中迷宮〖1〗
「ここが中迷宮か。」
(楽しそうですね。我が王。)
中迷宮の入り口は大ダンジョンの白城の近くにある。
ネーアは今頃どれくらい進んだだろうか。まだそんなに経ってないから一階層がクリアできていたらいいぐらいかな。
(我が王?何を考えているのですか?)
(いや、なんでもない。)
(ふーん?)
「あそこで検査があるようだな。」
小迷宮からは、出入りに検査がある。無謀な挑戦者を止めるためや迷宮内での犯罪の防止、また、領主などの富豪が求めている品があった場合に冒険者と取引するためだ。
中迷宮にはほとんどの者がパーティーで挑むため、人がそれなりにおり、検査に列ができている。
俺は列に一人で並ぶ。
(我が王ー。暇なのでおしゃべりしませんか?)
(ん?いいけど、俺はあまり話し上手じゃないぞ。)
(かまいませんよー。)
うーん。そうだな。
(フレアって何か食べるのか?)
(私は今、我が王のせいで体がないので食べられないんです。あー、おなかすいたなー。)
(・・・)
話の流れをミスったようだ。というか、体がない状態でもお腹はへるんだな。
(あっ!でも我が王の魔力だったらいけるかもしれないです。)
(魔力を注いだらいいってことか?)
(はい!)
俺は宝石に魔力を注ぐ。
(んんっ!あっ、ちょっ、まって、)
フレアからなぜか色っぽい声が聞こえてきた。
(悪い、魔力が多すぎたか?)
(はぁ、はぁ、我が王。激しいです。もう少し優しく。)
(ん?ああ、分かった。)
形容詞がおかしい気がするが・・・ああ、そういうことか。
他人に魔力を譲渡するときはそれぞれの魔法属性の近さによって受け取る側の感覚が異なる。
極端な例で言うと、炎属性の人が水属性の人に魔力を譲渡しようとすると、とてつもない苦痛があるそうだ。
逆に、近い魔法属性だと、心地よい感覚になるそうだ。
俺とフレアの属性は同じだ。
つまり、俺がフレアに魔力を渡すとフレアにはかなりの快感があるということだろう。
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「次の人ー。」
俺の順番になった。
「ええー、お一人ですか?」
「はい。」
(二人よ、二人!)
いや、フレアは人数にいれられないだろう?
「ランクを見せていただけますか?」
「どうぞ。」
俺はカードを見せた。
レートカードの反対側にはランクだけが載っている。
「Aランクですか。でしたら問題ありませんね。」
「ありがとうございます。」
「ええー、次の方ー。」
俺は中迷宮に入った。
«我が王?さっきのは・・・»
「ああ、あれはレートカードではなく偽物だ。まあ、玩具ともいえるな。」
リルメで買ったものだ。レートカードを再現してあって、子供の玩具として売られていた。
さっきはしれっと「これはおもちゃです。」という表記を隠していた。
«さすがです!»
まあ、これぐらいは準備しておかないとな。
この中迷宮はいたって普通の迷宮だ。1階層から50階層まであり、10階層ごとにボスがいる。
ここは中ダンジョンと違って周りに人が多いな。俺とフレアの声が聞こえないぐらいに離れてはいるが、あまり派手なのは使えなさそうだ。
«あ、そうだ、我が王。我が王の今の力がどれぐらいなのか見てみたいです。»
「それはいいが、あまり人がいないところでな。」
«はい!»
「それと、フレアの陰炎は目立つから使わないように。」
«・・・・はい。»
俺は刀を取り出す。
ちなみに荷物はすべて陰なる収納にしまってある。
と、ここで後ろから話しかけられた。
「おい、にいちゃん。一人か?」
「はい。そうですが?」
俺の後から入ってきた冒険者グループに声をかけられた。
大きな剣を持った大男1人に魔術師っぽい女が2人、盗賊の女が1人に、弓使いの男が2人だ。
なんだかアンバランスなグループだな。後衛が多い気がする。
「ランクは?」
「Cだが・・・」
検査ではAにしたが、変に期待されても嫌なのでそう答えた。
「なあ、うちのグループと一緒に行かないか?昨日前衛が2人やられちまって、まだ回復してねぇんだ。見たところ刀を使うんだろ?」
「俺は前衛だが、あなたたちのランクは?」
「Bランクのグループだ。ちなみに俺とそこの魔術師はAランクだ。」
どうしよう。俺1人の予定だったが、せっかく誘ってくれているんだから行ってもいいかもしれない。
(いいか?)
(えー!せっかく我が王のかっこいいところが見れると思ったのに・・・)
(また今度な。何か欲しいもの買ってやるから。)
(むぅ。まぁ、いいですよ。約束ですからね!)
