中迷宮〖2〗(3)
「じゃあまずは大まかな流れから説明していくぞ。」
⦅はい!⦆
俺は今、エミュリアに爆弾の作り方を教えようとしている。
最終的にはエミュリア1人でも作れるようにするためだ。
俺が魔王のもとに戻った際、爆弾の補給は必要になるから、一から教える必要がある。
フレアは特にすることがないため、迷宮主にでも会ってきたらどうかと言ったのだが、絶対に嫌だと言われた。
今までの2人は会いに行こうとしてたのに、大違いだ。
「まず、爆弾の大半を占めるのが、この爆石と炎石だ。これを粉々にして混ぜ合わせ、固める。」
エミュリアがこくりとうなずく。
「そして次に、その固めたものの中に銅線を通す。ああ、だから固めるときに中心はあまり固めすぎないほうがいい。通すのが大変になる。」
コクッ
「それで周りを金属で包む。最後に青電石を銅線の先に取り付けると完成だ。」
⦅思ってたよりシンプル?⦆
「そうだな、構造自体は単純だ。だが、危険な作業だから気を付けないといけない。前に一度誤爆させたことがあって、体は守ったが、音で鼓膜が破れた。」
«寝ていたら突然爆音がしましたからねー。»
「あれは本当に悪かったって。まぁ、一度見てもらった方が早いだろう。」
俺は事前に作っておいた爆弾を道の中心に置き、そこからエミュリア、フレアを連れて離れる。
「いくぞ。大きな音に慣れてないなら耳をふさいだ方がいい。」
⦅分かりました。⦆
俺は魔力を送る。
ドガァアアアン!
「な。こういうものだ。これをエミュリアの魔法で改良し、それを作ってもらいたい。」
⦅・・・。⦆
エミュリアは口を半開きにしたまま、固まっている。
「というわけで今からこれを作っていく。」
⦅・・・が、頑張ります。⦆
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しばらくして。
「おー!結構いい感じじゃないか。」
⦅やっと成功、ですか?⦆
「ああ、大きさはシャー芯のケースぐらい、威力は前と同じぐらいで、重さは少し重めの石程度。成功だ。」
⦅ほっ。疲れましたー。⦆
エミュリアはその場に座り込んだ。
なにせ、十数回も魔法を使ったのだ。無理もない。
一番苦労したところは着火装置。
中身の大きさを小さくするのには何の問題もなかったのだが、青電石の加工が問題だった。
青電石の効果は魔力が流れると電流を流すこと。
つまり圧縮しようとしたら電流が走るのだ。
実際にする前に気が付いて本当に良かった。
これは、そもそも青電石は電気を送れたらいいので、あとから圧縮せずに取り付けることで解決した。
青電石は希少なので、節約もできて一石二鳥だ。
あと、爆発させる際に毎回魔力を後から送らないといけないのは面倒なので、魔石を取りつけることにした。
魔石とは、よくある異世界では魔物からのドロップ品だが、そうではなく鉱石の一種だ。
俺がいた世界での電池だと考えたらいい。電流ではなく魔力を流す。
魔石は常に周りに魔力を発するため、魔力を通さない特殊素材で周りを囲み、間にピンを付けて、それを引き抜くと数秒後に爆発するようにした。
つまり、俺がいた世界での爆弾により近づいたということだ。
あとは、異世界っぽい属性付きのものも作ってみたいな。凍らせるやつとか電気を流すやつとか。
«我が王、でもそれだと威力が強すぎて目立つんじゃ?その爆弾って我が王の力を隠すためのものなんですよね?»
この爆弾の目的は実験している途中で説明した。
「なるほど。確かにこの威力だと目立ってしまうかもな。しかも魔法じゃないとなるとな。もう少し威力を落としたバージョンも作っておこう。それで、周りの感じに合わせて使い分けたらいいかな。ありがとうフレア。」
«いえいえ~。なんか我が王に褒められたのって初めてかも。»
「エミュリア、もう少し頑張れるか?」
⦅すみません。魔力がもう・・・。⦆
そうか。どうせならそっちも実験し切りたかったんだが、仕方ない。・・・いや、待てよ。
「フレア、俺からエミュリアに魔力譲渡できると思うか?」
俺は魔力が有り余っているため、それを渡せたらこの問題は解決する。
しかし、
«ぜぜぜ、絶対にダメです!»
