次の街へ
「・・・ありがと。大事にする。」
そう言ってフィシアは俺が渡したセーブリングを左手の薬指につけようとして――
⦅フィシアちゃんそこはダメ!!⦆
«フィシアー、なんのつもり?»
エミュリアとフレアに止められた。
「?・・・あっ。」
最初は何を言われているのか分かっていなそうだったが、指輪のつける場所のことだと気づき、左手の人差し指につけた。
・・・はは。とりあえずは受け取ってもらえてよかった。男が触れたものですら嫌だったらさすがに困る。
「それじゃ、この中迷宮もクリアできたし帰るか。」
「おっけー。相変わらずの速さだねー。過去最速?」
「いや、今回は違うかったはずだ。ルートによってはもっと簡単で、俺たちより速く攻略したパーティーがいたと思う。まあ、俺たちが爆弾の実験をしていた時間がなかったら最速だったかもだけどな。」
「そっかー。でもよかったんじゃない?あんま目立ちたくない感じでしょ?」
「そうだな。」
確かに、俺だとわからないよう名字で登録しているが、そうだとしても目立ちすぎるのは良くない。そのうち魔王軍の人に目をつけられて、スカウトするために探し出される可能性がある。
「フィシア、その大量のものを収納してくれ。あとテレポート的なの仕えるか?」
「ん、わかった。テレポートはできる。」
それは良かった。陰なる移動は俺以外も一緒に移動させることはできるが、その対象に触れる必要がある。それはフィシアには厳しいだろうからな。
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俺たちはキリトの城門の前まで歩いて帰ってきた。
俺とイヤリングの中のフレア、ミィが先頭で、エミュリアとフィシアが後からついてくるという感じだった。
フィシアはエミュリアとだったら気兼ねなく話せるようで、おかげでフィシアについて少しずつ分かってきた。
これはすでに分かっていたことだが、フィシアは家臣学校魔法科の首席。
それも10年連続だということが分かった。
この要因として、魔力量が家臣の世界の常人とは比べ物にならないほど多いらしい。
そして最も重大なのは、魔法属性が全属性であるということだ。
家臣のいる世界はこちらの世界とは違っていわゆる異世界であり、ストレンジスキルやギミックなんてものはない。
魔法としてあるのは先人が何千年とかけて作り上げたものだ。
フィシアもいくつかの魔法の開発・改良に成功しているらしい。フィシアは魔法のことになると饒舌だ。
全属性ということはそれらすべてを使うことが、練習を重ねればできるようになるということ。
それは大きなアドバンテージとなる。
さて、なぜ俺たちが魔法ではなく歩いて帰ってきたのかというと、フィシアがキリトに入る許可を取る必要があるからだ。
別に許可なんてきちんと取らなくていいのではないかとも思うのだが、後になってばれた場合が面倒だ。
門の前の列に並ぶ。
といっても、まだ夕方なのですぐに順番が来た。
夜になるとダンジョン・迷宮帰りの冒険者が多くなってしばらく待つ必要がある。
「次、許可証と身分を言え。・・・いや身分はいい。許可証だけ見せろ。」
俺はすでに何度かここを通っており、この門番とは何度か会っている。
そのため、俺が召喚人であることを知っており、召喚人だということが周りに聞こえたら好奇の視線が集まるのを配慮して身分は聞かないでおいてくれる。
「これが許可証です。で、こっちが俺の奴隷で、あっちが新たに得た家臣です。」
奴隷は主の所有物扱いなので奴隷であることが認められさえすれば許可は必要ないが、家臣は必要だ。
許可証を取得しなければならない。
「ふんふん。相変わらず奴隷にはもったいないほどの首輪だな。・・・ええっと、それじゃあ家臣かどうかと名前、年齢、性別など調べさせてもらって、確認が取れたら許可証を出す。しばらく待て。」
そう言って調べるための魔道具と許可証を取りに門番用の部屋に戻っていった。
