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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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第95話 舞台裏にて

「うわぁ……ひでえなこりゃ」


 騒ぎが始まる十分ほど前のこと。

 チリに案内された一同は、オークションハウスの地下へとやってきていた。

 奴隷市場の中枢であるそこには、奴隷の入った檻が所狭しと並べられている。


「もともとは監獄だったらしい。それをそのまま、灰被り猫が奴隷の保管所として利用している」

「なるほど。それにしても、ずいぶんと数が多いな」


 広々としたかつての牢獄を見渡し、アリシアは息を呑んだ。

 見える範囲だけでも、囚われている者は数百人以上いるだろうか。


「商品に不足が出ないように、常にかなりの数をストックしている」

「こんな環境に長く留め置かれたら、病気になっちまいそうだけどな」

「実際、病気になって廃棄される奴隷も多い」

「人間のすることじゃねえな」


 呆れたように息を吐くガンズ。

 するとここで、ミーシャが一か所だけ他とは様子の異なる檻を発見する。

 絨毯の敷かれたそこは、他と比べると明らかに豪奢な造りとなっていた。

 さらに鉄格子の奥には天蓋のついたベッドがあり、牢獄にはあまりにも場違いだ。


「ねえ、あそこなに? 妙に豪華だけど」

「恐らく、預かっている人間が入れてある」

「預かっている人間?」

「そう。居たら都合が悪いけれど、かといって死なれても始末に困る人間がいる。特に上流階級にはたくさん」

「……こわ、貴族社会の闇ってやつ?」


 そう言うと、青い顔をしてブルブルと震えるミーシャ。

 一方、他の面々は落ち着いた顔をしている。

 特にアリシアは、うんざりしたような表情だった。


「王国の腐敗もひどいものだな。ひょっとすると、ヴィクトル様もここに入れられたかもしれないと思うとゾっとする」

「シュタイン伯爵家ならやりかねない。あそこの次男は特にひどいらしい」

「……ヴィーゼル様か。噂はいろいろ聞くな」


 渋い顔をしながらつぶやくアリシア。

 ヴィクトルの前では決して口にしないが、シュタイン伯爵家に関する悪いうわさもいくつか耳にはしていた。

 実家が騎士爵である彼女は、そう言った情報をある程度見聞きするのだ。

 するとここで、前方から微かに足音が聞こえてくる。


「まずい、隠れるぞ」


 最後尾にいたガンズが皆に声をかけた。

 一同は慌てて、近くにあった大きな木箱の後ろへと隠れる。

 やがて角の向こうから姿を現したのは、身なりのいいひどく太った男であった。

 さらにその後ろから、ひどく痩せた年嵩の男と侍女服を着た女たちが出てくる。


「今日の目玉は上手く売れそうか?」

「ええ、それはもう。いつものように仕込んでおります」

「アクトルク男爵とボルタクル伯爵だな」

「はい、彼らには存分に動いてもらうつもりです」


 年嵩の男の話を聞いて、太った男は満足げに腹を揺らした。

 それを物陰から見ていたチリは、スッと目を細めて言う。


「……年上の方は見たことがある。灰被り猫の幹部」

「だとすると、あの太った男は恐らくワイズマン公爵だな」


 太った男の後ろに控えている侍女たち。

 その露出された胸元を見ながら、アリシアが言った。

 ワイズマン公爵の性癖については、既に冒険者の間でも有名だった。

 胸が大きく露出の激しい侍女を引き連れ、灰被り猫の幹部と話す身なりのいい男などワイズマン公爵以外にはいないだろう。


「どうする? 居なくなるまで待つか?」

「むしろ、ここで動くべき。いま騒ぎが起きれば、連中は最優先でワイズマンを保護しなければならなくなるから。他がおろそかになる」

「なるほど。それで、いったいどうやって騒ぎを起こして奴隷たちを逃がすんだ?」


 ガンズが改めて問いかけると、チリは背負っていた袋の中から紐の着いた筒のようなものを取り出した。

 さらに彼女は、火打石と針金のようなものを取り出す。

 

「これでこの発煙筒に火をつける。強力な発煙筒だから、この空間がいっぱいになるぐらいの煙が出る」

「そりゃすげえな」

「そしたら、騒ぎが起きている間にこいつで牢を開いて奴隷を解放して一緒に脱出すればいい」


 針金のようなものを手で弄びながら語るチリ。

 その表情は自信たっぷりだったが、アリシアたちはまだ半信半疑だった。

 それぞれの牢に掛けられている南京錠は大きく、非常に堅固に見えたからだ。


「安心して。これは私がいざという時に備えて、組織から盗んだ古代遺物だから。あの程度の鍵、一瞬で開ける」

「信頼していいんだな?」

「任せて。それと、最初に開く牢はもう決まってる。そこさえ開いてしまえば、しばらくは騒ぎが収まらない」


 そう言うと、チリは広大な牢獄の一番端にある鉄の扉を見た。

 赤く錆びついたそれは、数年は開かれていないように見える。

 さらに取っ手の部分にはこれでもかと言わんばかりに三つも南京錠が付けられていた。


「……なんだあれ、ずいぶんと物々しいな」

「あそこは奴隷ではなく、組織の裏切り者のための拷問部屋。解放すればすぐに大暴れするやばい奴でいっぱい」

「うわ……えぐ……」


 拷問部屋から解放された人間が暴れる姿を想像して、身を震わせるミーシャ。

 しかし、チリはためらうことなく動き出す。

 

「いくよ、準備して」


 そう言うと、チリがコツンッと火打石を叩いた。

 途端に火花が飛び散り、導火線に火が付く。

 そして――。


「な、なんだ!? 火事だ、火事だぞぉ!!」

「きゃああっ!!」


 たちまち、慌て始めるワイズマン公爵と侍女たち。

 こうして長い長い夜が始まるのだった。

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