フレアが焦り気味で答えた。
え、そんなにか?
「陰と圧縮ってそんな相性悪かったっけ?」
«うっ、いえ。そういうわけでは・・・。»
「じゃあ、別に問題ないんじゃ?」
«問題ありです。だって、その、あの感覚は・・・。っ!!と、とにかく!ダメなんです!»
何をそんなに・・・?まぁ、今日は諦めるか。エミュリアにも疲労があるだろうし。
「エミュリア、お疲れ様。今日はこれで終わりだ。この後俺とフレアはこのまま中迷宮攻略するつもりだが、エミュリアはどうする?俺たちについてきてもいいし、宿に戻って休んでいたかったら送り届ける。」
⦅私は、もし邪魔にならないのでしたらついて行きたいです!その、ちょっと怖いですけど、自分が作った爆弾が魔物にどれぐらい効くのか見てみたいです。⦆
「わかった。まぁ、とりあえずはミィ待ちになるから休んでいてくれ。横になりたかったら横になってていい。」
⦅ありがとうございます。⦆
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「琉斗さん、戻ったよー。ごめん待った?・・・って、ふふ。可愛いー。」
「いや、別にそこまで待ってない。」
「結構、懐かれてるんだね。いいなー。」
「ん?ああ、これのことか。」
エミュリアは、一応ここは迷宮内で安全な場所とは言えないので、俺のすぐ横で休み始めたのだが、今は俺の肩にもたれかかって寝ている。
穏やかでかわいらしい寝顔だ。
フレアもエミュリアが疲れ切っていたことが分かっていたため、今回は文句を言わなかった。
「どうする?起きるまで待つ?」
«たしかに起こすのかわいそうですねー。»
「そうだなぁ。でも、まだしばらく起きなそうだぞ。」
「«あー。»」
エミュリアは仮眠という感じではなく、熟睡している。
「エミュリアはこれが魔物にどれぐらい通じるのか見てみたいって言っていたから、最後のボス戦だけ残して、それ以外は倒してしまってもいいと思うんだが、どうだろう?」
「ん?それがエミュリアちゃんの魔法で作ったものなの?」
「ああ。そうだ。」
「へぇ~。あ、っていうかそれだとエミュリアちゃんはどうするの?琉斗さんが運ぶの?」
「ああ、俺が背負っていくつもりだ。」
«えっ・・・。またエミュがいい思いする・・・。»
「おっけー。それなら私の出番も増えるしねっ!ここまで蝙蝠以外なんも倒してないもん。」
「はは、よろしく頼む。フレアもミィが危なくなったら助けてやってくれ。」
«むぅ・・・。早く体取り戻したい!!»
俺はエミュリアを背負い、ミィを先頭に先に進んだ。
出てきた魔物としては、ボーンフィッシュの群れ、ゾンビイーグル、ファイアスライムなどだ。
どれも素材としては役に立たない。
唯一使えるのは、朽ちた石熊という魔物の内臓ぐらいだ。とある薬に使われるため、決して高価とは言えないが一応売れる。
「誰も来ない理由がわかったよ。だって出て来る魔物が使えないのばっかりだよ!結構レアなのはいるけど、そのどれもがただ強いだけって・・・。」
「なかなかこれだけ役に立たない魔物ばっかりなのはすごいな。」
«だからこそ人が来ないんですよねー。よくここ使ってたなー。»
ミィがたいていの魔物を倒し、フレアがそれをサポートする。
ミィだけだと危ない場面もあったが、フレアのサポートがかなり的確なので、俺が手出しするまでもなくボス部屋の前まで来た。
いや、的確過ぎるというべきだろう。
フレアはサポートすることに慣れているのだろうか。
ちなみにエミュリアはここまで全く起きるそぶりも見せていない。
「それじゃあエミュリアちゃんを起こしますかー。」
「そうだな。」
俺は背中で寝ているエミュリアを揺らす。
「エミュリア、そろそろ起きてくれ。」
俺からはエミュリアが見えないためどうなっているのか分からない。
ただ、大きくエミュリアが身動きしたのは分かった。
«おはよ、エミュ。我が王の背中で寝るなんていいご身分だねー。»
「おはよー、エミュリアちゃん。真っ赤になっててかわいい!!」
俺はエミュリアをおろした。
「おはよう。今はボス部屋の前だ。」
⦅えっ?えっ!?どうしてそんなところまで?それにさっき・・・。⦆
ちょっとした混乱状態になっている。
「ミィが戻ってきても熟睡してたから、俺が背負ってここまで来た。爆弾を試すのはボスだけでいいかと思ってそうしたんだが、それでよかったか?」
⦅は、はい!もちろんです!あの、背負わせてしまってすみませんでした。⦆
「気にしなくていい。」
俺は爆弾をいくつか手に持ち、ボス戦の準備を始めた。
⦅琉斗様の背中で寝ていたなんて・・・。こんな幸せでいいのかな。⦆
«エミュ、この借りはちゃんと我が王に返してもらうからね!・・・だって、そうじゃないと不公平です!»
