終章
本日二話更新 2/2
拝殿の延焼は半分ほどで済んだ。
左門の術の成果もあるが、近くにそれほど燃えるものがなかったこと、風がそれほどなかったことが幸いした。焦げ臭いにおいがまだ辺りを漂ってはいるものの、火は消えている。
辺りを覆っていた瘴気も晴れ、冷たい夜の空気が辺りを包む。
赤鬼を倒すとようやくに箱から出ることができた朱美が、ボロボロと泣いて左門に縋りついてきた。
極度の緊張から解き放たれて、彼女は何を思うのか。
左門にはわからない。
震えるその背を撫でてやりながら、かける言葉に困る。
「この地にもう『神』はいない。もともといた岩神とやらは赤鬼に取り込まれてしまったようだ。だが、禍の原因であった赤鬼は倒した。しばし平穏にはなるだろう」
「……はい」
赤鬼が神となり得ない『力』であったことを朱美も感じ取っていたのだろう。
神殺しと罵倒されてもおかしくないと左門は覚悟していたが、朱美は左門を責める気はないようだった。
「そなたは、もう自由だ」
「私は……どうすればいいのでしょう?」
朱美は俯く。長いまつ毛が愁いを帯びていて、左門はどきりとした。
「ずっと、神を護るためだけに生かされてきました。神が消えた時、新たな神を迎えることこそ、私の使命と言われここに来ました。このまま村に戻り、また次の神を迎えるために私は生きていくのでしょうか?」
「そんなふうに生きる必要はない」
左門は朱美の頬に手を当てた。
「そなたは十分に役目を果たした。俺と一緒にここを出よう」
「ここを……出る?」
朱美の目が大きく見開かれる。
「確かにそなたには巫女の才がある。だからと言って、人としての生を楽しんではいけないわけではない。何もずっと俺と一緒に来いと言っているのではない。今のそなたを知らぬ場所で、好きなことをして生きてみるのもありだと言っているのだ」
左門は出来得る限り優しい口調で話した。
彼女はおそらく今回の儀式の前から、巫女として生きることを強いられてきている。
孤児だった彼女には、おそらく他に選択権もなかったのだろう。彼女を養ってきた村そのものが悪いわけではないが、彼女は既にその対価は払ったと左門は思う。
「ついていってもいいのですか?」
朱美の唇が震える。
「私は責任を、村に恩を返したと思ってもいいのでしょうか?」
「ああ。十分に果たした。戦いのさなか逃げることも出来たのに、そなたはきちんと見届けたのだ。災厄が何で、それが無くなったことを確認をした。これ以上、何をする?」
「ありがとうございます」
朱美は左門の胸に縋りつく。
左門はその柔らかな体に戸惑いながら、そっとその背に腕を回した。
翌朝、菱垣の村の者が岩神の社を訪れたが、拝殿は焼けていた。
境内は争った形跡があり、いくら周囲を探しても朱美の姿はなかった。
村人たちは、朱美が身をもって怪異を鎮めたと信じ、岩神の社の側に、朱美を弔う慰霊碑を立てたという。
朱美は左門と村を出て、そのまま『常夜の欠片』を集める川越家が治める里に入った。
やがて月日は流れ、左門と朱美は夫婦となり、末永く暮らしたという。
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こちら、アンドロメダ型企画参加作品です。
当企画には、他にも素敵な作品がございますのでぜひお楽しみくださいませ。
2022/3/30
秋月忍




