初対面
「ごごごご、ごめん!・・・なさい。」
・・・ええっとー?
俺はその美しさ(きれい系ではなく可愛い系の)に少し見ほれていたのだが、横からの熱気を感じたので頭を働かせる。
どういうことだ?虫人ってことはわかるんだが・・・。なんでここに現れた?どうやって?それになんであんなにものがたくさん降ってきたんだ?
その少女はうつむいて黙ったままなので何もわからない。
埋もれた状態からは脱出し布団の中に座ったのだが、手が震えており、緊張しているように見える。
「すっごい美少女!」
⦅・・・だれですか?⦆
«我が王・・・。むぅ、あいつ誰ですか!?»
「俺に言われてもわからない。俺だって驚いてる。」
フレアは明らかに、エミュリアもなぜか少し機嫌が悪いように見えた。
「あ、あれじゃない?琉斗さんの家臣。」
んー、それはないだろう。基本的に家臣は同性の人が選ばれる。異性なのは皇帝と魔王、それとほんのごく僅か。だが、それ以外に・・・考えていてもわからないな。
「ええっとー、誰なんだ?なんでここに来た?」
「・・・ああ、あなたの家臣。・・・です。」
俺が尋ねると少女は肩をビクッとふるわせ、うつむいたまま答えた。
え?家臣なのか?というかおびえている?
«家臣!?なんで女!?・・・あ、そういえばそうなるんだったかも?»
「そうなのか?」
«はい、なんかそんなことをあの人言ってたような気がします。»
俺ってなんでそんな特殊なことばかりなんだろう。あの人っていうのはまだ使えないナンバースのことか?まぁいい。今はミィもいるからその話はやめておこう。
実際ミィはフレアを不思議そうに見ている。
⦅あの、大丈夫ですか?寒いんですか?⦆
エミュリアが少女が布団にくるまって震えているのをみて、心配している。
すると、その少女の目に魔力が集まったように見えた。
エミュリアを見ている。
「ん、大丈夫寒いわけじゃない。心配してくれてありがと。」
⦅え!私の言ってることわかるんですか!?⦆
「私は魔法使い。それくらいは朝飯前。」
こくりとうなずきそう答えた。
へぇ~、魔法使いの家臣か。遠距離が俺はあまりできなくて少し困っていたからちょうどいいな。ん?というかエミュリアには普通に話している?
エミュリアとその少女が話しだした。
年齢が近そうだから話しやすいのかもしれない。
一方でフレアは別のことを気にしているようだ。
«ていうか家臣を得るだけの経験値を得たのに私の体戻ってない・・・。»
(んー。本当に経験値が問題なのか?何か特殊な条件があるとか?)
(いえ、今の私はギミックとして召喚されている状態なので経験値だとしか考えられないと思うんですけど・・・)
(そうか。まぁ、単純にまだ足りないだけなんじゃないか?フレアは家臣とは違って特別だろ?)
家臣は一般人でも頑張れば得られるが、フレアたちナンバースは俺にしか使えないだろうからな。
(特別・・・ふふん♪だって私は我が王の恋人ですもんね!)
(あ、ああ。)
何か意味をとらえ違えているようだったが、スルーしておく。
(これからも経験値集めはするつもりだから、そのうち体も戻ると思うぞ。ナンバースも全て使えるようになりたいし、家臣が1人だけとは限らないからな。)
(はい!ありがとうございます!)
「あ、あの。」
「ん?」
家臣らしい少女が話しかけてきた。
「・・・その、頭、痛くなったの・・・私のせい。・・・・です。」
「え?そうなのか?」
「ん、私が家臣になるかどうか決めてなかったから。・・・ごめんなさい!」
ものすごく頭を下げて来る。
うん。これはやっぱり・・・
「別に大丈夫だ。何か怪我したわけでもない、それに人に仕えるかどうかなんてすぐに決められることじゃないしな。」
「ホッ・・・ありがと。・・・ごさいます。」
そう言って布団を頭からかぶった。
⦅あのっ、琉斗様。⦆
「ん?」
⦅あの子、フィシアちゃんから伝えてほしいって。⦆
「伝言って・・・。なんか俺おびえられてるのか?」
完全に俺を怖がっている人にしか見えなかった。
少しショックだ。
⦅あ・・・はい。⦆
«えっ!なんで!?我が王って見た目そんな男らしい感じじゃないのに!?»
