第97話 古代の力
「な、な、な!!」
あっという間に倒されてしまった”猫の尻尾”の面々。
舞台上でだらしなく倒れた彼らの姿を見て、たちまち司会者たちは色を失った。
組織の最大戦力があっという間に無力化されてしまったのだ。
このままでは、押し返した奴隷の群れに再び押しつぶされるのは明白だった。
「に、逃げろ!!」
「もう駄目だ、持たない!」
「み、皆さん落ち着いて!!」
プロ根性の為せる業だろうか。
司会者はどうにか声を絞り出して参加者たちを落ち着けようとするが、もはや意味をなさない。
皆、鬼気迫る様相で我先にと出口へ殺到した。
俺もその席を立つと、その流れに乗って移動を始める。
「……マキナもちょっと派手にやり過ぎだな」
”猫の尻尾”を吹き飛ばした犯人に心当たりがある俺は、やれやれと肩をすくめた。
あんなことができるのは、ほぼほぼ間違いなくマキナである。
後から加わっていった割に、凄まじい暴れっぷりだ。
いや、後から加わったからこそ暴れ足りなくて激しくやってるのか?
たまに地下からドォンとかズゥンと地響きのような音が聞こえてくる。
「皆様、こちらです!!」
ここで、黒服側に増援が到着した。
彼らは急ぐあまり通路に詰まってしまっていた参加者たちを誘導し、外へと案内していく。
奴隷の反乱を鎮圧することよりも、ひとまず参加者の安全を最優先するようだ。
……どうやら、これで無事に脱出できそうだな。
俺は人波にもまれながらも、どうにかこうにかオークションハウスの外へと出た。
「すごいことになってんな」
オークションハウスの外に出ると、そちらもまた混乱した様相だった。
大通りを多くの人々が走り、檻に入った奴隷たちが大声を上げて騒いでいる。
さらにここで、どこからともなく解放された奴隷たちが姿を現した。
「ちっ! 全然安全じゃないじゃないか!」
――黒服の誘導に従って、何食わぬ顔で皆と共に脱出すればいい。
――組織が面子にかけて客の安全は確保するから大丈夫。
この計画を立てた時、チリは俺に向かって確かにそう言った。
それがどうしたことだろう、安全の確保なんてまったくされていない。
マキナが猫の尻尾の面々を倒してしまったこともあるが、それにしたって……。
そんなことを思っていると、ここで後方から情けない声が聞こえてくる。
「お前たち、俺を絶対に守れよ!! かすり傷でも負わせたら死刑だからな!!」
宝石まみれの衣装を身に纏い、顎にたっぷりと贅肉を蓄えた貴族らしき男。
彼は侍女たちの身体を心細そうに引き寄せながら、ヒステリックに叫んでいた。
その周囲を埋め尽くす人、人、人……。
彼は呆れてしまうほどたくさんの護衛を引き連れ、自分の身を守らせている。
「あれのせいか……」
どうやら、あの男が警備の人員を独占しているらしい。
そんなことができるのは、まず間違いなくフィローリ様だろう。
学友だった頃よりもさらに太っているので、あまり面影は残っていないが……。
周囲にいる侍女が、やたら露出が激しく胸が大きいので間違いあるまい。
「昔から臆病だったけど、相変わらずだな」
貴族たるもの、いざとなれば戦場に出ることだってあるだろうに。
俺がフィローリ様のあまりの憶病ぶりに呆れていると、ここで再び地下からドォンと大きな音が聞こえてきた。
フィローリ様はそれにいよいよ泡を吹き、ひっくり返りそうになる。
「う、うわぁ!? 崩れるんじゃないか!?」
「問題ありません。この地下空間は古代に作られた頑丈なもの。決して崩壊したりは致しませんよ」
「そんなのわからないだろ! 今すぐ曲者と奴隷どもをどうにかしろ!」
「そうおっしゃられましても……」
フィローリ様に怒鳴りつけられる年嵩の男。
雰囲気からして、市場を運営する灰被り猫の幹部だろうか。
彼は上手くフィローリ様を宥めようとするものの、その怒りにますます火をつけてしまう。
「この無能! そもそも、お前たちが賊の侵入を許したからこのようなことになったのだ! 責任を取れ!」
「それはそうですが、今更それをおっしゃられましても」
「とにかくどうにかしろ! 貴様も処刑するぞ!」
ここでいよいよ、フィローリ様が男の胸ぐらをつかんだ。
男は一瞬、ムッとしたような顔をするがすぐさまそれを胸に収めて言う。
「わかりました。不確定要素が大きいので、使うつもりはなかったのですが……。やってみましょう」
「なんだ、手があるのではないか! さっさとやれ!」
「承知しました。お任せを」
刹那、男の目がギラリと輝いたように見えた。
その直後、彼はどこからか金色の鍵を取り出す。
「娘を連れてこい! 歌わせるぞ!」
「バラム様、それは危険では……」
「構わん、さっさと連れてこい!」
男が声を荒げると、やがて一人の少女が連れてこられた。
あれは……さっきオークションに出品されていた少女ではないか!
人形のように整った顔立ちと瞳に映る魔法陣は見間違えようがなかった。
男はやがて連れてこられた少女の肩を掴むと、その首輪に先ほど取り出した金色の鍵を差し込む。
「……さあ、これで声を出せるだろう。歌え」
「……はい」
涼やかな声が響く。
その声はそれほど大きくはないのに、喧騒の中でもいやにはっきりと聞こえた。
そして――。
「$”%$&’’$!!」
「うわっ!?」
聞き覚えのない言語で紡がれる、讃美歌のようなメロディ。
少女の瞳に再びラバーニャの月が浮かび上がり、怪しい光を放ち始めた。
やがて彼女の身体は重力を忘れたように、わずかにだが浮かび始める。
そして――。
「…………町が動き出した!?」
街の建物が、まるで生物のように蠢きだすのだった。
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