第98話 驚異の巨大ゴーレム
「信じられない……!?」
蠢く建物はやがて変形し、大きな人型となった。
その様子はさながら巨大なゴーレムのよう。
――ドシン、ドシン!!
大地を揺らして歩き始めたその巨体を見上げて、俺は言葉を失いそうになる。
人間が操作するタイプの戦闘用ゴーレムは現在でも用いられるものだ。
だが、せいぜい人より一回り大きい程度のゴーレムを操るのが限界だったはず。
それがこのゴーレムの場合、人の五倍ほどはあるだろう。
流石は古代の大帝国だけあって、凄まじい魔法技術だ。
「おおぉ、すごいではないか!」
「これがこの娘の特殊能力でございます」
興奮するフィローリ様。
先ほどまでの焦りはどこへやら、太った腹を擦りながらすっかりご機嫌だ。
それに恭しく頭を下げる男もまた、どこかほっとした表情をしている。
どうやらこの能力については、指示を出した彼も半信半疑だったらしい。
「こんなちんちくりんの娘に、まさかこれほどの力があるとは。お前、こんな掘り出し物を売る気だったのか?」
「この商品は客寄せの目玉ですので……まあ……」
笑いながら、何とも煮え切らない返答をする男。
なるほど、身内で落札して売らないつもりだったのか。
犯罪組織の幹部だけあって、流石に食えないな。
「さあ、古代帝国の忘れ形見よ! 我々の敵を始末しろ!」
「はい」
男の命令にひどく冷めた声で返事をする少女。
それと同時に、巨大ゴーレムがオークションハウスへと向かう。
――ドシンドシン!!
巨大ゴーレムが足を踏み出すたびに地面が揺れて、周囲からわっと声が上がった。
そしていよいよオークションハウスの前にたどり着いたところで、建物の中からアリシアさんたちが出てくる。
「なんだこいつは……!?」
「おいおい、こんなのまでいるのかよ!」
「これは予想外。組織がこんなものを持ってるなんて、聞いたことがない」
巨大ゴーレムを見上げ、引き攣った声を上げるアリシアさんたち。
たちまち彼女たちをめがけて、巨大な拳が振り下ろされた。
――ドゴォンッ!!
轟音と共に石畳がめくれ上がり、瓦礫が飛ぶ。
「このぉっ!!」
「援護するし!」
巨大ゴーレムに対して、即座に斬りかかっていくアリシアさん。
それをすかさずミーシャさんが援護した。
アリシアさんの剣が炎を纏い、ゴーレムの腕を切り裂く。
そして次の瞬間、轟音とともに炎が上がる。
「すごいっ!!」
岩でできたゴーレムの腕がはじけ飛び、たちまち崩れ落ちた。
流石は一流冒険者たちの連係プレー。
相手が巨大ゴーレムであろうと、わけないようだ。
しかしここで、予想外の出来事が起こる。
「$”##%&%%#!!」
少女の唇が、高速で何かをつぶやく。
ノイズのようにしか聞こえないそれが響くと、ゴーレムの巨体が蠢き出した。
岩でできた固い身体が、さながら飴細工のように流体と化す。
伸びて、捻じれて、くっついて。
ゴーレムは瞬く間に元の姿に戻り、さらに周囲の岩を吸収して巨大化した。
「ならば、本体を落とすまで」
ここですかさず、チリがゴーレムではなく少女に攻撃を仕掛けた。
踏み込む足、煌めく双刃。
狙いすました一撃が少女の白い首元へと迫る。
だがその瞬間、淡い光の壁が攻撃を弾いた。
「……防御魔法。思ったより硬い」
攻撃を弾かれ、チリはそのまま宙返りをして着地した。
彼女は続けてナイフを投げるが、これもまた光の壁によって弾かれる。
――シュウウウウッ!!
たちまちナイフから吹き出した紫の霧。
恐らく毒物であろうそれも、壁に阻まれて少女には届かなかった。
まさに鉄壁の防御だ。
「……マキナはどうしたんだ?」
こうなったらマキナに期待するよりほかはないが、姿が見えなかった。
チリたちと合流したと思ったのに、どこにいるのだろう?
もしかして、奴隷たちを連れて先に脱出してしまったのか?
俺が困惑するのをよそに、ゴーレムはさらに攻撃を仕掛ける。
「くっ! さらに威力が増したな!」
「こりゃ、かすっただけで致命傷だぜ!」
「やばいやばいやばいって!!」
巨体からは想像できないほど素早い動き。
拳の嵐が地面を揺らし、周囲に瓦礫の雨が降り注ぐ。
アリシアさんたちはどうにかそれらを回避していくが、このままでは追い詰められるのは明白だった。
「まずいな、何とかしないと……!」
マキナを待っている余裕は、もはやなかった。
とにかく、巨大ゴーレムの注意をアリシアさんたちからそらさねば。
思案を巡らせた俺は、ふとあることを思いつく。
こうなってしまっては、もはや作戦の意味がほとんどないが……。
緊急事態なのだから、仕方がない。
俺は覚悟を決めると、少女の後ろで腹を撫でているフィローリ様を睨む。
そして――。
「おい、フィローリ! 今すぐゴーレムを止めろ!」
「……なんだ、お前は?」
「止めないとお前の恥ずかしい秘密をばらすぞ」
「何を言っているのだ。そんなものはない」
「十五歳で薄毛に悩んでいたことも?」
俺がそう言った途端、フィローリ様の顔が真っ赤になった。
そしてそのまま、吠えるように叫ぶ。
「あいつを殺せ! ゴーレムに踏みつぶさせろ!!」
「は、はい! おい、ゴーレムであいつを攻撃しろ!!」
フィローリ様のあまりの剣幕に、すぐさま男が少女に指示を飛ばした。
ゴーレムが向きを変え、こちらに向かって迫ってくる。
よし、上手く釣れたぞ……!!
俺はこのまま、ゴーレムを連れて走り出すのだった――。
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