中迷宮〖1〗(2)
「ふぅ、これで25階層か。」
(お疲れ様です。我が王!)
(はは、ありがとう。)
俺たちは8階層で合流してから、およそ3、4時間で25階層をクリアした。
このパーティーの戦闘スタイルとしては、ギアスが完全な前衛で、敵の攻撃を引き受ける盾役でもあり、主力攻撃にもなっている。そこを盗賊のミィがサポートし、魔術師2人と弓使い2人が魔物の生命力を削るという形だ。
このパーティーに加わった俺の役割はというと・・・
「なあ、ミィ。お前がちょろちょろと動き過ぎてめっちゃ矢を当てにくいって何回も言ってるよな。いい加減、改善してくれよ!」
「そうだ!もう少し一か所にとどまってくれ!」
「え?何言ってるの?私は盗賊だから素早く動き回るのは当然じゃん。あなたたちこそもう少しちゃんと狙ってくれない?さっき琉斗さんが防いでくれないとやばかったじゃない!」
「まあまあ、3人とも落ち着いて・・・」
「そういうあなたもギアスに氷球をあてそうだったじゃない!もっとシリカを見習いなさい!」
シリカとはAランクの魔術師だ。
「なっ!」
「それもこれもミィが動き回るからだろ?」
「なに?私が邪魔だって言いたいわけ!?」
「おい、それぐらいにしておけ。」
「そうですよ。琉斗さんも困ってしまいます。」
ここでギアスとシリカが止めに入った。
この会話からわかるように、後衛の弓使い2人と魔術師(Aランクじゃないほう)の攻撃がミィやギアスに当たらないようにすることが主な役割となってしまっている。
もちろん多少の魔物への攻撃もしているのだが、後ろを警戒しながらのため、大きな攻撃力とはなっていない。
まあ、俺としては実力を隠せて都合はいいけど。
「ふん!琉斗さん、さっきは助けてくれてありがと!」
「いえいえ。」
ミィは7階層までの出来事で完全に俺を信頼してきている。
よって、基本的に俺の近くにいることが多いのだが・・・
(むむむ。我が王?)
フレアの機嫌が悪くなるので大変困っている。
「ごめんね。最近はこんな感じに言い争っていることが多くって・・・」
「俺は別に気にしないのですが・・・って、気にしたほうがいいですかね?」
「ううん。これはパーティーの問題だから。」
「そうですか。」
俺はもしかしたらと思ったことを聞いてみる。
「答えにくかったら別にいいんだが、もしかして昨日前衛が2人やられたっていうのは・・・」
「そう、後衛の攻撃が当たって負傷したの。」
やっぱりか。俺としてはミィの動きが悪いとは思っていない。どちらかというと、弓使いの立ち位置に原因があるのではと思っている。
「ねぇ、琉斗さん。」
「ん?」
「私的にはパーティーに琉斗さんも入ってほしいなぁーって思ってるのだけど?」
(だめです!絶対にだめ!私は嫌ですからね!)
フレアはいったん落ち着こうか。
「それはどうして?」
(ちょっ!我が王!)
(聞いてみるだけだ。)
(聞いてみるだけですからね!)
「だって、琉斗さんがいるとめっちゃ戦いやすくなる感じがするし、」
まあ、完全にサポートにまわってるからな。
「それに、琉斗さんは結構鋭いから、私の仕事を手伝ってくれそうだしね。いっつも罠とか魔物の気配探知は私にまかせっきりだから大変なの。」
なるほどな。
「どうかな?」
「申し訳ないんだが・・・」
「そっかー。」
ミィはがっくりと肩を落とした。
(ほっ。よかったー。)
「ま、もし今度会ったらその時は手伝いますよ。」
(えっ!)
「うん。ありがと。」
(我が王?なんかちょっといい雰囲気になってません?)
(なってません。)
(んー?)
(なってないから。)
少なくとも今は暗めの雰囲気だろう。
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「よし!今日はこんなもんにするか。」
「そうね。」
俺たちは1日で30階層の手前まで来た。
なかなかに順調だと思う。
「じゃあ、琉斗さん、今日はありがとうな。おかげで動きやすかった。そこらのCランクより強いんじゃないか?」
「ははは、こちらこそありがとうざいました。」
「それじゃあ、帰りましょうか。」
迷宮といえば泊まり込みで攻略するイメージがあるが、この世界では日が暮れると帰る人のほうが圧倒的に多い。夜になると魔物の強さが1段階ほど上がるからだ。また、このことによって人が少なくなるため、犯罪に遭うことが多くなるそうだ。つまり、夜に攻略するメリットはないといってもいい。
(我が王、どうされるのですか?)
