アクシデント
んん。
俺は瞼を閉じたまま、自分が起きたことに気が付く。
ええと?確か、昨日はオークションに行って、エミュリアを買って・・・。それで疲れて戻ってきたらすぐに寝たんだったか?
寝返りをうつ。
少し肌寒く感じたため、何か布団はないかと探し、あるものを見つける。
サイズ感からして抱き枕のようだ。
俺はそれをぎゅっと抱きしめる。
なぜか温かく、抱き枕にしては少し硬い部分もあったが、寝起きのためそれは無視した。
今日で、この世界に来て・・・・7日。ちょうど1週間か。なんというか。あっという間だったな。
俺はこの世界に来てからの日々を振り返ってみた。
1日目が召喚されて、2日目がネーアと街を歩いてその夜デキレッタ一行を襲撃。3日目もネーアと街に出かけ、4日目はキリトへ移動した。5日目はネーアと別れて、中ダンジョン、中迷宮を攻略。6日目はオークションって感じか・・・。俺、忙しすぎないか?
考えてみると、ほとんどの日に何かをしている。
異世界ってもっとのんびりしてるんだと思っていたんだが・・・。案外忙しいものなのか。いや、俺の周りに問題が降りかかってくるからだな。それに、俺がこの世界に抵抗を全く感じていないことも大きいか。
普通、異世界に来ると、最初のうちは慣れないことだらけで大変なのだろうが、俺は特に困っていない。
そのせいで今何をすべきなのかを考えてしまい、次から次に予定を入れてしまっている。
でも、俺が勇者であることや、フレアたちの存在を考えるとこれぐらいのほうがいいのかもしれないな。ある程度の力を持っていたら、何かあった時、例えば俺が勇者であることがばれたときでも、なんとか逃げのびることができる。早めに家臣を手に入れて、ナンバースの残りも召喚できるようになっておきたい。
あー。後はフレアの体もだな。昨日はすごくうるさかったからなぁー。・・・でも、体があるとより面倒になるのかもしれないのか?まぁ、さすがにそれが理由で辞めたりはしないが。
頭を働かせているうちにだんだんと目が覚めてきた。
瞼を通して伝わってくる光の明るさ度合から、早朝か、もしくはまだ日が昇っていないぐらいだろう。
そういえば、キリトにはあまり魔人が来ていないな。誰にも会っていない。やっぱりアルペジアに行った人が多いのか?あそこは近くにダンジョンや迷宮がいくつもあって、魔王国でも大都市に分類されている。俺は人が多そうだから避けたのだが、ここが終わったら次はそこに行くべきか?・・・・後回しにしよう。
俺は魔人の強さや性格など、多少把握しておくべきことはあったのだが、人が多いのは嫌なので先延ばしにした。
俺はしばらくの間いろいろと考え、読んでおきたかった本を読んだりしていた。
その途中で抱き枕が少し動いたような感覚があったが、気のせいだろう。
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――そういえば、ミィも誘ってみるか。あと、そこを攻略し終わったら、次の行き先も伝えておこう。一緒に来るならそれはそれでいい。・・・ん?
俺はキリトの近くの残り1つの迷宮について考えていた。
その時、なぜか背中のほうが温かく感じた。
何だろう。日光が当たっている?だが、その方向に窓はなかったはず。・・・でも、心地よい温か――ん?だんだん温度が上がって・・・。
ちょっと熱い。待て。これ以上、上がると・・・。
「あっつ!」
俺はあまりの熱さに抱き枕を抱えたまま飛び起きた。
振り返ると黒い大きな炎があった。
「え?フレア?どうしたんだ?」
そう、フレアだった。
ただ、いつもよりも大きくなっていた。それに、普段は熱が俺やそのほかに人に当たらないようにしてくれているのだが、今は俺にだけ熱を向けてきている。
«・・・。»
フレアは何も答えてくれない。
「フレア?」
俺はもう一度問いかける。
«う・・・。グズッ。グズッ。»
え・・・?泣いている?
「何かあったのか?」
俺にはフレアが泣いている理由が全く分からない。何をしたわけでもないし、フレアが何かされたような形跡はない。
フレアが俺のほうをまっすぐ見たような気がした。
«わ、我が王のバカぁあああ!!浮気者!・・・グズッ。ロ、ロリコンっっ!»
は?
そう言ってフレアは部屋の隅っこにうずくまった。
訳が分からない。
え?・・・え?俺何かフレアに悪いことしたのか?・・・全く思い当たる節はないんだが。しいて言うなら昨日エミュリアを買ったことか?それで浮気者?そういえばエミュリアはどこに行ったんだ?
