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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
295/300

295.後始末は、私の出る幕じゃない。

後始末は、私の出る幕じゃない。

綺麗さっぱり片付けた異境での調べものや、連れ去られた学校の面々に対する様々なケア。

鬼沙が引き起こした事件によって生まれてしまった歪みを治す作業は、私の仕事では無い。

各所の手続きだ補償だなんだと、子供がしゃしゃり出て行ける場面は皆無だった。


「終わってみればあっという間だけどもさぁ…」


異境の調査に出ていた"同期組"の子供達も既にそれぞれの家に帰り…

以津真達、防人元の棲み処を護る妖達も京都へ帰っていった。

全国各地で同時多発的に起きた妖による事件…その後始末は、当地の家の仕事。

だから、後のことは母様やおばあちゃん…"入舸家の大人達"に任せれば良い。


「あっという間過ぎるなぁ…もう4月の1週目も終わりかぁ…」


とりあえずは、元の生活に戻ったと言って良いのだろう。

ヒリつく死線を潜り抜けた後特有の怠さ…とでもいえば良いだろうか?

私は自室の机に突っ伏して、怠惰に染まり切って無駄な時間を過ごしていた。


「おねえちゃん!!!」

「はいはい…何かな?」


今、家に居るのは私と、異境から連れ帰って来た獏のみ。

沙絵や以津真曰く、彼女は獏と呼ばれる種族の子供で間違い無いらしい。

親がどうとかその辺は不明点が多かったものの、まだまだ子供であり、人に化けられ、人に対して友好的であることから"こっち側"で暮らしても問題ないとの判断で、彼女の身の振り方が決まるまで一旦家で預かることになったのだ。