(とりあえず帰って、夜にもう一度来ようと思う。)
(わかりました!夜だったら私がいても大丈夫でしょうしね!)
(そうだな。)
逆に、俺たちにとっては夜のほうが都合がいい。得られる経験値は変わらなくとも、周りに人がいないことが重要だ。
まあ、とりあえずこの感じだと、俺たちだったらあと1時間程度で踏破できそうだな。
「・・・ねぇ、ギアス、私はもうちょっと残っててもいい?」
「ん?ミィ、なんでだ?」
「ちょっと1人で試したいことがあって。」
「分かった。だが、あんま無茶はするなよ。」
「うん。」
ミィは何かを考えているようだ。
俺たちはミィを残して、迷宮の外に出た。
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俺たちはキリトに戻った。
(我が王、宿はどこに取ってるんですか?)
(中ダンジョンに泊まり込む予定だったから、今日は取ってないぞ。)
(ん?我が王なら中ダンジョンなんて私がいなくても一瞬だと思うのですが・・・?)
(一緒に行こうとしていた人がいてな。まあ、足をミスって大ダンジョンにとらわれたんだが・・・。)
(結構ドジなんですね。っていうか魔人の人ですか?)
(ああ、召喚順が前後で、ちょっと仲良くなったからな。)
(・・・)
(一応俺より年上なんだが、完全にそうは思えないやつだな。なんというか、妹がいたらこんな感じなんだろうかっていうやつだ。)
(妹!?女なんですか!?)
(ああ。)
(むむ。我が王?もしかして・・・)
(別にそういう関係じゃないから。)
(我が王って結構浮気しょ——)
(だから違うから。そもそもお前ともそういう関係ではないからな。)
(ひどいです!私に体がないのは我が王のせいなのに・・・)
(その言い方だと俺が体目的のやばいやつに聞こえるじゃないか。)
はぁ。フレアって結構なんか面倒な性格してるな。
(その女が帰ってくる前にさっさと経験値稼いで私の体を取り戻しましょう!)
(まあ、効率はそっちのほうがいいだろうな。それに、ナンバースの解放や家臣は早いにこしたことはない。)
(ふふん。頑張りましょうね!私も早くみんなに会いたいなー。)
フレアと雑談しながら街の中心部のほうへ歩いていく。
「あっ!琉斗さん!」
円形の建物の入り口付近から見覚えのある人が近づいてきた。
奴隷商人のニヴェだ。
「昨日ぶりです。お連れの方は?」
「足をミスって、大ダンジョンにとらわれてしまった。」
「あー、初心者のあるあるですね。まあ、危険度はそこまでらしいので時間はかかってもいずれ出て来るんじゃないですか。」
(我が王、この人は?)
(ニヴェだ。ここ都市キリトに来る途中、魔物に襲われてたから、ネーアと一緒に助けてやったんだ。ちなみにネーアが話していた魔人な。)
(そうなんですね。)
「えっと、何か用か?」
「ええ、前にお話ししたように明日この建物でオークションが行われます。そこへの入場許可証を渡しておこうと思いまして。」
「奴隷のオークションだったか?」
「私が出品しているのは奴隷だけですが、そのほかの商品も出品されていますよ。ですが、このあたりの権力者たちも多く来ていただけるとのことなので、かなり値が張るかもしれません。」
「そうか。俺の所持金で買えるかどうか分からないが、たぶん行くと思う。」
「ありがとうございます。」
「じゃあな。」
「それでは。」
ニヴェは俺に入場許可証を渡して、忙しそうに戻っていった。
建物の大きさ、準備している人の数から推測するに、かなり大きなイベントなのだろう。
(我が王、オークションに行くのですか?)
(ああ、何かいいものが見つかるかもだろ?)
(確かにですね。私、オークションは初めて見ます!)
(まあ、ルールとか全然知らないけどな。明日までにオークションについて書かれていた本を読んでいたか探しておこう。)
(ん?それはどういう・・・)
(そうだな。フレアには言っておいていいかもな。)
俺には前の世界にいるときから完全記憶能力に近いものがある。と言っても、パラパラとめくっただけの本の1ページ1ページを完全に覚えておくことは難しい。
ましてや、本ごとにきれいに頭の中で整理して、それを頭の中で読むなどは到底無理だ。
だが、この世界は魔力がある。
魔力によって頭を強化し、まるでカメラのように覚えておくことが可能になったのである。
これは、初日の部屋にいるとき、俺の強みをこの世界で生かすことができないだろうかと考えていた時に思いついた。
そしてこれにはもう一ついいことがある。
ネーアにそう思われているように、自分のストレンジスキルの1枠が埋まっているかのように相手に思わせることができる。
(というわけだ。)
(すごい!すごいです我が王!)
