表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/143

閑話 思わぬ僥倖

「なんだと!? 領都ヴェチアが襲撃された!?」


 ヴィクトルたちが奴隷市場を強襲してから数時間後。

 衝撃的な知らせは早くもシュタイン伯爵領へと伝播した。

 エンバンス王国の整備した”鳩通信”の為せる業である。

 

「フィローリ様は無事なのか?」

「はい、お怪我もなく無事だそうで」

「襲撃された場所はどこだ? 被害は?」

「それが……手の者によれば、例の市だそうです」

「なんと! それはまた大胆な……」


 例の奴隷市場はワイズマン公爵家にとって重要な資金源。

 加えて、王国の闇を牛耳る灰被り猫の縄張りでもある。

 そこを真正面から襲撃するなど、正気の沙汰とは思えなかった。

 いったいどこの誰が、そんなことをしたのか。

 まさか、帝国の間者による工作だろうか。

 ヴィーゼルがあれこれ思案を巡らせていると、執事はさらに続ける。


「その襲撃者ですが、妙な噂もありまして」

「噂? 他国の陰謀とでもいうのか?」

「それがなかなか、雲を掴むような話なのですが……。空飛ぶ船が現れたとか」

「空飛ぶ船?」

「はい。百人は軽く乗れる大船がヴェチアの上を飛んだとか」


 あまりにも荒唐無稽な話に、ヴィーゼルは眉をひそめた。

 空飛ぶ船なんて、まったく見たことも聞いたこともない。

 人が飛ぶ魔法でさえ、遥か古代に失われているのだ。

 船を浮かす魔法など神話の中の産物だろう。


「ただの見間違えではないのか。大方、入道雲でも出たのだろう」

「間者によれば、相当な数の目撃者がいるので恐らく間違いないと。フィローリ様もご覧になられたとか」

「ううーむ、とても信じられんな……。そんなもの、仮に実在するとすれば用意できるのは南方の帝国だけだろうが……そうだとしても……」


 エンバンス王国の南方に位置する巨大な帝国。

 ラバーニャの末裔を名乗るこの国は、現代では突出した魔法技術を誇っていた。

 だが、仮に帝国が絡んでいるのだとすればわざわざ飛行船で奴隷市場を襲った意図がよくわからない。

 兵器のデモンストレーションだとすれば、普通に街や村を攻撃するだろう。

 いきなりアングラな闇市場を攻撃対象にするとは、どういった計画なのだろうか。


「とにかく、襲撃者についてさらに情報を集めねばな。他に何かないのか?」

「あとは、異常に強いメイドが目撃されたとか」

「異常に強いメイド?」

「山のようなゴーレムを蹴り一発でぶっ飛ばしたとか」

「それはメイドなのか?」


 いや、それ以前にそもそも人間なのだろうか。

 ヴィーゼルもこれまで戦闘において一流とされる人間には何人も会ったことがあるが、そこまで異常な能力を持つ者には会ったことがなかった。

 まして、そんな者がどうしてメイドの服装などしているのだろう。

 メイドにそのような戦闘能力は……。


「……いや、まさかな」

「何か思い当たる節でも?」

「……前に、ヴィクトルが馬鹿なことを言っていたのを思い出してな。メイドにはドラゴンを蹴り飛ばすような戦闘力が必要だと。そして、いつかそれをゴーレムで実現できたらいいなと」


 そこまで言ったところで、ヴィーゼルはブンブンと首を横に振った。

 ヴィクトルがそんなことを言っていたからといって、何の関係があるだろう。

 まさか、ヴィクトルが空飛ぶ船と強大なゴーレムを作ったわけでもあるまいに。

 

「そう言えば、フィローリ様付きのメイドがヴィクトル様に似た人物を見たとか」

「本当か?」


 予想外の展開に、ヴィーゼルは上ずった声で尋ねた。

 すると執事は、ゆっくりと首を縦に振る。


「はい。ただ、雰囲気が何となくそれっぽかっただけで確実ではないと」

「フィローリ様はヴィクトルと学友だったはずだろう? それについて、何かおっしゃられてはいないのか?」

「なにぶん自分以外の人間、特に男にはあまり興味のないお方ですからな……。ヴィクトル様の顔自体、あまり覚えていないようでして。メイドに言われて初めて、それっぽいと思ったぐらいらしく」

「うーむ……あのお方らしいと言えばあのお方らしいが……」


 頼りにならないフィローリに、いら立ちを募らせるヴィーゼル。

 彼がたんたんと足で床を叩き始めたところで、執事が言う。


「代わりに、先ほどのメイドについてはよく覚えておいでだったそうですよ。というよりも、一目惚れに近いご様子とか」

「ゴーレムを蹴り飛ばしたとか言うあれか」

「ええ、かなり御執心のようです。何としてでも探し出し、自らの奴隷としたいとおっしゃっているとか」

「この非常時に相変わらずだな……」


 奴隷市場が襲撃された時点で、公爵家は相当な打撃を受けていることだろう。

 その状態でそんなことを言っているとは、余裕があるのか呑気なのか。

 ヴィーゼルは大いに呆れつつも、思案を巡らせる。


「だが、これはうまく利用できるかもしれないぞ」

「そうおっしゃられますと?」

「そのメイドとヴィクトルを関連付けてやればいいのだ。そうすれば、ワイズマン家はきっと大森林へ遠征隊を出す。そうなれば当然、我が家にも声をかけてくる」

「おぉ……! しかし、大樹海への遠征となりますとご当主様は何と言われますかな? 流石に許可を出さないのでは」

「そこはワイズマン家がうまくやるだろう」


 先ほどまでと一変して、満足げな笑みを浮かべるヴィーゼル。

 上手く事が運べば、ヴィクトルを公爵家の領都を襲撃した大犯罪者に仕立てて遠征軍を出すことも可能となるだろう。

 そうすれば、ヴィクトルが当主候補でなくなることは確実。

 ヴィーゼルからすれば、まったく笑いのとまらない話であった――。

読んでくださってありがとうございます!

おもしろかった、続きが気になると思ってくださった方はブックマーク登録や評価を下さると執筆の励みになります!

下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしていただけるととても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