(ああ。)
「分かりました。俺なんかでよければよろしくお願いします。」
「おう!おれはギアスだ。」
「私は・・・
自己紹介が続いた。
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「よし!それじゃあ今日は8階層から行くか。」
「「「「「はい!」」」」」
へぇー。階層移動アイテムを持っているのか。結構レアなはずだが。まあ、Bランクだからな。
【階層移動アイテム】
ダンジョンや迷宮で使用可。自身が行ったことのある階層までワープできる。使用者以外をワープさせることもできるが、その場合一回で消費される。
「すみませんが、俺はまだ8階層まで行ってないので、先に行ってください。すぐに追いつきます。」
「ん?別に気にしなくていいぞ。」
「いえいえ、そういうわけにはいきません。」
「本当に気にしなくていいんだが・・・。じゃあ、ミィ。お前はついていってやれ。」
「1人で大丈夫ですよ?」
「いや、せめて盗賊はいたほうがいい。」
「はい!全然負担にならないんで気にしないで!」
「・・・それじゃそうさせてもらいます。」
本当に大丈夫なんだが。むしろ1人のほうがいいのに。
ギアスたちがワープしていった。
「よろしくね!」
「こちらこそ。」
ミィは魔獣人のようだ。なんとなく獣人とは違うとわかる。
身長は低く、話しやすそうな人だ。
(我が王?かわいい女と2人きりだからってイチャイチャしないでくださいね?)
(何を言っている?そんなことするわけもないし、できるわけもない。)
(そうですね!だってもう私がいるんですから!)
なぜ勝手にそんな関係になっている?
「琉斗さん、どうかした?」
どうやら、困惑が顔に出ていたようだ。
「いいえ、なんでもないです。行きましょうか。」
ミィは盗賊、俺は剣士(今回はそうする)だ。遠距離がいたら面倒だが・・・、まあ、何とかなるだろう。念のために刀は強化しておくか。
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「3階層まではあんまり強い魔物いませんね。」
「そうだねー。っていうか、結構琉斗さん強い。」
「そんなことないですよ。」
「いやいや、だってこの甲鉄兜とか普通は切れないのに簡単に切ってるじゃん。」
「刀がいいからですかねー。」
俺とミィは3階層までビッグスライム、ミニスケルトン、甲鉄兜などの魔物を倒しながら来た。
ちなみに、当初の予定通り陰なる祝福しか使っていない。
陰なる移動は有能すぎて目立つ。
生成してしばらくたってから分かったのだが、ワープに近いギミックを生成できる人はかなり少ないらしい。
ギミックは魔法属性に基づくものなら生成できると書かれていたが、人それぞれに得意な分野や不得意な分野のギミックがあるらしい。
まあ、陰なる祝福だけでもだいぶオーバーなぐらいだけど。このイヤリングの効果はかなりいいな。体が軽い。
「この甲鉄兜は防具とかの材料としても使えるんだよ。重いからあんまり持って帰れないけど。」
「なら、俺が持っときましょうか。」
「え?」
俺は陰なる収納で甲鉄兜をしまう。
「・・・」
ミィがポカンとしている。
ん?何かおかしかっただろうか?
「すっごーい!それ収納の魔法!?」
「そうですが・・・」
「へぇー!結構使える人少ないんだよ!」
これもそうなのか。次からは周りを確認してから使わないとな。
ミィが興奮して、俺との距離が近くなる。
(むぅううう。)
フレアがご乱心だ。
「何なら、そのかばんも持っておきましょうか?」
「えっ。いいの?助かる!」
そういって俺はミィの荷物を預かった。
収納にしまう。
「それじゃ、次の階に行きましょうか。」
「うん!」
(我が王がいちゃついてる。)
(別にいちゃついてるわけじゃない。)
(ですがー。)
(ほら、魔力あげるから。)
(んっ!王、急すぎます。心の準備が・・・)
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「琉斗さん、ちょっとストップ。」
「どうかしました?」
ミィの表情が真剣だ。
「ここ7階層は劣虎や腐豹の住処のはず。ですがそれらの気配が一切ない。」
「そうなのですか?」
「ええ、どういうことだろ?」
確かに魔力反応はない。・・・いや、1つ隠れている魔力があるな。
「とりあえず行きますか。」
「えっ?」
俺はミィの疑問に答えず、そのまま進んでいく。
「ちょっと待って!危ないよ!」
ええーと?この辺りのはず。
「ああ、ここですね。」
「へ?」
俺はただの壁にしか見えないところを刀で切りつけた。
「何を――」
ガラガラッ!!
俺が切りつけた壁から骨が出てきた。
ミィが慌てて駆け寄ってくる。
「えっ!なにこれ!?」
「ミニスケルトンの変異種ですかね。壁に擬態していたのですが、ちょっと変なところがあったのでもしかしたらと思って。」
ミニスケルトンは俺が切りつけたため、うまく立ち上がれず、一瞬で倒すことができた。
「・・・」
「どうかしました?」
「あ、ううん。何でもない。」
「?そうですか。」
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「おお!思ってたより早かったな。お疲れさん。」
「待ってもらってありがとうございます。」
「なぁに。それじゃあ、9階層に行くか。もう8階層の魔物は倒した。」
へぇー。前衛は1人だけになっていたはずなのに結構強いな。さすがはAランクといったところか。
ランクとか魔力量とかいろいろあとで調整するかもです。
次回更新は10/11(土)予定です。
これから次回更新日がわかるときはここでお知らせしようと思います。