(これにはまあまあ自信があるからな。)
(じゃあ、残りの1枠はどうするんですか?)
(まだ決めてない。召喚人の中ではこの世界に詳しいほうになっているだろうが、まだまだ知らないことのほうが多いからな。)
(確かにです。私も魔王国や帝国とかの詳しいことは全然知らないので。)
(まあ、何かいいのを思いついたらそれにするかもだけどな。)
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俺たちは夕飯を食べに、大通りから少し外れたところにあるお店に入った。
あまり人はいなかったが、来ている客は常連が多そうで、コアな人気がある感じだ。
元の世界での韓国料理店のようだった。
冒険者の街なだけあってか、それなりの辛さがあった。
とてもおいしかった。
(我が王ー。よくあんな辛そうなの食べられますね。)
(そこまでだったぞ?ていうかフレアは炎なんだから辛い物のほうが好きなんじゃないか?)
(どうしてそうなるんですか!?)
あれ?俺の俺の思い違いだったか?なんとなく辛い物って炎と近いイメージがあったんだが。
(日が完全に落ちたし、そろそろ行きますか?)
(そうだな。だが、まずはギルドに行こう。)
(?)
(甲鉄兜の素材が合っただろ?それを売りに行こうと思ってな。)
(あー!そういえばありましたね!)
甲鉄兜はミィと2人で半分ずつに分けることになった。
よって、換金するのは半分だけだ。
そこまでお金になるとは思えないが、ちょっとずつ貯めていかないとな。
俺たちはギルドに向かった。
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(ここか。)
(へぇー!結構立派ですね!)
ギルドは街のど真ん中にある。
この世界は俺がいた世界と比べてあまり技術は発達していないため2階建てが多いが、ギルドの建物だけは4階建てだ。
ギルドは都市の中の重要機関だ。冒険者たちや商人たちの対応や、他国からの来客の対応も行う。
そのため、ギルドだけは魔王の家臣が作ったらしい。
扉を開けると多くの冒険者がいた。
1階は受付と飲み屋を兼ねているためかなりにぎわっている。
ギアスたちも飲んでいるようだ。
しかし、もう21時を過ぎているが、その中にミィの姿はなかった。
まだ戻ってきていないのか。
(我が王!すごい人数ですね!こんなにたくさんの人が密集しているのは初めて見ました!)
(そうか。俺としてはこういう場所は少し苦手だ。)
(そうなんですか!?)
(ああ、もっと人のいない静かな田舎がいいな。)
(そうなんですね~。じゃあ、さっさと用事を済ませてしまいましょう!)
(そうしよう。)
次からはこの時間帯は避けよう。ダンジョンや迷宮帰りの人が1番集まりやすい時だった。
俺はそう決意し、受付に向かった。
俺は甲鉄兜5体分を売り、金貨5枚を受け取った。
相場通りらしい。
たいていの異世界ものはギルドの受付のところで粗暴な冒険者に絡まれるというテンプレがあるのだが、残念ながら?それはなかった。
(さあーて!迷宮に行きましょう!やっと我が王のかっこいい姿を見れます。)
(今日は結構戦ってきたと思うんだが?)
(大半がサポートでしたから!地味でした。)
まあ、サポートはそんなものだ。
(フレア、先に言っておくが、俺は別に凄腕の剣士でも熟練の魔法使いでもないからな。)
俺が強いのは魔力量のチートによるものと、いいものを思いついたと思っていたが今となっては謎だらけになっているナンバースのおかげだ。
刀は魔力で身体能力を上げてなんとなくで使っているし、ギミックも近距離のものしか生成できていない。
ちなみに、魔力で身体強化できることは周知の事実であるが、燃費がそこまでいいものではないため、使用者は少ないらしい。
15分ほどで魔力を100ほど使用してしまう。
(知ってますよ。だって我が王はこの世界に来たばっかりですから。)
この世界では命の奪い合いが当たり前だ。
元の世界とは大違い。
元の世界は、平和だった。
少なくとも俺がいた国はそうだ。
人1人が殺されたくらいで大騒ぎ。
魔法もないつまらない世界。
次回更新は10/15(水)予定です。




