オークション
はぁーあ、疲れたー。完全に徹夜になった。
俺が街に戻ってきたのは結局ほぼ朝になった。
何とか空いていた宿をとって、魔物の返り血が付いたローブをしまい、ベッドに飛び込む。
正直ベットではあまり寝られないのだが、今は油断するとすぐに深い眠りに落ちそうだ。
しかし、
「このまま寝てしまいたいけど、今日はオークションがあるからなー。」
今日はニヴェが言っていたオークションがある日だ。
確か、朝の9時から始まるはずだ。
現在時刻5時30分。
寝ようと思えば3時間程度だったら寝られるが、この疲労状態だと起きられなく可能性が高い。
「なぁ、フレア。起きてるか?」
«・・・。»
フレアは48階層のあたりから左耳のイヤリングの中に戻って寝てしまっている。
はぁ、仕方ない。今日はオークションにだけ行って、そのあとすぐに寝よう。
俺はベットから起き上がり、机に向かう。そして中迷宮のことを振り返る。
40階層の扉は破壊できたが、大きすぎるし、鉱石を使いすぎる。もっと小型化、軽量化しないとな。後はいろんなバリエーションが欲しい。
俺が扉を壊すために作ったのは爆弾だ。
その中身はシンプルで、大半は爆石と炎石を砕いて粉末状にし、それを混ぜ合わせたものだ。端と端に小さな青電石を取り付け、それどうしを中心を通る銅線でつなぐ。周りをある程度の硬さがある金属で包むと完成だ。
青電石のところに魔力を注ぐと電流が銅線を通り、着火される。
【爆石】
火を近づけると爆発する。
【炎石】
雷属性の魔法で触れると燃える
【青電石】
魔力を流すと電気を発する。電石の中では電気量は少なめ。希少。
これらは25階層で手に入れた。
他にもさまざまな種類の鉱石を得たのだが、まだ使い道がない。
最低でも手のひらサイズにはしないとな。そうじゃないと投げられない。
勇者であり、あり得ないほどの魔力を持っている俺がCランクの魔人としてやっていくために思いついた方法は爆弾などの兵器で攻撃することだ。
ギミックの強さを制限してやり過ごすという方法も考えたが、いつかぼろが出てしまうだろう。
兵器なら魔力は最低限しか使わないし、ある程度強くても俺自身の強さではないから説明ができる。
そして何よりも、
科学技術が発展した現代から文明が発展していない魔法の世界に転移、転生した人がその知識で無双していくのはラノベのあるあるだ。
やってみたいと思うのは仕方のないことである。
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「そろそろ行くか。」
俺はしばらく爆弾を試行錯誤していたが、時間になったため中断した。
「フレア、オークションに行くぞ。」
«ふわぁ~、わかりましたー。»
一度失敗して爆発したため、フレアは起きている。
ちなみに部屋は無事だ。念のためにおろしていた帳が役に立った。
ただ、帳の中に俺たちはいたため、陰なる盾で体は守ったが、爆発音をもろに聞いてしまった。
陰なる回復で鼓膜を回復させた。
返り血まみれのローブを着ていくわけには行けないので、赤みがかった別のローブを着た。
少しタガが着ていたものと似ている。
俺たちは宿を出た。
するとこの街1番の大通りではないのにもかかわらず、大勢の人で道があふれかえっていた。
(すごい人ですねー。)
(・・・。)
やっぱ、オークションやめておこうか。
そう思ったが精神力を振り絞ってオークション会場に向かった。
オークション会場は普段闘技場として使われている円形の建物だ。
俺がいた世界で言うと野球の試合がされているドームのようなものである。ただ、俺は野球には興味がなかったためサイズ感はわからない。
天井は開いており、曇り空が見えている。
俺は絶対に人だかりの中には行きたくないので、オークションの商品が出て来るであろうステージからは遠い端っこに座った。
あー、人が多いと何もしていないのに疲れてくる。
(我が王、大丈夫ですか?戻ってからも何かしているようだったし、眠っていないんじゃ?)
(はは、ありがとう。確かに眠っていないが、単純に人混みで疲れただけだ。)
(始まるまで休んでてください!私が起こしますので!)
(そうか、それならよろしく。)
15分後。
(我が王。起きてください!そろそろ始まりますよ。)
(ん、ああ。わかった。)
俺は瞼を開ける。
うわっ!
見ると、会場は満席になっていた。
すごいな。これだけ集まるのか。
俺が座っているのは一般人の席だ。身分によって座れる席が決まっている。
最前列はきらびやかな服装の人たちだ。周りには護衛の兵士がついており、周りを警戒している。
あの人たちと競争するのは厳しそうだな。レムからもらったお金は多少あるが、とても貴族に勝てるような額じゃない。
「お集まりいただきました皆さん!長らくお待たせいたしました。ただいまより、第123回、キリトオークションを開催いたします!本日司会を務めますクライと申します。どうぞよろしくお願いいたします!」
そう司会者の声が拡声石を通じてきこえた。
オークションの始まりだ。
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「はい!37、39、45!おおっと、ここで50が出ました!」
やばい。
「55、60。・・・もうおられませんか?」
ここでの数字は白金貨の枚数だ。
「なんと!80!・・・80でブルーサファイアの指輪、落札です!」
高すぎる。とても買えるような額じゃない。
オークションの商品の順番はまず武器や防具、その次に魔道具、アクセサリーとだんだん値段が上がっていくようになっている。
また、それぞれの中でも、安いものから高いものになるようになっている。
そのため、自分の予算をオーバーしだした席後方の人たちが帰り始めていた。
俺は魔道具をいくつか落札した。
そこまで人気がなく、合計で白金貨8枚ほどだ。
これでもかなり奮発した。
フレアに
(我が王って魔道具の収集癖があるんじゃ・・・?)
