第87話 飛行船
「おぉ、こりゃすごいな!」
ナイトギアの開発を始めて、はや一週間ほど。
研究に少し行き詰ってしまった俺は、気分を変えるために視察へと来ていた。
場所は防御施設の建築が進むダンジョン周辺である。
かつては砂利を敷いた山道と自然の洞窟があるだけだった殺風景な場所が、今では舗装された道が敷かれ、洞窟の入り口には大きな鉄の扉が設置されている。
さらに山肌に沿って擁壁が築かれ、まるで巨大な要塞のようだ。
「万が一の時は、あの扉を閉じて時間稼ぎが出来るようになっているのであります。さらに擁壁の上を見てください」
「あれは……箱?」
擁壁の上に、巨大な木で出来た箱がいくつも設置されていた。
中には黒い鉄球のようなものが入っていて、こんもりと積み上げられている。
「あそこには特製の爆弾が入っているのであります。いざという時は、箱を破壊してモンスターの群れにぶつけられるようになっているのでありますよ」
「大したもんだ。でも、あんなところに爆弾って危なくないか?」
「問題ありません。あの爆弾は私が起動しない限り、絶対に爆発しないようになっているのでありますよ」
「へえ……」
そりゃなかなかすごいな。
しかし、ボイラーを爆発させていたことを思い出すとどうにも安心できない。
煤けた顔で「やっちゃったのであります!」と言っていたのを、まだ忘れたわけじゃないぞ。
「む、信用できないという顔をしているでありますね?」
「そりゃあ……。ツヴァイはたまにミスするし」
「何で私を名指しするのでありますか! 私とマキナはほぼ同じでありますよ!」
プクッと頬を膨らませて、反発するツヴァイ。
確かに彼女の言う通り、構造上はマキナとツヴァイで同じ頭脳を共有しているはずなのだが……。
実際はどうしてか分からないが、ツヴァイの方が頼りない気がするんだよなぁ。
二人の個性の違いは一体どこから来ているのだろうか?
そのあたり、いろいろと研究してみると面白そうな気もする。
「そう言えば、どうしてツヴァイが秘書役なんだ? マキナは何をやってる?」
「ああ、そろそろ飛行船の研究が佳境に入ったのでそちらを担当しているであります。研究の手伝いをしてくれているエリス殿とミーシャ殿が、マキナがいた方がいいというので」
「……やっぱりあの二人もそういう認識か」
「みんなひどいのであります!」
ドンドンと足を踏み鳴らすツヴァイ。
……そういうことをするから、みんなマキナの方が頼りになるとか思うんじゃないのかな?
俺はふとそう考えたが、とりあえず黙っておくことにする。
「とにかく、ここの設備は万全であります! 今後さらに、戦闘用ゴーレムを常駐させておく詰め所も作るでありますよ」
「そりゃ安心だな。ダンジョン方面はひとまずこれでいいか」
「あとはやはり、他の王からの防衛でありますね。これを見て欲しいのであります」
そういうと、ツヴァイは懐から一枚の地図を取り出した。
どうやら、イスヴァールを中心に作成された大樹海の地図らしい。
中心に描かれたイスヴァールの街を囲うように、いくつか×印が描かれている。
「もしかして、この×印の場所に拠点とかを作るってこと?」
「そうであります。特に重要なのはここでありますね」
そう言ってツヴァイが指差したのは、イスヴァールから見て北東の方角に記された×印であった。
確かこの場所は、白骨沼のほど近くだな。
ただ、エーテリアス魔導王国へと向かう道とは反対方向である。
「ここは……」
「この先にゴブリンたちの縄張りがあるのであります。街に来たエルフたちに情報を聞き出したのでありますよ」
「なるほど。そう言えば、エルフとゴブリンは争ってたっけ」
「現状、我々に対して行動を起こす可能性が最も高いのは小鬼王でありますからな」
大樹海を支配する六王。
その縄張りは広い樹海に点在しているそうだが、中でもイスヴァールから近いのが森人王と小鬼王の縄張りだ。
エルフたちとはそこそこ良好な関係を築いているので、危険度が高いのは小鬼王ということになる。
そもそも、小鬼王配下のゴブリンロードがコボルトを支配しようとしていたしね。
ロードを倒して撤退させたが、完全に諦めたとも思えない。
「ふふふ、万が一小鬼王が攻めてきた時は目に物を見せてやるでありますよ」
「ずいぶんと自信満々だね?」
「攻められるとわかっている以上、対処方法はいくらでもあります。前回はいきなり攻撃されたので街への侵入を許しましたが、事前に分かっていればあのような無様を晒すことはあり得ないのでありますよ」
腕組みをしながら、自信満々な様子で何度も頷くツヴァイ。
軍服姿なのも相まって、何とも頼もしい限りである。
やはり、ツヴァイには軍事関連のことを任せるのが一番だな。
こうなってくるとツヴァイとマキナの他に研究要員が一人いるかもしれない。
マキナはマキナで、実質的な街のナンバーツーなので研究以外にもやるべき仕事は多いのだ。
「……む、飛行船がひとまず形になったようでありますね。ドックへ向かうのであります」
「ドックって、そんなものまで作ってたのか」
「たくさんの人を運ぶために、かなり大きな船となりましたから。ただ、速度と高度が犠牲となってしまったのでありますが」
そういうと、こっちこっちと手を振りながらツヴァイは歩き始めた。
その後に続いて、山道を村とは反対方向へと降りていく。
するとやがて、大きな三角屋根の建屋が見えてきた。
そして――。
「あれか!」
俺の到来に合わせてくれたのだろうか。
建屋の屋根がゆっくりと開き、大きな帆船のような姿をした飛行船が姿を現すのだった。
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