第84話 大会議と糸口
「これで全員集まったかな?」
イスヴァールの街のちょうど中央に設けられた領主の館。
その大広間に、街の主要人物が勢揃いしていた。
アリシアさんたちはもちろんのこと、伯爵領から戻って来たばかりのサルマトさんやエリスさんの姿もある。
「では、これから会議を始めたいと思います。まずはこれまでの経緯について説明させていただきます」
マキナがそう告げると、ツヴァイがシェグレンさんを伴って現れた。
彼の姿を見た一同は、たちまち驚きの声を上げる。
「なっ! 大丈夫なのですか!?」
「ひっ! そうですよ、街を壊した人ですよ!」
険しい顔をするアリシアさんたち。
コボルトたちに至っては、恐怖のせいかすっかり怯えてしまっていた。
するとすぐさま、ツヴァイがフォローに回る。
「安心してください。万が一の際は、私が止めるのであります!」
「万が一なんてねえよ。あー、まずはそうだな……」
言葉を区切ると、背筋を伸ばすシェグレンさん。
彼はそのまま、いきなり床に膝を着いた。
そして皆に向かって、深々と頭を下げる。
「申し訳なかった。謝って済む問題じゃねえが、まずは謝らせてくれ」
床に額をこすりつけ、土下座の姿勢を取るシェグレンさん。
プライドが高いであろう彼の取った予想外の行動に、皆は何とも言えない困惑した表情を浮かべた。
大広間を漂う嫌な沈黙。
やがて数十秒ほど過ぎたところで、エリスさんがやれやれといった様子で言う。
「……過ぎたことを言っても仕方がないわ。これまでの経緯を説明するって言ってたわよね? お願いできるかしら?」
「わかった」
つらつらと、シェグレンさんは自身の身に何が起きたかを説明した。
それを聞いていた皆の表情が、だんだんと険しいものになっていく。
「つまり、この街は六王のうちの三人に既に狙われてるってことか?」
「その通りだ」
「……洒落にならねえな。いっそ、別の場所に街を移すか?」
「そうしたところで、すぐに気づかれるでしょう。解決策とはなりえません」
ガンズさんの提案に、マキナが冷静に答えた。
彼女はそのまま、皆に向かって言う。
「ここで引いても状況は悪化するばかりです。我々に必要なのはむしろ、攻めの姿勢でしょう」
「攻めの姿勢?」
「さらに街を拡張し、戦力を充実させるのです。いずれはこの街以外にも拠点をいくつか設けるべきでしょう」
「そうなってくると、いよいよ国って感じだな」
「この街の開発もまだまだなので、あくまで将来的な話ですけどね」
この街の人口はまだ千人にも満たない。
ゴーレムを含めればもう少しいるが、まだまだ一個の街としても小さい方だ。
当面は、とにかくこのイスヴァールを大きくすることが重要になるだろう。
「そうなると、エルフを招き入れるだけでは少し足りませんな。やはり、伯爵領から本格的に人を入れませんと」
「サルマトさん、いい方法とかないですか?」
「そうですな……。例の空飛ぶ船が完成すれば、大々的な移民団を運ぶことも可能でしょう。移民の当てがあればになりますが」
空飛ぶ船か……。
すぐにツヴァイの方へと目をやると彼女は申し訳なさそうに首を横に振った。
どうやら、まだ研究開発は完了していないらしい。
するとここで、シェグレンさんが言う。
「空飛ぶ船って、エルフどもが使っている奴のことか?」
「はい。我々が一般的に用いている魔法とは異なる技術体系の魔法が用いられておりまして、解析が難航しています」
「あれに使われてるのは竜語魔法だよ」
……思わぬところで手掛かりが見つかった。
マキナとツヴァイはとっさに顔を見合わせると、すぐさまシェグレンさんに問いかける。
「竜語魔法というのは、古代竜族が用いていたとされるあの竜語魔法でありますか?」
「そうだよ。もともと、空を飛ぶのは竜の専売特許だったからな。竜がごく自然に使っている魔法をエルフが真似してあの船を作ったんだ」
「なるほどであります。確かに、竜が空を飛ぶのに魔法を用いると本で読んだことがあります!」
古代竜族は小さな山ほどの体躯を誇ったという。
そんな彼らが自在に空を飛ぶために魔法を使っていたというのは有名な話だ。
エルフたちはその魔法を真似して、あの空飛ぶ船を作り上げたらしい。
エルフの魔法体系とは異なる魔法が使われていたというのも、これならば納得だ。
「シェグレンさんは、竜語は読み解けるんですか?」
「ああ、もちろんだ。こんなことで罪滅ぼしになるとは思わねえが……。手伝わせてくれねえか?」
「ぜひお願いします!」
これで、いよいよ空飛ぶ船が完成しそうだ。
そうなれば一気に物流関係が加速するぞ……!
伯爵領からこのイスヴァールまで、物資をピストン輸送することもできそうだ。
これまでは大樹海の危険度がネックになって移民もほぼ来ていなかったけど、空を通れば安全性は段違い。
たくさんの人を連れてくることができるだろう。
「そうなると問題は、やはり移民自体の確保ですね」
「……それについては一つ、当てがある」
ここで声を発したのは、チリだった。
これまた意外な人物である。
皆の注目が彼女の顔に注がれる。
「灰被りの猫が開く非合法の奴隷市場がある。そこで商品をかっさらえばいい」
「それについては、私もうわさで聞いたことがありますが……。そんなことをしたら、相当のリスクがあるのでは?」
「組織は危険な大樹海に手を出さない。それに、実行するなら早い方がいい。私が持っている情報もどんどん古くなる」
チリの言葉に、唸る俺たち。
組織の報復があるとしても、流石に大樹海の真っただ中には手を出さないか。
こちらには相応の戦力もそろってきていることだしな。
「よし、それも検討しよう」
こうしてその日の会議は、つつがなく進行していくのだった――。
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