第32話 エルフとの交渉
「そんなに貴重なものなんですか……?」
ピエスタさんの食いつきぶりに、俺は少し引いてしまった。
純度の高いミスリルがそれなりに貴重であることは知っている。
だが、そんな目の色を変えるほどの物には思えなかった。
エンバンス王国でも、値は張るが一般的に出回っていたのである。
「通常の炉ではここまで純度の高い物は作れない。どんな技術を使った?」
「……言えるわけがないでしょう。大事な交易の種なのですから」
「それはそうか」
横からマキナに口を挟まれ、ピエスタさんは渋々ながらも引き下がった。
もしかして、この王国には魔力炉の技術がないのか。
これはかなり有利な交渉材料を得たぞ。
「だが、これほどの品と何を交換する? コボルトたちは確か、金は使っていなかったはずだが?」
「いえ、我がイスヴァールでも貨幣を導入しましたよ」
「ならば、不足分は金貨で受け取れば良いわけか」
「まだ交換レートを定めていないので、できれば現物がいいです」
「そうか……そのあたりはおいおいだな。ある程度、安定的に取引をするようになってから決めればよかろう」
顎に手を当てながら、少し考え込むような仕草をするピエスタさん。
しかし、話の内容からして……。
「じゃあ、取引の許可を出してくれるということですか?」
「……もともと、この国に交易しに来る者はたまにいる。我々と敵対している小鬼王と豚人王の傘下でない限り、許可を出すこと自体はさほど問題ではない」
「ありがとうございます!」
「ただし、あくまでも交易する許可を与えるだけだ。我が王国がお前たちの都市を認可したわけでも、まして保護してやるわけでもない」
なるほど、そこはきっちりと線引きしているわけか。
これについてはこちらも期待していなかったので構わない。
むしろ、保護してやるとか言ってきた方がよほど厄介だった。
国力の差からして、そのまま呑み込まれてしまってもおかしくないからね。
「さっそく許可証を発行してやろう。着いてこい」
「はい!」
「ついでに、商人にも顔合わせしてやろう。君たちだけでは門前払いされてもおかしくないからな」
これはまたずいぶんと気が利いている。
親切すぎて、少し裏を感じてしまうほどに。
こうして訝しげな顔をしていると、それを察したらしいピエスタさんが言う。
「白骨沼のブレイズシャドウには我々も手を焼いていてね。私の部下も被害に遭っていたが、あの霧のせいで駆逐できずにいたのだ。それを退治してくれた礼とでも考えてくれ」
「なるほど、そういうことですか」
「それに時期が時期だからな。武具の材料が手に入るのはありがたい」
時期が時期?
いったい何のことだろう。
ひょっとすると、小鬼王あたりと戦争でも始めるつもりなのだろうか。
ムムルさんの話だと、エルフはゴブリンを毛嫌いしているらしいし。
「……あれ、見て!」
「うわっ! 綺麗だなぁ!」
こうして考えているうちに、俺たちはいよいよ街の中心部へと差し掛かった。
石畳の広場に露店が立ち並び、さらにその中心には大きな噴水がある。
どうやら、噴水の中に光の魔道具でも仕込まれているのだろう。
七色に輝く水の柱は、それはそれは美しく幻想的であった。
そしてその他にも、奇妙な形をした街路樹や光る看板など見たこともないものがたくさんある。
流石、魔導王国などというだけのことはあるなぁ。
そして――。
「おぉ……すっげえ美人」
「鼻の下を伸ばすな、恥ずかしいだろう」
「そうだよ、そう言うのはヘンリーだけでいいから」
たまたま通りがかったエルフのお姉さんたち。
その美貌にたまらず鼻の下を伸ばしたガンズさんが、アリシアさんたちから総攻撃を喰らった。
でも、ガンズさんの気持ちは男としてわかるな……。
エルフのお姉さん、顔立ちの美しさもさることながら凄いものをお持ちだった。
「マスター、何をお考えなのですか?」
「え、いや……な、何でもない」
「ならばいいのですが。しかし、この国の魔法技術はかなり進んでいるようですね。魔石の他に、魔導書と魔道具もできれば買いましょう」
「そうだね、うん……」
何とも冷たい眼をするマキナ。
結局、許可証を貰って商人さんのところに行くまで彼女の機嫌は治らないのだった。
――〇●〇――
「新しい町の領主だとか? それはそれは……」
ピエスタさんに紹介してもらった、王国でも指折りだという商会。
そこの主人は俺たちを見て、何とも言い難い顔をしていた。
明らかにこちらを怪しみ、そして下に見ている。
これは、ピエスタさんの紹介を受けて本当に正解だったな。
そうでなければとても相手にしてもらえなかっただろう。
「単刀直入にですが、取引をしたいのです。こちらが出せるのは主に鉱石のインゴット。求めるのは家畜と一部の食料品、魔導書に魔石です」
「いずれも当商会で手配できますな。しかし、お渡しできるかどうかはそちらが代価を用意できるか次第ですよ」
「それは問題ないと思います」
俺は先ほどピエスタさんに見せたミスリルのインゴットを取り出した。
それを見た途端、主人の顔つきが変わる。
「……これは失礼いたしました。何が、どれだけ御入用で?」
「リストがございます」
マキナはすかさず懐から紙を取り出し、主人へと手渡した。
ふむふむとそれに目を通した主人は、さらさらっとメモを取りながら言う。
「そうですな。魔石と魔導書以外は、全部合わせてインゴット三つと言ったところでしょうか」
そう言われても、相場のことはよくわからないんだよな……。
相手の言い値で買い取ってもらうのもどうかと思うが、ここは信用するしかなさそうだ。
幸い、インゴットの数にはまだまだ余裕がある。
「それで構いません」
「魔石と魔導書はそれぞれ大きさや希少性によって価値がまったく違いますので、どのようなものが欲しいか次第でしょう」
「魔導書は一般的な内容のもので構いません。魔石については、出来るだけ大きなものを希望いたします」
出来るだけ大きな魔石と聞いて、主人は腕組みをして悩み始めた。
もしかして、いい品物がないのだろうか?
俺たちが不安げな表情をすると、やがて主人は言う。
「ひとつ、飛び切りの魔石があるにはありますが……。うーん……」
「できれば必要なものなんです、お願いします」
「そうですか。ならば、少し話をしましょうか」
そう言うと、紅茶を口に含む主人。
彼はそのまま、重々しい口調で語り出すのだった。
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