第127話 新たなる王
「私が……ですか?」
マキナはたちまち怪訝な顔をした。
それだけではない。
周囲にいたエリスさんやアリシアさんたちも、目を見開いて俺を見る。
その表情からは驚きと動揺がはっきりと見て取れた。
「ヴィクトル様、それは……!」
「危険です! そもそも、このイスヴァールの街の領主はヴィクトル様なのですよ! あなたが王にならなくてどうするのですか!」
声が出ないエリスさんに代わるように、アリシアさんが叫ぶ。
……確かに、彼女の懸念はもっともだ。
この地の領主は俺なのだから、俺が王になるのが自然な流れだろう。
「いや、マキナはおそらく王にはならないんじゃないかな」
「それはいったい……」
「なるほど。マキナさんはゴーレムだからね」
ここで、エリスさんが相槌を打った。
事態が良くわからないらしいアリシアさんたちは、たちまち彼女の方を見る。
「どういうことなのだ?」
「マキナさんはあくまでも、ヴィクトル様が生み出したゴーレム。こう言うといろいろ語弊があるけど、まぁ道具みたいなもの。だから、王という主体にはなりえないってことよ」
「むむ……?」
よくわからないと言う顔をするアリシアさん。
ここでさらに、ミーシャさんがかみ砕いた説明をする。
「ようは、マキナさんは生き物じゃない。だからそれにとどめを刺された小鬼王は一人で勝手に死んだのと同じ扱いになるんじゃないかってこと」
「おぉ、そういうことか! しかし、それだとマキナ殿の製作者であるヴィクトル様が王になるのではないか?」
「それも考えにくいんじゃないかしら。ヴィクトル様が倒したとするには、マキナさんは独立性が高すぎる」
そう言うと、エリスさんは豚人王の方を見た。
すると豚人王は、眉間に深い皺を寄せて何とも言い難い顔をする。
「うーむ……。森の歴史において、六王が自然死すると言うことはなかった。自らの寿命が近づいてきたときは、後継者にとどめを刺させるのが通例だったからな。そもそも、寿命の長い種は世代交代すらしておらん」
「つまり、どうなるかわからないと?」
「ああ。我には予想は出来ん」
結局は、賭けになると言うことか。
俺は改めて、マキナの方へと向き直った。
すると彼女は、普段の冷静さからは想像できないほど取り乱した様子を見せる。
「……不確実性が高すぎます。推奨できません」
「だとしても、頼む」
「しかし……」
「もし君が王になったとしても、君と俺の関係は変わらないだろう? 能力的には、既に君の方が圧倒的に上なのだから」
「そのようなことはありません」
「いや、あるよ。だからマキナ、君がとどめを刺すんだ。ここにいるみんなの未来を守るために」
俺がそう言うと、マキナはとうとう覚悟を決めた。
そんな彼女に対して、アリシアさんが剣を差し出す。
「これを使ってくれ」
「ありがとうございます」
アリシアさんの差し出した剣を、マキナは恭しく受け取った。
ミスリルの剣が陽光を反射し、白く煌めく。
彼女はそれを高々と掲げると、倒れている小鬼王の脇へと移動した。
「いきます」
「……やめろ、やめろ!!」
小鬼王が最後の力を発揮して、立ち上がろうとした。
その顔に滲み出るのは、生への強烈な執念。
まさしく鬼気迫る形相だ。
だがその背中を、ツヴァイががっしりと押さえつける。
怪我を負い、血を流しすぎた身体では抵抗もままならないのだろう。
王はあっさりと膝を屈した。
そして――。
「はああああっ!」
裂帛の気合。
それと同時に、剣が小鬼王の身体を貫いた。
たちまちどす黒い血が迸り、最後の抵抗とばかりに天を仰いでいた顔がうつ伏せとなる。
――終わったな。
小鬼王の死を直感した俺は、ごくりと息をのんだ。
さてどうなるか、俺の予想では……。
「うぐあっ!?」
「ヴィクトル様!?」
ここでいきなり、俺の脳内に猛烈な量の情報が流れ込んできた。
なんだこれは、頭が焼けるみたいだ……!!
もしかして、俺が王だと判定されてしまったのか?
俺はとっさにマキナの方を見るが、驚いたことに彼女もまた額を手で押さえて苦悶の表情を浮かべていた。
「これは……二人とも王になる……?」
愕然とした表情を浮かべるエリスさん。
彼女がそうしているうちに、ただのノイズでしかなかった情報がはっきりとした言葉へと変わっていった。
『想定外の事象が発生。緊急対応条項として3-1を適用。権能を分化し、対象2名に付与。機構全体の安全性を考慮し――」
なんだ、いったい何が起きている?
この言葉を発しているのは、いったい何なのだ?
神秘性の欠片もない言葉はさながら機械のよう。
大樹海を支配する六王。
その玉座の裏には、何か得体の知れないものがいるのか?
思考が絶え間なく駆け巡り始めたところで、頭痛がいよいよ激しさを増した。
「あぐあっ!」
「ヴィクトル……様……!」
俺はそのままなすすべもなく倒れた。
それと同時に、マキナもまた倒れた。
いったいこれから、どうなるんだ?
そんな不安と共に、俺たち二人は意識を失っていくのだった――。
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