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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
終章:混ざり者の日々
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296.似ている所があると言うのは、自惚れ過ぎだろうか。

似ている所があると言うのは、自惚れ過ぎだろうか。

京都の本家を訪れて、防人元を尋ね…

丸窓の外の、雅な景色を眺めながらゆったりとした時間を過ごしている。

2人そろって"騒々しい"のは苦手で…こういう景色を眺めながら駄弁るのが好きなのだ。


「申し訳ありません、中々顔を出せず今になってしまい…」

「構わんさ。目と耳は機能しておるからの。忙しそうじゃないか、高校とやらも」

「えぇ…学年が上がると、何だかんだでありますから…って、見てたんですか?」

「沙月が"見せてくる"からじゃろうに。ま、案ずるでない。"見とらん"よ。その手の興味はとうの昔に消えたからな」

「は、はぁ……」


今は、4月ももう下旬…世の中がゴールデンウィークに沸き立ち始めた頃。

ゴールデンウィークの"集い"の前に、1人先に京都へ出向いた私だったのだが…

やりたかった事と言えば、防人元との会話位。

どんな話題でもいいから、何となく彼と話がしたかったのだ。


「しかし、とんだ失敗を晒してしまったな」

「失敗…ですか」

「あぁ、鬼沙の事さ。良かれと思って好きにさせたのだが、失敗だった」

「あぁ…」

「じきに私と同じ事実に気付くだろう。そう思っておったんだがな…気付いた様子の妖は、1人もおらぬだろう?」

「そうですね。沙絵も…八沙も…周りの天狗たちも、ただ"寿命が永い"人って感じで…」

「結局、気付こうとしない限り、気付かないのか」

「それは…その、お言葉ですが…元様の頭が良過ぎただけでしょう。それに、結果的に良かったんじゃないですかね?」

「ほぅ?」

「早い段階で知れていたら、恐らく、こうしてお茶なんて飲んでいられません。私はただ、歴史の授業で言われた事しか"知りません"が、妖が"成れの果て"ではなく"進化の先"だと知れていたら…妖になった者が人々を虐げて、それはもう…酷いことになってたんじゃないですかね?」


そう言って、お茶を一口。

防人元は私の様子をジッと見据えて、フッと鼻で笑うと、小さく何度か頷いて見せた。


「それもそう…かもしれんな」

「結果オーライってヤツですよ。失敗例が鬼沙位しか居ないので、"成功"って言っても良いでしょう」

「鬼沙の奴には手厳しいな。大層慕っていたと聞いていたのだが」

「可愛さ余って憎さ100倍って言うでしょう?…お互いに…」

「…そんな奴も、今じゃ異境の何処かに居る訳だ」

「えぇ、別の姿で。でも、先代の沙月…先々代の沙月に見つかってる頃じゃないですか?」

「だろうな。それを見て、奴の怒りが鎮まる事を祈るとしよう」


鬼沙の話題すらも、長閑な雰囲気の中で交わされる。

異境の"謎"が幾つか解明される事となったこの間の事件…

鬼沙が私達防人にもたらした…というか、遺す事になった"異境の一地方地図"と"扉の製法"は、私達防人が、妖と人との境界線を護る為の重要な情報となったのだ。


「しかし…当てもなく旅する…という楽しみが少し減ってしまったな」

「それでもここに籠ってるよりマシでしょうに。どうですか?日本各地でも回ってみては」

「それも良いと思うが、とてもじゃないが馴染めないだろう」

「大丈夫ですよ、80位の翁になれば違和感ありませんから」


冗談半分の口調でそういうと、私達は呑気な笑いを交わしてお茶を一口。


「それとも、もう少し防人を続けてみますか?良いんですよ?私的には…」

「この間言ったことを撤回するつもりは無いさ。今の悩みは"老後の生活"をどうするかだ」

「……そうですか」

「残念そうだが、ちゃんと準備は進めているだろう」

「進んでいる…んですかね?相変わらず、危なくなれば"飲み込まれそう"になるんですが」

「そんなものさ。見てる限りでは、"飲まれて自我を失う"事はあるまい。勿論、夢中になって…というのはあるだろうが…そんなの、誰だってそうだろう?」

「そんなもの…ですかね?」

「そんなものさ。何かに打ち込み、それにしか目がいかない…そうならなければ、心の何処かに隙があるのさ。余裕とも言う事があるだろうがな…そういう時は得てして実力の7割も出せないものよ」