おい。
⦅えっと、その、琉斗様の見た目は関係なくて、男性恐怖症?らしいです。⦆
«え?なにそれ?»
「男性恐怖症かー。初めてその人を見た。」
それでか・・・。というかよく家臣として来てくれたな。
家臣のほうには主を選ぶ権利がある。そのため、少しでもいやだったら断ることができるのだが、男が無理なのに家臣になるといってきてくれているのは驚くべきことだ。
「あのさ、結構今更かもだけどよくエミュリアちゃんの言いたいことわかるね!?私もエミュリアちゃんと話したくて頑張ってみてるんだけど全然できないよ!?どうやってるの?」
あー、それか。
「俺は人の唇とかその隙間から見える舌の形を、全ての言葉のパターン記憶して、それを当てはめてるって感じだ。どっちかわからりにくかったら両方とも当てはめて合ってそうな方で読む。」
«私は我が王に変換してもらって念話で教えてもらってるよ。念話だと伝えようとして聞いていたらエミュが話していそうだと我が王が思っている声のまま私にも伝わるからねー。»
「えっ!・・・そんなの絶対に無理だよ!?もうちょっと簡単な方法ないの?」
そういわれてもな。
⦅ええと、続き話してもいいですか?⦆
「続き話してもいいですか、だってさ、ミィ。」
「むう、これ見よがしに翻訳しないでよ・・・。あと、ごめんね、エミュリアちゃん。話さえぎちゃって。また今度練習してもいい?」
⦅はい!もちろんです。私もお話しできるのうれしいので!⦆
「うん、これは前半は分かったよ!」
予想できると読み取りやすいからな。
「それじゃあ、伝言の続きを頼む。」
⦅はい。フィシアちゃんは15才の魔法使いで、家臣学校魔法科?では首席だったらしいです。⦆
15才?なんかネーアもだけど年齢より幼く見える人が多くないか?・・・それはおいといて、家臣学校首席はなかなかにすごい。
⦅で、ええっと、今フィシアちゃんの周りにあるのは全部私物で、収納の魔法が使えるので高価なものもあるけどできれば没収しないでほしいらしいです。⦆
お金が潤沢にあるのかといわれるとそうではないが、私物を売り払う必要があるほどではない。というか、そんなことをするように俺は見えてるのか・・・?
男性恐怖症だから俺を怖がるのは仕方のないことだと分かっているが、そうだとしてもそれは悲しく感じる。
⦅で、そのあとは・・・なんか魔法の研究の話を聞かされてました。全然わからなかったですけど。⦆
魔法好きって感じか。それであんな大荷物・・・。
⦅あっ、一番聞きたがっていたのが家臣制約っていうのでした。⦆
【家臣制約】
主人が家臣にかけることができる制約。初めて家臣を召喚した際にかけることができ、家臣はそれをもって仕えるかどうかの最終判断をする。一度決めると変更不可。内容は完全自由。
家臣制約は主と家臣の関係を決めるものでもあり、ここでしっかりと制約をしておかないと家臣というのは名ばかりのものになる。
しかし、あまりに多くの制約をかけると家臣が動きにくくなったり、そもそも家臣になってもらえなくなる可能性もある。
«何か決めてるんですか?»
「いや、完全に忘れていた。何も考えていない。」
「なにかその家臣制約に絶対に入れる事項みたいなのあるの?魔王様に言われてるのとか。」
「特にないな。」
んー。何がいいだろう。入れておくべきは忠誠を誓うこととか秘密を守ることとかか?
