中迷宮〖1〗(4)
またか・・・。この世界に来てこういう系のやつは2回目だな。
«我が王、どうかしましたか?»
「ああ、たぶん40階層でミィが男2人に襲われてる。」
«ええっ!»
フレアも扉の近くに寄ってきた。
さてと、いったんは様子見だな。ボスを眠らせたっていうのも気になるが、もう1人のほうのやけに強気な態度が不思議だ。AランクやSランクなのか?
「やあっ!」
ギン!
「うおっっと!危ない危ない。ウェスト、もういいな?」
「はいっす。」
「何する気か知らないけど、
キンッ
とてもあたしに挑んでくる強さとは思えない。」
「そうだなぁ。正々堂々勝負してたらぎりぎりだろう。」
「正々堂々?どういうつもり?」
「こいつなんだよなぁ!」
ガン!
何か硬いものが地面に当たったような音が聞こえた。
「槍?」
「ふふ、どうやら俺のことを知らねぇみたいだが、ただの槍だ思ってたら大間違いだぜ!」
ブゥン!
風を切る音が聞こえた。
「そんな遅さじゃあたらなっ・・・・!?」
ドガッ!
「フハハハハ!いいねぇ、やっぱ人を痛めつけるのは!」
「・・・え?なん、で?ちゃんと避けたはず。途中から加速した・・・?」
「お前は見たところ盗賊だ。盗賊になるやつはたいてい身体強化の魔法属性だ。だろ?」
「・・・そうよ。」
「俺はな、封魔のタガって呼ばれている。それはこの槍に秘密がある。」
「・・・?」
「この槍は魔道具だ。一定範囲内での俺以外のギミックの使用を禁じる、な。」
「なっ!」
「つまり、俺が速くなったんじゃなくて、おまえが遅くなったんだよ!」
ゴッ!
「うっ。」
「ハハッ!お前は俺の前ではただの非力な女に成り下がるわけだ。」
ゴ!
「どうした。お前はBランクなんだろ?もっと抵抗して見せろよ。」
「くっ!」
キン!
「遅いなぁ。」
「タガさん。あんま傷をつけないでくださいっす。この後は俺のお楽しみの約束っすよ。」
「ちっ!そうだったな。俺は金だけとったら帰る。ちゃんとそのあと始末しておけよ?」
「分かってるっすよ!ちゃんとストレンジスキルで眠らせてからしますので。」
「なんで、なんでこんなことに・・・。」
はぁ、なるほどな。そんな魔道具あるのか。というかストレンジスキルだと?それは召喚人のみのはず。こいつも召喚人なのか?
«結構やばそう。»
「そうだな。」
うーん。どうしようか。
「助けるにしても、俺じゃボス部屋だから入れないな。フレア、扉の隙間から入れるか?」
«・・・無理ですね。入れるような隙間はないし、そもそも今の私はギミックなので魔道具の効果範囲に入ったら消えてしまうと思います。»
「そうか。」
となると・・・
「この扉壊せるか?」
«えっ。絶対怒られますよー。私もう嫌ですからね!»
「さすがにそれは頼まないから。壊すなら俺がする。とりあえずフィールに聞いて来てくれるか?確か25階層にいるはずだろ?」
«それならまぁいいですよ。聞いてきまーす。»
フレアが上に戻っていった。
「俺は許可された前提で考えないとな。」
もし許可されたとしても、壊せないと意味がない。そもそも壊せるものなのか?これ。
扉はかなり頑丈そうな金属でできている。おそらく、ちょっとした攻撃程度では傷もつかないだろう。
「物は試しか。陰なる爪。」
俺は陰なる爪でひっかいてみる。
傷一つつかない。
「次だな。」
刀を取り出し、陰なる祝福を最大限まとわせる。
ギィイイン!
