Second
俺は今、この世界に来て最も興奮しているといっても過言ではないだろう。
なぜならば―――
「「おー!!!」」
ここは都市キリトから少し歩いたところの山の中だ。
目の前はむき出しの岩石であり、大きな割れ目がある。
洞窟だ。
辺りにはここを目的とするたくさんの冒険者が集まっている。
「ダンジョン!!!」
俺としては珍しく声のテンションが高い。
そう、ここはダンジョンである。
正確に言うと中ダンジョンと大ダンジョンの入り口だ。
やっぱ異世界と言ったらダンジョンだよな!どんな魔物がいるのだろうか。最初の定番はスライムとかゴブリンだが・・・。
この世界では、ゴブリンは雑魚敵の分類に入っていない。
集団行動が得意であるため、独自の国があり、この世界で確かな地位を確立している。
「楽しみだね!」
「ああ!」
ちなみに、昨日あの後ネーアは機嫌がいいのか悪いのかよくわからない状態になった。
『乙女の気持ちを弄ぶなんて・・・』
などと、なにやら文句を言っていたが、少なくとも機嫌が本当に悪いという言う感じではなかった。
今は俺と同じく初ダンジョンに興奮している。
周りの冒険者も見た感じ初心者が多そうであり、にぎやかな話し声が聞こえる。
俺たちは入り口まで足を進める。
「ええっと、確か左足から入ると中ダンジョンに行けるんだったっけ?」
「逆だ。左足から入ると大ダンジョンに入ってしまうぞ。」
この入り口はちょっとした、ワープゲートになっている。
右足で洞窟内に踏み込むと中ダンジョンへ、左足だと大ダンジョンにワープする。
このワープゲートは一度使用すると、その者が次に使用できるのは1年後になる。
「ねえ、大ダンジョンにはいかないの?」
「俺たちの実力だったら攻略は可能だろうが、この大ダンジョンはあまり経験値が期待できない。魔物は少なく、その代わりに罠が多い。また、全体が迷路となっているため、罠の発見・解除能力や正確なマッピング力が求められる。今の俺たちだと1か月ほどかかってもおかしくない。」
「あー、それはちょっとあれだね。」
「それに、一度は入ったら攻略するまで出ることができない。これが、大ダンジョンに分類されている理由だ。まあ、飢え死にしないようにどういう仕組みなのか、食料は定期的に手に入るらしいけどな。」
「えっ!」
「あとは、このダンジョンはワープするときにそれぞれ別の迷路にとばされるらしい。つまり攻略は1人だ。そこまで大きな問題とはされていないけどな。まぁ・・」
ここで俺はネーアに視線を向ける。
「ネーアにとっては一番の問題だろうな。」
「・・・そうかも。・・・・って!違うからね!あたしがさみしがり屋だからとかでは全くないんだからね!」
「ネーアが1か月1人で耐えられるとは思えな―――」
「だから!別に大丈夫だって言ってるでしょ!!」
「はいはい。」
うん。ネーアは反応が大きいから、からかいがいがあるな。
「ねぇ、信じてないでしょ!ふん!さっさと行こっ!」
そう言ってネーアは足を無造作に洞窟内に踏み入れた。
「あっ!!」
「何よ!あたし、さみしがり屋だって言われてちょっと怒ってるからね!おんぶして行くなら許してあげてもいいけど!」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「ん?」
「足・・・」
「?・・・・っ!!」
ネーアは左足を洞窟に踏み入れていた。
「えっ!嘘!」
ネーアは驚いて固まっている。
ええっとー。
「大ダンジョン、楽しんで!」
ワープゲートが作動し始めた。
「ねえ琉斗!これどうにかならないの!?」
「無理だな。一度入ったらこちら側に足を戻してもワープされるだろう。」
「ぇ・・・これから1か月1人・・・?」
「そうなるな。」
「どうにかして琉斗も一緒に来れない?」
「諦めるべきだと俺は思うぞ。」
「冷たい!じゃあさ・・・・・あの、せめて」
「そろそろだな。」
「行ってらっしゃいの―――」
「じゃ。頑張って。」
ワープゲートが作動した。
ネーアの姿が消える。
ん?なんかネーア言おうとしてたか?ま、いっか。さみしがり屋克服の第一歩になるだろう。
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「―――ハグを・・・ってあれ?」
周りを見ると、ここは何かの部屋のようだ。
