286.何を求めているのか、何となく透けて見える様な気がした。
何を求めているのか、何となく透けて見える様な気がした。
廃トンネルから繋がる異境の世界は、まだまだ"建設当初"といった感じ…
だが、そんな中でも、このビルにはさっきまで居た異境と同じ"雰囲気"があった。
沙絵には昔懐かしいであろう、1980年代の感じとでも言えばいいだろうか?
懐かしくも新鮮で、どことなく"危険"な香りがする"チャチ"で"狭く"、"アバウト"な作りをしたビルの内装から、鬼沙の趣味が透けて見える。
「さっきの女の子も、妖と見て良いんですよね?」
「あれが迷い子なら大した子供だろうさ。あの妖気を感じなかったの?」
「冗談ですよ。ただ…あの態度が、"演技"にしても子供らし過ぎて…」
「子供の妖って事?」
「恐らくですが…」
「そうなら、末恐ろしい子供だね」
ビルの中…ガラス窓が規則的に付けられた廊下を歩いていく私達。
窓から見渡せる限り、外は漆黒の闇に覆われていた。
闇と言ってもビルが建っているのだし、地面はあるのだろうが…"試す気"にはなれない。
そんな光景を横目に見ながら、私達はエレベーターホールの様な所までやってくる。
「端にエレベーターがあるって珍しくない?」
「そうでも無いんじゃないですか?気にしたことが無かったですが」
「そう」
エレベーターが4基ある小さなホールで、上から見れば"左端"と言えるだろうか。
ビルの周囲を廊下で繋ぎ、長方形の短辺側にこうしてエレベーターホールがある構造。
そうなれば、中側の部屋には窓が一つも無い構造…というわけなのだが、そこに何があるかは、階を降りて確かめねばならない。
ここは屋上から1つ降りた階で、廊下とエレベーターホールしかない特異な?もしくはまだ"作り込まれていない"階層なのだ。
「エレベーターで降りていくのもどうかと思うけど」
「ですが…とりあえず、何階建てかは確認しませんか?」
「あぁ、それは賛成」
沙絵の案に乗って、とりあえずエレベーターを呼び出してみる。
すぐに古めかしい電子音と共にエレベーターがやってきて扉が開き、中に入った私達は、スイッチを確認してこのビルが何階建てなのかを確認した。
「12階ですか」
「プラス屋上だね。地下は…無しってことで良いのかな」
「あっても電気設備じゃないですか?現実基準で行くならば…」
「そうしておこうか」
古い内装のエレベーターから出てきた私達は、空気を運ぶ為に扉を閉めたエレベーターを見送ると、ホールの隅にあった非常用階段の方へと向かい、そこから下へと降りていく。
「音が響くなぁ…」「そんなものでしょうよ」
何が出て来るか分からない異境の中。
出来れば密かに行動したいものだが、そうはいかないらしい。
作りの粗末な鉄階段になっている非常用階段をゆっくりと降りていき、1階分降りたところで再びエレベーターホールの方へと出て行った。
「さて、何が出て来るかねぇ?」
そして、フロアがどうなっているかを確認…
それほど大きくは無い雑居ビルに、何を作ったのだろうか?
「テナントが幾つか入る…みたいですね」
「デパートの小さい版みたいなものかな」
「恐らくは…」
エレベーターホールを過ぎて見えてきたのは、服飾系のお店が並んだ光景。
12階のエレベーターホールの間側は、柱さえあれど"だだっ広い"フロアになっていたのだが、それが雑多に区画分けされていて、区画にお店が入っている様だ。
札幌のビルとかでもよく見る様な感じ…とでもいえばいいだろうか?
「でも、何となく"なんの為の"ビルかは想像出来そうですね」
「あぁ、異境で暮らす妖達の為の施設って感じかな。下に家具屋とかもあったりして」
「あるんじゃないですか?電気屋とか、最下層には食料品とか」
「なにはともあれ、鬼沙はここに昔の日本を作ると決めたわけだ」
「でしょうね…」
「異境で暮らすべきだ!なんてほざく割には、こうでもしないと住めないってか。随分と"染まってる"じゃないのさ」
私と沙絵は、まだ"稼働していない"テナントを見回しながら、通路を適当に歩いていく。
このまま1つ1つ階層を降りて行って、このビルがどうなっているか…気にならない事も無いが、何となく"分かってきた"所で要らぬ警戒心は解いて、そろそろ本題に入ろう。
「で…こんな所に鬼沙が居るなら、何処に居ると思う?」
「どうでしょうか。私なら、監視カメラを見張るでしょうねぇ…」
「監視カメラ?何処かに仕込まれてた?」
「いえ、今の所見つけては居ないですが…隠しカメラ位、あると思いますよ?」
「それもそうか。でもさ、カメラがあるなら…何かかしら襲ってきても良いと思わない?」
「そこが不気味ですよね。さっきの女の子といい、何から何まで"敵対"している様には見えない所がまた、調子狂うって感じで…」
会話を重ねながらやって来たのは、さっきと反対側のエレベーターホール。
このフロアを見て分かった事は、"とりあえずビルが稼働している"という事…
電気の音?やエレベーターが動く音…?空調の音等、現実でも聞ける"音"がちゃんとしていて、このビルが"生きている"という事を知らせてくる。
何を当たり前の事を…と思ったが、ここは異境なのだ。
自然に感じていた事に"気付く"ことで、また何かが分かるかもしれない。
「しっかし…環境音だけ聞いてると、不気味なもんさね」
「ですね。誰もいないビルなんて、普段は歩き回りませんから」
そして、そういうことを"思い知らされ"ながら11階を歩きつくしてしまった今。
私の頭の中には"丁寧に"1フロア1フロアを見て回るなんて考えは何処にもなかった。
「こういう、セコセコした事されると焦れるんだよなぁ…」
「沙月様。気持ちは分かりますが、落ち着きましょう。正臣君はまだ"無事"なんですから」
「そう言い切れるの?」
「えぇ、鬼沙の目的は"沙月様を引き入れる事"ですから。交渉道具をこんな所まで持ってきてる以上、無駄にはしませんよ」
「……」
沙絵にそう言われて押し黙る私。
このままエレベーターを呼んで1階まで降りてみようかと思っていたのだが…
私はその気持ちを押し殺すと、深呼吸を一つして非常階段の方へと足を踏み出した。
「虱潰しにしようか」「そうしましょう」
落ち着いて、焦らず1つ1つ階層を見ていくことにした私達。
そうして非常階段に繋がる扉に手をかけた時…
"ポーン"
と、エレベーターから音が鳴り…エレベーターが"到着"した事を知らせてくる。
私達はすぐさま身構えてエレベーターの方へ体を向けたが、到着したはずのエレベーターは暫く開くことなく、無音の状態が続いた。
「……」「……」
開かないのだろうか?と思ってエレベーターの方を凝視する私達。
少し待った後…思い出したように扉が開くと、中から出てきたのは"黒いスーツ"に身を包んだ、背の高い男の2人組だった。
「見つけた」「見つけた」
黒ずくめのスーツに、黒いサングラスをかけたヒョロい男2人組。
彼らは直ぐに私達の方へ顔を向けてそう声を上げると、両手を上げて"敵意が無い"事を示してくる。
「入舸沙月様と」「入舸沙絵様ですね?」
格好だけは双子の様によく似た男達…
彼らは順々に言葉を発して私達の名を告げると、全く同じタイミングで全く同じ様にニコリと口元を歪めて、私達にこう告げてきた。
「「お迎えに上がりました。1階総合案内所にて、"お連れ様"がお待ちです」」
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