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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
終章:混ざり者の日々
297/300

297.何も無い日が続けば続いたで、退屈に思ってしまう。

何も無い日が続けば続いたで、退屈に思ってしまう。

ゴールデンウィークが明けて、今日から再び学校生活…

なのだけども、私は眠気を隠す事無く、授業中でも構わずウトウト船を漕いでいた。


「…!!」


寝ているかどうかの境目が心地よいと感じる今日この頃…

先生にバレない程度に黒板を眺めて板書を取りながら、ウトウト半分目を閉じて寝ていた私だったのだが、後から背中を突かれ、ビクッと背筋を伸ばす。


(もー…)


心地よさにトロトロさせていた所での衝撃。

目を擦りながら、半分だけ体を横に向けてジトっとした目を向けてみれば、後ろの席の正臣が呆れ顔をこちらに見せていた。



「そろそろ終わりだぞ?」

「え?」


小声で突っ込まれて、ビックリして前に向き直り、時計を見やれば授業終了まであと3分…

ノートを見てみれば、眠気半分でもちゃんと取っていた…と思っていたのだが、どうやらそれは夢だったらしく、ミミズが這った後の様な文字が呪文のようにあちこちに踊っていた。


「……」


唖然とする私。

そうしている間にチャイムが鳴って、授業が終わる。

挨拶の直後で正臣の方に振り返って彼のノートを奪ってみれば、どうやらこの授業のノートを、私は1つも取れないまま終わったらしい。


「…もしかして、寝てた?」

「そりゃもう、ぐっすり。起こすのも悪い位に」

「そっかぁ……」


半分くらいは起きてて、ノートを取るだけ取っていた…というのは、夢だった様だ。

私は暫し呆然とした後で、正臣の目をジッと見つめ、そしてクイッと首を傾げて見せた。


「ごめん、後で写させて?」

「沙月…また寝てたのね?」


正臣が、そんな私の言葉に頷こうとする直前。

私の後頭部がコンと小突かれて呆れ声が飛んでくる。

軽い痛みに振り向けば、穂花と楓花、そしてジュン君が私をジトっとした目でこちらを見つめていた。


「昨日だったっけ?帰って来たの」

「あ、あはは…ソウデスネ…はい」

「長旅だったので疲れてるのですが、授業中は起きて無きゃダメなのですよ」

「すいません…起きてるつもりでした…はい」


そう言いながら言い訳がてらノートを見せてみると、4人が私のノートに目を向けて…

そして一斉に爆笑し始める。

余りの衝撃…だったのだろうか?2年生に上がってクラス替えして、まだソワソワが残ってるクラスの面々が「どうしたの?」とこちらに目を向ける程…


「沙月!貴女寝ててもちゃんと勉強してたのね!偉いじゃない!前までなら…ふふふ…」

「そ、そうなのです!!…ふはっ…催眠勉強法を体得していたのです!…あははは!!!」

「ミミズみたいな字だけど…ふふ…ふふふふ…あはははははは!!!!」


大爆笑に包まれる中、私は顔を赤くして黙り込んでしまう。

何か言い返してやりたいが、悲しいかな、自分でもミミズの這った字をフォローする気には慣れなかった。


「ま、まぁ…この辺にして、食堂に行きましょ?」


ひとしきり笑った後で楓花が場を収めてくれる。

2年生に上がってからも、私達4人でのお昼は変わらないのだが…


「正臣も来る?」

「ん?あぁ、そうするかな」


1年の頃は何かがあった時位しか一緒に食べていなかった正臣も混じることが多くなった。

正臣と付き合い始めて、もうすぐ半年…この頃になれば、私達の仲はそこら中に知られていて…私達の仲を揶揄する者も居ない。


「しっかしねぇ、寝ながらでもノートを取ろうとしたのは進歩ね」

「弄ってるでしょそれ」

「えぇ、でも、まさか寝ながらノートを取る人が現実にいるなんて思わなかったわ」

「ぐ…」


ぞろぞろと食堂に移動して、定位置になった最奥の席を無事に確保して…

弁当を広げ始めて食べ始める。

その中でも、さっきの授業の私の有り様を弄られるのだが…まぁ、仕方がない事だろう。


「それで?どうだった?京都の方は」

「ん?あぁ、居心地良いままだったよ。老人介護してたけど…」

「老人介護…?」

「まぁ、こっちの話さね」


何だかんだで、この面子の場合は"色々と話せて"楽なものだ。

2年生になって、漫画研究部…都市伝説研究会の面々に捕まって色々と聞かれる事も多いのだが、彼らは"記憶がぼやかされた"人達…私の正体を半分知られているものの、この4人の様に何でも話せるというわけでは無い。


「元治の奴は元気か?」

「うん。相変わらず…あー、ちょっと正臣に似て来たかな?」

「どういう意味?」

「何て言うんだろ、如何にも剣道してます?みたいな雰囲気になったって事」

「なんじゃそりゃ…」

「何となく分かるのですよ。正臣も雰囲気出てるのです」

「剣士みたいな雰囲気ってワケね」


お昼を食べながら、他愛もない身の上話をする私達。

今日はGW明けで、私が京都に行ってきた後だから私の話が多いのだが…

そうじゃない日は、正臣の活躍だったり穂花や楓花の部活の事、ジュン君のお手伝い話などで盛り上がる事が多い。


「でもさ、良かったんじゃない?向こうも良くなって…まぁ、色々あったみたいだけれど」

「そうね。毎度毎回、京都に行く前後は機嫌が悪かったものね」

「あぁ、憑き物が取れたみたいだしな」

「まぁね。お陰で京都に行く回数が増えた訳だけど」

「修行の為なのですよ。あ、そうだ!今度沙月に京都案内をして欲しいのです!」

「案内…って、いう程案内できる場所も無いんだけど…」

「ただ京都で遊びたいだけよ。良いんじゃない?ジュンは行った事ないみたいだし」

「そうだったっけ?」

「そうなのです!高校の修学旅行も京都じゃないですし…でも、学生なら京都に旅行するのが常識だと思うのです!金閣寺!清水寺!見てみたいのですよ…」


ジュン君の言葉に苦笑いを浮かべる私。

言わんことは分からないでもないが、昔の私だったら「行くもんじゃない」といって煙たがってた様な気がする。


「ま、どこかで行こっか。流石に本家には案内出来ないけどね」


そういうとジュン君の顔にパッと笑顔が咲く。

その直後、私の隣に居た正臣が目を見開いて「ほー」と声を上げた。


「どうしたのさ」


声を上げた正臣にジトっとした目を向けてみると、彼は小さく笑う。


「いやぁ、変わったなぁって思ってさ。今に始まった事じゃないけどさ」


正臣がそういうと、穂花と楓花が「うんうん」と頷いた。


「そうね。何年か前の私に見せてみたいわ」「姉様に同じ」


2人にもそう言われた私は「ふっ」と鼻で笑うと、過去の自分の言っていたことを思い浮かべながら「あー」と腑抜けた声を上げる。

そして、気恥ずかしさを誤魔化すようにお茶をクイっと一口飲むと、ボソッと小声で呟いた。


「ま、"普通"になったって事にしておいてよ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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