292.さぁ、第二ラウンドと行こうか。
さぁ、第二ラウンドと行こうか。
傷が完全に塞がれて…有り余るほどの妖力をみなぎらせた鬼沙が"戻ってきた"。
絶叫を上げてのたうち回っていた数分間…ジッと眺めていた甲斐があったというものだ。
「随分と掛ったじゃないのさ」
ジャブを打つように、ヒュン!ヒュン!と風を切り裂く"素振り"をしながら話しかけると、回復して再び私の方へと視線を向けた鬼沙はポカンとした顔を浮かべた後、ニィ…と悪意に満ちた表情を浮かべる。
「自信過剰も良い所だぜ沙月ィ…」
「自信満々だからさ。"このカッコで十分"ってね。人の手足で十分殺せるさ」
絞り出すように放った言葉…怒りに震えた鬼沙の声に、軽い調子で返す私。
今一度、ビュン!と風を切り裂いた素振りを見せた後…
ピタッ!とパンチを放って構えたままの状態で動きを止めると、前に突き出した拳を開いて鬼沙の方に掌を向けて…
「違うっていうなら、その腕で示してみなよ」
クルリと掌を返して、クイックイッとジェスチャーをして見せる。
「あぁ、たっぷりと後悔させてやらぁ!」
元気を取り戻した鬼沙が我慢できるのは、"ここまで"の様だった。
ドン!と地下が揺れる程の強さで床を蹴り出し私との距離を瞬時に詰めると、さっきよりも1段も2段も早い動作で鬼沙の拳が飛んでくる。
「!!」
私の眼ですら、僅かにブレて見える速度。
でも、目で捉えられないわけでは無い。
僅かに目を見開きながらも、右に左に飛んでくる鬼沙の拳を躱すと、お返しに1発。
「ぐっ!」
攻撃の隙を縫って放った拳は、鬼沙の口元を砕いて前歯1本を砕いて見せた。
唾と血が舞い、鬼沙の動きが一瞬鈍る。
「……!」
そこから一気に攻めたてて…右頬、左頬に1発ずつ食らわせる。
そこから一歩踏み出すと、同時に右の拳を鬼沙の顎下から上の方へ一気に打ち抜いた。
「がぁっ…!!!」
フワリと宙に舞う鬼沙の体。
彼が乱暴に振るった腕は私の"居た"場所を通り抜け…
彼の腕を潜り抜けて距離を詰めた私は彼の鳩尾を目掛けて一直線に拳を打ち抜く。
「ヒュ~…」
拳に、鬼沙の肋骨数本が"砕けた"感触が伝わって来た。
僅かに浮いた鬼沙の体は、骨が砕けた音を置いてモニターの方へと吹き飛び…
数瞬の後、派手な"破壊音"と共にモニターがズラリと並んだ壁に叩きつけられる。
「ブラウン管モニターなんて使うからそうなるのさ」
鬼沙が叩きつけられた衝撃は凄まじく…
壁一面を埋め尽くしていた古いブラウン管モニターの殆どが派手に砕け散って、ガラスの破片が鬼沙と共に床へと降って来た。
「お?」
その様を見てニヤリと笑う私だったが、ピリピリとした"嫌な音"に気付いてトン!と地面を蹴飛ばす。
エレベーター前まで"避難"して…エレベーター前に敷かれたマットの上に着地した刹那。
壁に掛っていたブラウン管モニターを支えていたフレームが折れて倒れ始め、鬼沙の上に降り注いだ。
「……!!!」
ドドドドドド…と、地鳴りのような音と共に崩れ落ちるフレーム。
壁に残っていたブラウン管モニターごと崩れ落ち、それらが鬼沙の姿を隠していく。
「……………」
床に落下した後、中に貯めていた電気だろうか…?
それらが一気に放電したのか、派手な雷鳴を鳴らして真っ黄色に光り…
私は思わず腕を眼前にかざして"想定外"の被害を眺めていた。
「このゴムマットが敷かれてなきゃ、絶対感電してたでしょ」
一通りの惨劇が落ち着いた後。
静まり返った地下フロアでボソッと呟く私。
さっき以上の静寂具合に周囲を見てみれば、エレベーターや空調までもが止まっていた。
どうやら、今の衝撃でビルの電源がイカれたと見て良いだろう。
「帰りは階段、か…」
エレベーター横の非常階段の扉を見て、面倒くさそうな表情を浮かべた。
地下は深かったはず…地上に出て、そこから屋上までとなれば、相当な手間だろう。
「ま、まだ階段は使わないけどもさ」
"被害状況"を確認した所で、鬼沙の"埋まっている辺り"に目を向ける。
この程度のダメージで鬼が死ぬはずがない。
そう思ってジッと目を向けていると、やがて廃材と化した残骸の山が蠢き始め…
その蠢きをジッと見つめていると、ある所で急に"山が崩れた"。
「電気を使ったマッサージにしては、ちょっと強すぎたかな?」
鬼沙の姿を見て…彼が"ピンピン"していることを確認した私は、再びフロアの方へと足を踏み出し、ゴミ山の上に登っていく。
「いやぁ、丁度よかった所さぁ。まだ、目が覚めて無かったもんでなぁ…」
足場が不安定になった地下フロア。
適当に平らな所を見つけ、その上に立ち止まって鬼沙を見やれば…
鬼沙は上半身が裸と言える位に"スーツが破れた"姿をこちらに晒していた。
「お前もどうだ?」
「いやぁ、御免だね。こう見えても女なのさ。そうなるのは…ちょっとね」
細かな擦り傷や感電して出来たであろう火傷によってボロボロになった素肌を見ながら、鬼沙の冗談を返してやる。
こうなってしまえば、不安定な足場の上…
さっきまでの様な殴り合いをするにも、少々都合が悪くなってしまった。
「場所を変える?」
「いや。このビルはな、お前の墓標にするつもりなんだぜ」
「そう。なら、このままで」
律儀に確認を取って、再び両手を構えて向かい合う私達。
不安定な足場…周囲の"状況"を注視しながら、視線を交わらせての"睨み合い"が始まった。
「……」「……」
僅かに足を動かして、足場の様子を確認する。
鬼沙は革靴だが、私は"素足"なのだ。
少しの破片ですら"突き刺さる"状況…決して、良い状況とは言えない。
「良いんだぜ、足だけ戻しても」
「御心配どうも…でも、このままで"十分"だ」
足を気にする私を見て、鬼沙が声をかけてくる。
その声に素っ気ない反応を返すと、私は足に力を込めて残骸の山を少し崩して見せた。
「……」
ちょっとの力で崩れ落ちる残骸…
こんなんじゃ、足を変えた程度でどうにもならない。
「崩れやすくて仕方がないね。でも、妖一匹埋めるには丁度良いか…」
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