第128話 決断
「どうされますか、ヴィクトル様」
小鬼王をどうするのか。
悩んでいる俺に対して、マキナが詰め寄ってきた。
俺はいよいよ、額に汗をして思案を巡らせる。
既にイスヴァールの街は、他の王たちに目を付けられている状態だ。
ここで小鬼王を殺して、俺が王の一人となっても変わらないかもしれない。
そうなれば、俺が何らかの力を得られる分だけ得だろう。
しかし、エルフたちとの交易関係とかを考えると危ういな……。
俺が王になることで、彼らが態度を翻す可能性は十分にある。
「……すぐに決められることじゃないな」
「しかし、あまり時間を置くわけにもいきません」
「小鬼王を置いておくリスクも当然あるわけか」
部下のほとんどを失った小鬼王は、無力に近い状態だ。
当然ながら、他の王が彼を狙って攻めてくることも考えられる。
……そう考えると、豚人王を保護したのもかなりのリスクだったな。
今更ながら腹が立った俺は、豚人王を睨みつける。
「ま、まさか我もついでに倒す気か!?」
「いや、そういうわけじゃないけど。保護したのは正しかったのかなと」
「なんだと!」
俺の言葉に、にわかに凄みを利かせてくる豚人王。
しかしすぐさまマキナが割って入り、彼は見ていられないほどに身を小さくした。
いつもながら、ある意味でぶれない王様である。
けれど、こんな王様でも六王の一角であるからには事態は深刻だ。
ほかの王から狙われるだけの価値があるのだから。
「……吾輩はここでとどめを刺すべきだと思うであります」
「……おや」
ここで、ツヴァイが小さいながらもはっきりとした声で告げた。
それに対して、マキナが少し驚いたような顔をする。
マキナとツヴァイは、頭脳である魔石を共有している。
そのため人格こそ別だが、これまで意見が大きく分かれるようなことはなかった。
しかし、今回はどうもそうではないらしい。
「小鬼王の野心は危険であります。一刻も早く処分すべきかと」
「私かあなたならば、安全に隔離できるのでは?」
「小鬼王がすべての能力を我々に公開したのか確認できないのであります。未知の能力を使って逃げられる可能性を排除できないのでありますよ」
「なるほど、それは確かに」
「あと、小鬼王と直接戦って分かったでありますがこいつの性質は存在するに値しないでありますよ」
何とも辛辣な一言。
小鬼王に対する批判的な感情が溢れんばかりに込められている。
冷静なはずのゴーレムにここまで言われるなんて、どれだけのことをしたのやら。
「……とは言ってもね。これまで狙われていたのは、あくまでイスヴァールの街。けど、小鬼王を倒した場合に狙われるのはヴィクトル様個人になるわ。その違いはかなり大きい」
ここで、エリスさんが話に入ってきた。
彼女は俺とイスヴァールの街を見比べながら、マキナたちに説明する。
「街が狙われる分には、こうやって皆で戦えばいい。けど、ヴィクトル様個人が狙われるようになると防ぐのは厄介よ。二十四時間、暗殺に備えなければならなくなる」
「そこは、私とツヴァイで交代制を取ればある程度は賄えるかと」
「……あと、身内の裏切りにも備えないといけないわ。そこの豚人王さんじゃなくても、王の権能となれば目がくらむ者がいてもおかしくない」
「待ってくれ、そうそう簡単に裏切り者など出るものか!」
エリスさんの仮定に、今度はアリシアさんが待ったをかけた。
彼女は船から降りてくると、ずんずんとエリスさんに詰め寄っていく。
「我々もコボルトたちも、みなヴィクトル様に忠誠を尽くしている。裏切るはずなどない、そこを恐れる必要はないだろう」
「あくまで仮定の話よ。それに、街の規模が拡大していけばいろいろな人間が入り込みやすくなる」
「それはわからないではないが……。疑われるのは不愉快だ」
「別にあなたたちを疑っているわけではないわ」
エリスさんとアリシアさんの間に、何とも言えない微妙な空気が漂い始めた。
むむむ、王の権能を得ると言うのはこういったリスクもあるのか……。
俺を殺せば大きな力が得られるとなれば、あちこち疑わなければならなくなる。
しかし、当然ながら疑われる側としては気分が良くないわけで……。
放置しておくと、これは妙な火種になりそうだ。
「……仮に王の権能を得た場合、俺は強くなるのか?」
俺はそう言って、豚人王を見た。
暗殺などの問題については、俺が強くなればかなり軽減されるからだ。
すると豚人王は、何とも言えない渋い顔をする。
「その者の素質による。場合によっては、まったく戦いに向かぬ権能を授かる場合もあり得る」
「うーん……。俺の場合だと、制作方面に特化した能力とかになりそうだな」
それはそれで大変に欲しい能力だけど、暗殺防止とかには役に立たなさそうだな。
むしろ、俺の価値が上がって誘拐とかのリスクも高まりそうだ。
けど、小鬼王をずーっとおいておくのも獅子身中の虫になりそう。
こうなったらいっそのこと……。
「決めた。マキナ、君がとどめを刺せ」
俺がそうまっすぐに告げると、マキナは大きく目を見開くのだった――。
読んでくださってありがとうございます!
おもしろかった、続きが気になると思ってくださった方はブックマーク登録や評価を下さると執筆の励みになります!
下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしていただけるととても嬉しいです!




