293.すりおろしにしてやるには、ちょっと目が粗いかな。
すりおろしにしてやるには、ちょっと目が粗いかな。
足場になっているモニターの残骸を見て、私は口元を下品に歪めた。
目の前には、血に濡れた鬼が鬼の形相で私を睨みつけているが…まだ、動く気配が無い。
「せめて、私にかすり傷一つ負わせてみるんだね」
クイックイッと掌を動かして煽ってやると、遂に鬼沙がゴミの山から動き出す。
さっきまでの様に"地面を蹴飛ばせない"せいで、その動きは緩慢にならざる負えないが…
それは、受ける私も同じ事。
ガチャン!ガシャン!とこちらへ向かって来る度、足で踏み抜いた箇所が崩れ落ちていく。
私はその様子をジッと眺めながら、逃げもせず鬼沙の到着を待ち構えた。
「……」
鬼沙の足が、間合いの中にある大きなモニター残骸の上に乗る。
その残骸は、さっきまでと同じように崩れることなく、鬼沙の体重を全て受け止めた。
「コノォ!!」
刹那。
鬼沙が私を目掛けて拳を振るう。
乱雑に振るわれた一発。
ヒョイと身を後ろに倒せば拳は空を斬った。
「……!!」
大振りな一発…
それを躱した私の眼前で、鬼沙の骨が折れる音が聞こえる。
その音が、無理な姿勢から拳を放とうとしている音だと気づいた瞬間。
「くっ…!」
思いがけない姿勢から放たれた左の拳が、私の眼前に迫って来た。
姿勢をズラしたせいで、躱すのは不可能…
嘲る笑みを浮かべていた表情が僅かに引き締まり、拳を受けるために手を体の前に出す。
一閃。
鬼沙の体重が乗った拳が両掌にブチ当たり…私の体はいとも簡単に宙に舞った。
「っと…っとぉ…!」
まともに受けるのではなく、敢えて後ろに飛んで勢いを殺す…
とんだ先の残骸が崩れる様なら"運が無かった"と言えるだろうが、そんなことはなく、私はモニターの残骸の上に着地してコキコキと肩を鳴らして見せた。
「危ない危ない。でもこれで、準備運動は終わりかなぁ?」
ジンジンと痛みを発する手を擦りながら軽口を一つ。
鬼沙はその軽口に何かを返してくる事無く私を殴り飛ばした位置に留まり、おかしな方向に折れた足腰の骨をゴキッ!と鳴らして元に戻す。
「完璧に怒っちゃったか。良い。良いよ鬼沙…やっぱりその姿が似合うね」
さっきまでの腑抜けた姿とは違う、鬼沙らしい妖気。
怒りに全身を震わせて、無言になった鬼沙から感じる狂気にも似た妖気を肌で感じながら、私は楽し気な笑みを浮かべた。
「良い…その姿でないと…"殺し甲斐"が無いってものさ!」
今度はコッチの出番だ。
トン!と足場にしていたモニターから飛び出し…
トン!トン!と軽い動きで残骸の山の上を適当に飛び回る。
翼が無くとも"軽さ"と"脚力"が有れば、このフロア程度、十分自由に飛び回れるのだ。
残骸の山を飛び回り…遂には壁をも蹴飛ばして高度を上げていく。
鬼沙を眼下に捉えられる様になった今。
彼の眼はまだまだ私を捉えられている様ではあるものの、動きに翳りが見えていた。
まだまだだ…
ドン!と残骸の山や壁、フロアの天井すらも蹴飛ばし、手で押して鬼沙の周囲を飛び回る。
鬼沙の周囲360度をくまなく飛び回り、鬼沙の視界を1点に集中させまいと動き回る。
「!!」
その内に、鬼沙の視線が"私以外"を捉える様になった。
思った通り、私の動きに付いてこれなくなり…
何処かに止まった時の、私の残像を見ているのだ。
だが、まだまだ。
私は鬼沙の視線をジッとみながら適当に飛び回って残像の数を増やしていく。
鬼沙の顔…怒りの中に、困惑の色が混じってくる。
それでも、まだまだ…鬼沙の視界を私に染め上げてやる。
じっくり時間をかけて飛び回り…
フロアの中を雑多に飛び回って、鬼沙は既に私の"本体"を捉えていない。
適当な方向に体を向けて、私を探している様だ。
ここまでやれば、どんな馬鹿でもやろうとしていることが分かるだろうから…
(忍者みたいだねぇ…影分身って)
今やっていることは、正に影分身そのもの。
だけど、本来の目的はソレじゃない…別に、鬼沙に"捕捉"されたって構わない。
(あともう少しかな)
全身に感じる強風…速度から、まだまだ"上げられる"と踏んだ私は更に足に力を込めて速度を上げていく。
フロアの中は、私の働きによって渦の様な風が生まれていて埃が舞い散っており…
そのせいで、鬼沙が私を捕捉するのを更に難しいものにしていた。
(埃っぽいなぁ…)
強風、舞い散る埃は私にも悪影響があるのだけども。
そんなことを、最早気にする私ではない。
「!!」
感じる風の音が、轟音に変化した頃。
私の五感が"GOサイン"を出してくる。
(ここまでやれば、十分だろうさ)
拳を握りしめながら、私は決心を固めた。
昔、鬼沙によく握られていた左手…
それをギュッと固めて身構えて、私は遂に"鬼沙の眼前"に飛び込んでいく。
「チィ…!!」
鬼沙の眼前…飛び回っても"そこには"向かわなかった。
だから、鬼沙は、目の前に現れた私に気付いて悪態をついたんだ。
だが、もう遅い。
(シネェ!!)
言葉も出さず、目を剥いて緑色に光った瞳を鬼沙に向けた私は、拳を振るう。
人の作り出せる勢いを大きく超越した、デタラメな勢いに合わせた左ストレート。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その一撃は、鬼沙の分厚い胸板を易々と突き破り…
鬼沙の心臓は、一瞬のうちに鬼沙の体外へと飛び出て…
私はそれを左手でギュッと捕まえた。
「言っただろう?」
溜めていた速度が、一瞬のうちに0に近づく。
速度が生み出した力に、私の体も只では済まないのだが…
こうなった今。誰も私を止められないだろう。
「脳みそをすりつぶして、心臓を潰す。終わりだよ、鬼沙」
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