かなり大きな音が鳴ったが、これも全くの無傷だ。
これもダメか。まあ、予想通りだ。本命は魔力銃だ。
だが、魔力銃は周りにも影響が出るため、許可が取れるまではやめておく。
「陰なる投剣。」
キン
ダメだな。
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«我が王!許可もらってきまし——何やってるんですか?»
「ん?ああ、ちょっと試作品を作ってる。今のところ全く壊れる気配もない。」
«試作品?っていうか許可待ってないじゃないですか!»
「壊れなさそうなやつしか試していないから大丈夫だ。」
«むぅ。せっかく頑張って説得してきたのに・・・。»
「何か他にフィールは言っていたか?扉の壊し方とか。」
«ええっとですね。まず、フィールは扉を開けてあげることは決まり上できないけど、冒険者が勝手に扉を壊すのは構わないそうです。冒険者が何しようとダンジョンや迷宮では自由ですからね。・・・ん?じゃあ何で私は怒られたの?»
フレアは冒険者扱いじゃないってことだろう。それか単なる気晴らしか?
フレアは扉の下のほうに行く。
«で、しいて言うなら扉の下部分のほうが、冒険者が蹴ったりしていて壊れやすいそうです。冒険者ってマナー悪いですね。»
「そうか。」
でも、冒険者が少し蹴ったぐらいで脆くなるのか?
「なあ、フレア。ギミックでは壊せないとかそういうのを聞いていないか?」
«はい、魔法や魔道具ではダメージは入らないらしいです。»
じゃあ、魔法銃はダメだな、この扉は魔法攻撃が効かないということだろう。
魔力を込めていない刀で切ってみる。
全くダメージは入っていないかのように見えるが、ほんの少しだけ傷がついている。
「ん?なんだ?」
「なんかガンガンいってるっすね。」
「誰かいるの!?たすけ―――」
「ふぅ、危なかった。」
「ちっ、冒険者がもうきやがったか。これじゃ戻れないじゃないか。」
ミィがウェストのストレンジスキルで眠らされたようだ。
«どうしますか?»
「物理攻撃で壊す。」
«えっ?我が王ってそんな怪力だったんですか?どちらかというと非力な方に見える・・・。»
「違う。こいつを使う。」
非力と言われたのが少しむかついたので完成したものをグイっとフレアに押し付ける。
«うぐっ。な、なんですか?これ?»
「これはな、俺のいた世界であったものをこの世界の材料で改良したものだ。まあ、うまくいくかはわからないけどな。」
「・・・?」
あとは一発で壊れなかったとき用にもう一つぐらいは作っておこう。
俺は2つ目を作り始めた。
«我が王、今更だけど本当に助けに行くんですか?»
フレアが不安そうに聞いてきた。
「ああ、そのつもりだ。」
«ギミックなしで勝てるんですか?それにストレンジスキルはどうするんですか?»
フレアの疑問はもっともだ。正直、ギミックなしでは圧勝はできないかもしれない。俺の1番強力な攻撃はナンバースだからな。それがないとなると難しい。
「大丈夫だ。一応考えはある。」
«本当、ですか?»
「ああ、そんなに心配しなくていい。」
俺はフレアの頭?をなでる。
「それに、本当に無理そうだったら逃げるつもりだ。命を懸けてまで助けようと思えるほどの仲ではないからな。」
«分かりましたよ。信じてここから見ていますから。危なくなったら絶対にすぐ逃げてきてくださいね。»
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〖フレア視点〗
バァアアアン!
凄まじい爆発音が鳴り、扉の下部分が大きく向こう側にへこんだ。
なに、これ。すごい威力。
我が王は扉の前に枕程度の大きさの何かを置き、離れるように言った。
そして、少し魔力を飛ばした。
魔道具?でも魔道具に必要な魔石は使われていなそうだし、多く使っていたのは何かオレンジ色の鉱石だったけど・・・。
私がその正体について考えているうちに我が王は2つ目のそれを置いた。
また同じように魔力を飛ばす。
1つ目と同じような爆発音が鳴り響く。
扉が開いた。
「おいおい、ずいぶん乱暴な入り方じゃねぇか。どうしたんだ?」
タガだと思われる男が我が王に槍先を向けて、穏やかめな声で尋ねてきた。どうやら何もなかったことにしようとしているらしい。
タガは黒い肌の魔獣人、そしてウェストは人間だった。
ふん!我が王に何も聞かれていないと勘違いしているようだけど、我が王はすごいんだからね!だって、我が王だから!