⦅はい!いっぱいご奉仕します!⦆
«ご奉仕は違うから!!»
「それじゃあ、ボス戦についてどうするか話すぞ。今回は改良した爆弾の魔物への効果を試すことが目的だ。」
「それがばくだん?普通そんな目的で中迷宮のラスボスに挑む人いないよ・・・。」
ミィはあのとき眠らされていたため爆弾を見るのが初めてであるため、不思議そうに見ている。
改良したものなので、かなり小さく、そう思うのは仕方のないことかもしれない。
「そのため、とりあえずフレアとミィは待機して、エミュリアを守っていてくれ。で、俺が爆弾を投げる。それで倒せたらいいんだが、もし倒せなかったらミィも参戦してくれ。合図する。」
「おっけー。」
«分かりました。»
⦅頑張ってください!⦆
俺たちはボス部屋に入る。
そこにいたのは巨大な蜘蛛だった。
部屋中に一般的な蜘蛛とは比べ物にならないほどの太さの巣が張り巡らされていた。
糸はもはや隠す必要がないというかのように、毒々しい蛍光色の赤色をしている。
しかも、部屋全体がかなり暗くなっているので、一歩間違うと糸にからめ捕られてしまいそうだ。
俺は、ミィが短剣を崖のようなところに落としたときに〚陰眼〛というギミックを生成し、暗闇でもはっきり見えるようになっている。
さて、結構丈夫そうな糸だが、爆弾がどれほど通用するか・・・。
「げー。ボスも皇蜘蛛って・・・激レアだけど本当に使えない魔物ばっかり!」
«えっ!虫・・・。»
ミィは魔獣人なのでギミックの効果なしに暗闇でも見える。
皇蜘蛛。文字通り蜘蛛の魔物の中で最上位とされている魔物だ。
そもそも、蜘蛛の魔物自体が得られる素材がゼロといっていい魔物であり、皇蜘蛛も同じだ。
俺たちが入ってきたことには皇蜘蛛も気が付いているはずだが、部屋の奥の方から動こうとしない。
まずは巣のほうから排除しないといけないってことか。
「作戦変更だ。巣が邪魔で皇蜘蛛に爆弾を当てられない。俺が移動する隙間もなさそうだ。だから、皇蜘蛛までの巣をどける。」
試作品段階で同じ種類の爆弾はそれぞれ2ずつ作っており、成功品の爆弾は残り1つしかないため、それは最後にとっておく必要がある。
「分かったけど、私は盗賊だから何もできないよ?この糸触れると猛毒があるし、そもそも普通私の持ってる短剣じゃ切れないと思う。」
確かに、盗賊と相性がいい敵ではないな。
«私が燃やすのもやめておいた方がいいと思います。»
フレアがなぜかそう言った。
?
