雨
«ただいまー。»
「ただいま。ちょっと遅くなった。」
「・・・ん、おかえり。」
⦅おかえりなさいです。何かあったんですか?⦆
宿に戻ると、エミュリアとフィシアが出迎えてくれた。
フィシアは先ほどまで寝ていたようで、ぬいぐるみを抱きかかえながら眠たそうにしている。
「ギルドでほかの召喚人に会ってな。少し話してた。はい、夕食買ってきたぞ。」
そう言って夕食が入った袋をフィシアが魔法で作ったテーブルに置いた。
⦅わー!ありがとうございます。奴隷なのにこんな豪華なご飯が食べられるなんて・・・⦆
「助けるために買ったのに虐げていたら意味がないだろ?」
⦅奴隷になる前よりも豪華です!⦆
エミュリアが目を輝かせている。
ま、それぐらいのお金はあるからな。それに、
「その分エミュリアには爆弾作りを頑張ってもらうけどな。」
俺は席に座った。
⦅うっ。あの、琉斗様も一緒にですよね?⦆
エミュリアがそう聞きながら俺の隣の席に座った。少し椅子を俺のほうに寄せて来る。
ちなみに、この椅子もフィシアが魔法で作ったものだ。テーブルも椅子も生活に必要なので、よく作っていたそうだ。魔法の実験で吹き飛ばしてしまったために。
テーブルと椅子以外にも、部屋全体がかなり豪華、というかメルヘンな感じに装飾されている。
フィミンは俺の向かい側の席に座った。
まだほんの少ししかたってないが、初対面の時よりは緊張がほぐれている気がする。
単純に寝起きだからかもしれないが。
「最初のうちはな。俺はまた魔王に呼ばれるだろうから、そうなったらエミュリア一人で作ってもらわないといけない。」
⦅そんな・・・⦆
「大丈夫だ。」
俺は不安そうな表情をしたエミュリアの頭をなでる。
「俺も定期的に戻ってくるつもりだし、それにフィシアにはエミュリアのそばにいてもらうから、万が一事故ったとしても何とかなるだろう。」
「ん?私お留守番?」
「召喚人は男の比率のほうが高かったし、それに家臣も得ていた場合、より男が多くなる。その中に行くのはきついだろ?」
「うん。だけどいいの?家臣を得るように言われてるのに。」
「別に家臣が1人とは限らないし、最悪いなくても言い訳はできるだろう。」
あと、美少女のフィシアを連れて行ったら男に話しかけられまくりそうだからな。
「ん、ありがと。」
⦅フィシアちゃんが一緒なのはうれしいですけど・・・たくさん帰ってきてくださいね!できれば毎日がいいです!⦆
「あ、ああ。分かった。できるだけそうする。まあ、まだ先の話だけどな。」
なんでそんなに帰ってきてほしいのか分からないが・・・まあ陰なる移動で一瞬だから大丈夫だろう。
«我が王。いつまでエミュの頭をなでてるんですかぁ。»
「あ、悪い。」
エミュリアの頭の位置的に、ついなでてしまう。
⦅むぅ。せっかく気持ちよかったのに・・・⦆
============================
翌日の昼過ぎ
「じゃあ、行ってくる。」
「ん。」
⦅いってらっしゃいです。⦆
«いってらっしゃい。»
俺はフィシアとともに中迷宮に向かう。
エミュリアとフレアはついて来ない。
エミュリアは一緒にくると危ないだけなので宿でお留守番で、フレアはエミュリアの見守りだ。
カラズの治安は決していいとは言えないので、もしものことがあったときに対処するためだ。
今回の中迷宮はカラズから山を1つ越えたところにある。
何か特別なことが起きる迷宮ではなく単純な中迷宮でなので、俺が本気で急げば数時間でクリアできると踏んでいる。
だが、今回の目的はフィシアの実力を確かめることだ。
あまり俺は出しゃばらないようにする。
俺たちは山のふもとまで来たのだがここで1つ問題が起きた。
「雨・・・。」
「だな。とりあえず木の下で雨宿りするか。」
結構強めに雨が降ってきた。
近くの大木の下に避難する。
屋根があるわけではないので雨を完全に防げるわけではないが、このまま進むよりははるかにいいだろう。
