陰の襲撃
「さてと、じゃあまずはデキレッタの居所を聞き出すか。」
俺は今、街の中心の広場に来ている。真夜中なので、人の姿は見えない。
「そろそろ出てきたらどうだ?建物の影に隠れている奴と、魔法で地面に擬態している奴。」
地面からぬるりと一人出てきた。
建物のほうは出てこようとしない。
「ちっ、ばれていたか。いつから気づいていた?」
ネズミ族の男だった。
「俺たちがお前らともめてしばらくしてからだな。」
「なに?でたらめを言うな!」
「でたらめじゃない。最初は召喚順89番、俺たちが2回目に魔道具店に行ったときからは88番と107番、今は隠れている107番と47番だろう。」
「まさか・・・!?」
47番はひどく驚いたようだ。
なんであんなに拙い尾行に気づいていないと思っているのだか。魔道具店のウィドレートさんも気づいていそうだったぞ。
「ああ、そうだ。お前らの王子の夜這いは失敗したぞ。」
「・・・っ!?なんのことだ?」
一瞬言葉がつまったな。
「お前らの王子、デキレッタだったっけ?、がネーアを襲おうとしたのは失敗したといっているんだ。確かにネーアは魅力的だろうが、異世界に来て2日で女を襲うってとんでもない女好きな王子様だな。」
「きさま!我らが王子を愚弄するな!」
「まあ、いい。その王子はどの部屋にいるんだ?」
「王子はお前らなんかと同じ部屋にいるわけないだろう。」
「そうか。」
俺は鼻で笑った。
お前は一つ間違いを犯した。つまりそれは、魔王城の部屋にはいないということだ。
「魔王城ではないんだな。」
「はっ・・・!」
自分の失言に気づいたようだ。
「となると、どこかの家でも買ったのか。だが、そう遠くの家ではないだろう。」
「きさま、我らが王子に手を出したらただで済むと思うなよ!」
「ほざくな、害獣が。」
そう、つぶやくように言う。
「おのれー!」
害獣、それは獣人に対する最上級の侮辱。
「デキレッタ様から、殺してもよいとの許可は出ている。土下座して謝るなら今のうちだぞ。」
「さっさとこい。」
「岩魔法、岩巨人!」
地面の石が浮き上がり、一つの岩の巨人になった。
「俺は47番、だがお前は51番だ!相手を間違えたな。」
47番はそう勝ち誇ったかのように言う。
へぇー。おそらくこいつの最大の魔法だろう。大きさは約10メートル。家ぐらい簡単に壊せそうだ。こいつ辺りからがBランクかな。普通のCランクじゃ負けていただろう。
俺は右手を銃の形にする。
「思いあがるな。たかが10メートルの岩だ。」
俺は銃口に魔力を込める。
「なっ・・・・・・!!なんだそのバカげた魔力は!!?」
ちょっとかっこつけてみるか。
「魔力装填1000完了。発砲。」
バアアアァン!!!!!
すさまじい音が鳴り響く。
俺が放った魔力は黒い光を帯びて、岩巨人に当たる。
「爆ぜろ。」
広場一帯が吹き飛んだ。
あれ、やりすぎたか?
後に残ったものは何もなかった。
あーあ。尋問して居場所をつき止めようとしてたのに。吹き飛ばしてしまったか。幸い建物への被害は避けれたようだが。
「ま、もう一人いたし。」
〚陰なる移動〛を使って、逃げ出そうとしている107番のそばに移動する。
「おい、何逃げようとしてる。」
「ひぃ!」
「デキレッタの居場所を吐け。」
「・・・」
「知らないのか?」
「お、俺は最近デキレッタ様にお仕え始めたんです。あ、あなたなんかに教えられません。」
ボトッ
「ぎゃあああああ!」
「叫ぶな。デキレッタはどこだ?」
俺は107番の尻尾を切り落とした。
この刀はいいな。軽いのにしっかり攻撃力がある。
「そ、それれ、でもいやです。」
「お前に拒否権はない。」
俺は右耳を切り落とした。
============================
「うっ・・・」
「申し訳ありません。我らがいながら、デキレッタ様にお怪我を。」
デキレッタの右腕を25番、リグレウスが治療している。
ここは、首都ノースハザードの城壁を出て少ししてところにある森林地帯の家だ。
「今回はよい。だが次はないからな。」
「・・・はっ。しかしその赤眼の狼とやらはどこからやってきたのでしょう?」
「わからん。空から降ってきたように見えたけどな。」
「赤眼、その強さは大規模部族を一匹で滅ぼすほどだとか。しかし、そのような危険な魔物の侵入を大結界が許すとは思えません。」
【大結界】
大規模な街を囲むように張られている。対象のものの侵入を防ぐ。
「俺が嘘をついてるとでも?」
「いえ!そういう意味では!」
「まぁ、今回は逃げ切れたのだからそれ以上はそいつの話をするな。問題は女狐の記憶を消し損ねたことだ。」
「そうですね。忌々しい。」
「楽観視しすぎだ。逃がすわけないだろうが。」
「だれだ!」
「何者だっ!」
リグレウスは臨戦態勢をとる。
俺は部屋の中の陰から出る。
「きさまは!」
