第86話 ダンジョンの復旧
「流石に破損がひどいな……」
街の中心部に聳える研究所。
その一角に設けられた専用の部屋で、俺は頭を抱えていた。
イレギュラーとの戦いで破損したアリシアさんのナイトギア。
その残骸をアリシアさんたちのチームとシェグレンさんに頼んで回収してもらったのだが、損傷が予想以上にひどかったのだ。
金属製のフレームは歪んでしまっているし、魔導回路もほぼ焼けてしまっている。
魔力を全開放した魔石の周囲に至っては、大きな穴が空いてしまっていた。
いっそ、一から作り直した方が手間がかからないぐらいである。
しかし――。
「どうですか、直りそうですか?」
期待を込めた眼差しでこちらを見るアリシアさん。
黒ちゃんなんて名前を付けていただけあって、相当の思い入れがあるらしい。
……そんな目で見られたら、技術者としてはなんとしても直したくなるな。
「どうにかやってみるよ。けっこうな数の部品を入れ替えることになっちゃいそうだけど」
「直るんですね?」
「ああ、もちろん」
俺は技術者としてのプライドに掛けて、そう答えた。
とはいえ、まずは部品の再製造からだな。
ナイトギアの部品はすべて一点ものだったので、改めて用意するには相応の時間がかかる。
するとここで、アリシアさんの隣に控えていたガンズさんとミーシャさんが言う。
「リーダーのが出来たら、俺たちのもぜひ作ってくれないか?」
「そうだよ、前にお願いしてた分!」
「ああ、そう言えばそうだったっけ」
だいぶ前のことなのですっかり忘れていたけれど……。
一連の騒動が起きる前に、ナイトギアの生産を二人に頼まれていた気がするな。
もっとも、言われなくても用意するつもりだったが。
「何とかするよ。この際、二人の分もまとめて準備した方が便利かもしれないな」
「おぉ、楽しみだぜ!」
「流石はヴィクトル様、ありがとー!」
盛り上がるガンズさんとミーシャさん。
よしよし、喜んでもらえたみたいで何よりだ。
俺が満足げな顔でうんうんと頷くと、ここでシェグレンさんが言う。
「そいつを回収するついでにダンジョンの中を確認してきたが、状態は安定してたぜ。この分なら人を入れても問題なさそうだ」
「ほんとに? じゃあ、入場再開しても良さそうだね」
既にエルフ王国からは、ダンジョン目当ての冒険者がちらほらとやってきている。
遠方から来てくれる彼らのためにも、一刻も早くダンジョンを解放したいと思っていたところだ。
するとシェグレンさんは、やや怖い顔をして言う。
「だが、入場できる範囲は制限しておいた方がいいだろうな。あのダンジョン、まだまだでっかくなってるしよ」
「あのイレギュラーがいた場所が最下層じゃなかったの?」
「ええ。新しい階層がありました」
ナイトギアが直るとわかって、安堵の笑みを浮かべていたアリシアさん。
彼女が一転して、深刻そうな顔で告げた。
まさか、こんなに急激にダンジョンが拡大するとは……。
これはもしかして、何か異変が起きる予兆だろうか?
「こりゃ引き続き調査が必要そうだね。スタンピードとかが心配だ」
「それは心配いりません。敵がダンジョンの外に出れば、すぐに我々が対処いたしますので」
そういうと、マキナが大きく胸を張った。
現状、イスヴァールの最高戦力であるマキナとツヴァイはダンジョンの中へ入ることができない。
しかし、敵の方からダンジョンの外へ出てくるのならば話は別だ。
マキナは迎撃によほど自信があるのか、うっすらと笑みを浮かべている。
「万が一にも街に被害が出ないように、ただいまダンジョンの付近に万全の迎撃体制を構築しています」
「まるで俺の報告を先読みしてたみてえだな」
「はい。ダンジョンが不安定な状態になっていることは予想で来ておりましたので」
流石は圧倒的な情報処理能力を有しているゴーレムなだけのことはある。
ダンジョンの封じ込めについては、そこまで心配しなくても良さそうだな。
「むしろ、ダンジョンの拡大にはメリットも大きいかと。ダンジョン深層でより巨大な魔石を入手することが出来れば、我々のさらなる能力向上につながります」
「だが、それほど巨大な魔石を有するモンスターとなると倒せるのか?」
「そのためにナイトギアがあるのでしょう」
そういうと、マキナは何とも信頼の籠った目でこちらを見てきた。
むむむ、純粋な信頼と思いがちょっと重いぞ……!
それだけの大物を倒せるナイトギアとなると、いくらなんでも工夫がいるぞ。
おいそれと作れるような代物ではないが……。
「……そうだとも。俺が必ず勝てるナイトギアを作るさ」
「おおお!!」
「ただそうなると、公爵領へ潜入する前に開発が終わるかな。空飛ぶ船の方はどうなの?」
「非常に順調です。ただひとつ難点がございまして」
「いったいなに?」
「現時点の魔法陣ですと魔石の消耗が想定以上に激しいので、現在、浮上を補助する動力機関の開発をしております。これが成功しますと――」
マキナの言葉の途中でだった。
――ズドオオォンッ!!
いきなり、隣の研究室から爆音が聞こえてくる。
いったい何が起きたのだろうか?
俺たちが慌てて隣へと駆け込むと、そこには煤けた顔をしたツヴァイがいた。
「すいません、研究中のボイラーが爆発しちゃいました」
「何をしているのですか……」
やれやれと困った顔をするマキナ。
どうやら、空飛ぶ船の開発ももう少し時間がかかりそうだ。
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