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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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閑話 小鬼王、立つ

「それでは、豚人王は例の街へ逃げ込んだと?」


 サリエル大樹海の南方一帯に広がるゴブリン族の縄張り。

 その中心に聳える巨城で、小鬼王は岩の玉座に深く腰掛けていた。

 頬杖をついたその表情は物憂げで、何やら思案を巡らせているようである。


「あの街には妙な人間どもが住み着いている。そうであったな、メ・ナウよ」

「ええ。クロウラーを倒したのも連中です」


 王の脇に控えていたゴブリンウィザードのメ・ナウが忌々しげな顔をして言う。

 ゴブリンたちが長い歳月をかけて準備したクロウラーの大発生。

 森を飲み込む災厄となるはずであったそれを潰したのも、コボルト族の街に住み着いた人間たちであった。

 

「豚人王は弱いが、奴の王権が奪われると面倒だな」

「では早々に進軍し、街を攻めましょう!」


 ここでゴブリンロードのス・ログが吠えた。

 クロウラーを用いた侵攻作戦の際、前線を任されていた将軍である。

 先の失敗を取り返し、名誉挽回を図りたいのだろう。

 彼は大きく胸を叩くと、小鬼王に懸命に訴える。


「クロウラーどもはやられましたが、幸いにして我が軍勢はさほど損害を受けておりません! コボルトどもの小さな街など、あっという間に踏み潰せます!」

「……だが、あの街には強大な戦力がいるぞ。古代竜もどきを倒すほどのな」


 メ・ナウがたしなめるように言う。

 その眉間には深い皺が寄せられていた。

 コボルトたちが作った新しい街については、既に何回か調査が行われていた。

 その過程で、はぐれ者の竜人シェグレンを使ったこともある。

 そして理由は不明だが、先祖帰りを起こして竜化したシェグレンを驚くべきことにあの街の住民は撃退したのだ。

 

「無策で行くのはあまりにも愚か。手を打たねば」

「とはいえ、どうするのだ? 何か手があるというのか?」

「それを考えるのが将軍の仕事だろう」

「軍師はお主ではないか!」

「我はあくまで研究の徒で――」


 言い争いを始めるメ・ナウとス・ログ。

 二人とも良い作戦は持ち合わせていないようで、醜く責任を転嫁し合っている。

 やがてそれを見かねたのか、小鬼王は大きくため息をつく。


「…………ひとまず、誰かをぶつけてやればよい」

「誰かとは? 恐れながら、ほかの王も今は様子見に徹しておりますぞ」

「王ではない。外の勢力だ」


 そう言うと、小鬼王は視線を上に向けた。

 すると天井裏から、ぬっと黒い装束を纏ったゴブリンが姿を現す。

 隠密に特化した上位種、ゴブリンアサシンである。


「報告によれば、森の外に軍勢が集結しつつあるそうだな?」

「は! 人間の騎士団、およそ三千です」


 ゴブリンアサシンからの報告に、メ・ナウとス・ログは険しい表情をした。

 今から数百年前、森を平らげようとしたラバーニャ帝国。

 その侵攻の苛烈さは、今なお森の民の間で語り継がれていたのだ。

 しかし、一方の小鬼王は愉しげに笑みを浮かべる。

 

「これほどちょうどいい存在もあるまい」

「ですが、どうやって人間の軍を誘導するつもりで?」

「やつらは欲深い。宝の山があると教えてやるだけでよかろう」

「宝の山?」


 そのようなものがあっただろうかと首を傾げるス・ログ。

 するとここで、メ・ナウが粘着な笑みを浮かべて言う。


「魔石でございますな」

「ああ。聞けば、コボルトの街では魔石が通貨になっておるそうではないか」

「なるほど、魔石ならば……」


 多くの魔力を内包した魔石は、この大樹海において金より貴重だ。

 人間たちが略奪に出向くだけの価値は十分にあるだろう。

 とはいえ問題は、これをどうやって教えるかだ。

 小鬼がいきなり声をかけたところで、信用されないに違いない。

 するとこの懸念点を察したのか、ゴブリンアサシンが言う。


「そこは我らにお任せを。必ずや人間どもを誘導して見せましょうぞ」

「任せたぞ」

「はっ!」


 小鬼王に一礼すると、ゴブリンアサシンは再びどこかへと姿を消した。

 こうしたところで、王がゆっくりゆっくりと玉座から立ち上がる。


「さて此度の戦だが……。我も出る」


 王の言葉に、たちまち場がどよめいた。

 小鬼王自らの出陣など、実に数年ぶりのことである。

 豚人王が相手の掃討戦ですら、この城を出ようとしなかったのだ。


「王が直々に……!?」

「待ってくだされ! それはあまりにも危険では?」


 たちまち、メ・ナウが懸念の声を上げる。

 今の森の複雑な状況の中で、小鬼王が動くのはあまりに軽率に思えた。

 王が人間ごときに負けるとは思えないが、ほかの王が動いた時が危険だ。

 最悪、広大な縄張りが食い荒らされてしまう。


「さっさと王権を抑えてしまわねばならんからな。新たな王の誕生だけは絶対に阻止せねばならぬ」

「問題ありません。王権は人間には使えないのですぞ。王が出ずとも、万が一はありえないでしょう」

「ほかの種族を王として、自らは後ろ盾につくかもしれぬ」


 説得しようとしたメ・ナウであったが、小鬼王は聞き入れなかった。

 王権の力の大きさを自ら実感しているが故の判断である。

 その意志の堅さを察したメ・ナウはやむを得ず首を垂れる。


「……わかりました。では、私もご同行させてくだされ」

「無論そのつもりだ」


 こうしていよいよ、小鬼王が自ら動き出すのだった――。


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