我が王は膨大な魔力を持っているので、ギミックではなく単なる魔力で身体強化をしている。普通の人なら効率が悪く、また、そこまで効果が大きくないのだが、我が王だど効果はギミック以上だ。
我が王は知らないだろうけど、我が王の魔力操作は人並外れている。ストレンジスキルのおかげで私たちを呼び出せるようになっているのだが、その状態を普通に保っておくことは大変難しいことのはずだ。
それをいとも簡単にしている。
これは単純に我が王の力だ。魔力操作は感情に左右されやすい。つまり、我が王はとても冷静沈着ということだ。
そんなところも、私が我が王を好きになった理由の1つだ。
また、これも我が王は知らないことなのだが、我が王は私たちの王なので、珍しいギミックを生成することができる。陰なる移動、陰なる収納、陰なる回復がそれだ。
ちなみにナンバースは私たちを呼び出すものなので、絶対に我が王じゃないと使えない。
「それじゃ、フレア、行ってくる。」
«はい!頑張ってください。»
今、私にできることは我が王を信じて待つことだけだ。
我が王はいつも通りの足取りで、進んでいく。
ただ、その手は固く握られていた。
「おい、何か答えろ。今は俺たちがボス戦中だ。勝手に入ってくるのはマナー違反だぜ?」
「・・・。」
我が王は無言でミィのもとに歩いていく。
その途中にボスと思われる魔物が寝ていた。
いわゆるキメラと呼ばれる魔物だ。
脅威度は高の低ぐらいで、中ダンジョンにレムが間違えて出した碧炎の龍よりは劣る。
それを眠らせているのだから、ウェストが使ったのはストレンジスキルだと断定できる。
「止まれ!」
「止まるっす。」
あと10歩程度の距離になると、タガが我が王の首に槍を突きつけた。
そこでやっと止まる。
「そのままだと、俺たちの敵とみなす。」
「そこで眠らされているのは俺の知り合いだ。」
ミィは武器や荷物をすべて奪われ、床に倒れている。
「そうか、こいつは俺たちに襲い掛かってきたんだ。その落とし前はつけさせてもらわないとなぁ?お前1人か?」
なっ!襲い掛かったのは自分たちなのに!
さりげなく人数の確認をしてくる。殺すにしても、パーティーだったとしたら面倒だからだろう。
「ああ、1人だ。本当にそいつが襲い掛かってきたのか?」
「そうだ。何よりもこんな時間に1人で女の冒険者がいることが証拠だろ?こいつは強盗だ。職業も盗賊みたいだしな。」
「確かにな。俺もそいつが盗賊なのは知っている。それで落とし前っていうのは?」
「ああ、こいつはお前の恋人か何かか?」
違う!
そんなことを考える場面ではないのに、心の中で大きく否定してしまう。
「いや、今日知り合ったばかりだ。」
そして少し安心してしまう。
「それならこいつの相手をさせるくらいはいいだろ?」
タガが下卑た笑みを浮かべる。
「俺はこれらの金をもらえたなら別に構わないが、こいつがそれじゃ我慢ならないっていうんでな。俺たちは命を狙われたんだ。それぐらい当然だろ?」
「お前たちはなんで命を狙われたんだ?」
「あ?そんなこと知るかよ。」
「と、とにかくっす。あなたは関係ないので戻ってもらえますか?」
今の話のどこを聞いて関係ないとしたのかが全く分からないが、ひどくおびえている様子でウェストがそう言った。
まあ、我が王、扉破壊したので、とんでもない怪力とかに見えてるのかなー?
