291.悪に染まり切ったと言えれば、断罪するのは簡単だろう。
悪に染まり切ったと言えれば、断罪するのは簡単だろう。
だが、考えなんて人それぞれで…善悪の"基準"なんてものもその時々だったりするものだ。
だから鬼沙を"殺した"後で…将来的には、彼が正しかった…何てこともあるかもしれない。
「ホント、弱くなったナァ…?オニサ…?」
頭の中にグルグルと蠢く"迷子の思考"に苦笑いを浮かべつつ…
私は鬼沙の周囲をフヨフヨと宙を漂いながら、彼の事を煽り散らした。
「まだ、ワタシには、キズ一つ…ツイテナイ。汚れてるノハ…お前達の血肉サ」
宙に居る限り、鬼沙は簡単に手を出せない様だ。
当然、彼が空を飛ぶなんて芸当が出来ないからなのだが…
鬼沙はそのうちに、私から視線を逸らして、フロアの"壊れた"部分に目を向けてピクっと頬を動かした。
「お?」
立ち尽くしていた鬼沙が、再び床を蹴飛ばし動き出す。
一歩二歩三歩…ドン!ドン!と地鳴りが聞こえる程に力強く足を蹴りだし、勢いをつけて向かった先はフロアの隅。
廃材をジャンプ台にして、壁を蹴り上がって高さを稼ぎ…遂に彼は私と同じ目線の所までやってきた。
「ほぉ~」
その様子を嘲る顔で眺めていた私。
そんな私の元に、凄まじい速度で"飛んできた"鬼沙の拳が迫ってくるが…
今の私には、鬼沙の行動すらも止まって見える。
「……」
ヒョイと、彼の勢いを殺さぬように右手を薙ぎ払うと…
鬼沙は血飛沫を上げながら私の横を通り抜けて行って、床へと墜ちて行った。
「所詮、元は人なんだからさぁ…首筋を斬られたら"コト"だよなぁ?」
ニタニタしながら鬼沙を嘲笑う私。
床に着地した彼の周囲には、噴き出した血が水溜りを作っていて…
首元には、私の爪によって酷く抉れた傷が見える。
普段の状態であれば、その程度の傷は"かすり傷"といってまだまだ動けるはずなのだが…
見ている限り、鬼沙は"その程度の傷"で死にかけてしまっているらしい。
「しっかし、まぁ…この空間は"水が合う"な」
翼を羽ばたかせながら高度を下げて床に降り立つ私。
私に背を向け、息を荒くしている鬼沙の後ろで、私は"ピンピン"した体を適当に動かしてニタニタとした下種な笑みを浮かべると、鬼沙の様子などお構いなしに、彼の背中から語りかける。
「どこの世界でも同じだろうさ。空気の合う合わないってのはあるものでね?鬼沙、アンタはやっぱり、"この異境"の水には合わないんじゃないかなぁ?どうだい。実感はあるか?」
カシャカシャと手の爪を擦り合わせて、爪に付いた鬼沙の血肉を削ぎ落し…
床に足を擦り付けて…足の爪に付いた、血と臓物の破片を拭った私は、自らの体に妖術をかけて、獣の様に変化した体を"人間"に"戻して"鬼沙がこちらに振り返るのを待ち構える。
「沙月…テメェ…舐めやがって…」
「今の鬼沙には"この体で十分"って事さ。弱っちぃからねぇ…ツマンナイよ。こんなの」
苦しそうな声色で唸り声を上げながら、こちらを振り返った鬼沙。
そんな彼は既に血みどろで…弱った鬼程、"簡単な相手"は居ない。
煽れば煽るほど、彼らの行動は単調になるものだ。
私は更に鬼沙を"怒らせる"為に、貼り付けていた嘲る顔を更に深めて中指を突き立てた。
「雑魚をただ殺すんじゃあ、ツマラナイからなぁ…」
口から零れたのは、私の本心。
「何処までも惨たらしく、未練がましい泣き言を喚いてる鬼沙をこの目で見てから、じっくりと嬲り殺してやりたいのさ」
緑色の眼を光らせて、芯まで"妖"に染まった思考で告げる言葉。
「ねぇ、"お兄ちゃん"?」
こんなにも"弱っちい"鬼沙では困るのだ。
こんなのを殺しても、私の気が済まない。
"向こう側"の人妖全てに畏怖されていた姿を取り戻してもらわねば。
「裏切られた女の恨みがどれほどまでに深いか…知らないでしょ?」
そう言って、私は着物の袖から黄紙の呪符を取り出すと、鬼沙の足元へ放り投げる。
「……テメェ」
「使いな。前に京都で助けてもらった時の借りを返すよ」
歯軋りする鬼沙にそう言うと、私は動きを見せない鬼沙の元へ歩いていく。
「今、私はねぇ…"嫉妬"してるのさ」
鬼沙の傍までやってきた私は、呪符を取ろうとしない鬼沙に変わって呪符を拾い上げて、それを鬼沙の目の前に掲げて見せた。
「どんだけの妖が混じってるんだか…鬼に妖狐に、妖鳥ときて…この嫉妬心は橋姫か?どんだけ節操無かった家なんだかねぇ。どおりで妖が周りに多い訳だ」
ブツブツと呟きながら、手にした黄紙の呪符に念を流し込むと…
それを、こちらを睨んだままの鬼沙の額に貼り付ける。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
額に貼り付けた刹那。
私の妖力を流し込まれた鬼沙は言葉にならない絶叫を上げて悶え苦しみ…
その場に蹲って苦しみ始めた。
「良い声で鳴けるじゃないのさ」
傷だらけの体中から煙を噴き出しながら悶え苦しむ様…
その様を見て、嗜虐心をそそられた私は、ニタァと下品な笑みを浮かべる。
「1枚じゃ足りないなら、まだまだあるよぉ?後、3枚位貼ってみようか」
見る限り1枚だけでも傷は塞がっている様だったが…
私はちょっとした悪戯心を燻ぶられて、袖から3枚、黄紙の呪符を取り出すと、念を込めて鬼沙の額に貼り込んでやる。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
遠吠えにも似た悲鳴が湧き上がった。
黄紙の呪符…妖にしか扱えない、"とっておき"の呪符。
酷い傷すら治してくれる万能な呪符を4枚も貼り付けられた鬼沙の体は、急激な速度で傷が癒えていく。
「いいねぇ、いいねぇ…弱っちかった妖気すら…回復してるみたいじゃないか」
勿論、痛みが無いなんて事は無い。
悲鳴を上げて悶え苦しみ、床を這いずり回って転げ回って…
あちこちに体をぶつけて足掻きながら、鬼沙の体は煙を噴き出し急速に"回復"していった。
「ねぇ、お兄ちゃん?万全になるまで待ってあげる」
苦しみながら回復していく鬼沙の姿を見て、ニヤニヤしたまま"回復を待つ"私。
適当に手足をブラブラさせて"慣らし"はするものの、再び鬼沙がこちらを向くまで、何もするつもりは無い。
互いに万全な状態で…ステゴロの一騎打ちでケリを付ける。
そう決めていたのだ。
「あと少しでしょう?あと少し待てば…最高の時がやってくる。その時まで、待ってあげるからさぁ…?」
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