防人元は、そこまで言うと「よっ」と軽い声を上げて立ち上がった。

座ったまま、首を傾げて彼を見上げると、彼は目線だけで私を立ちあがらせる。


「少し、体を動かすか」

「稽古は勘弁願いたいのですが」

「まさか…ほれ…」


立ち上がった私の前で、防人元は自らに妖術をかけて"別人"に成り代わった。

さっき、私が冗談めかしに言った"80代位"の、おじいさんの姿…


「外に出よう。この格好なら…"構わない"だろう?案内してくれないか?」


全身が細くやせ細り、如何にも"そろそろ危ない"様な体型に見えるのだが、そうと思わせないのは"菅原道真"の姿のまま"老け切った"様な容姿をしているからだろうか。

老けても尚、凛々しくも意思を強く感じる顔…私はそんな様子の防人元を前に言葉を失っていた。


「すみませんが…外に出るのは、何年ぶりなのでしょうか…?」

「そうだな…明治と呼ばれる時代だったか、その辺りだ」

「……」


堂々と言ってのけた防人元の前で絶句する私。

いや、彼の性格や今の見た目を考えれば"面倒な事"にはならないと思うのだが…

防人元を、菅原道真を現代にエスコートする役目を任せられた…と言われて緊張しない訳が無い。


「以津真さん達には…」「適当に言い含めれば良いのさ」

「大騒ぎになったりは…」「今の私から妖力を感じるか?」


遠回しに「マジすか」と言って見せるが、防人元の意思は揺るがない。

どれだけ鍛えても"未だに体が震える"程の強さを誇っている妖力すら、綺麗サッパリ"隠された"今、私が何か言って彼の考えを覆す…何てことは期待できなさそうだった。


「先に1人で来て正解だったと思いますよ。じゃあ…私の方もちょっと着替えたりしたいので、玄関先で待ってて貰えませんか?」

「あぁ、そうしよう。庭の、大きな銀杏の木の下で待ってる。それでいいか」

「それでお願いします」


 ・

 ・


「どうですか?久しぶりの京都は」「思っていた以上だな。別世界の様だ」


京都に居るので、白髪やら"いつもなら隠す"部分はそのままに、着物から普段着に姿を変えた私は、着物を着たままの"大層な"姿をした防人元を連れ立って、京都の街中を練り歩いていた。


彼が最後に京都を歩いたのは、明治の時代というのだから…

その時代を生きた人など、もういないのだ。

姿かたちを大幅に変えた街…当時はこんなに多くなかったであろう車が行き交う光景…

それを見た感慨は、私なんかじゃ想像出来るはずもない。


「これが信号だな?赤だから…止まれと言うわけだな?」

「…なんか馬鹿っぽく感じるので勘弁してくださいね。知ってるでしょうに…」

「乗ってくれたって構わないだろう」

「勘弁してくださいって…変な緊張感で、背中が冷や汗だらけなんですよ?」


変に茶目っ気を見せられても、どうしていいか分からない。

私は周囲の奇異な視線を気にする余裕も無く、ただ防人元が"おかしなことをしないか"だけに気を使っているのだ。

耳飾り越しに"現代の常識"は知っているだろうが…それを実践するとなれば話は別だろう。


「勢いのままに外に出てきた訳ですけど…何か気になってる所とかあったんですか?」


信号待ちの間…何気なくそう尋ねてみると、防人元は大層ゆっくりと頷く。


「ハンバーガーなるものには興味が惹かれたな。ほれ、友人達と食べておっただろう?」

「……はぁ」


予想以上にフランク…というか、どうも釈然としない答えに呆れ顔を浮かべつつ、ならばと遠くに見えたチェーン店の看板を指さして、私は防人元にこう言った。


「なら、そこで食べて行きましょうか。普段私達が行ってるお店と同じですから」


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