「ここはボス部屋のはずだが?」
「俺が眠らせったっす。」
「眠らせた?」
「はい!ストレンジスキルで。」
「バカッ!てめぇなんでそんな重要なことを・・・」
タガがウェストの頭をたたいた。
「ストレンジスキル?それは召喚人しか使えないはずだ。」
「ちっ、知っているのか。ああそうだよ。こいつは勇者の子孫だ。1つだけ使えるんだよ。これで安心できたか?」
「そうっす。およそ1分の詠唱をすることで眠らせることができるっす。同時対象は2人までっすね。」
なるほど。それで・・・。っていうか何も聞いてないのに自然と細かいところまで教えてくれるなー。
「なるほどな。これでよく理解できた。」
ウェストが安心したように胸をなでおろす。
「死ね。」
我が王が両手の魔法銃の先を2人に向け、魔力を集める。
「は?」
「へ?」
タガとウェストは何を言われたのか理解できていないようで、ポカンとしている。
一瞬で魔力がおよそ500ずつ集まり、2人に向けてではなく地面に放たれた。
大きな音とともに砂煙が上がる。
その隙に我が王がミィのほうへ走った。
「ちっ!何しやがるてめぇ!!」
砂煙が収まると、タガたちから離れたところで、ミィが我が王にお姫様抱っこで抱えられているのが見えた。
なっ!
私は我が王がミィを一瞬で助け出したことにも驚いているのだが、それ以上にお姫様抱っこでという点に驚きを隠せない。
確かに、気絶している人を瞬時に抱えるにはそれが1番いいのかもしれない。けど・・・
羨ましい!!!
単純にそう思った。
あぁー、いいなー!私だってお姫様抱っこされたい!!しかも悪い男に襲われているところを颯爽と助け出すなんて!ロマンチックでいいなぁ!私も体が戻ったら絶対にやってもらおっと。
もしこれでミィが眠っている状態じゃなかったらもっと嫉妬していたのだろうけど、そうじゃなかったため、羨ましさだけが爆発した。
「何!はえぇな。てめぇも盗賊か。」
「・・・。」
我が王はその疑問には答えず、そっとミィを地面に降ろす。
「ふん!どうやら恋人じゃないっていうのは嘘だったみてぇだな!」
「・・・。」
なぜか我が王が黙り込んだ。
ちょっ!我が王!めんどくさくてもそこはちゃんと否定してくださいよ!
「そうかそうか、なら2人仲良く俺の餌食になりな!」
「・・・。」
だから違うって!
タガが我が王に突撃してきた。
「もう気が付いてるかもしれないが、ここじゃギミックは使えねぇだよ!」
ん?我が王何をして?
我が王とタガの距離が十メートル程度になった時、我が王は手を魔法銃の形にして、それを一直線に並べた。
「アサルトライフル。」
そう聞きなれない言葉を言った。
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〖琉斗視点〗
タガが持っている槍の効果範囲は特定した。
最初、黙って近づいていったのはそれを調べるためだ。
あらかじめ手にもっておいた石を陰なる収納で1つずつ収納していき、使えなくなったところが効果範囲だ。
その後、魔法銃で目くらまし。ミィを抱えて効果範囲外に移動。そして陰なる移動で一気に距離を取った。
魔法銃はギミックではないので普通に使える。
そして、今、魔法銃の新しいバージョンを試みる。
アサルトライフル。
特に銃の種類に詳しいわけではないので、合っているのかはわからないが、好きだったゲームの銃の種類名からとった。
右手の先が銃口で、右腕と左腕の両方から魔力の集めたものを送り込むことで連射を可能にした。
普通の人だったら人に向けるのは抵抗があるのかもしれないが、俺には一切ない。
「じゃあな。」
すさまじい銃声が鳴り響く。
人だったはずのものは、跡形もなくただの肉塊と血しぶきへと変わった。
次回更新日は10/19(日)予定です。
明日です。