「のどかわいた!!!」

「喉が乾いた…分かったよ」


獏の生態とか言い出すと、なんか愛玩動物みたいな感じに聞こえてしまうが…

人型になった獏は、"夢を食べる"以外の部分について概ね"人と似ている"らしく、食べ物や飲み物は"こっち側"の物を与えて構わないとのこと。

つまりは…暫くの間、家に人の子供が1人増えた様なものなのだ。


「何か飲み物あったかなぁ…」


獏を連れて自室を出て、台所に行って冷蔵庫をパカッと開ける。

すると、中身は見事なまでに空っぽで、その様子を見た私は「あー」と乾いた声を上げた。


「水道水…は味気ないよなぁ…」


水も飲めるからそれでもいいのだけども、期待感満点の眼差しを向けられている今、とてもじゃないが「水で我慢して」なんて言えるはずもない。

獏をじっと見つめてみると、彼女はパッと見"日本人の5歳位の子供"にしか見えない。

私は彼女をジッと眺めて「はぁ…」と小さく溜息を付くと、彼女の前にしゃがみ込んでニコっと笑顔を浮かべて見せた。


「飲み物無かったからさ、外でて買ってこよっか」

「え?おそと!?行く行く!!行きたい!!!!」

「だから、ちょっと準備しよっか。外に出る為の」

「うん!!」


 ・


「あ!!沙月が居るのです!!」「え?嘘!?」


身なりを"外向け"に整えて、着物姿だった獏には子供の頃の私服を着せてやって…

手を繋いで家を出た私達は、藤美弥神社の所で声をかけられた。


「ジュン君…どうしてここに?」

「家の手伝いの帰りに寄ったのです。沙月もって思ってたのですが留守だったみたいで…」

「そうね。沙月の家に行ったらもぬけの殻で、何かあるのかしらって思ってたんだけど…」

「そ、そうなんだ。ま、まぁ…何かあったんだけども…さ」

「みたいね。それで、そっちの子は…?」

「あー……」


まさかこのタイミングで会うとも思わなかったので、どう説明しようか口ごもってしまう。

正直に言っても良いのだが、そうなると"この1週間"の間にあった事も話さねば色々と説明し辛く…どうしたものか。


「ちょっとワケあって預かる事になってさ…」


考えをまとめ切る前にそういうと、3人の視線がジトっとした物に変わった。

よくよく考えてみれば、ここ数日、皆からの連絡に何も返していなかった気がする…

勿論"何かあってそれどころじゃなかった"からなのだが…私は引き笑いを浮かべたまま3人を見て首を小さく傾げると、穂花と楓花に向けてこう尋ねた。


「あー…お菓子とジュースとか…あったりしない?」


 ・


「それで、この子が別世界から来た…って子なのね?」

「うん」

「獏…へぇ…聞いた事無いのですよ」

「聞いた事…あったかなぁ…でも、こうしてみると人の子ね。ほーら、こういう玩具、好きじゃない?」

「好きー!ありがとう!!」

「どういたしまして」


藤美弥家にお邪魔して、とりあえず獏にはジュースとお菓子と、昔遊んでいた玩具で大人しくしてもらい…私は3人にここ1週間の出来事を話して謝った。

「もう大丈夫」なんて言った直後に、こんなことになるなんて…私ですら思ってもみなかった事だったのだが…「もう少し気を付けててね」と言い含めておくべきだったのだ。


「それで?もう沙月の出る幕は無いのかしら?」

「そうだね。問題の根源は経ったから家の人間は暫く忙しいだろうけど…」

「そう、でも、正臣が心配ね…勿論、攫われた皆もだけど」

「うん…その辺は沙絵達に任せるしかないんだけどね。記憶を上手くボカシて"元に戻す"事が出来るから」


申し訳なさがある一方で、こうして誰かに話すことができると気分が楽になる。

頭の整理にもなって…本当、この3人には感謝してもしきれない。


「だから、当分は親も沙絵達も帰りが遅いから、この子と2人暮しみたいなものかな」


一通りの説明が終わった所で、私達から離れて人形遊びに興じる獏の方をチラリと見やる。

すると、3人は「え?」という顔を浮かべた。


「どうしたの?」「どうしたのって…沙月…」

「問題アリアリなのですよ。明後日から学校なのです。高校2年生スタートなのですよ?」


何の気も無く尋ねれば、ジュン君に、思いっきり忘れていた事実を突きつけられる。

ポカンとした顔を浮かべあんぐりと口を開けて固まると、3人は一斉に呆れ顔を浮かべた。


「学校行ってる間どうするつもりなのよ」

「考えてなかったけど…んー、八沙辺りに預けるしか無い?いや、八沙は家の仕事か…」

「抜けてるのですよ…この子、見た感じ幼稚園とかに居ても変では無いのです」

「留守番は無理ね」

「参ったな…あ!ジュン君の所の天狗!どうだろう?頼めそう…?」

「あー…お姉さんですね。帰ったら聞いてみますね」

「とりあえずお願い!こっち側の都合は何とかするから…」


やはり3人と喋ると色々と"助かる"ものだ…

私はまだ問題が片付いていないながらも、ホッとした顔を浮かべて脱力すると、部屋の床にゴロンと寝転がる。


「お疲れの様ね」「そりゃもう…良いだけ動いた後なんだからさぁ…」


楓花の言葉にそう言ってみれば、寝転がった私の顔を3人が覗き込んできた。


「でも、頼もしい顔してるわね。ダラダラしてるのに、なんか不思議な顔…」

「そうなのです。やつれた感じも無くて、こう…清々しい顔してるのです…」

「ひょっとしたら、将来防人の中でも結構なお偉いさんになるんじゃないかしら?」


3人の言葉を受けて、僅かに引きつった笑みを見せる私。

"その辺りの事情"まではこの3人に話せる訳がないが、そんな中でも"答えに近づける"辺り、彼女達の勘がいいのか私がしっかりと変わっていけているのか…


とりあえず"良い方向"に彼女達の言葉を受け止めてニコっと口元を笑わせると、私は気の抜けた声で3人の言葉にこう返した。


「好き勝手言ってくれちゃってぇ…でも……その、ありがとね」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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