と言われた。
今考えると、買いすぎかもしれない。
そして、次が最後の商品の種類。奴隷だ。
奴隷は別にそこまで高価なわけではないが、この世界でも奴隷を買うことをよしとしていない人たちがいるため、最後にもってこられている。
これは俺にとって意外だった。異世界人は奴隷に何も思っていないと思っていたからだ。
本当に帰る人がいるのかと疑ったが、実際に数十人が帰った。
まあ、単純に目当ての商品がなくなったからというのも大きいだろうが。
1人目
獣人の少年だ。特徴的な長い尻尾があった。
見た目はひ弱そうだが、身体強化の魔法属性があるそうだ。
奴隷は、奴隷になった理由、以前に主がいたかどうか、魔法属性、魔力量、ランク、それと奴隷が言った買い取り先の希望が紹介される。
だが、必ずしもその希望通りになるとは限らない。
むしろ、そうなる方が少ないらしい。
少年の買い取り希望先はとある工場だった。
運よくその工場長が奴隷を買いに来ていたため、白金貨5枚で落札された。
2人目
これも獣人の男。額に大きな傷があった。
元冒険者で、パーティーないで問題を起こして奴隷落ち。
希望先は土木工事のグループだったが、白金貨1枚で1人目を買い取った工場長に買い取られた。
ただ、その男は喜んでいた。どうやらそこの労働環境が奴隷にとってはいいものらしい。
3人目
魔獣人の女。
とある犯罪に加担していたため奴隷になった。
魔法属性が収納のため、とある女性冒険者に買い取られた。
収納という魔法属性があることから、ミィが俺の陰なる収納に驚いていた理由がよく分かった。
4人目
石人の男。
鍛冶屋に買い取られた。
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(我が王。ちょっと飽きてきました。)
(あともう少しで終わるだろう。我慢してくれ。)
現在163人目の奴隷が落札された。
奴隷はあまり売る機会がないため、少し離れたところからも奴隷商が来ており、かなり人数が多い。
164人目
俺はその奴隷を見た。
「あれ、あの子・・・。」
(どうかしましたか?)
(いや・・・。)
水色と緑が混ざったような色の髪の少女だった。
「No.164!出品者はニヴェ様。エルフの少女です!」
エルフと聞いて、大きな歓声が上がる。
やっぱりそうか。
俺がキリトに来る途中に助けた少女だった。
「両親が敵国のスパイだったため3年前に奴隷落ち。今まで出品されたことはなく、魔法属性は圧縮。ランクはDで魔力量は250。買い取り希望先は食堂や食材屋、もしくは宿屋の雑用だそうです。ただ、声が出せないそうです。」
へぇー。Dランクもあるのか。
ランクと冒険者ランクは違う。
生まれたときに決定しているのがランク。つまり才能を表す。
それに対して、冒険者ランクはダンジョンや迷宮の攻略数や依頼の達成数に応じて上下する。
「開始価格は10からです!」
(まじか。)
(いきなり高いですねー。)
「15。エルフを手に入れる機会はそうそうない。絶対に手に入れる。」
「私は20だ。きれいな髪色だ。それに顔もかなりの美形。成熟したらなかなか・・・。」
前方の人たちから次々と声が上がる。
「30!40!どんどん上がります!」
「ちっ、俺は50だ。」
「おい、何を考えている!そんな金出せないだろう!」
「大丈夫だ。貯金がある。」
冒険者からもちらほらと声が上がっている。
ニヴェが目玉商品だと言っていたのがわかるな。これはまだまだ上がりそうだ。
「ふふふ、あの子なら将来店1番の娼婦になれる。80で。」
「いや、あれはわしの妾にする。90じゃ。」
「いい!ほしい!100だそう!」
値段がどんどん上昇する。
ただ・・・
(絶対に希望先には行けなさそうですね。ちょっとかわいそう。)
声を上げているのはいわゆる貴族たちやゆとりのある冒険者、娼館の経営者ぐらいだ。
このままだとても希望先に行くことはできず、買い取られたらそのあと待っているのは苦痛に満ちた環境だろう。
エルフの少女は明らかにおびえており、顔色がどんどん悪くなっていっている。
「110!120!おお!まさかの150がでました!・・・160!!」
まじか・・・!ブルーサファイアの倍じゃないか。
この世界でのブルーサファイアの価値は、俺がいた世界ほどではないにしても、2000万円ほどはあるだろう。
つまり4000万円。
160を出したのは娼館の経営者のようだ。
ここは冒険者の街であり、そもそも、冒険者は男が多い。
そのため娼館の需要は多く、資金もたくさんあるのだろう。
「くっ。これ以上は・・・。」
「まだだ!170——」
「お前絶対にそんな金ねぇだろうが!」
「諦めるしかない、か。」
これ以上の金額を出す人はいないようだ。
「よろしいでしょうか?」
司会者が最終確認をする。
少女の顔が絶望に染まっていく。
はぁ。
(フレア。—————。)
(え!?)
(————。)
(・・・そうなんですか。うぅ、嫌ですけど、いいですよ。)
(ありがとう。)
次回更新日は10/25(土)です。
土日に予定が入ってしまったため、少し遅くなってしまいます。




