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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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第92話 奴隷市場

 俺たちはチリの案内で奴隷市場の入口へと向かっていた。

 市街地の中心部を出て、運河沿いに歩くこと二十分ほど。

 次第にうらぶれた下町の様相を呈してきた街並みを見て、俺はチリに尋ねる。


「本当にこっちであってるのか?」

「大丈夫、何度も来たことはある」

「あー、もう歩きにくい! 疲れちゃったしー!」


 そう言うと、ミーシャさんはその場で足を止めてふくらはぎを揉み始めた。

 今日、俺たちは大貴族の一行として奴隷市場に入ることになっている。

 そのため、アリシアさんたちは変装も兼ねてゴテゴテとそれらしく着飾っていた。

 そのせいでちょっとばかり、普段と比べて動きにくいらしい。

 かくいう俺も、久しぶりに貴族らしい正装をしたので少々胸が苦しい。

 本宅にいた頃はたまにこういう格好もしていたけど、アルファドの街を任されるようになってからはラフな格好しかしてなかったからなぁ。


「この程度で疲れたなど、修行が足りんな」

「体力の問題とはちょっと違うじゃん」

「そうだな、俺も肩がこっちまった」

「まったく……。そんなことでは、出世した時に格好がつかんぞ」


 そう言うアリシアさんは、白い鎧と真紅のマントでビシッと決めていた。

 風格のあるその姿は、さながらどこかの女将軍のようである。

 背筋もまっすぐ伸びていて、これで馬にでも乗っていたら絵になりそうだ。

 だがここで、それを見たチリがぼそっと言う。

 

「目立ちすぎるのも困る。ほどほどに」

「……それもそうだな」

「真っ赤なマントはやりすぎ、これを使って」


 落ち着いた茶褐色のマントを差し出すチリ。

 アリシアさんは渋い顔をしつつも、黙ってマントを付け替えた。

 ……これでかなり、落ち着いた印象になったな。

 アリシアさん、基本的に常識人だけど妙に高い地位への憧れあるよな。

 

「前方に人影がありますね」


 ここで、不意にマキナがそう言って足を止めた。

 すぐさま目を凝らすと、確かに数名の人影が見える。

 こんなところで、いったい何をしているのだろうか?

 俺が怪訝に思っていると、その姿がふっと消えてしまう。


「……なんだ?」

「市場に入っていったみたい」

「市場?」

「ちょうどこの辺りが奴隷市場の入り口だから」


 そう言うと、チリはふと視線を上げて通り沿いにある店の看板を見た。

 ――長靴亭。

 店の名前は、いかにも灰被りの猫との関連を窺わせるものだ。

 チリはその扉を音もなく開くと、店内に入っていく。

 なるほど、前を歩いていた人影はこの店に入ったのか。

 きっとこの店の中から、奴隷市場へと行けるんだろうな。


「……あれ?」


 いよいよ奴隷市場へ潜入する。

 そう覚悟を決めて入った俺たちだが、店内は拍子抜けするほど普通だった。

 大きなバーカウンターがあり、酒瓶が壁面にずらっと並べられている。

 なかなか趣があり、洒落た店だ。

 天井でくるくると回っているファンがいい味を出している。


「コゼットの六十二年物。ロックで」

「つまみは?」

「レッドビーンズ」

「行きな。今日は貴婦人、四一九二だ」


 店主に言われるがまま、チリは奥へと移動した。

 今のやり取りはいったい何だったのだろう?

 そう思って奥の個室に入ると、壁一面にたくさんの絵画が飾られていた。

 ざっと十枚以上はあるだろうか。

 部屋自体も想像していたよりはるかに広く、ちょっとした美術館のようだ。


「これは……」

「右から二番目の絵を動かして」

「分かりました」


 チリに促されるまま、マキナが絵を動かした。

 イブニングドレスを纏った三十代から四十代の女性が描かれた絵である。

 するとたちまち、壁に埋め込まれた数字の描かれたボタンが露わになる。


「四一九二……オッケー」


 チリがボタンを押すと、壁の一部が凹んだ。

 そしてみるみるうちに変形していき、立派な扉が姿を現す。

 これはもしかして、古代魔法の産物かな?

 今ではあまり見られない類の技術だ。


「来て」


 チリは扉を開き、そっと手招きをする。

 俺たちは彼女の後に続き、地下へと延びる階段をゆっくりと下りて行った。

 するとしばらく進んだところで一気に視界が開け、広々とした空間が現れる。


「おぉ……こりゃすげえな!」

「地下都市か……!」

「たかが奴隷市場にしては、ずいぶんと気合の入った設備ですね」


 壮大な地下都市を見回し、それぞれに感想を告げる。

 まさか、たかが犯罪組織がこれほどの施設を所有していたとは。

 俺が驚きを通り越して半ば呆れていると、チリが言う。


「もともとこの古代遺跡は街ができる前から存在していた。それで街が出来てからは犯罪者が住み着き無法地帯と化していたのを、灰被り猫が力で占拠した」

「なるほど。確かにこの場所なら、後ろめたい連中が集まるにはうってつけだな」

「……しかし、困りましたね。この場所だと飛行船で乗り込むのは困難かと」


 頭上にある天井を見ながら、マキナが眉を顰める。

 確かにここだと、飛行船で乗り付けて奴隷を掻っ攫うのは難しいな。

 屋内は想定していたが、流石にここまでのは想定外だぞ……。

 するとチリが、うっすらと笑みを浮かべて言う。


「問題ない。何かあった時は非常用の脱出口を使って、奴隷と客はすべて外に出るようになってる」

「外に出たところで、掻っ攫えばいいというわけですね?」

「その通り」

「だが、その何かをどうやって起こすんだ?」


 ガンズさんがそう尋ねると、チリは黙って背負っていたリュックを叩いた。

 なにか、ちゃんと策を準備してきているということだろう。

 こうして俺たちが話していると、鎧を着た男たちが話しかけてくる。


「……オークション参加者ですか?」

「はい」

「見たところ貴族の方ですね? 家名を告げてください」

「ヴァタント子爵家です」

「……お入りください」


 手にしていた本がぼんやりと光ると同時に、男たちは俺をサッと手で案内した。

 こうして俺たちは、いよいよ奴隷市場へと足を踏み入れるのだった。

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