ベッドで寝ているはずのエミュリアの姿が見えない。
・・・・ちょっと待った。ロリコン??どういう――
ここで俺は視線を下に落とした。
あっ――。
俺の腕の中には、顔を真っ赤にしたエミュリアがいた。
俺は慌ててエミュリアを離す。
エミュリアは赤く染まった頬に手を当て、そのまま座り込む。
「フレア、悪い。本当にこれは違うんだ。俺はただ、エミュリアを抱き枕だと勘違いして――」
«うそです!だって、だって・・・。»
フレアは俺の話を聞いてくれない。
・・・どうしよう?
俺はこの世界に来て最も困っているといってもいい。
だが、ここでとあることに気が付く。
ん?どうしてエミュリアは俺の布団にいたんだ?
エミュリアはベッドで寝るはずだった。
それが俺が起きたときには俺の布団のところにいた。
俺はエミュリアを見る。
「エ、エミュリア?」
すると、エミュリアは一度大きく頭を下げ、口パクで話す。
⦅ごめんなさい。やっぱりご主人様が床で、奴隷の私がベッドで寝るというのはさすがにダメだと思ったので・・・。⦆
エミュリアは真剣な表情でそう言った。
「そうか・・・。なんか気を使わせて悪いな。」
そういう理由なら悪いのは完全に俺だ。エミュリアをぞんざいに扱いたくないという思いはあるが、ある程度は奴隷らしくしないとエミュリアにとっても困るのか・・・。
⦅あと、琉斗様の隣が空いているのが見えて・・・魔が差してしまいました。⦆
?・・・魔が差す?なぜ?
俺は2つ目の理由はよくわからなかったが、考えてもわからなさそうだったので、フレアのほうへ視線を移す。
⦅それがまさか抱きしめていただけるなんて!⦆
エミュリアがその次にそう言っていたのは俺は知らない。
さて、どうしたものか・・・。
「フレア。これは本当に事故なんだ。」
«我が王の浮気者っ。完全に浮気男のいいわけです。・・・いいんです。私は捨てられたんです。»
いやいや、確かに浮気男の言葉みたいだったが、捨てるも何もないだろう。・・・だが。
俺はフレアのことを考えてみる。
俺のことを王とする、明るくてどこか嫉妬深い炎の自称美少女。
俺の謎、特にナンバースについて現状最も詳しいであろう人物。
話していると自然と明るい気持ちになる。
最近は扱いが雑だったかもしれない。
「なぁ、フレア。」
«・・・はい?»
「俺がフレアの王だからなのかわからないが、フレアが俺に好意を持ってくれていることはわかる。」
«・・・。»
「だから、俺はフレアにそれなりの態度を取ろうと思った。今までのお詫びも含めてな。」
«・・・はい。ん?ええっと?»
「もっとフレアに優しくしようということだ。フレアの性格的に、ちょっと雑な扱いをしていたのも事実で反省している。何でもお願い事があるなら聞こう。今はちょっと金欠だが、多少は残っているからそれなりに買い物は出きるし、俺が既に持っているもので何か欲しいのがあったらそれをプレゼントする。」
«・・・本当に何でもですか?»
フレアがこちらに近づいてきた。
「ああ。」
ま、たいていのことなら大丈夫だろ。
«じゃあ・・・私の恋人になってください!»
え?そういう・・・。
«だって、なんでもって言いましたよね!»
「それはそうだが・・・まぁいいか。分かった。ただ、俺はフレアに好意を持っているわけではない。好感は持っているけどな。それでもいいなら、ちゃんと恋人としてフレアに接する。」
«・・・うれしい。うれしいです我が王!»
先ほどまでの落ち込んだ声と違って、元気な声が聞こえた。
はは、ちょっと予想外だったが、よかった。どうやら元気になってくれたようだ。やっぱりフレアは明るく快活なのがいい。
俺が安心しているとフレアが念話で話しかけてきた。
(我が王。)
(ん?)
(我が王は、私が我が王を好きな理由を立場上かもしれないと言ってましたけど、それは違いますよ。)
(そうなのか。)
(はい!私は、一人の女の子として我が王、琉斗様が好きなんです。絶対に私のことも好きにさせて見せますから!)
この後、フレアはかなり上機嫌になったが、反対になぜかエミュリアが落ち込んでいた。
よって、もともとそうするつもりだったが、今日はエミュリアの身の回りの物を買うなどして、街でのんびりと過ごした。多少はエミュリアも楽しんでくれたようだ。
エルフの耳は目立つので、俺がいくつか持っているフード付きの服をあげたのだが、それを1番喜んでいた。
なにはともあれ、異世界に来てから7日目が無事終了した。
次回更新は11/1(土)予定です。
三連休は三日連続投稿するつもりです。たぶん朝に投稿します。
→10/30追記 土曜日は夕方になりそうです。




