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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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第61話 エルフ、街に泊まる

「ここが、この街の宿ですか」


 イスヴァールの街の中心からやや外れた通り沿い。

 ここにはいずれ街が開かれたときに備えて、宿や食事処といった施設がまとめて建てられていた。

 いわば、来訪者用の新しい街区である。

 その中でも、もっとも立派な宿屋に俺はリフォルスさんたちを案内していた。


「ええ。なかなか立派でしょう?」


 キャラバンなど大人数での宿泊に備えて、建物は大きな三階建て。

 重厚な石造りで、その外観はちょっとした城のようである。

 もちろん内装や家具にもこだわっていて、俺の実家であるシュタイン伯爵家の本宅並みに豪華な仕上がりだ。

 そのエントランスへ足を踏み入れたリフォルスさんは、たちまちほうっと感心したように吐息を漏らす。

 

「素晴らしいです。さっそく、部屋を見せてもらってもいいですか?」

「もちろん。どうぞ」


 さっそく三階へ上がり、リフォルスさんに泊まってもらう予定の部屋を案内する。

 この宿の中では一番広さのあるスイートルームだ。

 ちょうど大通りを見下ろせる場所にあって、眺めも抜群に良い。

 お客様第一号であるリフォルスさんには、出来るだけいい思いをしてもらってこの街のいい評判を広めて欲しいからね。


「これはこれは、部屋もまた!」


 部屋のドアを開けると、リフォルスさんは驚いたように目を丸くした。

 柔らかな日差しの差し込む部屋は、白を基調とした貴族風の上品な仕上がり。

 キングサイズのベッドが置かれていて、上級貴族でも納得する部屋だ。

 そしてさらに――。


「ここを見てください。これが、この部屋の一番の売りです!」


 俺は寝室の隣に設置された、小さな部屋のドアを開いた。

 そこはタイル張りになっていて、陶器製の四角い浴槽が置かれている。

 そう、風呂だ。

 この部屋にはなんと、独立して風呂が設置してあるのだ。

 王都の宿屋でもほとんど見ない高級仕様である。


「おぉ! 湯殿ではありませんか!」

「ここの栓を捻ると水が出るので、それを温めればいつでも入れますよ」

「そこから水が? 新しい魔導具ですか?」


 驚いた様子で、真鍮製の蛇口を見つめるリフォルスさん。

 するとたちまち、同行していたマキナが苦笑しながら言う。


「いえ、それほど複雑なものではございません。宿の屋上に水槽が設置してありまして、そこから流しているのです」

「なるほど。ですが、それだと水槽まで水を運ぶのが大変なのでは?」

「専用のゴーレムがおりますので、大した問題ではありません。ついでに宿の掃除なども、八割がたゴーレムが行っております」

「それはまた……」


 何だろう、リフォルスさんの顔はもはや驚きを通り越して呆れているようだった。

 彼はそのまま、浴室の端に設置された排水溝の方を見る。


「使い終わった水は、あそこから流すのですか?」

「そうです。街の下水網はまだ整備途中ですが、この辺りは優先的に整備がしてありますので」

「下水まで……」

「最終的には近くの川に垂れ流す構造となっているので、いずれはもっと本格的な排水処理施設を備えたいところではあります」


 マキナの説明を、リフォルスさんは上の空といった様子で聞いていた。

 こうしているとここで、宿で働くコボルトたちが飲み物を持ってやってくる。

 森で採取した果実から作った、特製の果実ジュースだ。


「ウェルカムドリンクです!」

「ありがとう。ん、これはおいしい! 何とも濃厚ですね!」

「コボルト族秘伝のジュースです!  お代わりもありますよ」

「なんとなんと!」


 すっかりご満悦といった様子のリフォルスさん。

 ここで俺は、彼に帯同していた冒険者さんたちに言う。


「護衛の方の部屋は二階です。流石にここほど広くはありませんが、そちらにもお風呂はついてますよ」

「おおぉ!!」

「もし、もっと広いお風呂が希望なら近くに公衆浴場もあります。訓練や戦いで、本格的に汚れたり汗をかいたときはそっちがおすすめですね!」


 俺がそう言うと、冒険者さんたちは嬉しそうに頷いた。

 そんな彼らに対して、マキナがさらに続けて言う。


「御用の際は、日中はコボルトたちを呼んでください。もし夜中に何かあった際は、こちらのゴーレムを使っていただければ」


 マキナが軽く手招きをすると、扉を開けてゴーレムが中に入ってきた。

 接客用に外装を人間に似せたデメテルⅡ型である。

 黒服を着せられたその姿は、マキナほどではないがかなり人間っぽい。

 デメテルⅡ型は皆の前へと移動すると、深々とお辞儀をして見せる。


「このデメテルⅡ型を皆様の専属として付けさせていただきます。たいていのことには対応できるはずですので、便利に使ってください」

「何から何までまさに至れり尽くせり……本当にいいのですか? 無料ですよね?」

「もちろん! 初めてのお客さんですし、きっと至らないところもありますから」

「そうですか。ちなみにこの宿、普段はどのぐらいの料金にする予定なのですか?」


 そう言われて、俺は少しばかり考え込んだ。

 まだ貨幣制度が未整備なため、いくらと言われてもちょっと困るのである。

 そうだな、だいたい必要な経費から考えると……。


「以前、コボルトたちとの取引に魔石を使ってましたよね?」

「ええ、そうですが」

「それなら、だいたい一泊につき豆粒大の魔石が二つか三つってところでしょうか」

「……ええっ!?」


 素っ頓狂な声を上げるリフォルスさん。

 彼だけではない、冒険者さんたちも驚いたような顔をしている。

 あれ、値付けミスったかな……?

 一応、食事もこだわったものを出すつもりだし、料金には見合っているつもりなんだけど……。


「そんなに高かったですか?」

「逆です!!」


 声を大にするリフォルスさん。

 そのあまりの声に、俺は少し驚いてしまうのだった。

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