第104話 古代と現代
「ゴ、ゴーレム技術者ってほんとですか!?」
俺はたまらず、前のめりになってイメラルダと名乗った少女に聞き返した。
そのあまりの勢いに気圧されてしまったのだろう。
イメラルダさんは戸惑いつつも、ゆっくりと首を縦に振る。
「はい、そうです」
「でも、帝国の技術者がどうしてここに? 帝国は千年近く前に滅びたはずだから、その技術を受け継いだ子孫ってこと?」
「いえ、私は帝国の人間です。長い間、水晶の中で眠りについていました」
そう言えば、オークションでそんなふうに紹介されていたな……。
遺跡の中で発見されたとかどうとか。
神秘性を増すための適当な売り文句だろうと思っていたが、本当だったらしい。
「すごい、千年も眠りについていたなんて。いったいどうすればそんなことが可能になるんだ……?」
現代では想像もつかないような技術だった。
俺は思わず、イメラルダさんの身体を上から下までジロジロと観察する。
彼女が眠っていた水晶はもちろんのこと、身体自体にも何か秘密があるはずだ。
今は隠れているが、恐らく魔法陣が皮膚や肉体そのものに刻み付けられて――。
「ヴィクトル様、あまり女性の身体をじろじろと見るのは感心しません」
「あっ!」
マキナに言われて、俺はハッとした顔でイメラルダさんから距離を取った。
いかんいかん、技術のこととなるとつい頭がいっぱいになってしまうな。
まだ十代後半ほどに見えるイメラルダさんを、穴が開くほどに凝視してしまった。
おかげでどことなくだが、マキナの目が冷ややかだ。
イメラルダさん自身も、若干恥ずかしそうな顔をしている。
「あの……別にそう言う意図があったわけではなくて! 俺は本当に、純粋な技術的興味があって……」
「は、はぁ……」
「ヴィクトル様は私以上の技術馬鹿だからね。気にしないでいいわよ」
エリスさんがフォローになっているような、いないような言葉を発した。
私以上の技術馬鹿って……そうかなぁ?
流石に大樹海へ乗り込んできたエリスさんほどではないんじゃないか?
そう思った俺がマキナやアリシアさんたちの方を見ると、彼女らはエリスさんに同意するように頷いていた。
ううーん、ちょっと納得いかないぞ!
「あっ……!」
「大丈夫ですか?」
ここで急に、イメラルダさんの身体が大きく揺れた。
ふらりと倒れそうになってしまった彼女の背中を慌てて支える。
いったい、どうしてしまったのだろう?
彼女はそのまま、ゆっくりと地面にへたり込んでしまった。
「すいません、脚力が落ちていて。長時間立っていられないんです」
「それなら、館の方へ移動しようか。椅子に座ってゆっくり話そうよ」
「それでお願いします」
「では……」
マキナはそう言って俺たちに近づくと、イメラルダさんの身体を抱きかかえた。
そしてそのまま、近くにいたタイタンⅡ型へと乗り込む。
俺たちもその後に続くと、館に向かってゴーレムがゆっくりと動き出す。
「……驚きました」
「はい?」
こうして移動が始まったところで、いきなりイメラルダさんがぎょっとしたような顔で言った。
驚いたとは、いったい何のことだろう?
俺が首を傾げていると、彼女は自身を支えているマキナの膝に手を当てて言う。
「体温がほとんど感じられません。もしかしてですが、マキナさんは……」
「ええ。あれ、気づかなかったんですか?」
マキナはイメラルダさんの操る巨大ゴーレムと大立ち回りを演じている。
あれを見れば、一発で人間ではないと気付くと思ったんだけどな。
「てっきり、生体魔法陣で身体能力を強化しているのかと思っていました」
「マキナは純粋なゴーレムですよ。身体はえーっと……」
「ミスリルベースの複合材で出来た骨格に、スライム種から採取した軟組織を被せてあります。ある程度、人体に近い構造です」
「頭脳は何ですか? これほどの知性があるということは、人間脳ベースの人工頭脳ですかね?」
人間脳ベースの人工頭脳?
よく分からない単語が出てきて、たまらず俺は首を傾げた。
ラバーニャ帝国の文献なども漁ったことがあるが、初めて聞く単語だ。
マキナのデータベースにも特に情報が無いらしく、彼女もまたおやっという顔をしている。
「なんでしょうか、その人間脳ベースの人工頭脳とは?」
「人間の脳細胞を培養して作る脳のことですよ。これだけ賢いゴーレムを実現するには、この方式しかありませんよね?」
「いえ、私の頭脳に生体組織は一切使われていません。自己回帰型魔導回路で構成されています」
「魔導回路……?」
たちまち、イメラルダさんの顔が曇った。
俺たちが彼女の言った言葉をよく理解できなかったように、彼女もまたマキナの言った言葉がよくわからないらしい。
「それってもしかして、魔石を利用するあの魔導回路……?」
「はい」
「それで、人間と同等程度の知性を実現しているのですか?」
「同等というか、今のマキナは確実に人間以上の演算力を持ってるよ。一つの頭脳で二つの人格とボディを難なく動かしているし」
俺がそう言うと、イメラルダさんの表情がさらに険しくなる。
彼女は顔を下に向けると、ぶつぶつと「完全な機械型知性ってヤバいのでは」とか「そもそもそんなこと可能なのか?」などとつぶやく。
やがていささか落ち着きを取り戻したところで、イメラルダさんはわずかにだが声を震わせて言った。
「ヴィクトルさん。もしかして、マキナさんにゴーレムの設計や製造を任せたりしていませんか?」
「してるよ。既にマキナの方が俺よりもうまく設計できるようになりつつあるし」
「あっ……無自覚にとんでもないことしてる……!」
そう呟くと、イメラルダさんは額に手を当てて天を仰いだ。
その顔にはもはや諦めの色すら浮かんでいる。
あ、あれ……そんなヤバいことしちゃったのかな?
こうして館へ着くまでの間、俺は何とも言えない罪悪感のようなものを覚え続けるのだった。
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