デキレッタは驚いて固まっている。
それに対してリグレウスは俺に短刀で襲い掛かってくる。
俺はそれを〚陰なる祝福〛をまとった刀で受け止める。
〚陰なる祝福〛
あらゆるものに陰をまとわせ、攻撃力上昇、防御力上昇など様々な祝福を与える。
そしてリグレウスをはじき返す
「なぜここにいる!?」
デキレッタが聞いてくる。
「なぜって、害獣への報復に決まってるじゃないか。」
一瞬何のことかわからずにリグレウスとデキレッタはポカンとする。
だが、すぐに何のことか気が付いたようだ。
「きさま!極炎の鞭!」
リグレウスが怒りに満ちた顔で襲い掛かってきた。
真っ赤な炎に包まれた鞭だ。
俺はそれを〚陰なる移動〛で避ける。
「今すぐ言ったことを取り消せ!」
「何を?」
「我らを害獣といったことだ!」
リグレウスが極炎の鞭を振り回して攻撃してくる。
「これは刀で受け止めるとその先が曲がって攻撃が当たるな。」
俺はそう考え、〚陰なる移動〛で避けまくる。
「くそっ!なぜ当たらない。しかも無詠唱だと!!?」
この世界の魔法は基本的には詠唱が必要だ。詠唱といっても、ただギミック名を言うだけでよい。
ではなぜおれは〚陰なる移動〛を無詠唱で使えているか。
それはいたって単純。これは戦闘用魔法として生成したものではないからだ。
詠唱が必要なのは戦闘用魔法だけ。だがこれはあまり知られていない。資料館の奥のほうに埋まっていた、いかにも怪しい本に載っていた。
なぜ当たらないかということも簡単だ。
〚陰なる移動〛は陰の力によって俺を陰で覆い、空間をつないで移動するというものだ。
そして、今は真夜中。つまり・・・
「夜はわが支配下にある。なんてな。」
「デキレッタ様、ご無事ですか!?」
残りの88番、89番がきた。
「俺は大丈夫だ。それより、やつを殺せ。」
デキレッタが指示を出す。
リグレウスの攻撃がいったん止まり、88番、89番と合流した。
デキレッタも攻撃してくるようだ。
「おい、お前を見張っていた二人はどうした?」
88番がそう聞いてくる。
いやいや、俺を見張ってたって認めてるんだけど、バカなのか?
「ハイトよ。そんなことよりもこいつをさっさと倒すぞ。聞くのはそれからでいい。」
「分かりました。」
「極炎の槍!」
「透明螺旋鎖!」
「蜂の猛毒」
「蟷螂の一撃」
それぞれの最強と思われるギミックを撃とうとしている。
リグレウスやデキレッタはおそらくBランク、88番、89番はDかCランクだろう。
いや、このパターン二回目なんだが。
♢
俺はこの世界の魔法について知ったときから考えていたことがある。
この世界の魔法は自由だ。
いわゆる異世界には決まった魔法しかないが、この世界にはそれがない。
魔法属性に基づくギミック。
そして、ストレンジスキル。
どちらも自分で思い描いたものが使える。
では、何がその強さを決めるのか。
まずは、使用者の魔力量だ。
魔法に使われる魔力が多ければ多いほど強力になる。
次に、その魔法の熟練度だ。
熟練度はレートカードには表示されるものではなく、使用回数に比例する。
そして、魔法生成者の発想力。
強力な魔法をイメージするほど強力になる。
だが、それには限度があり、それはランクによって決まる。
これは基本的にギミックの話。
俺が考えるに、強さのカギとなるのはストレンジスキル。
これは使用者に関わらず、ほとんどの魔法を使うことができる。
そのため、自身の熟練度では扱えない複雑な魔法や、便利さを追い求めた魔法を選ぶことが多い。
選ぶことができるのは召喚人は2つ。
一般人にはない。
ストレンジスキルにも限度がある。
じゃあ、その限度とは何によるものなのか。
これは俺が読んだ本の中に、はっきりとは載っていなかった。
だが、今までのストレンジスキルの例から俺は一つの推測を立てた。
それは、魔法の複雑性だ。
ストレンジスキルには処理能力の限界があるのではないかということだ。
一から魔法を作るためには、とても複雑な魔法陣を生成する必要がある。
ちなみにギミックは魔法属性に基づくため、魔法陣の土台ができた上で生成するため問題はない。
要するにだ。
ギミックの強化をするだけのストレンジスキルなら、土台以上のものが既にできてるから余った処理能力分強化されるんじゃないか。
俺はそう考えた。
♢
俺は両手を狐の形にし、腕をクロスさせる。
『「First 陰狼」』
俺はそうギミック名を言う。
俺の声に少し違和感があったが気のせいだろう。
陰から二匹の狼が出て来る。
黒い炎のような毛の、赤い目をした狼だ。
俺の最初のストレンジスキル[ナンバース]。
その効果は
選んだギミック8つを強化する
たったそれだけ。
たったそれだけがゆえに、その強化のされ方はすさまじい。
「行け。」
魔法が一瞬で吹き飛ばされる。
大きな血しぶきが上がった。




