第99話 追いかけっこ
「なにがなんでもあいつを始末するんだ!!」
ヒステリックに声を上げるフィローリ様。
髪については今も変わらず気にしていたらしい。
口から唾を飛ばしながら、隣に立つ灰被りの猫幹部を急かしまくる。
それに応じるように、ゴーレムがこちらに迫ってくる。
「そんなノロマに追いつかれるかよ!」
すぐさま走り出し、ゴーレムをできるだけ細い路地へと誘導する。
するとゴーレムは周囲の建物を躊躇なく破壊し、こちらに接近してきた。
魔法によるものか、それとも単に力がすごいだけなのか。
堅牢に作られているはずの石造建築が、いともたやすく壊されていく。
「なっ! 危険すぎます!」
「ちょっとヴィクト……若様!?」
俺の予想外の行動に慌てるアリシアさんたち。
ミーシャさんに至っては、慌てるあまり危うく俺の名前を言いかけた。
しかし、こちらも何の考えもなしに動き出したわけではない。
俺はすぐさまこちらに走ってきたチリに対して、ひとまず状況確認をする。
「今どうなってる? マキナは?」
「混乱が予想以上に大きくて、地上への非常口が殺到した人で詰まって身動きが取れない。それでマキナは別の出入り口を確保するって」
「別の出入り口?」
「詳細は聞いてない。ただ、そこから飛行船に人を入れるって」
うーん、いったいどうやって出入り口を確保するんだろう?
俺は少し疑問に思ったが、マキナのことである。
必ず何かしらの計算があってのことだろう。
「わかった。それで、俺たちについて来てくれる人たちは?」
「いまオークションハウスの中に避難させてる。あれが暴れ出したから」
そう言うと、チリは後ろを振り返ってゴーレムの姿を確認した。
そして俺の目を見て言う。
「あれを止める気?」
「ああ」
「私たちは何ができる?」
「ええっと……」
俺はチリに顔を寄せると、手早く用件を伝えた。
すると彼女は軽く頷きを返し、後ろを走っていたアリシアさんたちのグループへと加わっていく。
「……わかりました、では我々は全力で援護をします!」
「ああ、任せたよ」
「あのデカブツを相手に、腕が鳴るなぁ!」
「やるだけやってやろうじゃん!」
気合を入れ直すアリシアさんたち。
彼女たちが改めて攻撃を仕掛けようとしたところで、今度はゴーレムの方がこちらに仕掛けてくる。
「なっ!!」
「危ない!!」
ゴーレムが破壊した建物の瓦礫を掴み、こちらに投げつけてきた。
――ビョウッ!!
人の頭ほどもある瓦礫が、風を切って飛ぶ。
――ドドドドッ!!
瓦礫が当たった建物に大穴が開き、石畳が割れた。
砕けた瓦礫や建物の破片が頬をかすめ、微かにだが血が流れる。
「あれに当たればひとたまりもありません! 回避を!」
「分かってる!」
アリシアさんが声を上げると同時に、第二波が来た。
俺たちはとっさに建物の陰に隠れるが、直後に轟音が響く。
隠れていた建物が揺れて、パラパラと壁の一部が崩れ落ちてきた。
幸い全員が無事に避けられたが、こんなの持たないぞ!
「私が時間を稼ぐ。アリシアとミーシャは手伝って」
「わかった、どうするんだ?」
「とにかく奴の動きを止める」
そう言うと、チリはささっとアリシアさんとミーシャさんに耳打ちをした。
彼女たち三人はすぐさま分散し、ゴーレムを取り囲むような位置へと移動する。
「俺はヴィ……若様を護衛するぜ! 流石にでっけえのは無理だが、ちいせえのは撃ち落としてやるよ!」
「ありがとう! ついて来て!」
大剣を盾の代わりにしながら、追いかけてくるガンズさん。
彼を引き連れて、俺は近くにある大きな建物の入口へとやってきた。
そして中に入ると、すぐさま上に向かって階段を上り始める。
「はああぁっ!!」
「燃え上がれっ!!」
ここで、アリシアさんたちがゴーレムの足止めに動いた。
彼女たちはゴーレムではなく、周囲の建物の壁に攻撃を仕掛ける。
――ドゴゴォンッ!!
周囲の建物が一斉に崩れ、膨大な量の瓦礫がゴーレムを押しつぶした。
「さすが!」
これなら、流石のゴーレムもすぐには動けないだろう。
建物の窓から様子を確認した俺は、思わずその場でよしっと拳を握った。
だがその直後、恐ろしい事態が起こる。
「なっ!」
「完全に予想外」
「そんなのあり!?」
倒れたゴーレムが、あろうことか崩れた建物の残骸を吸収した。
こうして一回りほど巨大化したゴーレムは、ゆっくりゆっくりと動き出す。
――ドシン、ドシン!
より巨大化した身体に見合った重厚な足音が、地下都市を揺らした。
俺はその姿に軽い恐怖を抱きながらも、懸命に走る。
「おい、来たぞ!」
「大丈夫、ここは崩せないよ」
やがて、巨大ゴーレムが建物の前までたどり着いた。
しかし、建物を破壊するようなことはせずその場で立ち尽くしてしまう。
流石に自身の身長を大きく上回るような巨大建築物を崩すことはできないようだ。
ここを崩したら衝撃で地下都市全体が崩れちゃいそうだしね。
あとはここで、マキナが戻るまで粘ればいい。
「おい、登り始めたぞ!!」
身長十メートルはあろうかという巨大ゴーレム。
その岩で出来た重々しい巨体が、あろうことか塔の壁面を登り始めた。
それを見たガンズさんが焦りを見せるが、ここまでは想定内。
あれだけの力を見せつけたゴーレムだから、このぐらいはしてくると思っていた。
「ここからが勝負だな。こい、こっちだ!」
段々と細くなる塔を、俺はひたすらに上り続ける。
それをゴーレムもゆっくりと追いかけてきた。
だがここで、当然と言えば当然の事態が発生する。
「おわっ!?」
「よしっ!!」
――ドゴオオオオォン!!
ゴーレムがつかんだ出っ張りが、重量に耐え兼ねて崩れた。
たちまち、ゴーレムの巨体が真っ逆さまに地面へと落ちていく。
そしてさらに、落ちた先の地面までもが崩れた。
ゴーレムはたちまち、巨大な穴の奥へと吸い込まれる。
「そうか、ここは俺たちがさっきいた牢獄の上か!」
「これで、流石にしばらくは出てこられないよ」
あとに出来た巨大な穴を見て、ほっと息をつく俺とガンズさん。
流石にあそこまで下に落ちれば、しばらくは戻ってこられないだろう。
岩で出来た重いゴーレムの身体は、落ちた際の衝撃で粉々になっただろうし。
再生するにしたって――。
「あ?」
こうして考えていた時だった。
ズシンッと地面の底から、振動が伝わってくるのだった――。
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