら、赤眼の狼に襲われたらしい。
俺はまさに罰が当たったのだと思った。
これを機に自分の間違いを正してくれるのではないかと思った。
『次はないからな。』
俺たちのせいだと言ってきた。
俺は失望した。
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そんなところに、襲撃がきた。
女狐と一緒にいた、あの男だ。
俺は短刀で襲い掛かった。
寸止めをする予定だった。
だが、いとも簡単に俺の攻撃は止められた。
なぜだ?俺は25番、こいつは50番あたりだったはずだ。
黒い魔力をまとった刀にはじき返された。
『なぜここにいる!?』
『なぜって、害獣への報復に決まってるじゃないか。』
一瞬何のことかわからなかった。
意味が分かると怒りの感情がわいてきた。
俺たちを害獣と呼ぶことは、すべての鼠族への侮辱だ。
俺は自身の対剣用の魔法で攻撃した。
だが当たらない。
それどころか、
『これは刀で受け止めるとその先が曲がって攻撃が当たるな。』
などと余裕をもって避けていた。
その後、この男を見張っていた二人以外の者が集まって来た。
俺たちは自身の使える最強の魔法で攻撃することにした。
♢
何が起こった?
俺とデキレッタ様以外の者は体が引き裂かれ、みるも無残な姿となっている。
おそらく絶命しているだろう。
デキレッタ様は元々大きな傷を負っていた右腕が切断され、全身から血がにじみ出ている。
俺は、この中で最もましだ。
ストレンジスキル[生命の守護]が発動した。
これは致命傷となる攻撃を防ぐ盾を、一回の戦闘につき一度だけ、自動で作り出すというものだ。
だが、左目がつぶれ、両足が折れ、立ち上がることができない。
俺たちの魔法が吹き飛ばされた?だが、何に?
「First 陰狼。これは陰の狼を二匹召喚する。俺が今使える中で一番強い。」
「・・・っ!」
いつの間に!?
この男は俺の背後に立っていた。
陰狼というらしい二匹は消えている。
「護衛は殺しておくつもりだったんだが、まあいいか。」
「な、にをした?」
俺は苦し紛れにそう聞く。
「いや、さっき説明しただろ?」
「そうじゃない!なぜきさまがこんな強力な魔法を使える!?」
それになんだ?さっきの威圧感は?
この男が最初に『First 陰狼』と言ったとき、強力な魔力を二つ感じた。
これはいい。もう説明された。
だが、その声がとても恐ろしく、ものすごい威圧感があった。
「お前に説明する必要があるか?」
そう言って、デキレッタ様のほうへ近づく。
「どうだ。襲撃される側の気分は?」
「ひっ!」
デキレッタ様は完全にこの男におびえてしまっている。
何かを拾い上げた。
「へぇ~。[ストーカー]に[忘却]。本当に害獣だな。」
なっ・・・・!
俺は不思議とこの男に害獣呼ばわりされたことに怒りを感じなかった。
はるかにそれを上回る衝撃だった。
なんということにストレンジスキルを当てたのだ!
「お、お願いだ!どうか命だけは!命だけは助けてくれ。お前の望みを何でも聞いてやろう。」
「・・・」
「か、金か?それとも女がいいか?俺のスキルで好きな女を連れてくることができるぞ!どうだ?悪くないだろう?」
デキレッタが命乞いをしだした。
俺は完全に失望した。もうこいつに敬意を払うことはない。
「そうだなぁ。」
「おう!何がいい?」
「じゃ、死んでくれ。」
「え!?」
「いや、考えたらわかるだろ?」
この男は何事もないかのように言う。
「な、なぜだ?俺は王子だ。お前の望みを叶えてやると言っているのだぞ!」
「はぁー。」
俺はあることに気が付いた。
「お前はこの世界の王子じゃないだろ?それにだ、仮に王子だとして、お前にそんな資格があるとは思えないなっ。」
口調は軽い。
それほどきつい言葉遣いではない。
声色も平坦だ。
「お前には罰が当たったんだよ。」
「何?」
だが、
「これはお前自身が言っていたことだぞ?」
「・・・」
「お前は大前提がわかっていないようだな。」
目が全く笑っていない。
鋭い殺意のある目をしている。
「俺はさ、かなり怒ってるんだ。」
男の刀がデキレッタの左肩に突き刺さった。
デキレッタが叫び声をあげようとしたが、男に首をつかまれて苦しそうにしている。
そのまま体を持ち上げられる。
「この世界で初めての友達が傷つけられそうになった。これだけでお前を殺すには十分な理由だろう?」
「や、め・・・」
男が、反対の手を何かの形にし、指先に魔力を集め始めた。
デキレッタの額にあてる。
「魔力装填10,000完了。」
デキレッタの体が塵のようになって消えた。
「ん?俺はまだ発砲してないんだが。魔力差が大きすぎるとこうなるってことか?」
俺は唖然とした。
魔力が10,000?なんだそれは・・・・
しばらく何やら考え込んでいた様子だったが、俺の存在に気が付いたようだ。
「あ、悪い。忘れていた。」
「ははは。」
俺は乾いた笑いをする。
「ええっとー。」
「分かってるよ。全く俺たちはなんて化け物と戦おうとしてたんだか。」
俺は極炎の槍を出す。
「もし、伝える気があったら伝えてくれ。女狐って言って悪かったな、と。」
男は少し驚いた表情をしていた。
「お前たちにとって俺たちはまさに害獣だったな。」
俺は自分の体を貫いた。
ああ、国王様。もう少しあなたにお仕えしていたかった。
〖瀬川琉斗視点〗
「ふぅ。終わったな。」
俺はデキレッタ一行を全員殺した。
いや、あいつ、リグレウスは自害したな。最後、ネーアに謝ろうとしていたし、そこまで悪い奴ではなかったのかもしれないな。
さてと。
俺は収納していた107番の死体を取り出した。
全員収納しておいてもいいんだが、なんか気分的にそれは嫌だしな。
「買っておいて正解だったな。」
俺は魔道具店で買った、白と赤と黒が混ざっている気味悪い球を取り出した。
「死体喰い」
球が変形し、ゾンビのような犬になった。
ええっと、確かこの黒い魔石に魔力を注ぐと動くんだったか。そういえば魔力って残ってたっけ?デキレッタを殺したときの魔力は使用されたことになっているのだろうか?
俺はレートカードを取り出す。
ん?
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死体喰いが動き出した。
かなりの勢いで食べてくれている。
骨まできれいに食べるいい子だ。
高かったけど、買ったかいがあった。
死体はなくなったが、壁や床、家具には血が大量に付着している。
これで魔物に食われたって思ってくれるだろう。死体は残っていると魔物の殺し方とは違うってばれてしまうだろうし。
俺は家の外に出た。
地平線の端に太陽が見える。
はぁーあ。こりゃ完全に寝不足だな。部屋に戻って寝よ。
俺はふと自分の服に視線を落とした。
「げ、ネーアに怒られそう。」
服は返り血まみれだった。




