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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
終章:混ざり者の日々
298/300

298.周囲への接し方は、変わったようで変わっていない。

周囲への接し方は、変わったようで変わっていない。

高校2年になり、今まで母様達に任せていた"防人絡みの大人がやる仕事"を少しずつ手伝う様になった。

手伝うと言っても体を動かす頻度が増えたというわけでは無く、書類仕事とかお役所回りとの諸々とか、地味な仕事だ。


「この程度の手続きで良いんだね」

「えぇ、国からすれば税金を払う人が1人増える訳ですし"管理を外注"出来るのなら…基本は良い事づくめって事なんでしょう」

「なるほどねぇ…」


今、自室で"余所行きの姿"になって、沙絵に手伝ってもらいながらやっているのは、最近人に化ける事が出来る様になった天狗の"住民化"。

つまりは、1人の日本人として諸々のサービスを受けられるよう、"人として生きていける様にする"為の手続きをしているわけなのだが…

やってみれば簡単で、書類を幾つか書くだけだった。


「こんなもんで良いの?」

「えーっと…あぁ、そうですね。OKです、後は役所の方の分なので」


書くのはコッチの仕事…

そこから諸々のサービスを受けるための"手続きやら納税やら"もコッチが窓口になってやることなのだけど、思っていた以上にアッサリしている。


「じゃ、あと1枚か…」

「頑張ってください~」


幾つかと言っても、1人当たりに対して十数枚の書類を作成するわけで…

1から書類を作り始めると、そこそこ時間がかかってしまう。

お試しとしてやってる天狗の書類、ようやく最後の1枚までやってこれたのだけれども…

気付けば1時間半以上経ってしまっていた。


「コーヒーでも飲みます?」

「ん?あー、お願い」

「では只今…」


そう言って沙絵に給仕を頼み、最後の書類にペンを走らせ始める。

パソコンやスマホで出来れば…と思うのだが、役所宛ての書類は全部"紙"だそうだ。

わざわざ私達"妖"の様な、"数少ない"存在に対して電子化というのは…うーむ、恐らく、私が死ぬまでに間に合う事は無いのだろう。


「これ、さっきも書いたべさ…」


何度書いただろう?と思うくらいに書いた住所や名前を書いて…

そこからは妖らしい?と思える項目をチマチマと埋めていく。

妖としての情報を記して行くのだが、何も1からカリカリ書いていくわけでは無く…

予め用意されていた質問に対してマークシートを埋めていき、特記事項があれば手書きで書くという書類だった。


「これも重複してる気がするけどなぁ…あぁ、これ保険絡みか…」

「そうですね。基本的にこういう手続きをするのは元人間なので、その辺りの都合があるんですよ。あ、コーヒーです」

「あぁ、ありがと。じゃ、沙絵や八沙みたいに自然発生した妖は?」

「それはそれで書類が増えるだけです」

「かー…面倒…だけども、人を雇えるワケ無いものね」


長閑な5月の、ある土曜日の午前中…

沙絵と愚痴りながら書類を仕上げた私は、沙絵に確認を任せて机に突っ伏す。


「終わったぁ…」「お疲れ様です」


沙絵が書類に手を付けて、中身を確認し始めると、丁度家の外から車の音が聞こえてくる。

私の仕事はここでは終わらず、書類がOKだったのならば、八沙と共に役所まで出向いて書類を出してくる…という所までやる予定になっているのだ。


「よぉ、どうだ?そろそろ終わったんでねぇかって思ってたんだが」


家に入ってきて、そう言いながら私の部屋に顔を覗かせた八沙は"紫髪の大男"の姿。


「今、確認中~…多分大丈夫だから、直ぐに出れるよ」


そこから直ぐに姿を変えて"入舸の人間"としての八沙に姿を変えると、八沙は沙絵の傍に歩み寄ってチラリと書類を眺めて目を細める。


「おぉ…大した書類の数ですね」

「八沙の時はもっと少なかったでしょ?」

「まぁ、でも、僕達も"更新"はありますから、結局これ位書いてるんですよね」

「そうなんだ。で…これを役所もってけばもうOKなんでしょ?」

「えぇ、漁師が1人増えますね」


そう言ってニヤリとした笑みを浮かべる八沙。

今やっている書類は、八沙が率いる神岬漁酒会に属している天狗の書類だ。


「元々働いてたから大差無いだろうけどもね」

「いやいや、人に見えるかどうかというのは大きく違いますよ」

「そういうものなの?」

「えぇ、だって船を任せられるんですから」

「なるほど…じゃ、その天狗には船を宛がう訳だ」

「そうなります。丁度1人引退なさった方が居ましてね、船が一隻余ってるんですよ」

「ふーん…」

「引退するって分かって、慌てて人化の術を教え込んで…てんやわんやしてたわけですが、これで区切りですね」

「へぇ…そういうものなんだ。なんか、裏話を聞くと呆気なく感じるね」


八沙と話している間、沙絵は黙々と書類を確認していき、遂に書類全てをまとめてファイルに入れ込む。


「沙月様、終わりました。これで問題ないハズです」

「ありがと!よっし、じゃぁ、市役所に行きますか…」

「はい、沙月様」

「行ってくるね」

「お気をつけて」


確認結果は問題なしという事で、沙絵からファイルを受け取った私は八沙と共に家を出た。

家の外に路駐されていた八沙の厳つい車に乗って市役所へ…


「この格好で乗るのは似合わないね」「確かに」


 ・

 ・


市役所での諸々は、"雇用主"でもある(という事にしている)八沙も幾つかやることがあるそうだ。

まずは私が市役所職員の担当者に対して書類を色々見せて、彼の指示に従って手続きを進め…それが終われば八沙が色々手続きをすると。


「市役所ってこういうもん?」

「んー、人として来ればもっと不親切なものですよ?評判は良くないと聞きますね」

「なるほど」

「そこは妖ですから…その手の"怖さ"を感じてるのでしょうね」


こっちまで来てしまえば、私達は最早"お客さん"も同然。

凄く丁寧というか、相当怖がられている様子を感じる。

だが、それは飽くまでも"入舸家に対しての"対応だそうで、素の対応は悪いらしい。


「まぁ、向こうは妖だと知らないと思いますが」

「そうなの?」

「もっと上の役職じゃないと知らせていません。下っ端に知らせても、隠蔽が行き届きませんからね」

「あぁ、そういうものか…」


一通り手続きを終えて、今は市役所のベンチに座って暫しの待ち時間。

ここまで来れば、私の仕事ももう終わりというものだ。


「お昼…には、ちょっと早いか」

「ですね…まぁ、沙絵が何か作ってくれてると思います」

「だね」


帰ってから何か食べに行こう…とも思ったが、午後も"仕事"があるのでそうもいかない。

だが、何となく"煮え切らない"気持ちになった私は、八沙に向けて悪戯っぽい笑みを浮かべてこう言った。


「でも、1品位さ、何か買ってかない?例えば…めんまの持ち帰りザンギとかさ?」



お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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