第80話 倒れる者と覚悟
「何故だ……! 私は上位魔人族だぞ!」
屍人王の血により、古代竜と化したシェグレン。
そこに上位魔人族の魔力を惜しげもなく注ぎ込み術を掛けたのである。
相手が六王であろうと、互角以上の戦いをする自信があった。
まして、あのようなどこの誰かもわからないような少女になど負けるはずがない。
しかし現実は――。
「当たらん!! 馬鹿な、能力ではこちらが上回っているはずだ!」
魔操術によって、シェグレンの筋力は大幅に強化されている。
それに伴ってスピードも飛躍的に向上しているはずだった。
しかし、何故か攻撃が当たらない。
シェグレンの身体を操る魔人は苛立ちを募らせるが、どうしても当たらない。
「すべての行動を読まれているのか!? ありえん、ありえんぞ!!」
本能のままに動くモンスターならばともかく、今のシェグレンは魔人がほぼ完全に制御している。
その動きを予想することは相当に困難なはずだ。
しかし、共有した視界に映る少女は苦も無くそれをやってのける。
そして――。
『さあ、畳みかけるのであります!』
シェグレンの聴覚を通じて、魔人の耳に死刑宣告が届く。
次の瞬間、魔人の身体を急激な脱力感が襲った。
――なんだ、これは!?
突然のことに動揺する魔人をよそに、みるみる症状はひどくなっていく。
「くっ! ダメージを受けすぎているのか!」
ここでようやく、魔人は事態の原因に気付いた。
シェグレンの身体がダメージを受けて、その治療に魔力を消費しているのだ。
痛覚までは共有していなかったため、気づくのが遅れたのである。
しかも厄介なことに、少女はシェグレンの視界に入らないように背後から攻めているようだ。
「これでは、手も足も出ないではないか……!!」
どうにか相手の姿を捉えようと懸命に身体を動かすが、見つけられない。
これまた事前に動きを予想して、先回りしているようだ。
――まさか、このまま一方的に倒されるのか?
魔人の脳裏を嫌な考えがよぎるが、それも十分にあり得た。
シェグレンの肉体を回復させるため、既に膨大な魔力を失っているのだ。
「何とかしなければ……ぐおっ!?」
ここへきて、さらに魔力の消費が増した。
敵の攻撃が一段と激しくなっているらしい。
『そろそろ決めるでありますよ!!』
いつの間にか、シェグレンの身体の正面へと移動していた少女。
その手にはどこからか持ち出したらしい巨大な剣が握られていた。
――避けなければ!!
強い危機感を抱く魔人であったが、思考が回らない。
魔力が抜けすぎている、このままいくと生命の維持すら……!
とっさに術を解除しようとする魔人だったが、判断がわずかに遅かった。
少女の剣が、シェグレンの額に突き刺さる。
「うおおおおおっ!!」
限界を超えた魔力を放出した魔人は、なすすべもなくその場に倒れるのだった。
――〇●〇――
「圧倒的じゃないか……!」
巨大なドラゴンを完全に圧倒していたツヴァイ。
それを見た俺は、もう完全に興奮しきりであった。
まさか、これほどまでに強くなっているとは。
喜ぶ俺の一方で、マキナはやや渋い顔をする。
「……むしろ、ツヴァイに計算資源を集中する必要があったことが衝撃です。大樹海のモンスターの脅威レベルをさらに上げなくてはならないようです」
「確かに、それもそうか。レベル一千もあれば楽勝だと思ってたもんな」
『マスター、聞こえるでありますか?』
ここで、ツヴァイが水晶玉を通してこちらに話しかけてきた。
俺はすぐさま手を振って返事をする。
「どうした?」
『このドラゴンですが、外部から魔力の供給を受けていたようであります。それであの異常な回復力を実現していたわけでありますな』
「それで、傷が瞬時に治ったりした訳か」
『はいであります! 恐らく、アリシア殿が遭遇した化け物もこれと同じ原理でありますよ! 奴の場合は、恐らくダンジョン本体から魔力を吸い上げているのであります!』
ダンジョン本体から魔力を?
確かに、技術的には不可能ではないがそんなことされたら……。
「まずい、今すぐ水晶玉のリンクをアリシアさんに戻さないと!」
「わかりました。それからツヴァイ、計算資源を私に返しなさい」
『了解であります!』
ツヴァイがそう返事をした瞬間、マキナの動きが早まった。
彼女は水晶玉を手早く操作すると、アリシアさんとリンクを結ぶ。
するとそこに映されたのは、いまだ健在の怪物の姿だった。
「アリシアさん、大丈夫ですか!?」
『なんとか……。流石に戻ってくるのが遅いです』
「申し訳ありません。街でも非常事態が発生したため、そちらにリンクを結んでいました。状況はどうでしょうか?」
『怪我はしていないが、かなり消耗している。そろそろ決めないと体力が持たない』
そう告げるアリシアさんの声は、少し擦れていた。
体力の限界が近いのは、それを聞いただけで分かる。
――早く何とかしなくては。
俺がそう思った瞬間、マキナが言う。
「敵は恐らく、ダンジョン本体から無理やりに魔力を引っ張っています。それによって無尽蔵の再生力を実現しているのです。それを倒すためには、その術式を破壊して魔力を逆流させるのがもっとも簡単です」
『そう言われても、そんな術式なんていったいどこに……』
「わかりません。ですので、分からなくても破壊できる方法を使います」
そう言うと、マキナは一拍の間を置いた。
そして、ややためらうように言う。
「ナイトギアの全魔力を開放し、モンスターにぶつけてください。ただしこれをやると、ナイトギアがその後使えなくなる恐れがあります」
『わかった、やろう』
マキナの言葉に対して、アリシアさんは静かにそう答えるのだった。
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