しかし、雨雲は先のほうまで続いており、しばらくは止みそうにない。
「この世界には天気予報とかないからなー。傘買っておけばよかった。」
思わずそんな言葉が出た。
「てんきよほう?」
「ああ、俺の世界では天候がどうなるのかを過去のデータとかをもとにして予測してたんだ。それを見て服装とか傘を持って行くかどうかとかを決めていた。」
「ふぅん。」
フィシアは俺から少し離れた場所に立っていたのだが、近づいてきた。
「琉斗は・・・元の世界に帰りたい?」
「嫌だな。」
俺は即答する
フィシアは少し驚いた顔をした。
「なんで?どんな世界だったの?」
「うーん。そうだなぁ。」
俺は少し考える。
「少なくとも俺がいた国は平和で、命の危険なんてそうそうない。野生動物はいるが魔物はいないし、戦争状態の国もなかったからな。あと、便利なものがたくさんあった。さっき言った天気予報とかな。この世界とは技術が圧倒的に違う。」
「面白そう。」
「そうだな。ゲームとかアニメとか面白いものも多かったが・・・俺にとってはこっちの世界のほうがよっぽど面白いぞ。だって向こうには魔法はないからな。元の世界は、科学で証明できないことなんてない、なんて言ってるやつらもいるような科学第一の世界だったが、それなら自分自身も物質同士が反応しあっているだけのものになってしまう。自我の説明ができない。・・・ま、とにかく魔法がない世界なんて嫌だろ?」
「ん、それはやだ。」
フィシアは最初のほうは何を言っているのか分かっていなそうだったが、最後の部分には大きくうなずいた。
「・・・それに、元の世界の人は俺には狂っているようにしか思えなかった。」
「?」
「人間の命を重く見過ぎている。人間はそんなたいそうなものじゃない。」
「・・・。」
「少し暗い話になってしまったが、とにかく、元の世界には帰りたくないな。」
「そうなんだ。」
俺は雨を眺めながら話していたのだが、フィシアのほうを向いた。
「フィシアは元の世界に帰りたいか?」
「!」
「なんだかそんな感じの表情をしていると思った。俺に話しかけてきた内容も含めてな。」
雨はさっきよりも強まってきた。
「・・・うん、雨を見るとミフリーを思い出す。」
「みふりー?」
「ん、ミフリー。私の唯一の親友。初めて会ったとき、こんな大雨の日だった。」
面と向かってフィシアの話を聞けたのはこれが初めてだな。
「どんな人なんだ?」
「いつも元気で、一緒にいると明るい気持ちになる。尻尾と耳が可愛いイタチの女の子。尻尾がもっふもふで手触りがすごくいい。冬場の必需品。」
へぇ~。
フィシアは今までにないほど嬉しそうに話していた。
「別に会いに行きたいなら行ってきてもいいぞ。」
「え・・・いいの?」
「ああ、世界の行き来がどうなっているのか分からないが、それができるなら行ってきたらいい。何かできることがあれば手伝う。」
「・・・ん、ありがと。琉斗は優しい。エミュリアちゃんが琉斗の―――ゆうが分かった気がする。」
雷がちょうど鳴って一部が聞き取れなかった。
「でも、大丈夫。ミフリーは武闘科所属でぶっちぎりの首席。だから琉斗の家臣になるかもしれない。それを待つ。」
まじか・・・。首席動同士は仲良くなりやすいのか?まあ、それならいっそう経験値集めを頑張らないとな。
「分かった。ま、行きたくなったら遠慮せずに言ってきてくれ。俺に言いにくかったらエミュリアを通してでもいい。」
「ん。」
というか・・・
「雨、止みそうにないな。」
「確かに。」
「別に絶対に今日行かないといけないわけじゃないから、いったん戻っ――」
そう言いかけて俺は言葉を詰まらせた。
フィシアの周りに障壁が張られている。
俺は一瞬でそれが何を意味するのかを理解した。
フィシアも遅れて気が付き目を見開く。
「陰なるた――」
ヒンッ
更新速度が遅くなります。
詳しくは(といってもそんなに詳しくないですが)活動報告を見てください。




