290.さぁ、鬼退治と行こうか。
さぁ、鬼退治と行こうか。
エレベーターが開き、私だけが地下階のフロアに降り立つと、鬼沙は目の前に佇んでいた。
「あんな子供すら使うだなんて、頑固一徹…正直者の鬼も地に墜ちたもんだねぇ」
私に背を向けて、眺めているのはフロアの向こう側…
壁いっぱいに広がるモニターに目を向けたままこちらを向かない鬼沙に話しかける。
地下フロアの広さはそれほどでも無く、少々大きな体育館程度。
鬼沙は私に話しかけられても反応を見せず、1つのモニターをジッと凝視していた。
「どれだけ、あの世界が嫌かは知らないけれどもさ。結局コピーを作ってるじゃないの」
鬼沙が凝視しているモニターは、私の斜め上にあるカメラの映像を映している。
私はそのカメラに目を向けず、鬼沙の背中をじっと見据えて話し続けた。
「妖に掟なんか要らないって言っても、この様なら…結局向こうの"劣化コピー"にしかならない掟が出来て、グダグダになるだろうねぇ…さっき殺した連中、どうも人っぽくないと思ったんだけど、この異境に居た連中だろう?それを駒にして動いてたわけだ…」
カシャカシャと爪を擦り合わせながら…
エレベーターを降りた付近から動かずに、話し続ける私。
鬼沙はそんな私をモニター越しに見てピクリとも動かずに、上質なスーツに身を包んだその体を、僅かに震わせているだけ…
「鬼沙はどこまで行っても"向こうの住人"なんだ。思い知っただろう?異境の妖の異質さを。そして…この状況になってやっと、鬼沙自身の考えに矛盾すら感じてる。そうじゃない?だから、私をここに呼んだんだ。違う?違わないでしょ?彼らには"帰属意識"が無い。それを醸成するのは今からじゃもう遅い…カメラ越しに見ていて、そう思ったはずさ」
淡々と私らしい口調で鬼沙の背中に語り続けると、彼はようやくこちら側を振り返った。
「正臣は今、夢の中の世界に居るらしいね。あの子…獏が言ってたよ。何も、鬼沙に囚われてるワケじゃあなかったんだ。しかし凄いね彼女。鬼沙の夢を見て、異境をこんな風に変えるだなんてさ。大した妖も居るもんさ…そして、それを悪用しようとしたアホもいると…」
鬼沙がこちらに目を向けても尚、私は怯まない。
鬼沙から感じる妖力は相変わらずだが…何故だろう?負ける気がこれっぽっちも無かった。
「さて、そろそろ仕事にかかろうかな。迷惑をかけられたからねぇ…それ相応の"代償"を払ってもらわないと。"隠されるだけ"だと思うなよ?鬼沙…私は、今から、お前を殺す」
声色を変えずに告げる死刑宣告。
こうして、異境の妖が"こちら側の世界"に気付いてしまった事…
異境に隠しても、"こちら側の世界"に来てしまえる状況を作った事。
防人の在り方を"変えてしまう"程の事をしでかした鬼を、生かしたままにしておくつもりは、これっぽっちも無い。
「ま、殺すと言ってもねぇ…どうなるかは、死んでから気付くだろ」
反応が無い鬼沙の前で、私は自らの言葉の矛盾を笑い飛ばすが…
鬼沙には、"そんなこと"すら分からないだろう。
妖になってしまったという事は、異境で永遠を過ごすと言う事。
それを思い知るのは、死んで"再誕"してからでも遅くはない。
「脳みそすり下ろして、心臓を潰せば…流石の鬼でも死ぬだろうなぁ?」
「言うじゃねぇか、沙月。中枢に入り込んで自信過剰にでもなったか?」
カシャン!と爪をすり合わせて言えば、ようやく鬼沙が言葉を返してくる。
彼の顔は既に真っ赤になっていて、今にも飛び掛かって来そうな気迫を感じたが、私はその言葉に笑みを返して首を傾げて見せた。
「試してみればいいさ!」「なら、試してやる!」
売り言葉に買い言葉。
