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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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第110話 豚人王

「こりゃ壮観だな……」


 イスヴァールの街を取り囲む城壁。

 外敵に備えて強化し続けてきたそれは、五メートルほどの高さがある立派なものとなっていた。

 しかし、今日ばかりはこの頼もしい壁がいささか頼りなく見えた。

 城壁の外に、人の倍ほどの背丈がある巨漢の軍勢がいたためである。

 豚人王の率いるオークたちだ。


「おいおい、次はオークと戦争か?」

「わからん。だが、様子を見る限りは……」


 城壁の上から群れを見渡しながら、アリシアさんが険しい顔をする。

 オークたちの大半が鎧を身にまとい、巨大な斧を背負っていた。

 話し合いに来たにしては、ずいぶんと重武装だ。

 しかし一方で、何やらおびえた様子の者たちもいる。


「非戦闘員と思しき者もいるであります。それに奴らはずいぶんと疲弊した様子。ひょっとすると、ここまで落ち延びてきたのかもしれないでありますよ」

「なるほど、逃避行の末にたどり着いたというわけか」


 ツヴァイの言葉に、皆はなるほどとうなずいた。

 確か、以前に聞いた話では豚人族は小鬼族との戦争に敗れて数を減らしたとか。

 彼女の言う通り、安息の地を求めてここまで落ち延びてきた可能性もあるな。


「その可能性は高いですが、油断はできません」


 ここでマキナがすっと手を挙げた。

 それに合わせて、城壁の上に待機していたフェイルノートⅡ型が弓を引き絞る。

 鉄板をも貫く巨大な矢。

 それがまとめてオークの群れへと向けられ、矢先がきらりと光った。

 その威圧感にざわついていたオークの群れがにわかに静かになる。

 高まる緊張感、ひりつく空気。


 俺の背中をたまらず嫌な汗が流れたところで、ひと際大きな個体が前に出てきた。

 筋骨隆々としたその肉体はさながら小山のよう。

 巨人と形容してもいいぐらいのありさまだ。

 ……もはや、オークというよりもオーガだな。

 その威容に目を見張っていると、そのオークは胸を大きく膨らませて名乗る。


「我は豚人王なり! この街の代表者と話がしたい!」


 ……豚人王だって?

 まさか、六王の一角が街へ来たのか?

 俺を始めとする人間組が顔を見合わせる一方で、コボルトたちの顔色が変わった。

 騒ぎを聞きつけて野次馬していたエルフたちもまた、引き攣った表情をする。

 森の住民たちにとって、六王という地位はそれだけ重いのだろう。

 中には恐怖のあまり腰を抜かしてしまったコボルトまでいた。


「……いかがなされますか?」

「出るしかないだろ」

「危険であります!」


 俺が壁の上から降りていこうとすると、すかさずツヴァイが立ちふさがった。

 それに合わせるように、脇に侍っていたマキナが距離を詰めてくる。


「ここはヴィクトル様が出るのではなく、相手に来てもらいましょう。向こうから押しかけてきているのですから、それが礼儀というものです」

「……待ってください。ひょっとすると、奴らの目的は町の中に入ることかもしれなませんぞ。うかつに引き入れるのも危険でしょう」


 ここでサルマトさんが意見を出してきた。

 なるほど、海千山千の商人だけあってなかなかに的を得た意見だ。

 城門を開放して連中を中に入れるのも、非常に危うい行為だろう。


「では、私がこの水晶をもって使いに出ましょう」


 そういってマキナが取り出したのは、いつぞやの水晶であった。

 ダンジョンの奥地に出向いたアリシアさんの監視に使ったものである。

 

「これで映像を送って、音声は私とツヴァイでやり取りします」

「かなり変則的だな……。それで納得してもらえるかな」

「納得してもらう、ではありません。させるのです」

「んん?」


 どういう意味なのかと俺は首を傾げた。

 するとマキナは、ふっと笑みを浮かべて言う。


「こういうことです」


 タンッと床を蹴ると、マキナは軽やかに宙に飛び出した。

 そして美しい宙返りを決めると、そのままピタッと着地を決める。

 五メートルほどもある壁の上から飛び降りたのに、ドレスの裾が揺れるだけで身体の軸は全くぶれない。

 その生物らしからぬ異常な挙動に、にわかにオークたちの注目が集まる。


「お前が街の代表者なのか?」

「いえ、その使いの者です。町の領主であるヴィクトル様は、この水晶と私を通じてあなたとお話になられます」

「……王であるこの我と直接会うことができぬというのか?」


 背中の大戦斧を抜き、マキナを威圧する豚人王。

 その身体から、たちまち禍々しいほどの魔力が立ち上った。

 淡い炎のようなそれは、遠目で見ているだけで寒気がしてくる。

 これが、王という存在なのか……!?

 これまで遭遇したどんな魔物とも違う異質な存在感。

 それはさながら、支配者の風格とでもいうべきものであろうか。

 生物ならば本能で屈服してしまいそうな何かがあった。

 だがしかし――。


「すぐに武器を抜くとは。呆れるほどの未熟さです」


 刹那、マキナの姿が消えた。

 ――カアアアアアァンッ!!!!

 耳を貫く金属音。

 それと同時に、人の身の丈ほどもある大戦斧がくるくると回転しながら飛ぶ。

 その様はひどく情けなく、どこか間抜けさすらあった。


「なっ、な……!!」

「控えなさい」


 大戦斧を失い、戸惑いを隠せない豚人王。

 その顔をまっすぐに睨みつけながら、マキナはただただ冷静にそう告げるのだった。


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