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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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閑話 猫の恐怖

「……参った」


 イスヴァールの街の中心にある館。

 その地下には犯罪者を入れておくための地下牢がある。

 しかし、街の住民のほとんどを占めるコボルトたちは基本的に極めて善良。

 犯罪を起こすようなことはなかったため、チリが初の利用者となっていた。


「脱出は不可能か」


 牢の内部は一面、石造りの頑丈な壁。

 鉄格子は真新しく、力を入れてもビクともしない。

 おまけに看守はゴーレムで、人と違って油断することもないだろう。

 灰被り猫の工作員として、牢破りの方法もいくつか心得ていたが、そのいずれもが通用しそうにない。


「お加減はいかがですか?」


 こうして牢の中でチリがあれこれと思案していると、マキナがやってきた。

 その顔を見て、チリはたちまち表情を強張らせた。

 磨き上げた技も呪毒も通用しなかったマキナは、彼女にとって恐怖の象徴だった。


「……何をしに来た?」

「今日の夕食を届けに参りました」


 そう言うと、マキナはパンとシチューと果物の載せられた盆を差し出した。

 ――今日もまた、やけに豪華なメニューだ。

 チリは眉間に皺をよせ、何とも複雑な表情をする。

 地下牢での食事など、せいぜいカビの生えたパンと薄いスープが関の山だと思っていたのだが、ここではずいぶんといいメニューが出されていた。


「何かあるの?」

「何かとは?」

「こんな食事、普通は出さない」


 チリが尋ねると、マキナははてと不思議そうな顔をした。

 彼女からしてみれば、いくらか豪華ではあるがごくごく一般的な食事を出していたつもりだったのだ。


「どういうことでしょうか?」

「馬鹿にしてるの?」

「はて? 意味を理解しかねますが……。とにかく、冷めないうちにどうぞ」


 こうして差し入れられた食事を、チリはゆっくりと口へ運んだ。

 するとまたしても、新たな衝撃が彼女を襲う。


「この肉……もしかして、ジャイアントベア?」

「よくわかりましたね。その通りです」


 ジャイアントベアと言えば、地域によってはヌシと呼ばれるような大物だ。

 倒すためには、Cランク以上の熟達した冒険者パーティが必要とされる。

 当然ながらその肉は高級食材で、王国貴族の食卓に並ぶような逸品である。

 間違っても、囚人に出されるようなものではない。

 

 ――ひょっとして、この街には圧倒的な力があるということを分かりやすく示そうとしているのか?


 そこまで思い至って、チリは今更ながら怖くなった。

 自身は一体、どんな存在を敵に回したのだろう?

 そもそも、大樹海にある街という時点で彼女の想像をいろいろと越えていた。

 自身を簡単に圧倒してみせたメイドの他にも、さらなる戦力があるかもしれない。


「おや、あまり美味しくありませんでしたか?」

「……美味しかった」

「それは良かった。これからも味見を頼みます」


 実は、チリに出された食事の一部はヴィクトルにも出すものであった。

 味覚機能を持たないマキナは、料理の味見役としてチリを有効活用することにしたのである。

 所詮は捕虜である彼女には、どれだけまずい料理を食べさせても文句は出ないので好都合だったのだ。

 しかし一方、チリは青ざめた顔をする。


「……なるほど、捕虜で毒に耐性がある私は毒見奴隷に最適。食事が豪華な意味も理解した」

「はい?」

「何でもない……」


 暗い地下牢の中で、豪華だが毒が入っているかもしれない食事を毎日食べる。

 それはある意味、拷問よりも苦痛かもしれなかった。

 なにせ、いつ死ぬか全く予想が出来ないのである。

 それは十日後かもしれないし、はたまた一か月後かもしれない。

 ひょっとすると、天寿を全うすることだってあり得る。

 耐えていればそのうち終わる拷問とは、明らかに質の違う恐怖だ。


「顔色が悪いですね? 大丈夫ですか?」

「……大丈夫、問題ない」

「そうですか? もし本当に苦しいようであれば、遠慮なく言ってください」


 そう言うと、マキナはチリの顔を覗き込んだ。

 それは当然ながら、チリの体調を心配しての行為なのだが……。

 恐怖に慄いていたチリは、まったく別の意味に解釈してしまう。

 苦しいようならば、自らの手で楽にしてやると言っているのだと。

 そして質が悪いことに、この時、たまたまマキナが懐に忍ばせていたナイフがチリの目に留まった。


「…………負けました。情報はすべて出します」

「どういうことですか?」

「私が知っていることはすべてお話しします。絶対に逆らいません。隷属魔法も受け入れます」


 深々と土下座をして、服従の意を示すチリ。

 ここまで来てはもう、灰被り猫に義理立てしている場合ではなかった。

 元より、猫は構成員を恐怖によって支配してきた組織である。

 それを上回る恐怖を見せられては、裏切ることもやむなしだった。

 ある種、恐怖による支配の限界だ。


「……よくわかりませんが、言いたいことは理解しました。では、ヴィクトル様を呼んで参ります」

「ありがとうございます」


 チリの突然の降参宣言を、マキナは釈然としないながらもひとまず受け入れることにした。

 チリの表情の動きなどを見る限り、騙しているようには見えなかったためだ。

 こうして地下牢へと呼び出され、事態の一部始終を聞かされたヴィクトルはやれやれとつぶやく。


「……そりゃ勘違いされるわけだよ。でも、結果的には上手くいったのかな?」


 こうしてヴィクトルたちは、チリから灰被り猫に関する情報を手に入れるのだった。

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― 新着の感想 ―
味覚機能を持たないのによく料理なんてできるな、というかこの状態のチリに美味しいかどうか聞いてもあまり意味ないだろ、素直にアリシアに味見して貰えば良いのに。と言うか熟練の暗殺者がまだ拷問の一つもされてい…
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