ベッドなど生活の必要最低限のものが置いてある。
扉の横には食料配達ボックスと書かれたものがある。
「・・・どうしよ。」
・・・・。
「うぅ。やっぱり1人は寂しいよー。お願いだから戻らせてよー。」
他に誰もいない部屋の中に小さな泣き声が響いた。
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さてと、予想外にネーアとはぐれてしまったが、俺は予定通り中ダンジョンに行くか。
俺はちゃんと右足で洞窟に入った。
「おお!まさにって感じだな。」
俺はいかにもダンジョンですという洞窟の中に移動していた。
ただ、洞窟ではあるが、高さはかなりある。
さてと・・・。
俺はダンジョンの階層を確認する。
この中ダンジョンは自身の強さによってスタート地点が異なる。
自身の強さに合った階層にワープするのだ。
ちなみに最高階層は35階層。
⁅35階⁆
はぁ。やっぱりか。
俺は正直どこの階層にとばされるのか分かっていた。
そもそもここは中ダンジョン、駆け出し冒険者用だ。
俺がチート以前に、B ランクの人が来たとしてもこうなっていただろう。
あーあ。せっかくの初ダンジョンだったのに・・・。ここが終わったら中迷宮に行ってみるか。
「まあ、まずはこのダンジョンのボス戦だな。」
ドーン!
腹に響くような大きな音を立ててボスと思われる魔物が現れた。
その大きさは15メートルを超えているかもしれない。
「碧炎の龍か、」
【碧炎の龍】
その名の通り、碧色の炎の息吹を吐く。その温度はほとんどの金属を溶かすほど。また巨体であるため広範囲に攻撃が来る。脅威度 高。
しかし、妙だな。こいつは普通、中ダンジョンなんかに出るようなボスではないはずだが・・・。
碧炎の龍が息吹を吐こうとしだした。
とりあえず、考えるのは後回しだ。
「さーて。」
俺は魔力を集め始める。
龍と視線を合わせる。
「目には目を。炎には炎をだろ?」
俺は笑みを浮かべる。
初めて使うから、失敗したらやばいが・・・
「火力勝負だ。」
「Second 陰炎」
«セカンドー!陰炎でーす☆»
明らかに俺と違う元気な女の子の声がどこからかした。
「は?」
口から思わず声が出る。
俺の手から黒い炎が出てくる。
龍は戸惑っていたがそのまま息吹を吐いてきた。
俺の炎が何も指示していないのに動き出す。
«よーし!ひっさしぶりにがんばろーっと!»
次の瞬間、俺の視界が真っ黒に染まった。
一瞬のことだったが、陰炎が爆発したかのように感じられた。
しばらくして、視界が開けていく。
「・・・なんだこれ?」
洞窟の壁が熱で溶けており、たくさんの鉱石が露出している。
碧炎の龍は黒い炎に包まれ、まったく身動きをしていない。
«ふふん。どうですか我が王ー!ほめてほめてー!»
俺の目の前の一つの黒い炎がしゃべっている。
いや、ええっとだな・・・
「・・・どういうことか説明してもらえるか?」
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「つまり、お前は陰炎で、自我があるということか?」
«はい!まあ、私は陰炎ではなくてそれを統べるものって感じですけどねー。»
ギミックに自我があるなんて全く聞いたことがないが・・・
「なんで自我があるんだ?」
«そういわれても、私が私であるからとしか・・・»
「お前はどういう存在なんだ?なぜ俺を王と呼ぶ?」
«あれ?Firstはまだ使ってないんですか?»
「いや使ったが・・・」
そういえばFirstを使った時も俺以外の声が聞こえたような・・・
«ふーん?»
そう言って俺をじろじろと見ているかのように動き回る。
「何か?ちょっと近いんだが。」
«えーっ!こんな美少女に近づかれてうれしくないんですか?ちょっとショック・・・»
いや、炎だろ?
«何ですか?その視線は?・・・ってあれっ!?体がない!!?»
本来は体があるのか。
«うーん?我が王、この世界に来てから何年ですか?»
「ええっと、4日だな。」
«えっ!・・・・・・嘘ですよね?»
「嘘じゃない。本当だ。」
«えー?じゃあ何でもう私たちのこと呼べるようになったんだろ?»
本当ならもっと先で扱うことができるギミックなのか?まあ、可能性としては・・・
「俺のストレンジスキルが関係している可能性はないか?」
«ん?どんなのですか?»
