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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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第118話 機工の怪物

「とうとう来ちまったな……」


 元冒険者の兵士ライリー。

 彼にとってサリエル大樹海は、若かりし頃の苦い思い出が眠る場所であった。

 腕試しとして樹海のワイバーンに挑戦したものの、散々に負けて逃げ帰ったのだ。

 それがまさか、公爵家の兵士となった後で戻ってくるとは思いもよらなかった。


「警戒を怠るな。こちらが大軍だからと言って、襲ってくるやつは襲ってくる」


 怪物の腹の中を思わせる、薄暗く居心地の悪い森。

 そこを隊員たちに声掛けをしながら、ゆっくりと慎重に進んでいく。

 サリエル大樹海は怪物の跋扈する未開の地。

 一瞬たりとも油断をすることはできなかった。

 しかも――。


「……隊長、本当に大丈夫なのですか?」


 森を行く軍の先頭を見ながら、副隊長のマルスが不安をあらわにする。

 彼の目に映るのは、軍を先導する不気味なゴブリンたちの姿であった。

 黒い衣をまとった彼らは、エンバンス王国では見られない種である。

 サリエル大樹海の固有種だと思われるが、その姿はさながら死神であった。


「上からの指示だ。逆らえん」

「あんな怪物どもを信用できるのですか?」

「……何でも、奴隷の首輪を自ら持参したらしいぞ」


 奴隷の首輪というのは隷属魔法の込められた首輪型の魔導具である。

 これを嵌められた者は、主人に対して一切反抗することが出来なくなる。

 嘘をつくことも不可能で、各国で禁忌とされる魔導具であった。


「首輪とはまた……えぐいですね」

「ゴブリンだからな。それで得た情報で、上は信用できると判断したらしい」

「それならば……ええ……」


 理性ではある程度納得しつつも、感覚的に納得しきれないマルス。

 彼は何とも言えない表情をしながら、無言で歩き始めた。

 こうして、進み続けること数時間。

 隊員たちにも疲労が見え始めたところで、急に景色が変わり始める。


「道……?」


 いつの間にか、森が切り開かれて幅の広い通路となっていた。

 地面には砂利が敷かれ、さらにしっかりと踏み固められている。

 明らかに人間が整備した道路だ。

 それも、王国が整備した下手な街道よりもよほどしっかりしている。

 三千名もの軍勢でも、さほど苦も無く移動できてしまうほどに。


「こりゃあ、歩きやすくていいや!」

「この分なら、野営をしなくてもつけそうだ!」

「わざわざ攻め込みやすいように道を整備しているとは、間抜けな奴らだなぁ!」


 歩きやすい道に、すっかり上機嫌の兵士たち。

 悪路に悩まされていた彼らの中には、スキップする者までいた。

 大軍なのも相まって、完全に慢心しきっているようであった。

 一方、ライリーは険しい表情をする。

 

「これだけの道を整備するなんて、いったいどうやったんだ……?」


 冒険者時代、ライリーは開拓団の護衛を何度かしたことがあった。

 その経験から森を切り開くのがどれほどの重労働かを彼は知っている。

 これほどの道を整備するなど、どれほどの人員が投入されたのか想像もつかない。

 ライリーの表情が自然と険しくなる。


「……マルス、もしも危なくなったら撤退するぞ。上の判断を待つな」

「まずいのでは?」

「やつらが頼りになると思うか?」


 ライリーは声を潜めると、後ろの様子を伺いながらそう言った。

 彼の視線の先では、貴族たちが間の抜けた顔で馬にまたがっている。

 ほかの多くの兵士たちと同様、道が良くなって快適になったぐらいにしか思っていないようであった。

 特に、フィローリに至っては輿の上で寝転がって菓子を食べている始末だ。


「…………わかりました」


 やむなく首を縦に振ったマルス。

 ライリーはそれに黙ってうなずくと、さらに警戒を強めつつ奥へと進む。

 やがて道の向こうに、木の壁に囲まれた大きな集落が見えてきた。

 さらにその奥には堅牢そうな石壁が見える。

 家々の屋根よりも高いそれは、王都の城壁にも匹敵するほどの規模であった。

 

「これが連中の拠点か、デカいな」

「だが見ろ、壁があるのは奥だけ。余裕がない証拠だ」

「どうせ、あの壁もただのハッタリでしょう」


 奥の立派な壁と手前の簡素な集落。

 その対比を目にして、貴族たちは笑い声を上げた。

 それと同時に、フィローリが立ち上がり勇ましく号令をかける。


「火矢を放て!! 焼き尽くすのだ!!」


 たちまち弓兵が火矢を放ち、炎の雨が家々を襲った。

 簡素な作りの小屋は次々と燃え上がり、呆気なく崩れていく。


「ははは!! 何の抵抗もできないではないか!」


 炎を見て、興奮をあらわにするフィローリ。

 その声は大きく、驚くほど周囲に良く響いた。

 最前線にいたライリーたちにも届いたほどである。


「……あーあ、まさに馬鹿笑いだな」

「しかし、全く抵抗がありませんね。大きな集落なのに」

「ああ。これはもしかすると……」


 ライリーの脳裏を一抹の不安がよぎった時だった。

 前方の城門がひとりでに開いた。

 さらに周囲の木々がざわめき、得体の知れない足音が響いてくる。


「なんだ? やっと出てくるのか?」

「燃えたところで出てきても遅いだろ」

「いや、あれは……」


 城門の向こうから現れたのは、鎧を纏った騎士のようなゴーレムであった。

 それに続いて、周囲の森から巨大な虫のようなゴーレムたちが姿を現す。


「囲まれた……!?」

「おいおい、なんだこの数は……!」


 川の水が流れてくるように、無尽蔵にあふれてくるゴーレムたち。

 その異常な数に、兵士たちはここにきて初めて恐怖を感じるのだった――。

 

 

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