第48話 賢者のきた理由
「本当に申し訳ないわ……」
あれから数十分後。
意識を回復させたエリスさんは、気恥ずかしそうな顔をして深々と頭を下げた。
まさか、いきなり気絶してしまうなんてこっちも思ってなかったからね。
マキナが凄いのは俺も知っているが、ちょっと興奮しすぎだ。
……なんか、変な色気あったし。
「それで、あの子はどうしたの?」
「地下牢に入れてあります。あとで所属や雇い主の情報などを聞き出すつもりですが、なかなか口が堅いようです」
マキナがそういうと、エリスさんはうーんと困ったような顔をした。
彼女は形のいい顎を手で擦りながら、しばし逡巡して言う。
「……わざわざ顔を整形して、毒の耐性を付けてるような気合の入った暗殺者よ。能力の高さからしても、まず口は割らないでしょうね」
「背後は調べておきたかったんですけど……」
「私にひとつ、心当たりがありますぞ」
ここで、サルマトさんが話に入ってきた。
彼は俺の顔を見ると、何とも言えない心苦しそうな顔をする。
「言ってください。誰なんですか?」
「……ヴィーゼル様が動いているかと」
なるほど、うちの身内ってわけか……。
そりゃ、言いづらいわけだ。
でも、あの兄さんならそれぐらいのことやりかねないな。
「エリス様が以前、ヴィクトル様の作ったゴーレムを高値で買おうとしたことがありましてな。それでゴーレムが売れると知ったヴィーゼル様は、ヴィクトル様を無理やり連れ戻してゴーレムを作らせるつもりなのではないかと」
「あー、そうそう。元はと言えば、あのヴィーゼルがゴーレムを処分しちゃってたから大樹海まで来たのよね。ゴーレムの制作者を求めて」
へえ、そういうことだったのか。
どうして賢者様がこんな魔境までやってきたのか不思議に思っていたが、俺のゴーレムを見て興味を持ったってわけか。
マキナは別としても、俺が作ったゴーレムたちはそんじょそこらのゴーレムよりは出来がいい自信があるからね。
「ですが、それならばわざわざあのような者を差し向けなくとも普通に戻るように説得すればよかったのでは? ヴィーゼル様はマスターの兄上でしたよね?」
「……たぶん、俺の存在を隠してぜーんぶ自分の手柄にするつもりだったんだろう。俺の残したゴーレムを解析して、お抱えの魔導師によりすごいゴーレムを開発させたとか言ってさ」
「なぜそのようなことを?」
「決まってる、ヴィルヘルツ兄さんに跡目争いで勝つためだよ。俺がゴーレムを作ってあげましたじゃ、ヴィーゼル兄さんのポイントにはならないから」
我がエンバンス王国では、家督は長子相続が基本である。
だが、シュタイン伯爵家の長男であるヴィルヘルツ兄さんは身体が弱かった。
そのため父上はヴィルヘルツ兄さんが家を継ぐことに難色を示していたのである。
もしここで、ヴィーゼル兄さんが何かしら大きな功績を上げれば……。
彼が伯爵となって家を継ぐことも、あり得ない話ではないのだ。
「自身の栄達のために、マスターの功績を奪い強制労働のような真似をさせようとは……。まったく許しがたいですね。万死に値します」
ただならぬ殺気を発し始めるマキナ。
自身に向けられているわけでもないのに、寒気がしてきた。
こりゃ、もしマキナが兄さんにあったら俺が止めても殺すな……。
「ま、まあそのぐらいにしよう。完全にそうだって決まったわけじゃないし。それよりエリス様、俺のゴーレムをどのぐらいの値で買おうとしたんです?」
「一体につき金貨百枚」
「えええっ!?」
あまりの大金に俺はたまらず変な声を出した。
金貨百枚って、田舎なら家が買えるぐらいの金額だぞ!
伯爵家の三男坊だった俺でも、年間に自由に使えた金はそれぐらいだ。
流石は賢者様、すげえ!
「もちろん、ここにいるようなゴーレムならもっと高いわね。というか、値段のつけようがないわよ。特にそこにいるマキナさんなんて、国家予算並みになるわ」
「こ、国家予算!?」
「当然よ。人間と同等の知能を持ち、あの暗殺者を圧倒する戦闘能力よ? 世界が変わるわ」
へ、へえ……。
本当はマキナの知能は既に人間を上回っているし、戦闘力もあの暗殺者どころの騒ぎじゃないぞ。
でもそれを言ったら、今度こそエリスさんは気絶して戻ってこなさそうだ。
うん、とりあえずは黙っておこう。
「賢者様の値付けはそれなりに正確だと私も言っておこう」
「そうなんですか……。うーん、マキナはいろいろ無理ですけど他のゴーレムなら……」
「もしかして、売ってくれるの!?」
「ええ。それにそんなに高くなくてもいいですよ」
「うおっしゃああああっ!!!!」
拳を突き上げ、女性とは思えない声を発するエリスさん。
そしてそのまま、意味もなく高笑いを始める。
ヤバいよ、なんか変なお薬でも飲んだみたいになってるよ!
「これで研究がはかどるわ! ありがとう、ヴィクトル殿!」
「え、ええ。そこまで喜んでもらえてうれしいです。というか、技術研究をしたいのであればここに残られますか?」
「え?」
「我々の研究所は常に人手不足です。賢者様が加わってくださるのであれば、これほど心強いことはありません」
マキナがそういった瞬間、エリスさんの表情が固まった。
彼女はそのまま、どこかぎこちない口調でマキナに尋ねる。
「その研究所って……ゴーレムの研究とかもしてるの?」
「もちろんです」
「そのゴーレムには、あなたのようなものも含まれる?」
「はい。ちょうど、新しい魔石を入手する目途が立ちましたので私の新しい身体の研究を行っております」
マキナがそういうと、エリスさんは黙ってマキナとの距離を詰めた。
そしてそのままマキナの手を勢いよく握ると、それはもう見事なほどの速さで頭を下げる。
「ぜひ、私を研究所の一員に入れてください! 白の塔も辞めます!!」
え、えええ!?
彼女の予期せぬ言葉に、俺たちは心底驚くのだった。
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