「ナンバースだ。ギミック8つを強化する。」
«8つ・・・。確かに関係あるかもですね。とりあえず、今私が言えることは、王は圧倒的に経験値不足です!ちゃんと経験値があったらFirstとも話すことができているでしょう。私は元々人間に分類される側なので話せていると思います。そして何よりも、この私の可愛さにメロメロになっていることでしょうから!!»
どこからその自信がわいてくるんだか。
「じゃあ、経験値があったら誰でもお前のような自我のあるギミックを生成できるようになるってことなのか?」
«いえ、それは我が王だからですね。それに私はギミックとしてつくられたわけではありません。最初からフレアっていう名前があるんですから!!»
「ん?どういうことだ?」
«それはまだ言えないです。もっとちゃんとした人から言ってもらうべきでしょう。うぅ、私だとダメだっていわれてて・・・»
仕方ない、また今度にするか。
「今俺はなぜかSecondよりあとのナンバースがないんだが、それも経験値不足か?」
俺はナンバースのギミックは生成していない。
ストレンジスキルとしてナンバースを選んだ時に勝手にFirstとSecondができていた。
あの時は取り合えずなんか攻撃力のあるやつを作ろうと必死だったからな。あんまり気にしていなかったが、今思えばおかしな話だ。
«おそらくそうだと思います。»
1つ試してみるか。
『「First 陰狼」』
今回も俺の声とかなり似ているが、別の声がどこからか聞こえた。
2匹の陰狼が現れる。
«おおー!久しぶりー!陰狼ちゃん!»
やはり知り合いのようだ。
「ええっと、First 聞こえてはいるんだよな?」
「・・・」
«無理ですよ。本来のFirstと陰狼ちゃんは全然別ものなんですから。»
まぁ、反応がないのは予想通りだったが。
「念のため聞くが、この世界の家臣とは別ものなんだよな。」
«はい。もちろんです。»
そりゃそうだな。
俺は陰狼をもとに戻す。
そのままフレアも元に戻そうと―――
«あー!ちょっと待ってください!私は王のそばにいたいです!»
え・・・?
«だめ・・・ですか?»
いかにも目がウルウルしていそうな声で聞いてくる。
「別にいいけど・・・」
フレアが俺の周りを飛び回っていたら完全に魂なんだよな・・・。なんかやばいやつになってしまう。
«ひどいこと考えてません?»
「そ、そんなことないぞ?」
«怪しいですけど・・・。何か身に着けているアクセサリーとかありませんか?»
「いや、何もつけてないな。」
俺が使う用に買ったイヤリングはネーアに奪われたし。
«そうですか・・・»
「別にすぐ見つかるとは思うぞ。ここは中ダンジョンの最高階層だ。アクセサリーの一つや二つぐらいあるだろう。それに、フレアが洞窟の壁を溶かしてくれたおかげで鉱石が大量に手に入りそうだ。もしなかったら作ってもらってもいいだろう。」
«そうですね!!それに私はダンジョンマスターとも面識があるかもしれないので、珍しいものも見つかるかもです!»
ん?
「フレア、ダンジョンマスターっていうのは?」
«あれ?知らなかったんですか?ダンジョンにはダンジョンマスター、迷宮には迷宮主がいて、魔物を作ったり地形を変えたりして難易度を調整しているんです。あー、もしかしたら、王が来たために焦って、碧炎の龍なんて魔物を間違えて出しちゃったのかもしれませんね。»
今までダンジョンや迷宮は完全に謎のままだったんだ。これは大発見だな。
「それでなんで面識が?」
«うぅ、それは・・・»
言えないのか。
«すみません。私は立場があれなので»
「別に気にしなくていい。どこでダンジョンマスターに会えるんだ?」
«それじゃ、ついて来てください。»
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«ここでーす!»
「へぇー。」
俺が案内されたのは35階層をさらに進んだ、一見壁にしか見えなかった場所だ。
今はフレアの陰炎によって壁が溶けているため、扉がうっすらと見えている。
«入りましょうか・・・って、手がないんでした。我が王、お願いします。»
俺は扉をゆっくり押して中に入った。
そこにいたのは―――
「たいっへん!申し訳ありませんでした!!!」
俺たちに向けて土下座をしている頭から青色の角の生えた、少年だった。