「なんで?」
ミィも俺と同じ疑問を持ち、そう尋ねた。
«私は魔法の炎とは違うので、たぶん皇蜘蛛ごと燃やしてしまうと思います。»
あー、なるほどな。
俺は納得したが、ミィは首を傾げたままだ。
フレアの炎は、普段いるときは熱を発さないようにしてくれているが、超高温だ。
それも壁を溶かすほどの。
ダンジョンや迷宮の壁が溶けるために必要な温度は一般人の魔法ではとても出すことができない。召喚人でもほとんどの人はできないだろう。
俺が知っている限りでは、そんなことをできる人は今までに誰もいない。
そんな人がいたら、鉱石を取るためにダンジョンに入る人の働きが無駄になってしまう。
そのフレアの炎で巣を燃やすと、皇蜘蛛にも引火してしまうだろう。
ミィはフレアが壁を溶かしているところは見ていたが、それが炎の温度によるものだとは知らない。
となると、俺が地道に切っていくしかないか・・・。俺にも何か炎とかのギミックが使えたらよかったのに。
フレアはギミックに含まれるらしいのだが、正直、完全に別ものとして考えている。
陰ってかっこよくきこえるんだが、範囲系の攻撃魔法が全然ないんだよな。生成しようとしてもできない。
魔法銃は範囲攻撃に含むことはできるが、緻密なコントロールができない。フレアと同じように皇蜘蛛まで吹き飛ばしてしまう。
というわけで、陰なる祝福をまとわせた刀で少しずつ切り進んでいく。
「地道ー。」
«地道ですねー。»
効率をよくするため、陰なる投剣にも陰なる祝福をまとわせて前方に投げることを繰り返す。
「えっ!?なんで魔法に魔法をかけられるの!?」
«さすが我が王です!»
俺は爆弾のピンを抜き、皇蜘蛛に投げた。
爆弾は皇蜘蛛の少し手前で何かにぶつかって止まった。
俺は陰なる移動でフレアたちのそばに急いで戻る。
大きな音とともに爆風が吹いた。
「⦅«おおー!»⦆」
「すっごーい!ばくだんのばくって爆発の爆だったんだ!」
⦅自分が作ったものが役に立つのうれしいです!⦆
ミィとエミュリアが爆弾の威力を見て、テンションが上がっている。
しかし、
«うーん、これは・・・»
「失敗だな。」
俺とフレアは2人と真逆の反応をした。
「⦅えっ!⦆」
驚きの声が上がる。
奥の方から皇蜘蛛がこちらに近づいてきた。
その体はかなりの傷を負っているが、致命傷にはなっていない。
「俺のミスだ。爆弾が目標地点より手前で止まった。おそらくこの太い糸と違って透明な細い糸が張ってあったんだろう。」
«そうみたいですねー。»
道理で皇蜘蛛があそこから動こうとしないわけだ。ある程度の強さの敵まではメインの太糸で、それ以上の敵は不意打ちの透明糸で毒殺って感じか・・・。思ってたより危なかったな。少し油断があった。
「ま、出てきてくれたから倒すのはグッと楽になったけどな。」
俺は皇蜘蛛の背後に移動し、スパッと首を切った。
「あ・・・出てきたなら私も戦ってみたかったのに!」
「いや、さっき相性が悪いって話してからさ。」
「それは糸と私の相性の話。」
ほぼ同じじゃないか?攻撃方法は糸だし。
「とりあえずこれで中迷宮2つ目クリ――」
「あー!また無視・・・って大丈夫!?」
俺は突然激しい頭痛がし、頭を押さえ座り込んだ。
«我が王!?»
⦅琉斗様!?⦆
う・・・なんだこれ?めっちゃ痛い。頭が割れそう、だ。
«我が王!?どうしたんですか!?精神攻撃!?»
⦅琉斗様死なないでください!琉斗様がいなくなったら私、私生きていけないです!⦆
いや、精神攻撃では、ないだろう。ボスは皇蜘蛛であっているはずだ。この部屋にボス以外の魔物は出てこない。・・・エミュリアは大げさすぎる。
フレアが周囲の隠れられそうなところをしらみつぶしに攻撃しており、エミュリアは泣きそうになって俺に抱き着いてきている。
しばらくして・・・
ドカドカドカッ!
何かたくさんのものが落ちてきたような音が聞こえた。
すると、今までの痛みが嘘だったかのようにスッと消えた。
・・・え?
俺は起き上がり、音がした方を向く。
「ごごごご、ごめん!・・・なさい。」
そこにはいわゆる女子の部屋にありそうな感じのぬいぐるみたちや、山奥で何百年と魔法の研究をしている魔女の部屋にありそうな道具類の中に埋もれた人がいた。
ミディアムぐらいの長さの銀髪。
淡いグレーの瞳。
真っ白な肌。
どちらかというとロリに分類されるくらいの身長だ。
そして、顔立ちがこの世の者ではないほど整っている美少女だった。
やっと1人目!
24エピソードで1人目ってことは5人集まるのに120・・・
さすがにそれはないですけどね(話の展開遅過ぎる)