ドン!と床を蹴飛ばした鬼沙が私に向かって飛んでくる。
一閃。
私はその場から動かず腕を払うと、鬼沙の体に5本の爪痕がこびり付き…
着ていたスーツが破れて、中に隠れていた体が露出した。
「止まって見えるぜ鬼沙…」
腕を薙ぎ払っただけ。
それだけで鬼沙の軌道が削がれて、鬼沙の体から血が噴き出る。
彼はその事実を受け止め、驚いた顔を浮かべていたが…
私は心底つまらなさそうな顔を浮かべて首を傾げていた。
「私が強くなったんじゃない。鬼沙が弱くなっただけの話さ。心も、体もねぇ…?」
驚き顔の鬼沙にそう言った私は、足の爪で床を抉って鬼沙の方へ飛び出していく。
ヒュン!と風を切り裂く音を立て…先程妖数体を切り裂いた時と同じ低空飛行…
鬼沙の元へと飛んで行き、鬼沙の体目掛けて腕を振るうと、鬼沙は咄嗟に腕を出して私の切り裂きを躱していく。
右手で繰り出した斬撃を左手で受け流し
左手で繰り出した斬撃は右手と体の捻りで受け流してみれば…
回り蹴りを両手で受け止められて、鬼沙にヒョイと弾き返される。
「鬼沙ァ、準備運動にはなるだろう?」
「…あぁ、テメェを打ち抜く為のなぁ!」
一度距離が開いたところで煽りを一つ。
鬼沙は私のスピードに驚いた様子を見せつつも、怒りの方が勝っているらしく、顔を真っ赤に染め上げて私の煽りに怒鳴り返してきた。
「なら、も少し準備運動させてやるサァ!」
そう返して、再び間合いを詰めれば…
今度は鬼沙も"打ち返して"くる。
右手を出せば鬼沙の体が捻られて空を斬り…
そのお返しにと彼の左手が飛んで来れば、私の左手がそれを受け止め弾き返す。
爪が鋭いせいか、鬼沙との殴り合いをしている最中、鬼沙の手や腕が爪に割かれて血を噴き出したが、彼はそれに構うことなく私に大して乱雑に拳打を打ち込んできた。
「よっ!」
殴り合い…そこに隙が出来ればすぐさま足を蹴りだす。
ストレート2発を軽く躱した私は、蹴りを繰り出して鬼沙の腹部に爪を突き立ててやった。
「ぐぅっ!!」
結果は腹部にクリーンヒット。
猛禽類ソレの様に"尖った"爪で腹部を抉られつつ吹き飛ぶ鬼沙。
血と臓物の一部をまき散らしながら吹き飛んだ所に、追い打ちをかけんと床を蹴飛ばし飛び掛かったが…
「畜生めぇ!!!」
鬼沙の胸を抉らんと伸ばした手は、鬼沙まで僅かに届かなかった。
そのせいで、逆に鬼沙に掴まれて、私は自らの勢いを活かされて…
クルリと1回転した後、モニターの方へと投げ飛ばされてしまう。
「!!!…っとぉ!!!…危ない危ない」
宙に浮いた私は、モニターに激突する寸前に姿勢を整え翼を広げて宙を舞って難を逃れる。
鬼沙はそんな私を睨みつけて分かりやすく悪態を付くと、私はニタニタと笑みを浮かべてモニターの前、鬼沙が据わっていた机の上にゆっくりと降り立った。
「まだ腹が割かれただけだろうに顔色がおかしいねぇ。この間なんか、私は眼も腕も捥がれてたんだよ?それに比べれば"くっ付いてるだけ"マシってもんさ!」
煽りを入れながら、鬼沙の血肉で汚れた爪を重ね合わせてソレらを削ぎ落すと、鬼沙の表情は更に険しく、正に鬼というにふさわしい顔に変わっていく。
「やれるもんならやってみな。私を殺してもお前に待ち受けるのは無様な破滅だけだぜ!」
そう言って翼を広げて見せて…鬼沙にハッキリと決別宣言を突きつけてやった。
「鬼沙ァ…私は防人の長になる。防人を人と妖の間に立つ"調停役"にするんだ。だから、私はお前の元に行く気は無い。ここでお前を殺して、また"一時の"平和を愉しむとするさ!」
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