俺はフィシアのほうを見た。
完全に布団をかぶっているが、少しだけ顔を出して俺の返答を待っているのがわかる。
「決めた。」
«おっ、早いですね。»
「家臣制約は特になし。」
「え?」
「⦅«えっ!?»⦆」
驚きの声があがる。
「なんで?それだと家臣の意味がないよ?」
«そうですよ!・・・じゃあ、せめて我が王を寝取らないこと!、とか。»
「フィシアは男性恐怖症なんだからそんなことするわけないだろ・・・。」
完全にフレア個人の要望だ。
⦅どうしてですか?⦆
「まず、1番の理由としては家臣学校魔法科首席の家臣を得る機会を逃したくなかったからだ。変に制約つけて断られたくない。ただでさえ無理してきてもらっているんだからな。」
家臣学校首席。それは得られる家臣として最高のものだと考えていい。
その家臣を持っている人は現在10人もいない。
絶対に手に入れておくべきだ。
「さっきのが大半の理由で、あとは、家臣になってくれてからのことを考えてからだな。これから一緒に行動するわけだし、多少は距離を縮めるべきだろ?その時に制約がないほうが立場の上下がなくてまだフィシアにとってましかと思った。立場が上の人に話すってなにもなくても緊張するだろうからな。」
「なるほどねー。」
⦅やっぱり琉斗様優しい・・・。⦆
「あ、だからフィシア、」
俺はフィシアのほうを見る。
「・・・。」
フィシアは驚いたようにこちらを見ていた。
「別に俺に対して敬語で話さなくていいぞ。」
「!」
大きく目を見開く。
«えっ!?»
フレアから声が上がった。
«我が王それはやりすぎだと思います!私だって敬語なのに・・・»
「これにはもう1つ理由があって、明らかにフィシアは敬語を話し慣れていなそうだったからな。話し方に合っていないと感じた。」
フィシアは敬語を話すタイプじゃないだろう。
«それはそうでしたけど・・・»
「別にフレアもエミュリアも敬語を使わなくていいぞ?」
敬語なんて所詮は相手の機嫌を損なわないためのものだからな。俺は威張り散らかしているような連中にはなりたくない。
«いえ、私はそのままでいいです。これは私から我が王へ敬意を表すものなので。»
⦅わ、私もそのままがいいです。その、こっちのほうがなんか落ち着くので。⦆
そうなのか。
俺にはない考えだ。
「でもさ、せめて裏切らないっていうことぐらいは入れておいたほうがいいんじゃない?」
「まぁ、その心配はあるが、見捨てられるような主にならないよう努めるさ。」
フィシアが裏切るかどうか。
これには、言っていることと異なって、裏切らないという確信がある。
フィシアは男性恐怖症。
つまり、何もしなくても俺に対して恐怖心を持っている。そう簡単には裏切れないだろう。
それに、もし裏切ることになったとしても、その裏切り先は女のもとであることが確定しているので、俺の秘密を魔王に伝えることはない。魔王の家臣は常に最前線に出払っているためそちらの心配もない。
「フィシア。」
俺はフィシアに近づいていく。
このあたりか。
俺が現在フィシアに本気で恐怖心を持たれない距離だ。
表情を見ていたらわかる。
これ以上は近づくべきじゃない。
普通の人との距離とで比べるとかなり遠い。
だが、これから少しずつでも縮めていけたらと思う。
「審査状態で知っているだろうが、改めて自己紹介をする。異世界から来た召喚人、瀬川琉斗だ。俺の家臣になってくれるか?」
「・・・ん、あなたの家臣になる。」
少しの間をおいて、そう答えてくれた。
一安心する。
「それじゃあフィシア、これを。」
俺はそう言い、フィシアにとあるものを投げた。
半透明で、側面に水色に光る文字が書かれている指輪だ。
「・・・こ、これは?」
「セーブリング。使用者の体に危機が迫った時、障壁を張って攻撃を防ぐ。この前のオークションで買ったものの1つだ。」
「いいの?」
「ああ、フィシアは魔法使いなんだろ?それならこの指輪はぴったりだ。鑑定者によると残り使用可能時間は45秒。障壁を張り続けていてくれる時間な。家臣になってくれたことへの俺からの贈り物だ。」
「・・・ありがと。大事にする。」
次回更新は11/16(日)予定です。