列に並ぶとなるとどうしても男が近くにいることになるので、フィシアはかなり不安そうにしている。
ミィやエミュリアがそばで声をかけてあげている。
「フィシア、もう少しで終わる。街に入ったら人が少ないところに行こう。あと、許可証発行のために一度顔を見せる必要があるが、できるだけ門番以外には見えないようにな。」
「・・・ん、分かった。あ、ありがと。・・・なんで?」
フィシアは不思議そうに俺の顔の少し下のあたりを見る。
「はい、これが家臣用の許可証な。全部埋めるように。その間に俺は家臣かどうかの確認をする。」
俺は順番に記入していく。
門番は魔道具を使って俺とフィシアをスキャンし、家臣であることの確認ができたようだ。
「それじゃ、顔を見せろ。許可証発行と次からの通過をスムーズにするためにな。」
「・・・。」
フィシアフードの影になって見えていなかった顔を上げた。
ちなみにフィシアの服装は、こちらの世界に来た時から着ていた白を基調とするフード付きのかわいらしい服だ。
「!!」
真面目で仕事に忠実そうであり、少し威厳のある門番が目を大きく見開き、そのまま固まる。
しばらくフィシアの顔を見つめていた。
ほんのりと頬が赤くなっている。
「フィシア、もういいぞ。」
「・・・ん。」
俺はフィシアが嫌そうにしていたので、フィシアの前に立った。
「門番さん、通っていいですか?」
「・・・っ。あっ、ああ、通れ。」
「ふふ、じゃあ、また。門番さん。これが許可証で、身分は平民。通っていい?」
「・・・・。」
「門番さん?」
「・・・ああ。」
門番は完全にうわの空で答えていた。
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「・・・さ、さっきはありがと。」
「いや、気にしなくていい。」
俺たちは前からとってあった宿でもう一つ部屋をとり、元の部屋を俺とフレア、一方をエミュリアとフィシアの部屋にした。
今は俺の部屋に集まってもらっている。
«ふふん。これからは我が王と二人っきりです!»
⦅お友達ができたのは嬉しいけど、琉斗様と別の部屋になるのはちょっと残念です・・・。⦆
俺としてはエミュリアは女子なので男と同じ部屋は嫌だろうと気にしていたのでもう一部屋とることができてよかったと思ったのだが、エミュリアは嬉しさ半分残念さ半分という感じだった。
「あれだな。俺もフィシアもテレポート系の魔法を使えるんだから、どこかの家を買ってもいいかもな。」
«ありですね!»
「そうしたらフィシアの大量のものも置けるだろうし。」
「ん、それは助かる。」
フィシアが家臣の世界から持ってきたものは部屋に収まりきらず、収納の中に入ったままのものが多い。
«どんなところの家にしますか?»
「うーん。やっぱり人が多いところは嫌だからなー。どこかの山の中の家とか?」
«あー、我が王って本当に人混みが嫌なんですね。»
⦅私も山の近くの家がいいです。その、昔住んでた家もそんなところだったので。⦆
へぇー。確かにエルフって山とか森の中に住んでるイメージだ。
「私もそういうとこがいい。静かなほうが好き。」
「ま、とりあえずは中迷宮を回りながら探すか。もうこの街には用はないし、明日にはカラズに移動しよう。」
俺が中迷宮にこだわるのは、大迷宮以上に入るとなるとそれなりに名の売れた人が多くなり、目立ってしまうからだ。
カラズとは周りに中迷宮が3つある、魔王国ドラッケンバーグの国境付近の街だ。
国境付近であるためそれなりに危険があり、魔王の家臣の一人もそこにいるらしいが、人が多いところに行くよりはましだ。
ミィにはすでにそこに行くことを伝えてあり、少し遅れてくることになっている。
次の中迷宮は初めての家臣を連れての攻略となる。
フィシアの実力がどれほどなのか楽しみだ。
それに、俺も新しいナンバースを使ってみたい。




